(写真:Ushico/PIXTA)
人口動態を専門とする筆者は、人口減少が激しい地方の自治体や経済団体などの皆様から多くの講演会をご依頼いただいています。結婚支援をしている皆様からも婚姻状況についてのリアルな実態を教えてほしい、とのご依頼を受けて、データに基づいた講演を実施しています。
そんな中で、「いまだにそんな価値観で大丈夫かしら……」とびっくりしてしまうような結婚観をもつ支援者や婚活者と接することも少なくありません。
そこで今回は「男性たるもの、結婚相手の女性を養えてなんぼ!」という価値観の皆様にぜひご確認いただきたいデータの1つとして、今の婚姻届が示す「年上妻」の割合の実態を紹介します。
厚生労働省から毎年発表される婚姻統計の最新値は2020年のデータです。初婚同士の男女が提出した婚姻届で、年齢分析の対象となる婚姻総数は、2020年は29万2214件でした(このコラムで注意喚起を毎回しているように、政府統計の年齢集計で対象となる婚姻届は「届出年に結婚生活を開始している」ことが条件となるため、単純な届出の提出総数とは異なりますのでご注意ください)。
初婚同士の男女による結婚約29万件のうち、29歳までの若い男性の婚姻届は何パーセントくらいだと思いますか?
22% 33% 44% 55% 66%
いかがでしょうか?
「晩婚化だし、男性の平均初婚年齢なんて31歳だからね」と、2番(33%)、3番(44%)などを選択した読者の皆様が、けっこう多いのではないでしょうか。
しかし残念ながら、正解は4番です。初婚同士男女の婚姻届のうち、29歳までの男性が占める届で55%にも達しています。平たく言うと、2020年の1年間に初婚女性との結婚を果たした初婚男性のうち55%が「29歳までの男性」なのです。
以前は見られなかったような高齢者の結婚の発生により、「平均」初婚年齢が引き上げられて、実際の結婚のピーク(最多発生)年齢である27歳から4歳も年上に平均値がずれてしまっていることを、覚えている読者もいるかもしれません。
婚姻統計の最新値を筆者が分析した結果、2020年に提出された初婚同士のカップルの婚姻届のうち、22%はなんと25歳以下の男性で占められており、初婚同士の結婚の5組に1組以上が「25歳以下の男性による結婚」となっています。
そして、先ほど質問と合わせて解説したとおり、29歳までの「20代まで夫」でみると、55%と過半数を占めるに至っています。女性に関しては「20代の結婚が大半だろう」と理解している方が多い一方で、なぜか男性の話になるとそうでもない、と思っている方が多いように思いますので、ご注意ください。お互いが初婚同士という状態で、結婚希望を叶えた男性の7割以上は32歳までの男性、そして8割が34歳までの男性となっています。男性であっても32歳を過ぎると「いい相手が見つからない」「いいと思う人には好かれない」というように相性の良い人を見つけるのが難しくなるのは、統計的に見るならば当然ともいえる結果です。初婚女性との結婚を果たした男性のほとんど(7割)が32歳以下という状況ですので、『日本人が知らない「夫婦の年齢差」意外すぎる実態』でお示ししたように同年齢婚が一番多い状況で、しかもその他もおおよそ同年齢近くでの結婚がトレンドである実態を考慮すると、男性も32歳を過ぎると「いいと思える女性」はすでに自分と同世代の他の男性と結婚してしまっているケースが多い、ということになります。かつて「生涯未婚率」という統計指標があり、「50歳時点で結婚していないことが生涯未婚とはどういうことだ!」とのアンチムーブがあったそうですが、統計的に見て50歳というのは男性であっても「初婚同士婚姻届のうちに占めるその年齢までの男性の割合が99%に達する」という年齢です。52歳では四捨五入して100%という結果で、男性がそれ以上の年齢で初婚同士の結婚を行うケースは、統計的に見るならば「外れ値」(=奇跡的、稀有)と断じることができます。その観点から、統計指標名として「生涯未婚率」という言葉であったことは、あながち不正確であったわけではありません。2020年婚姻届、年上妻のリアルさて、男性の結婚年齢が想像以上に若いことに驚愕した読者も多いのではないかと思いますが、それでは今度は、その若くして結婚した男性のうち、妻が自分よりも年上だった割合はどれぐらいだったでしょうか?29歳までの初婚同士で結婚をした男性の「年上妻」の割合を以下から選んでみてください。 11% 22% 26% 31% 41%いかがでしょうか?少子高齢化社会ということで、読者の皆様も統計どおりに中年人口が多いかと思います。「中年感覚」では何番が多かったでしょうか。実は正解は4番の31%です。29歳までの初婚同士で結婚した男性(全体の55%の結婚)では、31%の男性が年上妻と結婚しているのです。年齢が若い男性ほど年上妻を選ぶ割合が高く、25歳男性では35%、23歳男性では39%となっています。また初婚同士の結婚で48歳の男性は935件、18歳の男性は943件とほぼ同数なのですが、48歳の男性では年上妻が8%であるのに対し、18歳の男性では40%となっています。若い青年と中年男性、両者の選択が極めて対照的であることがわかります。「僕についてきてくれますか?」からの脱却筆者は中年世代真っ只中ですが、筆者が20代だった当時(1990年代)はプロポーズや結婚式で、男性「僕についてきてくれますか」女性「はい」は「普通の(よくある)」シーンであるように思われていましたし、男性のプロポーズのキメ台詞の1つだったようにも思います。