『人生100年時代』と言われて、喜ばれた人もいるでしょうが、同時に「いつまで働かないといけないのか」と、この先にかかるお金のことを想像した方も多いのではないでしょうか。
以前のように、終身雇用の退職金がしっかり支給された時代とは違い、年収は変わらないのに、税金や保険料、それに教育費も右肩上がり。子育てが終わった世代には経済的余裕がありません。
そんな状況を見越してか、以前よりもハードルが低くなった副業や兼業、さらには老若男女問わず起業を目指す人も増えてきています。しかしそこには思わぬ「盲点」も潜んでいます。
<【前編】父の死後「実家の会社」を相続した、47歳のサラリーマンが青ざめた…弁護士からの「突然のお知らせ」>でお伝えした小山芳郎さん(仮名・47歳)は、父親が急死したのを機に、長年勤めた会社を辞め、父親の会社を継ぐことを決意。しかしその「盲点」によって新しいスタートを切るどころか、出鼻を挫じかれる事態に陥ります。芳郎さんの何が一体「盲点」だったのか、本稿で明かします。
父親の納骨を済ませ、一度会社に行ってみようと思った矢先、代表取締役をしている義弟と連絡がつきません。「父親が突然亡くなったので、バタバタしているのだろう」と思い、あまり気にせず父親の家の片づけに翻弄されていました。
ところが1通の手紙から、その楽観的な思いは打ち消されます。弁護士事務所から、自宅に家賃滞納の督促状が届いたのです。「内容証明郵便を受け取るのは初めてのことなので、血の気が引くという感覚を味わい、気が動転した」と芳郎さんは振り返ります。
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冷静になって読んでみると、義弟の住んでいるマンションは、亡くなった父親が法人契約をしており、父親が連帯保証人になっていたということ。しかしここ3ヵ月ほど家賃が支払われず、連帯保証人たる地位が相続されたということが分かりました。つまり、義弟の住むマンションの連帯保証人がそのまま芳郎さんに引き継がれ、その家賃滞納の支払いの請求がきたという訳です。「まさか、家賃を払ってないだなんて」そう思った芳郎さんは、義弟に電話してみましたがやはり繋がりません。いてもたってもいられなくなって、会社に行ってみました。会社はものけの殻だった行ってみると、会社のポストは郵便物で溢れかえっていました。ポストに鍵がかかっていなかったので開けてみると、ここ数ヵ月の請求書ばかりがごっそりと詰まり、弁護士事務所からの郵便物もありました。胸騒ぎする中、オフィスに行ってみると閉まったままで、インターフォンを鳴らしてもドアを叩いても何の反応もなく、人の気配がありません。オフィスの家主に連絡しようと思っても、連絡先も分かりません。どうしよう……。そう思った矢先、隣のオフィスから人が出てきました。「お隣さん、引っ越したと思いますよ。1ヵ月ほど前に荷物を運びだしていたから」芳郎さんは耳を疑いました。義弟とはいえ、家族の一員だと思っていたので、まさか父親の会社に対して黙って何かをするだなんて思ってもみなかったのです。声をかけてくれた人に家主の連絡先を教えてもらい、祈るような気持ちで連絡してみました。「家賃は滞納状態です。退去のことも聞いていませんが、お引越しされたのですか?」家主も驚いた様子だったと芳郎さんは振り返ります。トラブルの種になるため、契約者以外には鍵を渡さないのが通常のルールですが、今回は身内ということと、仮に義弟から苦情が来た場合は芳郎さんが責任を取り、家主には迷惑をかけないことを条件に、鍵を貸してもらうことができました。Photo by iStock 家主と一緒に室内に入ってみると、文字通りもぬけの殻です。室内は完全に空っぽ状態でした。愕然としている芳郎さんに、家主がこれからのことを提案してくれました。「退去の手続きは(契約をしている)法人にしていただきたいのですが、そうなると社長がでてきてくれるか、小山さんが社長になって対応してもらうかの2択です。