《天満カラオケパブ刺殺事件》「死刑をお願いします」宮本浩志被告(57)のあまりに“異様”な初公判 被害者への「僕はゴミなんだね」というLINEの意味とは から続く
大阪北区の天満でカラオケパブ「ごまちゃん」を経営していた稲田真優子さん(当時25)が、店内で首や胸など10箇所以上も刺されて死亡した事件から1年3カ月――。生前の稲田さんを知る私は、取材者という立場でもこの事件に接した。彼女が見つかった状況が明らかになればなるほど、凶器を手にした犯人に対し抵抗しようとする彼女の叫びが脳内に響き、彼女の最期の姿がリアルに浮かぶ。
【画像】稲田さんと宮本被告のLINE。「僕はゴミなんだね」という文字が目を引く
いち常連客に過ぎなかった私でさえこうなのだから、遺族や交際相手の男性、あるいは連絡が取れないことを不審に思ってごまちゃんに駆けつけて第一発見者となったふたりの知人らの哀しみや苦悩は計り知れず、事件以前の平穏な時間の流れは誰も取り戻せていない。
稲田さんを殺害した罪に問われているのは、事件当時、新大阪の会社に勤務していた宮本浩志被告(57)。稲田さんが2020年7月まで勤務していたカラオケバー「ラブリッシュ」時代から彼女に好意を寄せており、9月16日に行われた初公判では、ごまちゃんがグランドオープンした昨年1月18日から事件が起きた6月までのおよそ5カ月間に、83回も通い詰めていたことが明らかになった。
亡くなった稲田真由子さんと宮本浩志被告 遺族提供
稲田さんにとって長年の夢だった“自分の店”の船出は、決して順風に背を押される形ではなかった。新型コロナの感染対策として出た緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の時期と重なり時短営業を余儀なくされ、アルコールも提供できない時期が長かった。店内に人が少なければ、稲田さんを独占できる時間が長くなる。宮本被告がそう考えて来店回数を増やしていったことは容易に想像がつく。
およそ2日に1回のペースでとなる来店頻度もさることながら、一方的な好意――いや、異常なまでの粘着性が見て取れるのはLINEのメッセージや通話の頻度だ。
初公判の前々日に私は稲田さんの実家を訪れ、8月末にようやく検察から戻ってきた稲田さんのスマートフォンに残っていたLINE履歴を見せてもらった。LINEの履歴は私信に属するが、事件の全容を理解するためには、そこで交わされたやりとりを検証する必要がある。稲田さんの遺族の許可を得て、その内容を公開する。
1月18日のグランドオープンの日の朝、被告は稲田さんに対し、《まゆさんのスタートにふさわしい綺麗な朝焼けだったよ。さあ出発だね》と送り、店にも足を運んでいる。だが、店にはすでに先客がいた。1人目になれなかったことがよほど悔しかったのか、会計を済ませた退店後、3件の不在着信のあと、こんなメッセージを送り続けている(一部編集し、絵文字などは省略。以下同)。被告 最後におめでとうって言いたかったけど、それも聞いてくれないぐらい、僕はゴミなんだね。今日来てごめんね。被告 記念の日に写真も撮らせてくれないなんて、まゆさんにとってはゴミなんだなー。残念でした。これからは、ゴミなりに接するようにしますね。被告 まゆさんの扱いを再確認できました。今日はありがとう。まゆさんはこれからも大丈夫だよ。 オープンの日とあって、稲田さんは忙しかったはずだ。稲田さんはいつも会計を終えた常連客をエレベーターまで見送っていたが、この日は宮本被告を見送ることはなく、被告が望んでいたツーショット写真を撮ることができなかった。その不満を稲田さんにぶつけ、さらに執拗なLINE電話とメッセージが続いた。 不在着信被告 友達と二次会かな? お祝いの一言も話せないね。残念です。 不在着信被告 また、後で電話しますね。被告 やっぱり直接伝えたいのでね。 不在着信 不在着信被告 また、後で電話するね。被告 0時ごろ電話するね。 不在着信 不在着信 不在着信 不在着信 不在着信 不在着信 不在着信 不在着信 不在着信 不在着信 不在着信 不在着信被告 最後に出てきてくれると思ってた。その時、おめでとうって言いたかった。それを直接言いたいだけなのに聞いてくれないんだね。 12回の連続不在着信は、画面で見るだけでも恐怖を感じる。これがリアルタイムに、続々と送られている時に稲田さんはどんな感情で受け止めていたのだろう。「ゴミの声は聞きたくないんだね」と送信した後にも不在着信 そして再び、宮本被告の文面に「ゴミ」という単語が登場する。被告 すぐかけた電話に出てくれたら、こんなに何回もかけなかったよ。まゆさんにとってはやっぱりゴミ、いやゴミ以下なんだね。悲しいです。 不在着信被告 ゴミの声は聞きたくないんだね。でも、ありがとう。まゆさんの声はかわいくて心地よくて好きでした。ありがとね。 不在着信被告 聞かせてくれないかな? 不在着信被告 声聞きたかった。 稲田さんが返信をしたのは19日の午後に入ってから。《こんにちは! お電話いっぱい、、色々言いたい事があるのですね。ごめんなさい。前進できるようになんとか、、続けますよ》と、戸惑いを明かしつつ、常連客である宮本被告の機嫌を損ねないように配慮した文面に映る。 しかし、1月31日から翌2月1日にかけたやりとりでは、再び、見送りがなかったことへの強い不満をぶつける被告に対し、仕事中だった稲田さんも強く反論している。被告 今日はありがとね。でもやっぱり苦手なんだね。稲田さん お店がバタバタしていたらお見送りできません。