20年前、仲良しの友達が突然姿を消した。遠足からの帰り道、いつもの交差点で「ばいばーい」と別れたのが最後だった。警察や両親が懸命に行方を捜しているが、今も見つかっていない。同級生たちはおぼろげになっていく思い出を失うまいと、再会を願い続けている。
【写真】あの日、友梨さんと最後に別れた交差点大人になってたどる通学路、感じた危険 行方不明になっているのは、当時小学4年生の吉川友梨さん。大阪府熊取町で2003年5月20日、一緒に下校していた同級生の女子児童3人と別れた後、1人で帰宅する姿を目撃されたものの、その後の足取りはぷっつりと途絶えている。
「景色、変わってないなー」。23年5月のゴールデンウイーク、その同級生3人が熊取町に集まった。あの日、友梨さんが歩いた道をたどるためだ。別れた交差点の手前から最終目撃地点まで約170メートルの道は、両脇に田畑や竹やぶが広がる。すれ違うのは2、3人。車は時折行き過ぎる程度で、人けのない通学路だ。3人のうちの1人で会社員の女性(29)=東京都江東区=は「人通りは少ないし、竹やぶもあるので連れ込まれたら気付かない。改めて歩くと、子どもには危ない場所が多い」と顔を曇らせた。転校生を気に掛けてくれた友梨さん 女性は小3の途中、埼玉県から熊取町に引っ越してきた。クラスメートの中で初めて仲良くなったのが友梨さん。席が近く、「見せてあげる」と照れくさそうにノートを渡してくれた。放課後もお互いの家で遊び、ピアノが上手だった友梨さんの演奏を聴いたり、それぞれの飼い犬と戯れたりした。しっかり者の友梨さんは、女性が勉強を怠けそうになると「宿題が終わってから遊ぼうね」と諭した。「転校で勉強が遅れていた私に優しく接してくれた」と振り返る。 他の同級生2人は、小1くらいの時に友梨さんからもらった沖縄の「星の砂」を大切に持っている。砂を入れた小瓶には、沖縄の魔よけ「シーサー」のデザインがあしらわれている。旅行土産との記憶があり、「友梨ちゃんからもらった物だから、ずっと置いている。捨てられない」と話す。薄れる記憶 「会って確かめたい」 一方で20年の歳月が流れ、あの頃の記憶は年々薄れている。3人のうちの1人は「友梨ちゃんがいなくなってからの人生の方が長く、一緒にいた日々が幻のように感じることがある」と漏らす。最後に交差点で別れた時、緩やかな坂を1人で上っていく友梨さんは、3人が「ばいばーい」と呼び掛ける度に振り返り、細長く白い腕を振った。だが、その表情はもうはっきりと思い出せない。「ほんまに一緒におったと確かめるためにも、また会いたい。そう思い続けている」と声に力を込める。 この3人以外の同級生も「会いたい」と願う気持ちは同じだ。小3、4の時に同じクラスで、よく一緒に登校していたという女性=堺市西区=は昨秋、友梨さんが突然夢に出てきた。行方不明になった当時のままの姿で「帰ってきたよ」と話し掛けてきた。女性は「おかえり。頑張ったね」とそっと抱きしめた。目が覚め、友梨さんがいない現実に戻ると、涙が止まらなかった。「無事に帰ってきたら、カフェに行ったり映画を見たり、20年間できなかったことを一緒にしたい」【洪香】
大人になってたどる通学路、感じた危険
行方不明になっているのは、当時小学4年生の吉川友梨さん。大阪府熊取町で2003年5月20日、一緒に下校していた同級生の女子児童3人と別れた後、1人で帰宅する姿を目撃されたものの、その後の足取りはぷっつりと途絶えている。
「景色、変わってないなー」。23年5月のゴールデンウイーク、その同級生3人が熊取町に集まった。あの日、友梨さんが歩いた道をたどるためだ。別れた交差点の手前から最終目撃地点まで約170メートルの道は、両脇に田畑や竹やぶが広がる。すれ違うのは2、3人。車は時折行き過ぎる程度で、人けのない通学路だ。3人のうちの1人で会社員の女性(29)=東京都江東区=は「人通りは少ないし、竹やぶもあるので連れ込まれたら気付かない。改めて歩くと、子どもには危ない場所が多い」と顔を曇らせた。
転校生を気に掛けてくれた友梨さん
女性は小3の途中、埼玉県から熊取町に引っ越してきた。クラスメートの中で初めて仲良くなったのが友梨さん。席が近く、「見せてあげる」と照れくさそうにノートを渡してくれた。放課後もお互いの家で遊び、ピアノが上手だった友梨さんの演奏を聴いたり、それぞれの飼い犬と戯れたりした。しっかり者の友梨さんは、女性が勉強を怠けそうになると「宿題が終わってから遊ぼうね」と諭した。「転校で勉強が遅れていた私に優しく接してくれた」と振り返る。
他の同級生2人は、小1くらいの時に友梨さんからもらった沖縄の「星の砂」を大切に持っている。砂を入れた小瓶には、沖縄の魔よけ「シーサー」のデザインがあしらわれている。旅行土産との記憶があり、「友梨ちゃんからもらった物だから、ずっと置いている。捨てられない」と話す。
薄れる記憶 「会って確かめたい」
一方で20年の歳月が流れ、あの頃の記憶は年々薄れている。3人のうちの1人は「友梨ちゃんがいなくなってからの人生の方が長く、一緒にいた日々が幻のように感じることがある」と漏らす。最後に交差点で別れた時、緩やかな坂を1人で上っていく友梨さんは、3人が「ばいばーい」と呼び掛ける度に振り返り、細長く白い腕を振った。だが、その表情はもうはっきりと思い出せない。「ほんまに一緒におったと確かめるためにも、また会いたい。そう思い続けている」と声に力を込める。
この3人以外の同級生も「会いたい」と願う気持ちは同じだ。小3、4の時に同じクラスで、よく一緒に登校していたという女性=堺市西区=は昨秋、友梨さんが突然夢に出てきた。行方不明になった当時のままの姿で「帰ってきたよ」と話し掛けてきた。女性は「おかえり。頑張ったね」とそっと抱きしめた。目が覚め、友梨さんがいない現実に戻ると、涙が止まらなかった。「無事に帰ってきたら、カフェに行ったり映画を見たり、20年間できなかったことを一緒にしたい」【洪香】