兵庫県芦屋市で今年3月、老朽化した「丸形ポスト」を撤去し、利便性の高い「角形ポスト」に建て替えるという郵便局の計画に<待った>がかかった。
住民から存続を求める声が相次いだからだ。今ではほとんど姿をみかけなくなったが、芦屋には、山手を中心に丸形ポストが数多く残っているという。なぜなのか。(加藤あかね)
■市内に17本残る
日本郵便近畿支社によると、丸形ポストは戦後間もない1949年に登場、角形ポストが導入された70年に生産を終了した。丸形ポストは現在、全国で約4300本、県内の約30自治体に約200本あり、芦屋市に計17本残っている。
今年3月、老朽化や大型の郵便物を投函(とうかん)できる利便性の向上を理由に、このうち計4本を撤去する方針が出されたが、郵便局に市民から多くの問い合わせがあり、同月28日に工事中止が決まった。同支社の担当者は「ポストの建て替えは郵便局ごとに判断している。歴史的な街並みを保存する動きなどと連動した住民や自治体の意見、要望を受けて残すケースが多い」と話した。
■ガイドマップ作成
「丸形ポストが似合う街」。芦屋市がそうアピールしてから今年で10年を迎えた。高級住宅地で知られる「六麓荘町」など山手を中心とした地域にポストは点在しており、阪神大震災で傾いたポストも住民の意向なども踏まえ、修繕して残された。こうした経緯を2012年2月に市広報番組で地域住民の思いを交えて紹介し、翌13年6月には「芦屋市ガイドマップ」で全19本のポストを取り上げた。現在は、その後撤去された2本を除いて計17本を、市のホームページで写真付きで紹介している。
芦屋市議会では6月、中島健一市議(60)が、計4本の撤去を巡る住民の思いをくんで一般質問に立った。丸形ポストを活用した観光イベントなどを紹介したうえで、「芦屋のPRにもっとポストを活用し、郷土愛を育む材料としてもいかしてほしい。市も維持、保存の取り組みを検討すべきだ」と訴えた。
市のガイドマップを手に、ポスト巡りをしてみた。緑豊かで閑静な町並みに、赤くてころんとした丸形ポストがよく似合う。地域の住民から「写真を撮りに来る人もあるよ」と声をかけられた。町内に丸形ポストがある津知町自治会の吉野哲夫会長(71)はしみじみと語った。「今でも手紙を投函するのはこのポスト。昔から地域にあって当たり前のものだった。できるだけこのまま残してほしい」
■全国で観光に一役
丸形ポストには、定番の赤色のほか、「幸せを呼ぶ」とされる黄色やピンク色などもある。「鳴子こけし」で知られる宮城県大崎市にはこけし形、尼崎市には「尼崎城シャチホコ丸ポスト」があるなど、全国各地でポストをテーマにしたまちづくりや観光振興策が進められている。