被告 他の方と明らかに区別していますよ。無意識に。まゆさんは可愛いし、声も好きだし、嫌いになることができないです。ただ、最後に見送るのが店長の役目ではないですか。違いますか。自分の行動がどうだったか振り返ってみてくださいね。稲田さん そう思うならもっと好かれてくださいよ。店長の役目などは自分が決めます。店内の状況など、お客様一人ひとりのことを考えているのはひろしさんじゃなく、自分ですよ。お仕事に戻りますね。 さらに3月1日のやりとりである。被告 席空いていますか? 30分後ぐらいに。稲田さん ありがとうございます。今バタバタしています。被告 じゃあ、バタバタ具合見に行くね。 宮本被告は入店後、しばらく滞在して帰路につく。しかし、店内で納得できないことがあったのか、執拗な電話連絡が続く。堪えきれなかった稲田さんは1度メッセージを送り、その後は被告の稲田さんに対する怒りのマグマが噴出するように、おぞましいほどの着信とメッセージが続く。稲田さん 今は接客しているの知ってると思うんですが、電話は控えて、LINEメッセージで連絡ください!被告 他のひとならすぐに電話に出るのにね。出ないから何回もかけてしまう。これも、まゆさんに問題があるんじゃないの? 人のせいばかりしないでね。被告 まゆさんはいつも正しいと思ってるのかな~。被告 まゆさん、我慢して付き合ってくれてるの? どうなの?被告 こんな話は、直接はなすことで字面ではつたえきれないよ。LINEしろというからこんなかんじになってるけど。反応ないじゃない。「電話でないのがわるいのに、これも、人のせいにするの?」 その後も怒濤の不在着信とメッセージの連続に、とうとう、稲田さんも我慢がならなかったのだろう。被告に対して幾度かメッセージを送信している。(5回の不在着信)被告 まだ既読にならないね。どういうこと。被告 地声で説明して!(3回の不在着信)被告 説明義務はあるよ。(2回の不在着信)稲田さん いっぱい掛かってきて怖いんですが、何が聞きたいんですか?被告 電話出て。(1回の不在着信)稲田さん 今日はもう終わって今から休みます。こんな電話が続いてよく分からないのですが、疲れているので電話はごめんなさい。被告 電話でないのがわるいのに、これも、人のせいにするの?(日付が3月2日になり、6 回の不在着信のあと)被告 日が変わったけど、朝も昼も時間があればかけるよ。よろしくね その後も宮本被告からの一方的なメッセージは続き、稲田さんがメッセージを送ったのはしばらく時間が経った2日の14時22分だ。稲田さん ひろしさんからの電話は出たくなかったのですよ。とても迷惑だったので今後は1回電話して出なかったら、何度もかけるのやめてください。迷惑だと思ったら普通に無視します。お仕事行ってきます。被告 ありがとね。ただ1回では取り損ねもあるでしょうから、連絡は2回までにします。 1月の段階では自らを「ゴミ」と卑下して、稲田さんのつれない反応に不満をぶつけていた被告だが、3月になると言葉に非難の色が濃くなり、攻撃性を強めていった印象だ。稲田さんも冷静に言葉を選びながら、態度と行動を改めるように求めている。しかし心労の程は察せられる。 被告との間でこのやりとりがあった3月1日に、私も「ごまちゃん」を訪れていた。私と稲田さんとのLINEのやりとりを見返していて判明したことだが、ごまちゃんに到着したとき、既に先客がいた記憶は確かにある。それが宮本被告だった可能性が高い。翌2日の早朝、私の携帯電話には稲田さんから御礼のメッセージが届いていた。《昨日終わってから梅田に飲みに行ってました。ダメダメですね》 被告には「もう休みます」とメッセージを送る一方で、彼女自身は梅田に足を伸ばしていたということが分かる。また、スマートフォンに被告からの連絡が絶え間なく届いている間でも、店では気丈に振る舞い、御礼の連絡を忘れないところにも彼女の人柄が表れている。事件の直前から、文面が「まゆさん」から「まゆ」に 稲田さんは宮本被告のLINE連絡を近しい知人には相談していたが、警察に相談することは考えなかったのだろうか。9月16日の初公判で、検察は稲田さんと交際していた男性の供述調書を読み上げた。「『まあ(稲田さんに対する呼称)』に言い寄ってくる男は他にもいたと思います。でもまあは、お客さんからどんな無茶な話を振られても、怒ったりせず、多少もめても、話し合って解決しようとする優しい子でした」 事件が起こった2021年6月に入ると、宮本被告と稲田さんのLINEのやりとりには、大きな変化がある。かねてより「まゆさん」と呼んでいた被告の稲田さんに対する呼称が「まゆ」と呼び捨てになっているのだ。 6月7日のLINEである。被告 まゆにはかなわないな。ほんと魔法使いだね。(中略)まゆの声聞けてぐっすり眠れそうです。ありがとうね。 事件の4日前となるこの日、稲田さんと被告は新大阪の居酒屋で食事をしている。本来ならふたりで食事することすら忌避していたが、6月2日が被告の誕生日であったためにどうしても同席せざるを得なかったのだ。ふたりきりになる状況を避けるべく、稲田さんは個室ではなく、カウンターの向こうに居酒屋の店主が立つ店をわざわざ選んだと交際相手は証言している。 被告の誕生日を祝うこの席で、稲田さんは宮本被告に対してこう告げたという。「もう店には来ないでいただけますか」と–。《大阪カラオケパブ刺殺事件》「もう店には来ないでいただけますか」に対して「まゆの声聞けてぐっすり眠れそうです」とLINEを送信 事件4日前、宮本被告(57)の異様な“噛み合わなさ” へ続く(柳川 悠二/Webオリジナル(特集班))