ただ連帯保証人の責任で解約手続きしてくれるっていうなら、対応はしますよ。ただし基本は連帯保証人に解約の権限はないので、社長が何か言ってきたら、親族で解決してくださいね。まぁ、本来はしませんが、お身内間の話ですから……」つまり勝手に退去したとしても、賃貸借契約は解約にはなりません。必ず解約の手続きが必要となります。ただ解約できる権限を持っているのは賃借人だけで、連帯保証人には賃貸借契約を解約する権限がないのです。そうなると、賃借人が夜逃げしてしまった場合、連帯保証人は賃借人を探し出して解約手続きをしてもらわない限り、延々と家賃を払い続けることになってしまいます。これはかなりの負担になります。一方で夜逃げしたとはいえ、勝手に明け渡したものとして新たな入居者を確保した場合、もし賃借人が出て来て「使うつもりだったし、解約の手続きをしていない」と言われてしまうと家主は責任を負わされることになってしまうのです。Photo by iStock 今回の場合は、賃借人である法人の代表者と連帯保証人が身内と言うこともあり、家主が賃借人から責任を問われないようにしてくれるなら、連帯保証人に(家賃支払い義務がなくなる)解約手続きしてもらってもいいよと譲歩してくれたということです。家主の言葉を何度も頭の中で繰り返しつつ、次に芳郎さんは義弟の住居の方に向かいました。こちらの方もインターホンに反応がありません。住んでいる気配もありません。マンションのポストにも、督促状はたくさん入っていました。あろうことか4年前に亡くなった妹名義のカード請求までありました。自分は信じていたけれど、妹名義のカード請求まで見てしまうと、義弟に対する怒りがこみ上げてきました。連帯保証人に「なってはいけない」結局、その後も義弟とは連絡は取れず、弁護士に相談に行った芳郎さん。弁護士からは連帯保証人である地位は相続され、芳郎さんの場合は今から相続放棄することはできないので、責任を負わないといけない状況ということを伝えられました。「今把握していることはきっと一部でしょうから、ここから状況を整理して、債権者に対して交渉していきましょう」弁護士の先生にはそう言われましたが、分かっているだけでも、滞納の家賃はオフィスと自宅で100万円は超えています。親の会社を継ごうと会社まで辞めた途端、このありさまです。芳郎さんは、連帯保証人たる地位も相続の対象になる、ということは知りませんでした。代表者個人が法人の債務につき連帯保証人になるというのは、よくあることです。会社の借金は、会社が背負うもの。個人財産とは分離されます。一方で、連帯保証人の負担分は、連帯保証人個人の財産までもが返済の対象となります。ここはとても大きなポイントです。何気ない代表取締役の個人保証が相続されるとどうなるか、改めてその怖さを味わった出来事でした。そう言えばサラリーマン時代の先輩が、飲み屋のママの連帯保証人になり、先輩が急死した後、ママが家賃を滞納して、先輩のご家族が大変なことに巻き込まれたことを思い出しました。「賃貸の連帯保証人だなんて名前だけだよ」って笑っていた先輩は、亡くなった後に家族からの信頼を失うことになりました。それでもあの頃は他人事で、自分の周りに連帯保証人の存在なんて無縁だったと芳郎さんは振り返ります。でもふと会社を持つということは、場合によっては代表者の連帯保証もある訳で、そんなことは一切考慮せずに親の事業を引き継ごうと安易に考えていた自分に、安堵すら抱いたといいます。「自分は事業を始める前に、怖さを知ることができた」そう思えたことは、唯一の救いでした。 今回のことは個人では解決できない、そう判断した芳郎さんは、弁護士に一任することにしました。父親の後始末だけでなく、未だに連絡がつかない義弟との件もあります。しっかりと調べることもなく相続してしまったことや、身内ということで信頼しきってしまったことも反省点です。人生100年時代、まだまだこれから先も長い道のりです。今回のことを解決し、先のことは堅実に考えていこう、そう考えた芳郎さんは改めて起業のことや法律を学びだしました。<【前編】>で記したとおり、今後も起業される方がますます増えていくでしょう。さまざまな社会背景が入り混じった末の決断として起業をお考えの方は、芳郎さんのケースを参考に、法律的な「盲点」はないか慎重に判断することをおすすめします。太田垣章子『家賃滞納という貧困』
