「私は地獄へ落ちるべき人間です」このように述べて法廷で頭を下げたのは「ウマ娘」や「アイドルマスター」など、人気ゲームやアニメの作曲を手がけた田中秀和被告(35)。傍聴席が毎回抽選になるなど、注目を集めた田中被告の裁判を振り返っていきたい。
初公判が行われたのは3月15日。紺のスーツで出廷し傍聴席に一礼をした田中被告。裁判官から職業を問われると「作曲家です」と答えた。その後検察官が読み上げた起訴状の内容は大きく分けると以下の通りだ。
У酣8月、都内の駐車場内において当時15歳の少女(以下Aさん)に対し、「お金をあげるからしてくれない」などと卑猥な言葉をかけた罪
◆У酣9月から10月までの間、都内や神奈川県の駅構内で合計11回女性のスカートの中を携帯電話で盗撮した罪
:去年9月、JR有楽町駅から東京駅までの走行中の電車内で自らの下半身を露出した罪
警視庁が発表していたのは,了件のみ。↓は報道されておらず、裁判で多くの余罪が明らかになった形だ。証言台の前に立った田中被告は、「間違いありません」と全ての起訴内容を認めた。
その後の冒頭陳述で検察は,了件について、「外出先から帰宅するために利用した駅で、Aさんを見つけ、好みの女性だったことなどから性的興奮を覚えた。その後、Aさんと同じ電車に乗り、Aさんが電車を降りるとその後をついていった」と述べた。
また、盗撮については「10年ほど前から、短いスカートをはいた女性や自分の好みのタイプの女性に対して盗撮を行うようになった」と指摘したのである。
では、なぜ田中被告は、これら、わいせつ・破廉恥な行為に及んだのか。その動機は、被告人質問で明らかになった。
弁護人:どうしてAさんに声をかけた?田中被告:Aさんの顔や雰囲気が好みで、足を露出していたので声をかけたいと思った弁護人:そういったことがあれば女性に声をかけてきた?田中被告:いいえ弁護人:どうしてこの時は声をかけた?田中被告:会社から独立して1年が経過し、無理をしてキャパシティ以上の仕事をしていた。ストレスが大きくたまっていた。
「仕事のストレスが動機」と語った田中被告。さらに盗撮や露出については「見つかるか見つからないかというスリルを感じて、日々のうっぷんやストレスを晴らすためにやっていた。バレなきゃいいと考えていた。」とも語った。
その後「治療を最優先に行う」「私は決して許されない」「今後二度と同じことはしない」などと、反省の言葉を口にした田中被告。こうした言葉を被害者はどう受け止めたのか。
4月28日の第2回公判では、まず被害者であるAさんの意見陳述が行われた。証言台と傍聴席の間には遮蔽板が設けられていてAさんの様子はわからなかったが、声はとてもはっきり聞こえた。
事件が起きた日は、友達と花火大会に出かけていたというAさん。帰宅途中で、帰りが遅くなることが許される年に1、2回しかない特別な日だったという。そんな楽しい思い出を壊された上、田中被告が逮捕された後も”地獄”が続いたとのこと。
Aさん:逮捕後には、事件がトレンド入りして、SNSへの書き込みが相次いだ。「パパ活」「ハニートラップ」「自分が有名人にセクハラしてもらえるほど価値があると本気で思ってる?」など数多くの誹謗中傷を浴びた。被害者が悪いかのような言葉は15歳の私にはつらかった。
事件後もネット上での誹謗中傷に苦しんだAさん。学校にも行けなくなったほか、男性と話すのも怖くなり、「私は何もしていないのにどうしてこんな思いをしないといけないのか」と思い詰め、精神的に不安定な日々が続いたという。
また、被害者Aさんは、今回の意見陳述の内容を考えている時に、事件の記憶が蘇りつらかったとも語った。それでも法廷の場に出てきたのは「本当のことは裁判でしか言えない。絶対に言いたいことを言ってやろう」と思ったからだという。
そして、余罪が多くあった田中被告が「二度と同じことはしない」と誓ったことに対しては次のように語った。
Aさん:「二度としない」と法廷で言うことは本当に意味があるのか。いい年した大人が「二度としない」って大人の茶番を見せられているように思った。
一方で、「とてもつらいはずなのに、多くの罪を犯した息子を見捨てていないお母さまへの感謝を絶対に心から忘れないで欲しい」と田中被告の母親を気遣う場面も見られた。そして最後に「償い終わっても田中被告を許すつもりはない。一生恨みます」と述べて意見陳述を終えたのである。
論告で、検察は「被害者に強い恐怖感、嫌悪感等を抱かせる悪質な犯行」として懲役1年6カ月を求刑、弁護側は罰金刑を求めた。
そして田中被告が最後に「私がしたことはどのような罰でも許されるものではなく、私は地獄へ落ちるべき人間です」と述べて、裁判は結審した。
5月12日に行われた判決公判。東京地裁は田中被告に懲役1年6カ月、執行猶予3年の判決を言い渡した。判決理由として「自己の性的欲求や性的好奇心を満たすため、約2カ月の間に犯行を重ねたものであり、犯行動機に酌量の余地はない」「盗撮についてはわずか1カ月間に11回もの盗撮行為を繰り返し、常習性は顕著である」と指摘した。
一方で「通院治療を受けており、二度と再犯しないと誓約していること」などを考慮し、執行猶予付きの判決にしたという。
判決理由を言い終えた裁判官は次のように説諭を行った。
裁判官:今回は執行猶予判決だが、決して軽く見ないで罪の重さを真摯に受け止めてください。裁判ではAさんの意見陳述が行われたが、そこで述べられた言葉の重みを忘れないでほしい。事件が終わっても被害者の中では続いている。被害者も『一生忘れないで』と言っていたがその通りだと思う。心に刻んで二度と罪を犯さないでください。被害者のことを忘れないでください。
説諭を聞き「はい」と答えた田中被告。Aさんが言っていたように「二度としない」と誓った裁判が茶番にならないよう願っている。
(フジテレビ社会部・司法クラブ 高沢一輝)