性風俗産業に従事する女性の性被害が警察に黙殺されている。それを浮き彫りにするような事件が茨城県境町で起きた。
【問題の音声あり/写真3枚】「事件以上に警察の対応が悲しかった」と嘆くアキさん 8月13日夜9時、同県在住のデリヘル嬢のアキさん(28、仮名)は客から指名が入り、境町のホテルに向かう。室内に入ると両肩から肘上まで刺青が入った男性客が半裸で待ち構えていた。「怖いな……」と感じたアキさんだが、気を取り直してサービスを開始。「指で力強く掻き回され、腰を押さえて、強引に挿入しようとしてきたんです。本番は禁止だと何度も伝えたのですが、男は『いいじゃん』『入れさせろよ』と無理矢理やろうとしてきて、恐怖で体がこわばりました」(アキさん)
身の危険を感じたアキさんは全裸のまま浴室内に逃げ込んだが、男性は扉を叩きながら「出てこい!」と叫ぶ。アキさんは店に電話を入れ、店が110番通報。しかし男性は警察官がホテルに駆けつける前にアキさんの下着と服を持ち去った。「店が持ってきてくれた衣類を借りて帰宅しました。乱暴に扱われて出血していた。怖くて痛くて、涙が止まらなかった。下着と服も奪われたのでその後の仕事もできなくなり呆然としました」(アキさん) そして8月19日、同県の境署に被害届を出すこととなった。だが、境署に出向いたアキさんに悲劇が降りかかる。アキさんが事件のあらましを伝え、強制性交未遂と窃盗、営業妨害で被害届を出したいと説明すると、担当刑事は「それは難しい」とし、耳を疑う言葉を発した。「どんな理由があって働いているのか聞かないけど、申し訳ないけど偏見があるわけですよ。世間から見てよく思われてないっていうの分かりますよね、風俗って」「私の偏見ですけど、普通に働くよりも結局短時間でお金稼げるわけですよね」 唖然とするアキさん。職業差別だと抗議するが、「警察に来てるけど、店は責任取ってくれないの?」と刑事は突き返す。そしてこう続けた。「店で決められてる事は分かるんですけど、要は男性はそれ以上求めてきて、やらせてもらえないから嫌がらせしたと。こういうケースって他にもたくさんありますよね?」 デリヘル嬢はレイプされても仕方ない──そんな言い方にアキさんは深く失望したと話す。「事件以上に警察の対応が悲しかった。セカンドレイプを受けた気持ちになりました。この日は被害届も受理されなかった」 アキさんはこの日のやり取りを録音しており、週刊ポストが音声を確認したところ、確かに刑事は一連の発言をしていた。 境署に刑事の言動について問うたが、「お答えすることはありません」(広報担当)とのこと。 茨城県警本部にも聞くと次のように回答した。「個別事案の対応についてはお答えを控えます。被害届に対しては、被害者の立場に立って、その内容が明確な虚偽あるいは著しく合理性を欠く場合を除き、受理することとしています」(県民安心センター) 女性の性被害に詳しい佐藤みのり弁護士が語る。「強制性交罪を成立させるには暴行または脅迫を立証しなければならず、性的サービスを行なう風俗業はその成立要件のハードルが極めて高い。プレイの一環として受け入れていたと主張されてしまい、泣き寝入りするしかないケースが多数あるんです。そもそも警察の動きが鈍いという問題もある。今回の刑事の発言は、性風俗産業従事者に対する警察の差別意識や認識の低さを表わすもの。決して許されません」 アキさんがうなだれる。「市民を守るはずの警察が風俗嬢は守らない。私たちは誰を頼ればいいんでしょうか」 悲痛な声に警察が向き合う日は来るか。◆河合桃子(ジャーナリスト)と週刊ポスト取材班※週刊ポスト2022年9月16・23日号
8月13日夜9時、同県在住のデリヘル嬢のアキさん(28、仮名)は客から指名が入り、境町のホテルに向かう。室内に入ると両肩から肘上まで刺青が入った男性客が半裸で待ち構えていた。
「怖いな……」と感じたアキさんだが、気を取り直してサービスを開始。
「指で力強く掻き回され、腰を押さえて、強引に挿入しようとしてきたんです。本番は禁止だと何度も伝えたのですが、男は『いいじゃん』『入れさせろよ』と無理矢理やろうとしてきて、恐怖で体がこわばりました」(アキさん)
身の危険を感じたアキさんは全裸のまま浴室内に逃げ込んだが、男性は扉を叩きながら「出てこい!」と叫ぶ。アキさんは店に電話を入れ、店が110番通報。しかし男性は警察官がホテルに駆けつける前にアキさんの下着と服を持ち去った。
「店が持ってきてくれた衣類を借りて帰宅しました。乱暴に扱われて出血していた。怖くて痛くて、涙が止まらなかった。下着と服も奪われたのでその後の仕事もできなくなり呆然としました」(アキさん)
そして8月19日、同県の境署に被害届を出すこととなった。だが、境署に出向いたアキさんに悲劇が降りかかる。アキさんが事件のあらましを伝え、強制性交未遂と窃盗、営業妨害で被害届を出したいと説明すると、担当刑事は「それは難しい」とし、耳を疑う言葉を発した。
「どんな理由があって働いているのか聞かないけど、申し訳ないけど偏見があるわけですよ。世間から見てよく思われてないっていうの分かりますよね、風俗って」
「私の偏見ですけど、普通に働くよりも結局短時間でお金稼げるわけですよね」
唖然とするアキさん。職業差別だと抗議するが、「警察に来てるけど、店は責任取ってくれないの?」と刑事は突き返す。そしてこう続けた。
「店で決められてる事は分かるんですけど、要は男性はそれ以上求めてきて、やらせてもらえないから嫌がらせしたと。こういうケースって他にもたくさんありますよね?」
デリヘル嬢はレイプされても仕方ない──そんな言い方にアキさんは深く失望したと話す。
「事件以上に警察の対応が悲しかった。セカンドレイプを受けた気持ちになりました。この日は被害届も受理されなかった」
アキさんはこの日のやり取りを録音しており、週刊ポストが音声を確認したところ、確かに刑事は一連の発言をしていた。
境署に刑事の言動について問うたが、「お答えすることはありません」(広報担当)とのこと。
茨城県警本部にも聞くと次のように回答した。
「個別事案の対応についてはお答えを控えます。被害届に対しては、被害者の立場に立って、その内容が明確な虚偽あるいは著しく合理性を欠く場合を除き、受理することとしています」(県民安心センター)
女性の性被害に詳しい佐藤みのり弁護士が語る。
「強制性交罪を成立させるには暴行または脅迫を立証しなければならず、性的サービスを行なう風俗業はその成立要件のハードルが極めて高い。プレイの一環として受け入れていたと主張されてしまい、泣き寝入りするしかないケースが多数あるんです。そもそも警察の動きが鈍いという問題もある。今回の刑事の発言は、性風俗産業従事者に対する警察の差別意識や認識の低さを表わすもの。決して許されません」
アキさんがうなだれる。
「市民を守るはずの警察が風俗嬢は守らない。私たちは誰を頼ればいいんでしょうか」
悲痛な声に警察が向き合う日は来るか。
◆河合桃子(ジャーナリスト)と週刊ポスト取材班
※週刊ポスト2022年9月16・23日号