冷静になって読んでみると、義弟の住んでいるマンションは、亡くなった父親が法人契約をしており、父親が連帯保証人になっていたということ。しかしここ3ヵ月ほど家賃が支払われず、連帯保証人たる地位が相続されたということが分かりました。
つまり、義弟の住むマンションの連帯保証人がそのまま芳郎さんに引き継がれ、その家賃滞納の支払いの請求がきたという訳です。
「まさか、家賃を払ってないだなんて」そう思った芳郎さんは、義弟に電話してみましたがやはり繋がりません。いてもたってもいられなくなって、会社に行ってみました。
行ってみると、会社のポストは郵便物で溢れかえっていました。ポストに鍵がかかっていなかったので開けてみると、ここ数ヵ月の請求書ばかりがごっそりと詰まり、弁護士事務所からの郵便物もありました。
胸騒ぎする中、オフィスに行ってみると閉まったままで、インターフォンを鳴らしてもドアを叩いても何の反応もなく、人の気配がありません。オフィスの家主に連絡しようと思っても、連絡先も分かりません。どうしよう……。そう思った矢先、隣のオフィスから人が出てきました。
「お隣さん、引っ越したと思いますよ。1ヵ月ほど前に荷物を運びだしていたから」
芳郎さんは耳を疑いました。義弟とはいえ、家族の一員だと思っていたので、まさか父親の会社に対して黙って何かをするだなんて思ってもみなかったのです。声をかけてくれた人に家主の連絡先を教えてもらい、祈るような気持ちで連絡してみました。
「家賃は滞納状態です。退去のことも聞いていませんが、お引越しされたのですか?」
家主も驚いた様子だったと芳郎さんは振り返ります。
トラブルの種になるため、契約者以外には鍵を渡さないのが通常のルールですが、今回は身内ということと、仮に義弟から苦情が来た場合は芳郎さんが責任を取り、家主には迷惑をかけないことを条件に、鍵を貸してもらうことができました。
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家主と一緒に室内に入ってみると、文字通りもぬけの殻です。室内は完全に空っぽ状態でした。愕然としている芳郎さんに、家主がこれからのことを提案してくれました。「退去の手続きは(契約をしている)法人にしていただきたいのですが、そうなると社長がでてきてくれるか、小山さんが社長になって対応してもらうかの2択です。ただ連帯保証人の責任で解約手続きしてくれるっていうなら、対応はしますよ。ただし基本は連帯保証人に解約の権限はないので、社長が何か言ってきたら、親族で解決してくださいね。まぁ、本来はしませんが、お身内間の話ですから……」つまり勝手に退去したとしても、賃貸借契約は解約にはなりません。必ず解約の手続きが必要となります。ただ解約できる権限を持っているのは賃借人だけで、連帯保証人には賃貸借契約を解約する権限がないのです。そうなると、賃借人が夜逃げしてしまった場合、連帯保証人は賃借人を探し出して解約手続きをしてもらわない限り、延々と家賃を払い続けることになってしまいます。これはかなりの負担になります。一方で夜逃げしたとはいえ、勝手に明け渡したものとして新たな入居者を確保した場合、もし賃借人が出て来て「使うつもりだったし、解約の手続きをしていない」と言われてしまうと家主は責任を負わされることになってしまうのです。Photo by iStock 今回の場合は、賃借人である法人の代表者と連帯保証人が身内と言うこともあり、家主が賃借人から責任を問われないようにしてくれるなら、連帯保証人に(家賃支払い義務がなくなる)解約手続きしてもらってもいいよと譲歩してくれたということです。家主の言葉を何度も頭の中で繰り返しつつ、次に芳郎さんは義弟の住居の方に向かいました。