近年、TwitterなどのSNSでは「ホス狂い」という言葉を目にする機会が増えた。ホストに狂っている、ハマっている女性のことだが、“担当”(指名しているホスト)への愛や憎しみだけではなく、なかにはそれをアイデンティティとして“誇示”するようなアカウントまで見られる。
風俗で働くなどしてホストに大金を貢ぐ女性は古くから存在していたが、どこか様子が変わってきている。今回は、『ホス狂い』(鉄人社)の著者である大泉りかさんに、彼女たちの実態を語ってもらった。(記事は前後編の前編) ◆現代のホストにハマる女性“ホス狂い”とは何なのか? –官能小説や女性向けポルノノベル、女性の生き方をテーマにしたエッセイなどを中心に活躍する大泉さんですが、今回が初のルポルタージュとのことで。執筆の経緯や企画意図から教えてください。
大泉:最初の動機としては、鉄人社の編集者からオファーがあって。テレビで金持ち自慢をするホストを見て「これってぜんぶ女の子から搾取したカネじゃん?」と思ったらしく、そのあたりの構造について取材してほしいと。
–世間では、ホス狂い=ホストに人生を狂わされた被害者という取り上げ方が多い印象です。
大泉:ただ、私の中では“女性が搾取されている”というストーリーに違和感がありました。ホストに貢ぐ彼女たちのお金が風俗やパパ活で稼いだものだとしたら、弱肉強食のピラミッドとしては、その下におじさんたちがいるわけで。そんなに単純ではないだろうと思いました。
また、平成の第二次ホストブームでは、強引にお金を使わせるオラオラ系ホストが多かったと思いますが、現代のニコニコしたカワイイ系の大学生みたいな雰囲気のホストが、そんなに悪魔的なことをしているのかな? という素朴な疑問もあって。もちろん、本当に女の子を潰す気で貢がせるホストもいるのでしょうけど、もっと緩い雰囲気を感じていたんです。
◆「24時間コミットしてもらう」ホストとホス狂いの“共依存”関係
–そもそも今のホス狂いと呼ばれる女の子たちのホスト遊びとは何かを理解することが難しい気がします。
大泉:ホストクラブに飲みに行くこと=ホスト遊びというのが一般的な認識だと思います。でも、それだけじゃなくて。“担当”という自分が指名するホストに、メンタルをケアしてもらい、彼氏のような役割を担ってもらうことが、ホス狂いのホスト遊びなんです。
ホス狂いのホスト遊びは夜の街では完結せず、プライベートも含めたすべての面でコミットしてもらう。当然、ホストも大金を入れてくれる太い客にはしがみつきたいので、“共依存”の関係ができあがります。
–疑似恋愛ビジネスは様々ありますが、公私の境界線が曖昧なところが、近年のホスト遊びの大きな特徴なんですね。
大泉:お金さえ払えば、ホストはLINEや電話で24時間連絡できる。普通の男性よりも自分に尽くしてくれる可能性が高い。もっともホストもそこまでプロではなく、どんなにお金を払っても他の子が優先されてしまう場合もあります。そうなると余計にメンタルが荒れてしまい、さらにホストが必要になって……悪循環に陥ってしまうことも。
◆「担当に使うという目的があるからこそ働ける/働く気が起こる」 –SNSなどを見ると、ホス狂いを自認しているアカウントも多いですね。
大泉:“どれだけホス狂っているのか”が彼女たちのアイデンティティでもある。歌舞伎町などの歓楽街で名を上げたり、一目置かれたりする方法のひとつにもなっていますが、風俗の仕事にせよ、誰でも大金を稼げるほど甘くはないので、“選ばれし者”しかホス狂えないんです。

–本書には、収入をホストクラブに全振りする保育士のホス狂いも出てきますよね。そこまでしなくてもいいじゃないかと思ってしまいますが、なぜホストのためにそこまで頑張れるんでしょうか。
大泉:取材をするなかで「担当に使うという目的があるからこそ働ける/働く気が起こる」という女性が多かった。そうした使い道がないと、最低限の生活のための仕事すら頑張れない人もいる。彼女たちは何かひとつだけに依存しがちで、ホス狂いに費やすために仕事を忙しくして、余計に人間関係なども希薄になって極端になるのかなと。
◆ホス狂いへの入り口
–ふつうの会社員の女性がホストにハマるきっかけとしてはなんでしょうか。
大泉:マッチングアプリは多いです。ごはんやデートの流れで、“先輩のバースデーイベント”とかを口実に「タダでもいいから」ってホストクラブに誘う、というような手口です。
–タダならば行ってみたいと思う女性もいるかもしれないですね。
大泉:ホストクラブの話をすると、行ったことのない女性からは「どんな場所なの!?」と興味津々の反応が返ってくることが多いです。敷居が高かったり「怖い」というイメージで足を運べないでいる女性は多いですが、基本的には、非日常な空間を「覗いてみたい」という気持ちを持っている。わたし自身も先日、ホス狂いの女性に「店内に滝が流れているホストクラブがあるけど、一緒に初回に行かないか」と誘われて、面白そうだと思い、自腹で行ってきました。ホストクラブで浴びるマイナスイオンって、どんな感じなの!? って思って(笑)。
ともあれ、ホス狂いの子もたいてい「初回はつまらなかった」と言うんですが、あるときに“担当”と出会ってハマるみたいで。初回料金の2000円、3000円で「たまにはホストで飲むか」って感じの子はホス狂い予備軍と言えます。
◆バンギャや男性アイドルの追っかけから… –ほかにもホストにハマりやすい人の特徴などはありますか?
大泉:とくにバンギャや男性アイドルの追っかけをしていた女性は、頑張って稼いでイケメンにお金を払う土壌ができあがっているので、ホストにもスライドしやすいです。
追っかけ資金のために風俗をやっている子も多いし、全国各地すべてのライブに付いて行く“全通”(ぜんつう)みたいな推し方は、ホス狂いに通じるものがあります。メン地下(メンズ地下アイドル)も、実際に会えてしゃべれるし、SNSでも繋がれるというのがあって。その距離感はホストも一緒です。
–メンズ地下アイドルの現場は、ハグや壁ドンがあるなど“前戯物販”と呼ばれるぐらいに距離感が近いと言われていますよね。
大泉:メン地下の現場がコロナ禍で“推し”と接触できずにつまらなくなって、ホストにスライドしたという子もいました。ホストに比べれば、アイドルは基本的には現場メインの関係で、プライベートにはあまり侵食してこないと思うのですが、ホストはなまじ相手にしてくれるぶん、深みにハマりやすい気がします。
–そこはわりと男性的な感覚というか……。キャバクラに通うおじさんが大金を使う理由として、どこかで肉体的な関係も求めていると思いますので。
大泉:ホストクラブに行く子は、初回で“枕狙い”も多いと聞きます。肉体関係を得るために、キャバクラが「先払い」だとすれば、ホストクラブは「後払い」で貢ぐことになりますけど……。
<取材・文/伊藤綾、撮影/藤井厚年>