1月18日のグランドオープンの日の朝、被告は稲田さんに対し、《まゆさんのスタートにふさわしい綺麗な朝焼けだったよ。さあ出発だね》と送り、店にも足を運んでいる。だが、店にはすでに先客がいた。1人目になれなかったことがよほど悔しかったのか、会計を済ませた退店後、3件の不在着信のあと、こんなメッセージを送り続けている(一部編集し、絵文字などは省略。以下同)。
被告 最後におめでとうって言いたかったけど、それも聞いてくれないぐらい、僕はゴミなんだね。今日来てごめんね。
被告 記念の日に写真も撮らせてくれないなんて、まゆさんにとってはゴミなんだなー。残念でした。これからは、ゴミなりに接するようにしますね。
被告 まゆさんの扱いを再確認できました。今日はありがとう。まゆさんはこれからも大丈夫だよ。
オープンの日とあって、稲田さんは忙しかったはずだ。稲田さんはいつも会計を終えた常連客をエレベーターまで見送っていたが、この日は宮本被告を見送ることはなく、被告が望んでいたツーショット写真を撮ることができなかった。その不満を稲田さんにぶつけ、さらに執拗なLINE電話とメッセージが続いた。
不在着信被告 友達と二次会かな? お祝いの一言も話せないね。残念です。 不在着信被告 また、後で電話しますね。被告 やっぱり直接伝えたいのでね。 不在着信 不在着信被告 また、後で電話するね。被告 0時ごろ電話するね。 不在着信 不在着信 不在着信 不在着信 不在着信 不在着信 不在着信 不在着信 不在着信 不在着信 不在着信 不在着信被告 最後に出てきてくれると思ってた。その時、おめでとうって言いたかった。それを直接言いたいだけなのに聞いてくれないんだね。 12回の連続不在着信は、画面で見るだけでも恐怖を感じる。これがリアルタイムに、続々と送られている時に稲田さんはどんな感情で受け止めていたのだろう。「ゴミの声は聞きたくないんだね」と送信した後にも不在着信 そして再び、宮本被告の文面に「ゴミ」という単語が登場する。被告 すぐかけた電話に出てくれたら、こんなに何回もかけなかったよ。まゆさんにとってはやっぱりゴミ、いやゴミ以下なんだね。悲しいです。 不在着信被告 ゴミの声は聞きたくないんだね。でも、ありがとう。まゆさんの声はかわいくて心地よくて好きでした。ありがとね。 不在着信被告 聞かせてくれないかな? 不在着信被告 声聞きたかった。 稲田さんが返信をしたのは19日の午後に入ってから。《こんにちは! お電話いっぱい、、色々言いたい事があるのですね。ごめんなさい。前進できるようになんとか、、続けますよ》と、戸惑いを明かしつつ、常連客である宮本被告の機嫌を損ねないように配慮した文面に映る。 しかし、1月31日から翌2月1日にかけたやりとりでは、再び、見送りがなかったことへの強い不満をぶつける被告に対し、仕事中だった稲田さんも強く反論している。被告 今日はありがとね。でもやっぱり苦手なんだね。稲田さん お店がバタバタしていたらお見送りできません。被告 他の方と明らかに区別していますよ。無意識に。まゆさんは可愛いし、声も好きだし、嫌いになることができないです。ただ、最後に見送るのが店長の役目ではないですか。違いますか。自分の行動がどうだったか振り返ってみてくださいね。稲田さん そう思うならもっと好かれてくださいよ。店長の役目などは自分が決めます。店内の状況など、お客様一人ひとりのことを考えているのはひろしさんじゃなく、自分ですよ。お仕事に戻りますね。 さらに3月1日のやりとりである。被告 席空いていますか? 30分後ぐらいに。稲田さん ありがとうございます。今バタバタしています。被告 じゃあ、バタバタ具合見に行くね。 宮本被告は入店後、しばらく滞在して帰路につく。しかし、店内で納得できないことがあったのか、執拗な電話連絡が続く。堪えきれなかった稲田さんは1度メッセージを送り、その後は被告の稲田さんに対する怒りのマグマが噴出するように、おぞましいほどの着信とメッセージが続く。稲田さん 今は接客しているの知ってると思うんですが、電話は控えて、LINEメッセージで連絡ください!被告 他のひとならすぐに電話に出るのにね。出ないから何回もかけてしまう。これも、まゆさんに問題があるんじゃないの? 人のせいばかりしないでね。被告 まゆさんはいつも正しいと思ってるのかな~。被告 まゆさん、我慢して付き合ってくれてるの? どうなの?被告 こんな話は、直接はなすことで字面ではつたえきれないよ。LINEしろというからこんなかんじになってるけど。反応ないじゃない。「電話でないのがわるいのに、これも、人のせいにするの?」 その後も怒濤の不在着信とメッセージの連続に、とうとう、稲田さんも我慢がならなかったのだろう。被告に対して幾度かメッセージを送信している。(5回の不在着信)被告 まだ既読にならないね。どういうこと。被告 地声で説明して!(3回の不在着信)被告 説明義務はあるよ。(2回の不在着信)稲田さん いっぱい掛かってきて怖いんですが、何が聞きたいんですか?被告 電話出て。(1回の不在着信)稲田さん 今日はもう終わって今から休みます。こんな電話が続いてよく分からないのですが、疲れているので電話はごめんなさい。被告 電話でないのがわるいのに、これも、人のせいにするの?(日付が3月2日になり、6 回の不在着信のあと)被告 日が変わったけど、朝も昼も時間があればかけるよ。