こちらの方もインターホンに反応がありません。住んでいる気配もありません。マンションのポストにも、督促状はたくさん入っていました。あろうことか4年前に亡くなった妹名義のカード請求までありました。自分は信じていたけれど、妹名義のカード請求まで見てしまうと、義弟に対する怒りがこみ上げてきました。連帯保証人に「なってはいけない」結局、その後も義弟とは連絡は取れず、弁護士に相談に行った芳郎さん。弁護士からは連帯保証人である地位は相続され、芳郎さんの場合は今から相続放棄することはできないので、責任を負わないといけない状況ということを伝えられました。「今把握していることはきっと一部でしょうから、ここから状況を整理して、債権者に対して交渉していきましょう」弁護士の先生にはそう言われましたが、分かっているだけでも、滞納の家賃はオフィスと自宅で100万円は超えています。親の会社を継ごうと会社まで辞めた途端、このありさまです。芳郎さんは、連帯保証人たる地位も相続の対象になる、ということは知りませんでした。代表者個人が法人の債務につき連帯保証人になるというのは、よくあることです。会社の借金は、会社が背負うもの。個人財産とは分離されます。一方で、連帯保証人の負担分は、連帯保証人個人の財産までもが返済の対象となります。ここはとても大きなポイントです。何気ない代表取締役の個人保証が相続されるとどうなるか、改めてその怖さを味わった出来事でした。そう言えばサラリーマン時代の先輩が、飲み屋のママの連帯保証人になり、先輩が急死した後、ママが家賃を滞納して、先輩のご家族が大変なことに巻き込まれたことを思い出しました。「賃貸の連帯保証人だなんて名前だけだよ」って笑っていた先輩は、亡くなった後に家族からの信頼を失うことになりました。それでもあの頃は他人事で、自分の周りに連帯保証人の存在なんて無縁だったと芳郎さんは振り返ります。でもふと会社を持つということは、場合によっては代表者の連帯保証もある訳で、そんなことは一切考慮せずに親の事業を引き継ごうと安易に考えていた自分に、安堵すら抱いたといいます。「自分は事業を始める前に、怖さを知ることができた」そう思えたことは、唯一の救いでした。 今回のことは個人では解決できない、そう判断した芳郎さんは、弁護士に一任することにしました。父親の後始末だけでなく、未だに連絡がつかない義弟との件もあります。しっかりと調べることもなく相続してしまったことや、身内ということで信頼しきってしまったことも反省点です。人生100年時代、まだまだこれから先も長い道のりです。今回のことを解決し、先のことは堅実に考えていこう、そう考えた芳郎さんは改めて起業のことや法律を学びだしました。<【前編】>で記したとおり、今後も起業される方がますます増えていくでしょう。さまざまな社会背景が入り混じった末の決断として起業をお考えの方は、芳郎さんのケースを参考に、法律的な「盲点」はないか慎重に判断することをおすすめします。太田垣章子『家賃滞納という貧困』
家主と一緒に室内に入ってみると、文字通りもぬけの殻です。室内は完全に空っぽ状態でした。愕然としている芳郎さんに、家主がこれからのことを提案してくれました。
「退去の手続きは(契約をしている)法人にしていただきたいのですが、そうなると社長がでてきてくれるか、小山さんが社長になって対応してもらうかの2択です。ただ連帯保証人の責任で解約手続きしてくれるっていうなら、対応はしますよ。
ただし基本は連帯保証人に解約の権限はないので、社長が何か言ってきたら、親族で解決してくださいね。まぁ、本来はしませんが、お身内間の話ですから……」
つまり勝手に退去したとしても、賃貸借契約は解約にはなりません。必ず解約の手続きが必要となります。ただ解約できる権限を持っているのは賃借人だけで、連帯保証人には賃貸借契約を解約する権限がないのです。
そうなると、賃借人が夜逃げしてしまった場合、連帯保証人は賃借人を探し出して解約手続きをしてもらわない限り、延々と家賃を払い続けることになってしまいます。これはかなりの負担になります。
