いつまで続くかわからない物価高。生活が困窮する人も増えていますが、その代表が低賃金のケースが多い一人親世帯。統計データによると、日本の一人世帯の半分は貧困層に該当することがわかります。本記事では石井光太氏の著書『本当の貧困の話をしよう 未来を変える方程式』(文藝春秋)より、同氏が17歳の若者にもわかりやすく、日本の貧困の実態について語りかけます。
日本の貧困のあり方について考えてみよう。
世界的に見れば、日本は先進国だといわれている。アメリカ、中国に次ぐ、世界第3位の経済大国であり、市場には最先端のファッションや商品があふれ、都会ではどんな国の料理でも食べることができる。サービスも世界屈指だ。
その一方で、日本は「貧困大国」と呼ばれることもある。新聞やテレビでは、日本の貧困問題が取り上げられ、格差が大きな問題となっている。君の周りにだって貧困はあるよね。塾に行けずに進学をあきらめる子がいたり、親が病気をして働けずに生活保護を受けている子がいたりするはずだ。大学生の約半分が奨学金という名の借金を背負わなければ、大卒の肩書を身につけることができずにいる。経済大国でありながら、貧困大国であるというのは、どういうことなんだろう。
日本が経済大国とされる理由は、GDP(国内総生産)の数値がもとになっている。GDPとは、1年間の「民需+政府支出+貿易収支の総額」であり、日本はこれが世界で3番目に高いとされている。これが世界第3位の経済大国と呼ばれる理由だ。
他方、貧困大国であることについては、GDPではなく、「相対的貧困率」が根拠になっている。相対的貧困率というのは、日本のような先進国の貧困の割合を測る基準で、次のように算出される。
〈国民の等価可処分所得の中央値の半分未満〉具体的な金額でいえば、一人世帯で年間127万円未満で生活している人たちが貧困層ということになる。日本の相対的貧困の割合は、15.4パーセントなので、国民の6人に1人が貧困層ということになる(2018年統計)。
[図表]日本の相対的貧困率
こんなふうに貧困を定義するのは、国によって物価が違うためだ。途上国では5万円あれば十分に1カ月暮らすことができても、日本では屋根のあるところに寝泊まりして食べていくことは難しいよね。だからその国の物価などに照らし合わせて貧困ラインを決めることになる。
図表2を見てほしい。世界的に見ても、イスラエル、アメリカ、韓国、トルコなどについで10番目に高い数値だ。先進国にかぎれば、4番目ということになる。これこそが、日本が貧困大国と呼ばれるゆえんだ。
[図表2]OECD加盟国の相対的貧困率 *
*OECD (2019), Poverty rate (indicator).doi:10.1787/0fe1315d-en (Accessed on 01 July 2019)より作図。注:ハンガリー、ニュージーランドは2014年、アイスランド、デンマーク、スイス、アイルランド、日本、チリ、トルコは2015年、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、韓国、イスラエルは2017年、残りはすべて2016年の統計。
一人親世帯の「2世帯に1世帯」は貧困層日本では、どういう層が貧困層にあたるのだろう。一般的にいわれるリスク要因としては、「ひとり親」「非正規雇用」「低学歴」「病気」などだ。とくに一人親世帯の場合は、2世帯に1世帯が貧困層となっている。日本では、女性が一人で働きながら育児をしていく環境がまだ十分に整っていない。離婚した女性が幼い子供を一人で育てようとしても、きちんとした会社に正社員として再就職することが難しい。残業ができないとか、子育てで仕事を休みがちになると考えられて、敬遠されがちなんだ。会社の方も、そういう女性をバックアップしようとする意識やシステムがまだ足りていない。非正規シングルマザーの給与の実態そうなると、女性はパートや契約社員といった非正規雇用で働かざるをえない。