よろしくね その後も宮本被告からの一方的なメッセージは続き、稲田さんがメッセージを送ったのはしばらく時間が経った2日の14時22分だ。稲田さん ひろしさんからの電話は出たくなかったのですよ。とても迷惑だったので今後は1回電話して出なかったら、何度もかけるのやめてください。迷惑だと思ったら普通に無視します。お仕事行ってきます。被告 ありがとね。ただ1回では取り損ねもあるでしょうから、連絡は2回までにします。 1月の段階では自らを「ゴミ」と卑下して、稲田さんのつれない反応に不満をぶつけていた被告だが、3月になると言葉に非難の色が濃くなり、攻撃性を強めていった印象だ。稲田さんも冷静に言葉を選びながら、態度と行動を改めるように求めている。しかし心労の程は察せられる。 被告との間でこのやりとりがあった3月1日に、私も「ごまちゃん」を訪れていた。私と稲田さんとのLINEのやりとりを見返していて判明したことだが、ごまちゃんに到着したとき、既に先客がいた記憶は確かにある。それが宮本被告だった可能性が高い。翌2日の早朝、私の携帯電話には稲田さんから御礼のメッセージが届いていた。《昨日終わってから梅田に飲みに行ってました。ダメダメですね》 被告には「もう休みます」とメッセージを送る一方で、彼女自身は梅田に足を伸ばしていたということが分かる。また、スマートフォンに被告からの連絡が絶え間なく届いている間でも、店では気丈に振る舞い、御礼の連絡を忘れないところにも彼女の人柄が表れている。事件の直前から、文面が「まゆさん」から「まゆ」に 稲田さんは宮本被告のLINE連絡を近しい知人には相談していたが、警察に相談することは考えなかったのだろうか。9月16日の初公判で、検察は稲田さんと交際していた男性の供述調書を読み上げた。「『まあ(稲田さんに対する呼称)』に言い寄ってくる男は他にもいたと思います。でもまあは、お客さんからどんな無茶な話を振られても、怒ったりせず、多少もめても、話し合って解決しようとする優しい子でした」 事件が起こった2021年6月に入ると、宮本被告と稲田さんのLINEのやりとりには、大きな変化がある。かねてより「まゆさん」と呼んでいた被告の稲田さんに対する呼称が「まゆ」と呼び捨てになっているのだ。 6月7日のLINEである。被告 まゆにはかなわないな。ほんと魔法使いだね。(中略)まゆの声聞けてぐっすり眠れそうです。ありがとうね。 事件の4日前となるこの日、稲田さんと被告は新大阪の居酒屋で食事をしている。本来ならふたりで食事することすら忌避していたが、6月2日が被告の誕生日であったためにどうしても同席せざるを得なかったのだ。ふたりきりになる状況を避けるべく、稲田さんは個室ではなく、カウンターの向こうに居酒屋の店主が立つ店をわざわざ選んだと交際相手は証言している。 被告の誕生日を祝うこの席で、稲田さんは宮本被告に対してこう告げたという。「もう店には来ないでいただけますか」と–。《大阪カラオケパブ刺殺事件》「もう店には来ないでいただけますか」に対して「まゆの声聞けてぐっすり眠れそうです」とLINEを送信 事件4日前、宮本被告(57)の異様な“噛み合わなさ” へ続く(柳川 悠二/Webオリジナル(特集班))
不在着信
被告 友達と二次会かな? お祝いの一言も話せないね。残念です。
不在着信
被告 また、後で電話しますね。
被告 やっぱり直接伝えたいのでね。
不在着信
不在着信
被告 また、後で電話するね。
被告 0時ごろ電話するね。
不在着信
不在着信
不在着信
不在着信
不在着信
不在着信
不在着信
不在着信
不在着信
不在着信
不在着信
不在着信
被告 最後に出てきてくれると思ってた。その時、おめでとうって言いたかった。それを直接言いたいだけなのに聞いてくれないんだね。
12回の連続不在着信は、画面で見るだけでも恐怖を感じる。これがリアルタイムに、続々と送られている時に稲田さんはどんな感情で受け止めていたのだろう。
「ゴミの声は聞きたくないんだね」と送信した後にも不在着信 そして再び、宮本被告の文面に「ゴミ」という単語が登場する。被告 すぐかけた電話に出てくれたら、こんなに何回もかけなかったよ。まゆさんにとってはやっぱりゴミ、いやゴミ以下なんだね。悲しいです。 不在着信被告 ゴミの声は聞きたくないんだね。でも、ありがとう。まゆさんの声はかわいくて心地よくて好きでした。ありがとね。 不在着信被告 聞かせてくれないかな? 不在着信被告 声聞きたかった。 稲田さんが返信をしたのは19日の午後に入ってから。《こんにちは! お電話いっぱい、、色々言いたい事があるのですね。ごめんなさい。前進できるようになんとか、、続けますよ》と、戸惑いを明かしつつ、常連客である宮本被告の機嫌を損ねないように配慮した文面に映る。 しかし、1月31日から翌2月1日にかけたやりとりでは、再び、見送りがなかったことへの強い不満をぶつける被告に対し、仕事中だった稲田さんも強く反論している。被告 今日はありがとね。でもやっぱり苦手なんだね。稲田さん お店がバタバタしていたらお見送りできません。被告 他の方と明らかに区別していますよ。無意識に。まゆさんは可愛いし、声も好きだし、嫌いになることができないです。ただ、最後に見送るのが店長の役目ではないですか。違いますか。自分の行動がどうだったか振り返ってみてくださいね。稲田さん そう思うならもっと好かれてくださいよ。店長の役目などは自分が決めます。店内の状況など、お客様一人ひとりのことを考えているのはひろしさんじゃなく、自分ですよ。お仕事に戻りますね。 