感染対策の制限が緩和され、新型コロナウイルスと共存する方向へ進もうとしている今、後遺症で苦しんでいる人が増加しています。中にはあまり知られていないような症状を訴える人も。多くの人を苦しめる後遺症。その新たな症状とは?
日本の累計感染者数は1900万人を超えました。1人が複数回感染したケースを考えずに計算をすると、日本の人口の約6人から7人に1人が感染しているという計算になります。このうち、コロナ由来の後遺症患者はどのくらいいるのかというと、約3分の1(約649万人)が後遺症として症状が残るともいわれています。
新たに出てきた後遺症には次のような症状があります。
視覚では、電気の蛍光灯などがまぶしいなど「光に過敏」になる症状。そして聴覚。時計の秒針のカチカチという音がうるさく感じるなど「音に過敏」になる症状。他にも「腹痛や腰痛」に「力が入らない・立ちくらみ」などの症状もあるといいます。
感染したコロナの株によって後遺症の種類も違います。7大症状といわれているのが、「けん怠感」「頭痛」「睡眠障害」「脱毛」「嗅覚障害」「味覚障害」「呼吸困難」です。
デルタ株では「味覚症状」や「嗅覚症状」が多かったのに対して、オミクロン株は味覚や嗅覚の症状は減少傾向にあり、けん怠感や頭痛という症状が増えています。
そして、後遺症はどの世代でも出ています。40代が最も多いものの、10代や20代でも一定数出ており、どの世代でも後遺症になり得るということです。また、感染時軽症だった人も後遺症に悩まされているというのが現状です。
なぜこれほど多岐にわたり様々な症状が出るのでしょうか。岡山大学病院のコロナ・アフターケア外来で後遺症患者を診療している、大塚文男副病院長に話を聞きました。
岡山大学病院 大塚文男副病院長:コロナ後遺症の詳細な原因や発生のメカニズムはまだ不明なところが多いのです。感染によって体、心がともに疲労してしまう。ウイルスを排除するための免疫反応が過剰に起こってしまったり、一部ウイルスが残存しているのではないかと。あるいは、微小な血栓が残っているのではないか。こういったことが様々なケースに複雑に関係している、各症例で違うということがあります。また後遺症は自覚症状が中心なので、個人差も大きいということが考えられます。
Q:後遺症なのかどうか判断が難しいと思いますが、後遺症専門外来などが近くにない場合は何科に相談したらいいのでしょうか?
岡山大学病院 大塚文男副病院長:大人の方であれば内科や総合診療科、お子さんの場合は小児科というのが適切だと思います。また、都道府県や自治体にコロナの後遺症の相談窓口というのが、だいぶ設置されてきましたので、そこに相談するのも1つの手かと思います。
専門家から見てやっかいな後遺症が「ブレインフォグ」という、脳に霧がかかったような状態です。症状としては「記憶障害」「視覚障害」「思考力・集中力の低下」などが挙げられます。
実際に、コロナに感染し現在休職中の20代の会社員は「『おはようございます』という文字を認識するのに6回くらい確認した」という症状を訴えています。大塚副病院長によると「生活の中で無意識にできていたことが、ものすごく意識して考えないとできなくなってしまう」といった症状に悩まされる人が多いといいます。
では、ブレインフォグの治療法はあるのでしょうか。
聖マリアンナ医科大学の佐々木信幸主任教授によると、まだ確立された治療法はないということです。コロナに罹患した後にブレインフォグの状態になっている人の脳を見ると、白い部分が正常、色がついている部分が異常をきたしています。
これは脳の血流が極端に下がっている場所です。血流改善のために磁気刺激を与えると白い部分が増え、血流が変化。約8割の患者に改善の傾向が見られるということです。しかし、一時的には改善されるものの、人によってはまた戻ってしまうということで、確立された治療法はまだないというのが現状です。
後遺症の難しさは症状だけでなく、「周囲の理解を得られない」というところにもあります。
「コロナから復帰し、これ以上職場に迷惑をかけられないと思うものの、まだ少し症状が残っている、ということが周りの人に理解してもらえない」と、無理をしてしまう人が多いといいます。さらに、子どもの場合は「けん怠感・頭痛・睡眠障害」などの症状を自分の言葉でうまく説明できず、親は成長過程での一過性の悩みと捉えてしまいがちですが、後遺症を疑う必要性があるということです。
岡山大学病院 大塚文男副病院長:お子さんの場合は、頭痛やけん怠感、朝起きられないといった症状が中心になりますので、親御さんの方で「いつもと様子が違う」とか「疲れがひどそう」ということがあったら、それを拾い上げてあげるような姿勢が必要になるかと思います。
Q:様々な症状がコロナと因果関係があるかどうか、医学的に判断が難しいところかと思いますが、どう判断するのでしょうか?
岡山大学病院 大塚文男副病院長:一番大事なのは鑑別診断といって、本当に今の症状がコロナの後遺症としてコロナの感染に関係しているのか、あるいは元々の持病が悪化しているのか…。コロナ禍の中で新しい疾患が出てくることもあるので、このあたりをしっかり鑑別した上で、コロナしか考えられないとか、コロナの後遺症として一番考えられるという場合、後遺症として治療していくことになります。
後遺症自体、放っておくと重症化する恐れがあります。ヒラハタクリニックの平畑光一院長によると「重症化すると、家事など日常のことができなくなる。ひどい場合は寝たきりになる人もいる」ということです。
実際に重症化した人の例を見てみると、「ドライヤーが重くてもっていられない」「おわんを持てず味噌汁はストローで飲む」「歯磨きは疲れるため何回かに分けて行う」ということがあります。
ヒラハタクリニックの新型コロナ後遺症外来の患者数は3264人。このうち休職・解雇・退職など仕事への影響があったという人は、「休職」が1161人と3分の1で、「解雇・退職・廃業」も210人となっています。
コロナ感染後、体の異変に気づいたらどうすればよいのか。重症化を防ぐ、自分でできる3つの対処法をヒラハタクリニックの平畑院長に聞きました。
1つ目は「体がだるくなることは徹底して避ける」こと。コロナで休んだ分取り戻そうと残業をしたり、体力を取り戻すための散歩や運動はよくないといいます。感染後2カ月間は無理せず疲れないように生活するのがベスト。この期間を空けてから、少しずつ体を動かしていく意識でいてほしいということです。
2つ目、コロナ後遺症とされる人は鼻水が喉の奥のほうに垂れてくる「慢性上咽頭炎」を発症しているケースがほとんどだったといいます。これを取り除くのに有効なのが「鼻うがい」です。市販で鼻うがいができるものが売られているので、これを活用してまずは炎症を取るのも1つの方法です。
3つ目は「胃酸逆流を防ぐ」。寝る3時間前は何も食べない、油物・甘い物・カフェインやアルコールは控える、といったことです。
Q:ワクチンは後遺症になりにくかったり、なった場合に軽減させる効果はあるのでしょうか?
岡山大学病院 大塚文男副病院長:これまでの海外の報告では、2回ワクチンを打っている場合にコロナ後遺症になる方が半減したとか、少し症状が楽になるということもあります。ただ、これも限定的であって全体的ではないというのがありますから、オミクロン株になってからの解析はまだ進んでいません。今後の解析に任せることになりますけれども、ワクチンを打っていた方が軽症化する、重症化させないというところは言えると思っています。
(めざまし8「わかるまで解説」9月5日放送)