客による迷惑行為が世間を騒がせている。ひとりひとりが節度ある行動を心がけることで、そういった場面を減らすことができるかもしれないが、回避できない事態もある。今回は、理不尽な思いを吐露できずに仕事を辞めてしまった今田吾郎さん(仮名・28歳)に話を聞いた。◆想像以上にハードだった職場
「高校卒業後に入社した会社が潰れてしまい、失業保険をもらい終わったあとも仕事が見つからず困っていました。そんなとき、家から少し離れたスーパーが短期アルバイトを募集していたので応募し、半年ほど働くことになったのです」
その期間に新しい職場をみつけるつもりだったが、ずっとデスクワークだったカラダには、繁忙期のスーパーは想像以上にハードだったとか。また、覚えることも盛りだくさん。これでは本末転倒だと辞めることも考えた今田さん。
「でも同僚から、バイトから正社員になった人も結構いるという話を聞き、踏みとどまりました。スーパーは自宅からほどよい距離で融通も利きそうだったので、働くにはベストな環境。あわよくば僕も社員になれるかもしれないと頑張ることにしました」
◆半額などのシールを貼る手伝いに
今田さんは主に惣菜をパックに詰める仕事と掃除を担当していたが、人手が足りないときは半額などの割引シールを貼る手伝いをすることもあった。これが意外と難しく、心の折れる作業となる。
「割引シールは手動のような機械を使って貼っていくのですが、見た目とは違って意外と難しかったです。あと、半額シールを貼る前から商品をカゴに入れておいて、半額シールを貼りはじめたら『シール貼って』と近づいてくるお客さんに悩まされました」
勤めているスーパーのルールでは、“割引シールを貼る対象は、割引時間がきても売場に残っている商品のみ”。先輩たちからも、そのように指導される。そのため、「すみません、半額になる前にカゴに入れた商品は……」と、やんわり断らなければならない。
◆カゴを押し付けてきたオバさん客
「でも、素直に聞き入れてくれる人ばかりではありません。半額の時間がくると『それ、貼って』と、自分の買い物カゴに入れた商品を差し出してきて、当たり前のように言ってくる人も結構いました」
ある日、いつものようにシールを貼っていた今田さん。「シール貼って」と言いながらカゴを押し付けてきたオバさん客がいたため、何となくカゴを押し戻しながらやんわり断った。すると、「はぁ? いつもは貼ってくれるのに!」と言い、舌打ちされてしまう。
「そしてそのまま、近くにいた別のスタッフに襲いかかる勢いで文句を言いに行ったのです。それは、僕に割引シールの貼り方やルールを教えてくれた先輩スタッフでした。僕は、先輩スタッフがしっかりと咎めてくれることを期待していました」
◆「1人何個まで」を何度も買いに来るお客も
けれど、しばらくオバさん客に絡まれていた先輩スタッフは、今田さんが持っていた半額シールの機械をスッと手に取ると、「今回だけですよ~」と言ったのだ。そして、そのオバさん客を見送ると不機嫌そうに今田さんを見たという。
「『臨機応変に対応しろ』と怒られました。『あのオバさん、ギャーギャー騒ぐから鬱陶しいんだよ。それぐらい、空気で察しろ』とも言われ、理不尽に感じました」
さらに、多くのスタッフが先輩と同じような対応をしていることにも気づいてしまう。おとなしそうな客には注意するのに、面倒臭そうな客の要望は受け入れる…ますますやるせない気持ちになっていった。
「ほかにも、バレていないと思っているのか、1人何個までと決まっている商品を何度も買いに来るお客さんも多かったです。でも、同じように、面倒臭そうなお客さんには注意をしないんです」
◆正社員になることは諦めて今は…
迷惑客の行動に対して嫌な気持ちになったのはもちろん、先輩スタッフたちの対応に理不尽さを感じてしまった今田さん。スーパーの正社員になることは諦め、いまは派遣社員として働きながら就職先を探しているとのこと。
「短期のアルバイトだったこともあり期間満了まで働いて辞めてしまいましたが、いまでも思い出して理不尽に思うこともあります。節度のないお客さんの行動を見て、それがOKな行動だと思い込むお客さんもいて悪循環。スーパー側の対策も必要だと思いました」
最近では、“買い物カゴに入っている商品については、割引シールを貼らない”といった内容の貼り紙を掲示するスーパーも見かけるようになった。店内の注意事項を確認するのはもちろん、お店の方々に迷惑をかけないよう節度ある行動を心がけたいものだ。
<取材・文/山内良子>