〈地上げ屋を直撃〉「交渉は本当に神経を使う。その割に見返りがね…」大型ディスプレイに囲まれた事務所の一室で関係者が明かした“本音”とは から続く
「ソーラーや風力発電は、クリーンエネルギーですから」「温暖化防止のために、何としても進めなければなりません」……。そんな美辞麗句の裏で、外国資本による再生可能エネルギー名目の土地買収が日本各地で起こっている。外資に購入された国土は果たして今後どのようになっていくのか。
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ここでは、外国資本の国土買収を追いかけて15年になる平野秀樹氏の著書『サイレント国土買収 再エネ礼賛の罠』(角川新書)の一部を抜粋。実際に日本で起っている国土買収の実情を紹介していく。(全2回の2回目/前編を読む)
◆◆◆
2022年9月、北関東の田園風景の中、農道を走っていると青空に映える看板が所々に立っている。青地に白の文字で目立つデザインだ。
茨城県阿見町。広がる田園地帯に複数の野立看板が設置されている(写真の一部を修正しています)撮影=筆者
「畑・田買取ります」
「連絡をおまちしております」
茨城県内にある会社名と代表社員名、携帯電話の番号のほかに収穫物のカラー写真、大型機械の作業風景も添えられている。トラクター、田植え機、コンバインを使っているようだ。
「私たちの会社はA合同会社と呼びます。みんなで手を組み前進していくファームを目指して会社を立ち上げました」
「阿見町(あみまち)を拠点に畑と田をつくる以外、牛久(うしく) 、龍ヶ崎(りゅうがさき)、土浦、かすみがうらにも圃場(ほじょう)があります」
「会社の目標は(1)無農薬の安心安全な作物栽培 (2)自給率向上のため、国内販売に専念 (3) 荒地の有効利用で、荒地を減らす」
看板にはそう書かれており、有機農業を目指している、とある。
調べてみると、A合同会社(日本法人)は20年6月に設立され、活動をはじめている。農作業に従事しているのは、若い外国人と思われる人たちで、近所の人によれば阿見町の事務所から白い中型バスに乗って現場に通っているという。現在、白菜、ネギ、小麦、サツマイモなどを栽培している。
同社が所有する農地と借受けた農地は合計9ヘクタール(22年4月現在/1ヘクタール=100m×100m)を超えているが、農地を広げるべく、借り上げと買収の要望を多数の近郊自治体に出しているもようだ。要望の合計は今の20倍以上の面積になる。
「農業機械などは自己資金で購入している。資金は豊富みたいですね」
地元の農業関係者は私の取材にそう教えてくれた。
複数の大型機械の購入、事務所の購入、ガラス温室付きの農地の買収などを合計すると、軽く「億」は超えるとみられる。合同会社だから、すべての出資者(スポンサー)が公表されることはない。
看板の近くに住む女性に聞いてみたら、こう話してくれた。
「ここらはもう(農業)やる人いないっぺよ。んだから買う人いたら売るんでねーの」
「あの青い看板は中国。3年前からあるよ」
「土浦で断られたからここに来たらしいよ。(買収の)お金を出してるのは、大阪の人だっていう話だよ」
調べてみると、外国人農業作業者の拠点は、阿見町に来る前には土浦市にあったようで、大企業の研修所用に使われていた堅固なビルを外国人3人が共有で取得したという。18年のことで、物件の評価額は数億円。その場所に20~30人の労働者が暮らし、農作業に従事していたという。
そうこうしているうち、「当地で農地を借りて野菜を作りたい」「自分たちで農業を始めたい」という外国人が現れるようになり、複数の自治体、農業委員会での相談が始まった。
当初は、農業経験などの面で不安視され、借受希望は実現しなかったが、自治体ごとに対応が分かれた。
「農地法第3条(*1)の許可要件 をクリアすれば不許可にする理由がないので、許可せざるを得ない」
*1 農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。
農地売買を認めた自治体(農業委員会)は、苦慮している。
現時点で、茨城県内に住む外国人や外国法人(外資系法人含む)による農地の買収・借受は公表されていないが、ほぼ全域に及んでいる。
茨城県の農地率は29.0%で全国一だが、北関東の農村地帯は思いのほか過疎が進んでいて、手放す世帯が増えている。この傾向は、優良農地を抱える首都圏の他県でも同じだ。
不安視する農業関係者が小さな声でいう。