さらに3月1日のやりとりである。被告 席空いていますか? 30分後ぐらいに。稲田さん ありがとうございます。今バタバタしています。被告 じゃあ、バタバタ具合見に行くね。 宮本被告は入店後、しばらく滞在して帰路につく。しかし、店内で納得できないことがあったのか、執拗な電話連絡が続く。堪えきれなかった稲田さんは1度メッセージを送り、その後は被告の稲田さんに対する怒りのマグマが噴出するように、おぞましいほどの着信とメッセージが続く。稲田さん 今は接客しているの知ってると思うんですが、電話は控えて、LINEメッセージで連絡ください!被告 他のひとならすぐに電話に出るのにね。出ないから何回もかけてしまう。これも、まゆさんに問題があるんじゃないの? 人のせいばかりしないでね。被告 まゆさんはいつも正しいと思ってるのかな~。被告 まゆさん、我慢して付き合ってくれてるの? どうなの?被告 こんな話は、直接はなすことで字面ではつたえきれないよ。LINEしろというからこんなかんじになってるけど。反応ないじゃない。「電話でないのがわるいのに、これも、人のせいにするの?」 その後も怒濤の不在着信とメッセージの連続に、とうとう、稲田さんも我慢がならなかったのだろう。被告に対して幾度かメッセージを送信している。(5回の不在着信)被告 まだ既読にならないね。どういうこと。被告 地声で説明して!(3回の不在着信)被告 説明義務はあるよ。(2回の不在着信)稲田さん いっぱい掛かってきて怖いんですが、何が聞きたいんですか?被告 電話出て。(1回の不在着信)稲田さん 今日はもう終わって今から休みます。こんな電話が続いてよく分からないのですが、疲れているので電話はごめんなさい。被告 電話でないのがわるいのに、これも、人のせいにするの?(日付が3月2日になり、6 回の不在着信のあと)被告 日が変わったけど、朝も昼も時間があればかけるよ。よろしくね その後も宮本被告からの一方的なメッセージは続き、稲田さんがメッセージを送ったのはしばらく時間が経った2日の14時22分だ。稲田さん ひろしさんからの電話は出たくなかったのですよ。とても迷惑だったので今後は1回電話して出なかったら、何度もかけるのやめてください。迷惑だと思ったら普通に無視します。お仕事行ってきます。被告 ありがとね。ただ1回では取り損ねもあるでしょうから、連絡は2回までにします。 1月の段階では自らを「ゴミ」と卑下して、稲田さんのつれない反応に不満をぶつけていた被告だが、3月になると言葉に非難の色が濃くなり、攻撃性を強めていった印象だ。稲田さんも冷静に言葉を選びながら、態度と行動を改めるように求めている。しかし心労の程は察せられる。 被告との間でこのやりとりがあった3月1日に、私も「ごまちゃん」を訪れていた。私と稲田さんとのLINEのやりとりを見返していて判明したことだが、ごまちゃんに到着したとき、既に先客がいた記憶は確かにある。それが宮本被告だった可能性が高い。翌2日の早朝、私の携帯電話には稲田さんから御礼のメッセージが届いていた。《昨日終わってから梅田に飲みに行ってました。ダメダメですね》 被告には「もう休みます」とメッセージを送る一方で、彼女自身は梅田に足を伸ばしていたということが分かる。また、スマートフォンに被告からの連絡が絶え間なく届いている間でも、店では気丈に振る舞い、御礼の連絡を忘れないところにも彼女の人柄が表れている。事件の直前から、文面が「まゆさん」から「まゆ」に 稲田さんは宮本被告のLINE連絡を近しい知人には相談していたが、警察に相談することは考えなかったのだろうか。9月16日の初公判で、検察は稲田さんと交際していた男性の供述調書を読み上げた。「『まあ(稲田さんに対する呼称)』に言い寄ってくる男は他にもいたと思います。でもまあは、お客さんからどんな無茶な話を振られても、怒ったりせず、多少もめても、話し合って解決しようとする優しい子でした」 事件が起こった2021年6月に入ると、宮本被告と稲田さんのLINEのやりとりには、大きな変化がある。かねてより「まゆさん」と呼んでいた被告の稲田さんに対する呼称が「まゆ」と呼び捨てになっているのだ。 6月7日のLINEである。被告 まゆにはかなわないな。ほんと魔法使いだね。(中略)まゆの声聞けてぐっすり眠れそうです。ありがとうね。 事件の4日前となるこの日、稲田さんと被告は新大阪の居酒屋で食事をしている。本来ならふたりで食事することすら忌避していたが、6月2日が被告の誕生日であったためにどうしても同席せざるを得なかったのだ。ふたりきりになる状況を避けるべく、稲田さんは個室ではなく、カウンターの向こうに居酒屋の店主が立つ店をわざわざ選んだと交際相手は証言している。 被告の誕生日を祝うこの席で、稲田さんは宮本被告に対してこう告げたという。「もう店には来ないでいただけますか」と–。《大阪カラオケパブ刺殺事件》「もう店には来ないでいただけますか」に対して「まゆの声聞けてぐっすり眠れそうです」とLINEを送信 事件4日前、宮本被告(57)の異様な“噛み合わなさ” へ続く(柳川 悠二/Webオリジナル(特集班))
そして再び、宮本被告の文面に「ゴミ」という単語が登場する。
被告 すぐかけた電話に出てくれたら、こんなに何回もかけなかったよ。まゆさんにとってはやっぱりゴミ、いやゴミ以下なんだね。悲しいです。
不在着信
被告 ゴミの声は聞きたくないんだね。でも、ありがとう。まゆさんの声はかわいくて心地よくて好きでした。ありがとね。
不在着信
被告 聞かせてくれないかな?