そして、それが悪かったとも思いません。何しろ、当時の雇用環境や教育(進学)格差を振り返ると、統計的に見て男女に大きな経済的格差をもたらす環境下にありましたので、平たく言うならば「男性が女性を養うのがごく普通」となるような状況でした。そんな中で、そのアンバランスな関係を「引き受けてくれる男性」というのが、かっこいい男性像だったのかもしれません。しかし、雇用環境や教育における男女の格差が是正される中で、「一緒に歩いてくれますか」「はい」 「俺が頼ってもいいですか」「ええ」といったカップルも、夫婦の年齢差の縮小とあわせて急速に増加傾向にあることが示唆される、統計的な実態があります。今の若い男女を見て、一家言がある方もいるかもしれませんが、雇用や教育がまったく違う時代に生きた「かつての若者」たちは、こういったカップルのリアルデータをしっかり学び、かつての「普通」を押し付けないように気を付けたいものです。(天野 馨南子 : ニッセイ基礎研究所 人口動態シニアリサーチャー)
そして、先ほど質問と合わせて解説したとおり、29歳までの「20代まで夫」でみると、55%と過半数を占めるに至っています。女性に関しては「20代の結婚が大半だろう」と理解している方が多い一方で、なぜか男性の話になるとそうでもない、と思っている方が多いように思いますので、ご注意ください。
お互いが初婚同士という状態で、結婚希望を叶えた男性の7割以上は32歳までの男性、そして8割が34歳までの男性となっています。
男性であっても32歳を過ぎると「いい相手が見つからない」「いいと思う人には好かれない」というように相性の良い人を見つけるのが難しくなるのは、統計的に見るならば当然ともいえる結果です。
初婚女性との結婚を果たした男性のほとんど(7割)が32歳以下という状況ですので、『日本人が知らない「夫婦の年齢差」意外すぎる実態』でお示ししたように同年齢婚が一番多い状況で、しかもその他もおおよそ同年齢近くでの結婚がトレンドである実態を考慮すると、男性も32歳を過ぎると「いいと思える女性」はすでに自分と同世代の他の男性と結婚してしまっているケースが多い、ということになります。
かつて「生涯未婚率」という統計指標があり、「50歳時点で結婚していないことが生涯未婚とはどういうことだ!」とのアンチムーブがあったそうですが、統計的に見て50歳というのは男性であっても「初婚同士婚姻届のうちに占めるその年齢までの男性の割合が99%に達する」という年齢です。
52歳では四捨五入して100%という結果で、男性がそれ以上の年齢で初婚同士の結婚を行うケースは、統計的に見るならば「外れ値」(=奇跡的、稀有)と断じることができます。その観点から、統計指標名として「生涯未婚率」という言葉であったことは、あながち不正確であったわけではありません。
さて、男性の結婚年齢が想像以上に若いことに驚愕した読者も多いのではないかと思いますが、それでは今度は、その若くして結婚した男性のうち、妻が自分よりも年上だった割合はどれぐらいだったでしょうか?
29歳までの初婚同士で結婚をした男性の「年上妻」の割合を以下から選んでみてください。
11% 22% 26% 31% 41%
いかがでしょうか?
少子高齢化社会ということで、読者の皆様も統計どおりに中年人口が多いかと思います。「中年感覚」では何番が多かったでしょうか。
実は正解は4番の31%です。
29歳までの初婚同士で結婚した男性(全体の55%の結婚)では、31%の男性が年上妻と結婚しているのです。年齢が若い男性ほど年上妻を選ぶ割合が高く、25歳男性では35%、23歳男性では39%となっています。
また初婚同士の結婚で48歳の男性は935件、18歳の男性は943件とほぼ同数なのですが、48歳の男性では年上妻が8%であるのに対し、18歳の男性では40%となっています。若い青年と中年男性、両者の選択が極めて対照的であることがわかります。
筆者は中年世代真っ只中ですが、筆者が20代だった当時(1990年代)はプロポーズや結婚式で、
男性「僕についてきてくれますか」
女性「はい」
は「普通の(よくある)」シーンであるように思われていましたし、男性のプロポーズのキメ台詞の1つだったようにも思います。
そして、それが悪かったとも思いません。何しろ、当時の雇用環境や教育(進学)格差を振り返ると、統計的に見て男女に大きな経済的格差をもたらす環境下にありましたので、平たく言うならば「男性が女性を養うのがごく普通」となるような状況でした。
そんな中で、そのアンバランスな関係を「引き受けてくれる男性」というのが、かっこいい男性像だったのかもしれません。
しかし、雇用環境や教育における男女の格差が是正される中で、
「一緒に歩いてくれますか」「はい」 「俺が頼ってもいいですか」「ええ」
といったカップルも、夫婦の年齢差の縮小とあわせて急速に増加傾向にあることが示唆される、統計的な実態があります。
今の若い男女を見て、一家言がある方もいるかもしれませんが、雇用や教育がまったく違う時代に生きた「かつての若者」たちは、こういったカップルのリアルデータをしっかり学び、かつての「普通」を押し付けないように気を付けたいものです。
(天野 馨南子 : ニッセイ基礎研究所 人口動態シニアリサーチャー)