一方で夜逃げしたとはいえ、勝手に明け渡したものとして新たな入居者を確保した場合、もし賃借人が出て来て「使うつもりだったし、解約の手続きをしていない」と言われてしまうと家主は責任を負わされることになってしまうのです。
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今回の場合は、賃借人である法人の代表者と連帯保証人が身内と言うこともあり、家主が賃借人から責任を問われないようにしてくれるなら、連帯保証人に(家賃支払い義務がなくなる)解約手続きしてもらってもいいよと譲歩してくれたということです。家主の言葉を何度も頭の中で繰り返しつつ、次に芳郎さんは義弟の住居の方に向かいました。こちらの方もインターホンに反応がありません。住んでいる気配もありません。マンションのポストにも、督促状はたくさん入っていました。あろうことか4年前に亡くなった妹名義のカード請求までありました。自分は信じていたけれど、妹名義のカード請求まで見てしまうと、義弟に対する怒りがこみ上げてきました。連帯保証人に「なってはいけない」結局、その後も義弟とは連絡は取れず、弁護士に相談に行った芳郎さん。弁護士からは連帯保証人である地位は相続され、芳郎さんの場合は今から相続放棄することはできないので、責任を負わないといけない状況ということを伝えられました。「今把握していることはきっと一部でしょうから、ここから状況を整理して、債権者に対して交渉していきましょう」弁護士の先生にはそう言われましたが、分かっているだけでも、滞納の家賃はオフィスと自宅で100万円は超えています。親の会社を継ごうと会社まで辞めた途端、このありさまです。芳郎さんは、連帯保証人たる地位も相続の対象になる、ということは知りませんでした。代表者個人が法人の債務につき連帯保証人になるというのは、よくあることです。会社の借金は、会社が背負うもの。個人財産とは分離されます。一方で、連帯保証人の負担分は、連帯保証人個人の財産までもが返済の対象となります。ここはとても大きなポイントです。何気ない代表取締役の個人保証が相続されるとどうなるか、改めてその怖さを味わった出来事でした。そう言えばサラリーマン時代の先輩が、飲み屋のママの連帯保証人になり、先輩が急死した後、ママが家賃を滞納して、先輩のご家族が大変なことに巻き込まれたことを思い出しました。「賃貸の連帯保証人だなんて名前だけだよ」って笑っていた先輩は、亡くなった後に家族からの信頼を失うことになりました。それでもあの頃は他人事で、自分の周りに連帯保証人の存在なんて無縁だったと芳郎さんは振り返ります。でもふと会社を持つということは、場合によっては代表者の連帯保証もある訳で、そんなことは一切考慮せずに親の事業を引き継ごうと安易に考えていた自分に、安堵すら抱いたといいます。「自分は事業を始める前に、怖さを知ることができた」そう思えたことは、唯一の救いでした。 今回のことは個人では解決できない、そう判断した芳郎さんは、弁護士に一任することにしました。父親の後始末だけでなく、未だに連絡がつかない義弟との件もあります。しっかりと調べることもなく相続してしまったことや、身内ということで信頼しきってしまったことも反省点です。人生100年時代、まだまだこれから先も長い道のりです。今回のことを解決し、先のことは堅実に考えていこう、そう考えた芳郎さんは改めて起業のことや法律を学びだしました。<【前編】>で記したとおり、今後も起業される方がますます増えていくでしょう。さまざまな社会背景が入り混じった末の決断として起業をお考えの方は、芳郎さんのケースを参考に、法律的な「盲点」はないか慎重に判断することをおすすめします。太田垣章子『家賃滞納という貧困』
今回の場合は、賃借人である法人の代表者と連帯保証人が身内と言うこともあり、家主が賃借人から責任を問われないようにしてくれるなら、連帯保証人に(家賃支払い義務がなくなる)解約手続きしてもらってもいいよと譲歩してくれたということです。