不在着信
被告 声聞きたかった。
稲田さんが返信をしたのは19日の午後に入ってから。《こんにちは! お電話いっぱい、、色々言いたい事があるのですね。ごめんなさい。前進できるようになんとか、、続けますよ》と、戸惑いを明かしつつ、常連客である宮本被告の機嫌を損ねないように配慮した文面に映る。
しかし、1月31日から翌2月1日にかけたやりとりでは、再び、見送りがなかったことへの強い不満をぶつける被告に対し、仕事中だった稲田さんも強く反論している。
被告 今日はありがとね。でもやっぱり苦手なんだね。
稲田さん お店がバタバタしていたらお見送りできません。
被告 他の方と明らかに区別していますよ。無意識に。まゆさんは可愛いし、声も好きだし、嫌いになることができないです。ただ、最後に見送るのが店長の役目ではないですか。違いますか。自分の行動がどうだったか振り返ってみてくださいね。
稲田さん そう思うならもっと好かれてくださいよ。店長の役目などは自分が決めます。店内の状況など、お客様一人ひとりのことを考えているのはひろしさんじゃなく、自分ですよ。お仕事に戻りますね。
さらに3月1日のやりとりである。
被告 席空いていますか? 30分後ぐらいに。
稲田さん ありがとうございます。今バタバタしています。
被告 じゃあ、バタバタ具合見に行くね。
宮本被告は入店後、しばらく滞在して帰路につく。しかし、店内で納得できないことがあったのか、執拗な電話連絡が続く。堪えきれなかった稲田さんは1度メッセージを送り、その後は被告の稲田さんに対する怒りのマグマが噴出するように、おぞましいほどの着信とメッセージが続く。
稲田さん 今は接客しているの知ってると思うんですが、電話は控えて、LINEメッセージで連絡ください!被告 他のひとならすぐに電話に出るのにね。出ないから何回もかけてしまう。これも、まゆさんに問題があるんじゃないの? 人のせいばかりしないでね。被告 まゆさんはいつも正しいと思ってるのかな~。被告 まゆさん、我慢して付き合ってくれてるの? どうなの?被告 こんな話は、直接はなすことで字面ではつたえきれないよ。LINEしろというからこんなかんじになってるけど。反応ないじゃない。「電話でないのがわるいのに、これも、人のせいにするの?」 その後も怒濤の不在着信とメッセージの連続に、とうとう、稲田さんも我慢がならなかったのだろう。被告に対して幾度かメッセージを送信している。(5回の不在着信)被告 まだ既読にならないね。どういうこと。被告 地声で説明して!(3回の不在着信)被告 説明義務はあるよ。(2回の不在着信)稲田さん いっぱい掛かってきて怖いんですが、何が聞きたいんですか?被告 電話出て。(1回の不在着信)稲田さん 今日はもう終わって今から休みます。こんな電話が続いてよく分からないのですが、疲れているので電話はごめんなさい。被告 電話でないのがわるいのに、これも、人のせいにするの?(日付が3月2日になり、6 回の不在着信のあと)被告 日が変わったけど、朝も昼も時間があればかけるよ。よろしくね その後も宮本被告からの一方的なメッセージは続き、稲田さんがメッセージを送ったのはしばらく時間が経った2日の14時22分だ。稲田さん ひろしさんからの電話は出たくなかったのですよ。とても迷惑だったので今後は1回電話して出なかったら、何度もかけるのやめてください。迷惑だと思ったら普通に無視します。お仕事行ってきます。被告 ありがとね。ただ1回では取り損ねもあるでしょうから、連絡は2回までにします。 1月の段階では自らを「ゴミ」と卑下して、稲田さんのつれない反応に不満をぶつけていた被告だが、3月になると言葉に非難の色が濃くなり、攻撃性を強めていった印象だ。稲田さんも冷静に言葉を選びながら、態度と行動を改めるように求めている。しかし心労の程は察せられる。 被告との間でこのやりとりがあった3月1日に、私も「ごまちゃん」を訪れていた。私と稲田さんとのLINEのやりとりを見返していて判明したことだが、ごまちゃんに到着したとき、既に先客がいた記憶は確かにある。それが宮本被告だった可能性が高い。翌2日の早朝、私の携帯電話には稲田さんから御礼のメッセージが届いていた。《昨日終わってから梅田に飲みに行ってました。ダメダメですね》 被告には「もう休みます」とメッセージを送る一方で、彼女自身は梅田に足を伸ばしていたということが分かる。また、スマートフォンに被告からの連絡が絶え間なく届いている間でも、店では気丈に振る舞い、御礼の連絡を忘れないところにも彼女の人柄が表れている。事件の直前から、文面が「まゆさん」から「まゆ」に 稲田さんは宮本被告のLINE連絡を近しい知人には相談していたが、警察に相談することは考えなかったのだろうか。9月16日の初公判で、検察は稲田さんと交際していた男性の供述調書を読み上げた。「『まあ(稲田さんに対する呼称)』に言い寄ってくる男は他にもいたと思います。でもまあは、お客さんからどんな無茶な話を振られても、怒ったりせず、多少もめても、話し合って解決しようとする優しい子でした」 事件が起こった2021年6月に入ると、宮本被告と稲田さんのLINEのやりとりには、大きな変化がある。かねてより「まゆさん」と呼んでいた被告の稲田さんに対する呼称が「まゆ」と呼び捨てになっているのだ。 6月7日のLINEである。被告 まゆにはかなわないな。ほんと魔法使いだね。(中略)まゆの声聞けてぐっすり眠れそうです。ありがとうね。 事件の4日前となるこの日、稲田さんと被告は新大阪の居酒屋で食事をしている。本来ならふたりで食事することすら忌避していたが、6月2日が被告の誕生日であったためにどうしても同席せざるを得なかったのだ。ふたりきりになる状況を避けるべく、稲田さんは個室ではなく、カウンターの向こうに居酒屋の店主が立つ店をわざわざ選んだと交際相手は証言している。 被告の誕生日を祝うこの席で、稲田さんは宮本被告に対してこう告げたという。「もう店には来ないでいただけますか」と–。《大阪カラオケパブ刺殺事件》「もう店には来ないでいただけますか」に対して「まゆの声聞けてぐっすり眠れそうです」とLINEを送信 事件4日前、宮本被告(57)の異様な“噛み合わなさ” へ続く(柳川 悠二/Webオリジナル(特集班))
稲田さん 今は接客しているの知ってると思うんですが、電話は控えて、LINEメッセージで連絡ください!