「ここでこのスキーム(仕組み)が成功したら、全国展開していくのでは?」
郊外の過疎化なら、首都圏の他の地区、千葉県、埼玉県……にも共通してある。同様の外資買収はすでにかなり進んでいると見た方がよい。
おそらく、北海道を除けば全国一広い一団の森林が外資系に買収された事例が、都城市安久町(やすひさちょう)。
その広さ717ヘクタール(東京ドーム約155個分)。スギのまだ若い人工林が2~3割交じった林業的には普通の山だ。一体何に使うのだろう。「現地はそのままですよ。ここ5年以上何も変わっていない」「標高が高くて、見晴らしがいいというわけでもないし……。林業以外に使い道はあるんでしょうか」 地元林業関係者も首をひねる。700ヘクタールという数字の大きさだけが魅力なのか。それとも何か別の用途でもあるのだろうか。 もしここを開発してソーラー発電所にしようとしたら、これまで得た林業補助金を返還しなければならない。植林、下刈り、除伐、間伐のときに、支払われた国・県からの林業補助金が何千万円も投入されているからだ。 そんなことまでしてソーラーにする者はいまい。10年前の買取価格(FIT制度)ならまだしも、当時と比べて4分の1になってしまった今の買取価格でソーラーをはじめる者がいたなら、時代を読み違えている。 それに現地は平へい坦たんではない。見たところ急峻な箇所がかなり交じっている山だ。しかも幹線道路は一本入っているだけで、路網が整っているわけでもない。開発には不向きだ。 林業を続けるとしても、今のスギの木はまだ若くて細い。50~60年生の木とするまでは、あと30年もかかるから、結局、寝かせておくしか手はないだろう。中国系資本による土地の転売が相次ぐ 私が一つ心配していることがある。 南西諸島周辺の防衛対応力を高めるために、最新鋭ステルス戦闘機のF35Bが、当地の北東方向40kmの航空自衛隊新田原(にゅうたばる)基地(宮崎県新富町)に24年配備される予定なのだ。 そんな立地の用途がよくわからない広大な山林が、保有目的も不明なまま中国系資本の所有になっている。当地の転売はつづいていて、14年、15年、21年と所有者は変わっているが、いずれも外資系と見られる法人同士(福岡市)による転売である。 当該地は宮崎県の水源地保全条例の対象エリア内なので、林地売買に際しては事前届出が必要であるが、事前には、届け出がなされていなかったようだ。(平野 秀樹/Webオリジナル(外部転載))
その広さ717ヘクタール(東京ドーム約155個分)。スギのまだ若い人工林が2~3割交じった林業的には普通の山だ。一体何に使うのだろう。
「現地はそのままですよ。ここ5年以上何も変わっていない」
「標高が高くて、見晴らしがいいというわけでもないし……。林業以外に使い道はあるんでしょうか」
地元林業関係者も首をひねる。700ヘクタールという数字の大きさだけが魅力なのか。それとも何か別の用途でもあるのだろうか。
もしここを開発してソーラー発電所にしようとしたら、これまで得た林業補助金を返還しなければならない。植林、下刈り、除伐、間伐のときに、支払われた国・県からの林業補助金が何千万円も投入されているからだ。
そんなことまでしてソーラーにする者はいまい。10年前の買取価格(FIT制度)ならまだしも、当時と比べて4分の1になってしまった今の買取価格でソーラーをはじめる者がいたなら、時代を読み違えている。
それに現地は平へい坦たんではない。見たところ急峻な箇所がかなり交じっている山だ。しかも幹線道路は一本入っているだけで、路網が整っているわけでもない。開発には不向きだ。
林業を続けるとしても、今のスギの木はまだ若くて細い。50~60年生の木とするまでは、あと30年もかかるから、結局、寝かせておくしか手はないだろう。
私が一つ心配していることがある。
南西諸島周辺の防衛対応力を高めるために、最新鋭ステルス戦闘機のF35Bが、当地の北東方向40kmの航空自衛隊新田原(にゅうたばる)基地(宮崎県新富町)に24年配備される予定なのだ。
そんな立地の用途がよくわからない広大な山林が、保有目的も不明なまま中国系資本の所有になっている。当地の転売はつづいていて、14年、15年、21年と所有者は変わっているが、いずれも外資系と見られる法人同士(福岡市)による転売である。
当該地は宮崎県の水源地保全条例の対象エリア内なので、林地売買に際しては事前届出が必要であるが、事前には、届け出がなされていなかったようだ。
(平野 秀樹/Webオリジナル(外部転載))