家主の言葉を何度も頭の中で繰り返しつつ、次に芳郎さんは義弟の住居の方に向かいました。
こちらの方もインターホンに反応がありません。住んでいる気配もありません。マンションのポストにも、督促状はたくさん入っていました。
あろうことか4年前に亡くなった妹名義のカード請求までありました。自分は信じていたけれど、妹名義のカード請求まで見てしまうと、義弟に対する怒りがこみ上げてきました。
結局、その後も義弟とは連絡は取れず、弁護士に相談に行った芳郎さん。弁護士からは連帯保証人である地位は相続され、芳郎さんの場合は今から相続放棄することはできないので、責任を負わないといけない状況ということを伝えられました。
「今把握していることはきっと一部でしょうから、ここから状況を整理して、債権者に対して交渉していきましょう」
弁護士の先生にはそう言われましたが、分かっているだけでも、滞納の家賃はオフィスと自宅で100万円は超えています。親の会社を継ごうと会社まで辞めた途端、このありさまです。
芳郎さんは、連帯保証人たる地位も相続の対象になる、ということは知りませんでした。代表者個人が法人の債務につき連帯保証人になるというのは、よくあることです。会社の借金は、会社が背負うもの。個人財産とは分離されます。
一方で、連帯保証人の負担分は、連帯保証人個人の財産までもが返済の対象となります。ここはとても大きなポイントです。何気ない代表取締役の個人保証が相続されるとどうなるか、改めてその怖さを味わった出来事でした。
そう言えばサラリーマン時代の先輩が、飲み屋のママの連帯保証人になり、先輩が急死した後、ママが家賃を滞納して、先輩のご家族が大変なことに巻き込まれたことを思い出しました。
「賃貸の連帯保証人だなんて名前だけだよ」って笑っていた先輩は、亡くなった後に家族からの信頼を失うことになりました。それでもあの頃は他人事で、自分の周りに連帯保証人の存在なんて無縁だったと芳郎さんは振り返ります。
でもふと会社を持つということは、場合によっては代表者の連帯保証もある訳で、そんなことは一切考慮せずに親の事業を引き継ごうと安易に考えていた自分に、安堵すら抱いたといいます。「自分は事業を始める前に、怖さを知ることができた」そう思えたことは、唯一の救いでした。
今回のことは個人では解決できない、そう判断した芳郎さんは、弁護士に一任することにしました。父親の後始末だけでなく、未だに連絡がつかない義弟との件もあります。しっかりと調べることもなく相続してしまったことや、身内ということで信頼しきってしまったことも反省点です。人生100年時代、まだまだこれから先も長い道のりです。今回のことを解決し、先のことは堅実に考えていこう、そう考えた芳郎さんは改めて起業のことや法律を学びだしました。<【前編】>で記したとおり、今後も起業される方がますます増えていくでしょう。さまざまな社会背景が入り混じった末の決断として起業をお考えの方は、芳郎さんのケースを参考に、法律的な「盲点」はないか慎重に判断することをおすすめします。太田垣章子『家賃滞納という貧困』
今回のことは個人では解決できない、そう判断した芳郎さんは、弁護士に一任することにしました。父親の後始末だけでなく、未だに連絡がつかない義弟との件もあります。しっかりと調べることもなく相続してしまったことや、身内ということで信頼しきってしまったことも反省点です。
人生100年時代、まだまだこれから先も長い道のりです。今回のことを解決し、先のことは堅実に考えていこう、そう考えた芳郎さんは改めて起業のことや法律を学びだしました。
<【前編】>で記したとおり、今後も起業される方がますます増えていくでしょう。さまざまな社会背景が入り混じった末の決断として起業をお考えの方は、芳郎さんのケースを参考に、法律的な「盲点」はないか慎重に判断することをおすすめします。
太田垣章子『家賃滞納という貧困』