被告 他のひとならすぐに電話に出るのにね。出ないから何回もかけてしまう。これも、まゆさんに問題があるんじゃないの? 人のせいばかりしないでね。
被告 まゆさんはいつも正しいと思ってるのかな~。
被告 まゆさん、我慢して付き合ってくれてるの? どうなの?
被告 こんな話は、直接はなすことで字面ではつたえきれないよ。LINEしろというからこんなかんじになってるけど。反応ないじゃない。
その後も怒濤の不在着信とメッセージの連続に、とうとう、稲田さんも我慢がならなかったのだろう。被告に対して幾度かメッセージを送信している。
(5回の不在着信)被告 まだ既読にならないね。どういうこと。被告 地声で説明して!(3回の不在着信)被告 説明義務はあるよ。(2回の不在着信)稲田さん いっぱい掛かってきて怖いんですが、何が聞きたいんですか?被告 電話出て。(1回の不在着信)稲田さん 今日はもう終わって今から休みます。こんな電話が続いてよく分からないのですが、疲れているので電話はごめんなさい。被告 電話でないのがわるいのに、これも、人のせいにするの?(日付が3月2日になり、6 回の不在着信のあと)被告 日が変わったけど、朝も昼も時間があればかけるよ。よろしくね その後も宮本被告からの一方的なメッセージは続き、稲田さんがメッセージを送ったのはしばらく時間が経った2日の14時22分だ。稲田さん ひろしさんからの電話は出たくなかったのですよ。とても迷惑だったので今後は1回電話して出なかったら、何度もかけるのやめてください。迷惑だと思ったら普通に無視します。お仕事行ってきます。被告 ありがとね。ただ1回では取り損ねもあるでしょうから、連絡は2回までにします。 1月の段階では自らを「ゴミ」と卑下して、稲田さんのつれない反応に不満をぶつけていた被告だが、3月になると言葉に非難の色が濃くなり、攻撃性を強めていった印象だ。稲田さんも冷静に言葉を選びながら、態度と行動を改めるように求めている。しかし心労の程は察せられる。 被告との間でこのやりとりがあった3月1日に、私も「ごまちゃん」を訪れていた。私と稲田さんとのLINEのやりとりを見返していて判明したことだが、ごまちゃんに到着したとき、既に先客がいた記憶は確かにある。それが宮本被告だった可能性が高い。翌2日の早朝、私の携帯電話には稲田さんから御礼のメッセージが届いていた。《昨日終わってから梅田に飲みに行ってました。ダメダメですね》 被告には「もう休みます」とメッセージを送る一方で、彼女自身は梅田に足を伸ばしていたということが分かる。また、スマートフォンに被告からの連絡が絶え間なく届いている間でも、店では気丈に振る舞い、御礼の連絡を忘れないところにも彼女の人柄が表れている。事件の直前から、文面が「まゆさん」から「まゆ」に 稲田さんは宮本被告のLINE連絡を近しい知人には相談していたが、警察に相談することは考えなかったのだろうか。9月16日の初公判で、検察は稲田さんと交際していた男性の供述調書を読み上げた。「『まあ(稲田さんに対する呼称)』に言い寄ってくる男は他にもいたと思います。でもまあは、お客さんからどんな無茶な話を振られても、怒ったりせず、多少もめても、話し合って解決しようとする優しい子でした」 事件が起こった2021年6月に入ると、宮本被告と稲田さんのLINEのやりとりには、大きな変化がある。かねてより「まゆさん」と呼んでいた被告の稲田さんに対する呼称が「まゆ」と呼び捨てになっているのだ。 6月7日のLINEである。被告 まゆにはかなわないな。ほんと魔法使いだね。(中略)まゆの声聞けてぐっすり眠れそうです。ありがとうね。 事件の4日前となるこの日、稲田さんと被告は新大阪の居酒屋で食事をしている。本来ならふたりで食事することすら忌避していたが、6月2日が被告の誕生日であったためにどうしても同席せざるを得なかったのだ。ふたりきりになる状況を避けるべく、稲田さんは個室ではなく、カウンターの向こうに居酒屋の店主が立つ店をわざわざ選んだと交際相手は証言している。 被告の誕生日を祝うこの席で、稲田さんは宮本被告に対してこう告げたという。「もう店には来ないでいただけますか」と–。《大阪カラオケパブ刺殺事件》「もう店には来ないでいただけますか」に対して「まゆの声聞けてぐっすり眠れそうです」とLINEを送信 事件4日前、宮本被告(57)の異様な“噛み合わなさ” へ続く(柳川 悠二/Webオリジナル(特集班))
(5回の不在着信)
被告 まだ既読にならないね。どういうこと。
被告 地声で説明して!
(3回の不在着信)
被告 説明義務はあるよ。
(2回の不在着信)
稲田さん いっぱい掛かってきて怖いんですが、何が聞きたいんですか?
被告 電話出て。
(1回の不在着信)
稲田さん 今日はもう終わって今から休みます。こんな電話が続いてよく分からないのですが、疲れているので電話はごめんなさい。
被告 電話でないのがわるいのに、これも、人のせいにするの?
