岸田総理が打ち出した「異次元の少子化対策」。その中には、保育サービスの量・質両面からの強化も掲げられている。これまで待機児童問題などで保育園の量についての議論が盛んだったが、質を上げるためにはどんな政策が求められるのか?現役保育士でユーチューバーのてぃ先生は、現場目線でこれまでを振り返り、“その場しのぎ”の子ども政策にならないでほしいと訴える。
【写真を見る】「制度をポンポン、ポンポン…」てぃ先生、“その場しのぎ的”子ども政策に違和感 “異次元”に保育の質を上げるには?■「とりあえずやってますよ…」てぃ先生が現場で感じる子ども政策への違和感現役保育士で登録者70万人を超えるユーチューバー、てぃ先生がこのところ積極的に保育園問題についてSNSで発信している。2022年に相次いだ保育園での事故や事件を受け、現場目線で、保育サービス向上の必要性を訴えている。そこには、これまで行われてきた子ども政策が必ずしも現場のニーズとマッチしていないという困惑が見え隠れする。

てぃ先生「“その場しのぎ”的に、とりあえずやってますよ、頑張ってますよ、という、アピールしかやってくれないなっていう印象があります。例えば、待機児童問題です。最近は解消しつつあるといわれています。(厚生労働省の集計で、2022年4月1日時点の待機児童数は2944人。4年連続で過去最少を更新)ただこれは、少子化によって自然に解決しつつある面も大きいと感じています。では、国が何をしたかというと、事業内保育、企業主導型保育であるとか、保育園の制度をポンポン、ポンポン、作っていた印象です。一方で、保育の質については、果たして高いのか、低いのか、わからないままでした。そしていま、せっかく増やした保育園が閉園するなんて事態も起きています」岸田総理は1月6日、少子化対策を推進するため、厚労省や内閣府など関係省庁による新たな会議を設置し、具体策の検討を始めるよう、小倉こども政策担当大臣に指示した。「その場しのぎ」でなく、「用意周到」で「抜かりない」子ども政策はどのように見出されるのか?■「データがない…」日本の子ども政策で繰り返される致命的な問題龍谷大学准教授で『教育格差』著者の松岡亮二さんは、子ども政策が「その場しのぎ的」になる背景に、議論の多くがデータに基づいていないことに問題があると指摘する。松岡亮二准教授「結局皆さん、データがないのに議論してる部分が強いと感じています。教育政策はデータを取ろうといっても、それに基づいて議論できるのは、どうしても数年後なんですね、早くても。となると『今すぐ対策が知りたい』ということになかなか結びつきづらいです」子どもの教育政策に関しては、効果の検証に年単位の追跡調査が必要となる。松岡准教授によると、どのような政策も完全な間違いということはあまりないという。一定の恩恵が得られているように見える子どもがいて、その後の調査は行われない傾向にあるというのだ。一方で、同じ政策によって制限を受ける子どもがいたなど、負の側面が後々明らかになっても、確認された頃にはかなり前の話になっていて、担当者も変わってしまっているということが繰り返されているという。松岡准教授は、時間がかかったとしてもデータに基づいた議論の必要性を強調する。松岡准教授「やっぱり現状把握がないと、議論にならないと思います。例えば、保育園で先生が辞めやすいという課題について、辞めるにも理由はいくつかあるはずです。どの理由がどういう特徴に結びついてるのか、どこの園のどんな先生が辞めやすいのかなど、保育園単位で毎年データを蓄積していけば、見えてくることがあるはずです。政策の議論をする上で、現状把握できる最低限のデータが必要だと思います」少子化対策を推進するため具体策の検討を指示された小倉こども政策担当大臣は「(岸田総理から)学識経験者、子育て当事者、若者をはじめとする関係者の意見を聞きながら、3月末を目途にたたき台を作ってほしいという話がありました」と述べている。現状ではデータが限られる中、どのような意見が集約され、議論されるのだろうか。■「配置基準」「負担軽減」そして…てぃ先生が考える保育の質を上げるために必要なことてぃ先生は保育の質をあげるために必要なことは、保育サービスに携わる人たちにとっては自明であると話す。てぃ先生「現場の保育士たちは全員わかってると思います。それを現場の先生以上の人が全くわかってくれないという状況があると思います。わかってくれないか、わかっているけれども変える気がないか、ですね」保育業界で長く訴えられているのが「職員の配置基準の見直し」と「保育士の負担軽減」だ。配置基準とは、子どもの年齢ごとに定められた最低限必要な保育士の数で、4歳5歳児の配置基準は70年以上変更されず、30人の幼児に1人の保育士となっている。人手不足の中、多くの業務が保育士にのしかかっている現状があるという。加えて、保育の質の向上のためには、もっと根底にある問題にも取り組まなくてはいけないとてぃ先生は指摘する。てぃ先生「保育園側が保育士を選べないということが、保育の質を下げることにも繋がっていると思います。多くの保育園では、履歴書は形式的なもので、応募してくれてありがとうございます、明日から来てください、という状況です。例えば、極端な例かもしれませんが、東大卒の保育士さんは日本にどれくらいいるでしょうか。他の業種ですごく活躍されている方が、保育に興味持ったからやってみようと思えるでしょうか?そう思ったとしても、現実問題として家族を養えないような給料で、できないということも発生してるかもしれません。新たな質の高い保育士がどうやったら集まってくるのか。やっぱり保育士の労働環境、金銭面などの処遇をきちんと底上げしていかないと、根本的な解決にはならないと思っています」“異次元の少子化対策”。保育サービスの質の強化に向けて、具体的にどのような政策が打ち出されるのだろうか。