(日付が3月2日になり、6 回の不在着信のあと)
被告 日が変わったけど、朝も昼も時間があればかけるよ。よろしくね
その後も宮本被告からの一方的なメッセージは続き、稲田さんがメッセージを送ったのはしばらく時間が経った2日の14時22分だ。
稲田さん ひろしさんからの電話は出たくなかったのですよ。とても迷惑だったので今後は1回電話して出なかったら、何度もかけるのやめてください。迷惑だと思ったら普通に無視します。お仕事行ってきます。
被告 ありがとね。ただ1回では取り損ねもあるでしょうから、連絡は2回までにします。
1月の段階では自らを「ゴミ」と卑下して、稲田さんのつれない反応に不満をぶつけていた被告だが、3月になると言葉に非難の色が濃くなり、攻撃性を強めていった印象だ。稲田さんも冷静に言葉を選びながら、態度と行動を改めるように求めている。しかし心労の程は察せられる。
被告との間でこのやりとりがあった3月1日に、私も「ごまちゃん」を訪れていた。私と稲田さんとのLINEのやりとりを見返していて判明したことだが、ごまちゃんに到着したとき、既に先客がいた記憶は確かにある。それが宮本被告だった可能性が高い。翌2日の早朝、私の携帯電話には稲田さんから御礼のメッセージが届いていた。
《昨日終わってから梅田に飲みに行ってました。ダメダメですね》
被告には「もう休みます」とメッセージを送る一方で、彼女自身は梅田に足を伸ばしていたということが分かる。また、スマートフォンに被告からの連絡が絶え間なく届いている間でも、店では気丈に振る舞い、御礼の連絡を忘れないところにも彼女の人柄が表れている。
事件の直前から、文面が「まゆさん」から「まゆ」に 稲田さんは宮本被告のLINE連絡を近しい知人には相談していたが、警察に相談することは考えなかったのだろうか。9月16日の初公判で、検察は稲田さんと交際していた男性の供述調書を読み上げた。「『まあ(稲田さんに対する呼称)』に言い寄ってくる男は他にもいたと思います。でもまあは、お客さんからどんな無茶な話を振られても、怒ったりせず、多少もめても、話し合って解決しようとする優しい子でした」 事件が起こった2021年6月に入ると、宮本被告と稲田さんのLINEのやりとりには、大きな変化がある。かねてより「まゆさん」と呼んでいた被告の稲田さんに対する呼称が「まゆ」と呼び捨てになっているのだ。 6月7日のLINEである。被告 まゆにはかなわないな。ほんと魔法使いだね。(中略)まゆの声聞けてぐっすり眠れそうです。ありがとうね。 事件の4日前となるこの日、稲田さんと被告は新大阪の居酒屋で食事をしている。本来ならふたりで食事することすら忌避していたが、6月2日が被告の誕生日であったためにどうしても同席せざるを得なかったのだ。ふたりきりになる状況を避けるべく、稲田さんは個室ではなく、カウンターの向こうに居酒屋の店主が立つ店をわざわざ選んだと交際相手は証言している。 被告の誕生日を祝うこの席で、稲田さんは宮本被告に対してこう告げたという。「もう店には来ないでいただけますか」と–。《大阪カラオケパブ刺殺事件》「もう店には来ないでいただけますか」に対して「まゆの声聞けてぐっすり眠れそうです」とLINEを送信 事件4日前、宮本被告(57)の異様な“噛み合わなさ” へ続く(柳川 悠二/Webオリジナル(特集班))
稲田さんは宮本被告のLINE連絡を近しい知人には相談していたが、警察に相談することは考えなかったのだろうか。9月16日の初公判で、検察は稲田さんと交際していた男性の供述調書を読み上げた。
「『まあ(稲田さんに対する呼称)』に言い寄ってくる男は他にもいたと思います。でもまあは、お客さんからどんな無茶な話を振られても、怒ったりせず、多少もめても、話し合って解決しようとする優しい子でした」
事件が起こった2021年6月に入ると、宮本被告と稲田さんのLINEのやりとりには、大きな変化がある。かねてより「まゆさん」と呼んでいた被告の稲田さんに対する呼称が「まゆ」と呼び捨てになっているのだ。
6月7日のLINEである。被告 まゆにはかなわないな。ほんと魔法使いだね。(中略)まゆの声聞けてぐっすり眠れそうです。ありがとうね。 事件の4日前となるこの日、稲田さんと被告は新大阪の居酒屋で食事をしている。本来ならふたりで食事することすら忌避していたが、6月2日が被告の誕生日であったためにどうしても同席せざるを得なかったのだ。ふたりきりになる状況を避けるべく、稲田さんは個室ではなく、カウンターの向こうに居酒屋の店主が立つ店をわざわざ選んだと交際相手は証言している。 被告の誕生日を祝うこの席で、稲田さんは宮本被告に対してこう告げたという。「もう店には来ないでいただけますか」と–。《大阪カラオケパブ刺殺事件》「もう店には来ないでいただけますか」に対して「まゆの声聞けてぐっすり眠れそうです」とLINEを送信 事件4日前、宮本被告(57)の異様な“噛み合わなさ” へ続く(柳川 悠二/Webオリジナル(特集班))
6月7日のLINEである。
被告 まゆにはかなわないな。ほんと魔法使いだね。(中略)まゆの声聞けてぐっすり眠れそうです。ありがとうね。
事件の4日前となるこの日、稲田さんと被告は新大阪の居酒屋で食事をしている。本来ならふたりで食事することすら忌避していたが、6月2日が被告の誕生日であったためにどうしても同席せざるを得なかったのだ。ふたりきりになる状況を避けるべく、稲田さんは個室ではなく、カウンターの向こうに居酒屋の店主が立つ店をわざわざ選んだと交際相手は証言している。
被告の誕生日を祝うこの席で、稲田さんは宮本被告に対してこう告げたという。
「もう店には来ないでいただけますか」と–。
《大阪カラオケパブ刺殺事件》「もう店には来ないでいただけますか」に対して「まゆの声聞けてぐっすり眠れそうです」とLINEを送信 事件4日前、宮本被告(57)の異様な“噛み合わなさ” へ続く
(柳川 悠二/Webオリジナル(特集班))