現役保育士で登録者70万人を超えるユーチューバー、てぃ先生がこのところ積極的に保育園問題についてSNSで発信している。2022年に相次いだ保育園での事故や事件を受け、現場目線で、保育サービス向上の必要性を訴えている。そこには、これまで行われてきた子ども政策が必ずしも現場のニーズとマッチしていないという困惑が見え隠れする。
てぃ先生「“その場しのぎ”的に、とりあえずやってますよ、頑張ってますよ、という、アピールしかやってくれないなっていう印象があります。
例えば、待機児童問題です。最近は解消しつつあるといわれています。(厚生労働省の集計で、2022年4月1日時点の待機児童数は2944人。4年連続で過去最少を更新)ただこれは、少子化によって自然に解決しつつある面も大きいと感じています。
では、国が何をしたかというと、事業内保育、企業主導型保育であるとか、保育園の制度をポンポン、ポンポン、作っていた印象です。一方で、保育の質については、果たして高いのか、低いのか、わからないままでした。そしていま、せっかく増やした保育園が閉園するなんて事態も起きています」
岸田総理は1月6日、少子化対策を推進するため、厚労省や内閣府など関係省庁による新たな会議を設置し、具体策の検討を始めるよう、小倉こども政策担当大臣に指示した。
「その場しのぎ」でなく、「用意周到」で「抜かりない」子ども政策はどのように見出されるのか?
龍谷大学准教授で『教育格差』著者の松岡亮二さんは、子ども政策が「その場しのぎ的」になる背景に、議論の多くがデータに基づいていないことに問題があると指摘する。
松岡亮二准教授「結局皆さん、データがないのに議論してる部分が強いと感じています。教育政策はデータを取ろうといっても、それに基づいて議論できるのは、どうしても数年後なんですね、早くても。となると『今すぐ対策が知りたい』ということになかなか結びつきづらいです」
子どもの教育政策に関しては、効果の検証に年単位の追跡調査が必要となる。松岡准教授によると、どのような政策も完全な間違いということはあまりないという。一定の恩恵が得られているように見える子どもがいて、その後の調査は行われない傾向にあるというのだ。
一方で、同じ政策によって制限を受ける子どもがいたなど、負の側面が後々明らかになっても、確認された頃にはかなり前の話になっていて、担当者も変わってしまっているということが繰り返されているという。
松岡准教授は、時間がかかったとしてもデータに基づいた議論の必要性を強調する。
松岡准教授「やっぱり現状把握がないと、議論にならないと思います。例えば、保育園で先生が辞めやすいという課題について、辞めるにも理由はいくつかあるはずです。どの理由がどういう特徴に結びついてるのか、どこの園のどんな先生が辞めやすいのかなど、保育園単位で毎年データを蓄積していけば、見えてくることがあるはずです。政策の議論をする上で、現状把握できる最低限のデータが必要だと思います」
少子化対策を推進するため具体策の検討を指示された小倉こども政策担当大臣は「(岸田総理から)学識経験者、子育て当事者、若者をはじめとする関係者の意見を聞きながら、3月末を目途にたたき台を作ってほしいという話がありました」と述べている。
現状ではデータが限られる中、どのような意見が集約され、議論されるのだろうか。
てぃ先生は保育の質をあげるために必要なことは、保育サービスに携わる人たちにとっては自明であると話す。
てぃ先生「現場の保育士たちは全員わかってると思います。それを現場の先生以上の人が全くわかってくれないという状況があると思います。わかってくれないか、わかっているけれども変える気がないか、ですね」
保育業界で長く訴えられているのが「職員の配置基準の見直し」と「保育士の負担軽減」だ。
配置基準とは、子どもの年齢ごとに定められた最低限必要な保育士の数で、4歳5歳児の配置基準は70年以上変更されず、30人の幼児に1人の保育士となっている。人手不足の中、多くの業務が保育士にのしかかっている現状があるという。
加えて、保育の質の向上のためには、もっと根底にある問題にも取り組まなくてはいけないとてぃ先生は指摘する。
てぃ先生「保育園側が保育士を選べないということが、保育の質を下げることにも繋がっていると思います。多くの保育園では、履歴書は形式的なもので、応募してくれてありがとうございます、明日から来てください、という状況です。
例えば、極端な例かもしれませんが、東大卒の保育士さんは日本にどれくらいいるでしょうか。他の業種ですごく活躍されている方が、保育に興味持ったからやってみようと思えるでしょうか?そう思ったとしても、現実問題として家族を養えないような給料で、できないということも発生してるかもしれません。
新たな質の高い保育士がどうやったら集まってくるのか。やっぱり保育士の労働環境、金銭面などの処遇をきちんと底上げしていかないと、根本的な解決にはならないと思っています」
“異次元の少子化対策”。保育サービスの質の強化に向けて、具体的にどのような政策が打ち出されるのだろうか。