非正規雇用の一番の問題は、給料の低さだ。下の図表3を見てほしい。正規雇用の平均年収は約495万円であるのに対して、非正規雇用は約176万円にしかならない。[図表3]雇用形態別、性別の平均年収図表4の年齢別の月収を比較すると、特に40~50代の格差が著しいことがわかる。しかも、図表5にあるように、女性の場合は年収200万円以下が全体の約4割で、100万円以下だけでも約15%にのぼる。[図表4]雇用形態、性、年齢階級別の月収比較[図表5]給与階級別の人数と構成比ちなみに、年収150万円で20年間働いたとして、稼げるお金は3000万円だ。世間では子供一人を成人まで育てるのに、2000万~3000万円かかるといわれていることを考えれば、非正規雇用の家庭の生活が成り立たないのは明らかだよね。貧困は「いけないこと」なのか?ここで一つ考えてもらいたいことがある。君たちは漠然と「貧困はいけない」と教えられてきた。収入が低ければ、生活を成り立たせるのは大変だ。でも、貧しくたって幸せな家庭を築いて、毎日を楽しくすごしている人たちだっている。じゃあ、貧困の何がいけないんだろう。認識を一歩深めるために、こんな質問を投げかけてみたい。今の日本で、貧困は何を生むのだろうか。ヒントを出せば、人の心の中に生まれるものだ。だんだんと大きくなっていって、その人を壊してしまうもの。答えを言おう。「自己否定感」だ。自己否定感を言い換えれば、「劣等感」「あきらめ」「自暴自棄」でもある。生きている価値を見出せずに、将来についてもどうでもよくなってしまうことだ。どうして貧困の中で、人は自己否定感をかかえてしまうのだろう。それを理解するには、日本の貧困のあり方について考えてみる必要がある。石井光太作家
日本では、どういう層が貧困層にあたるのだろう。一般的にいわれるリスク要因としては、「ひとり親」「非正規雇用」「低学歴」「病気」などだ。
とくに一人親世帯の場合は、2世帯に1世帯が貧困層となっている。日本では、女性が一人で働きながら育児をしていく環境がまだ十分に整っていない。離婚した女性が幼い子供を一人で育てようとしても、きちんとした会社に正社員として再就職することが難しい。残業ができないとか、子育てで仕事を休みがちになると考えられて、敬遠されがちなんだ。会社の方も、そういう女性をバックアップしようとする意識やシステムがまだ足りていない。
そうなると、女性はパートや契約社員といった非正規雇用で働かざるをえない。非正規雇用の一番の問題は、給料の低さだ。下の図表3を見てほしい。正規雇用の平均年収は約495万円であるのに対して、非正規雇用は約176万円にしかならない。
[図表3]雇用形態別、性別の平均年収
図表4の年齢別の月収を比較すると、特に40~50代の格差が著しいことがわかる。しかも、図表5にあるように、女性の場合は年収200万円以下が全体の約4割で、100万円以下だけでも約15%にのぼる。
[図表4]雇用形態、性、年齢階級別の月収比較
[図表5]給与階級別の人数と構成比
ちなみに、年収150万円で20年間働いたとして、稼げるお金は3000万円だ。世間では子供一人を成人まで育てるのに、2000万~3000万円かかるといわれていることを考えれば、非正規雇用の家庭の生活が成り立たないのは明らかだよね。
ここで一つ考えてもらいたいことがある。君たちは漠然と「貧困はいけない」と教えられてきた。収入が低ければ、生活を成り立たせるのは大変だ。でも、貧しくたって幸せな家庭を築いて、毎日を楽しくすごしている人たちだっている。じゃあ、貧困の何がいけないんだろう。認識を一歩深めるために、こんな質問を投げかけてみたい。今の日本で、貧困は何を生むのだろうか。ヒントを出せば、人の心の中に生まれるものだ。だんだんと大きくなっていって、その人を壊してしまうもの。答えを言おう。「自己否定感」だ。自己否定感を言い換えれば、「劣等感」「あきらめ」「自暴自棄」でもある。生きている価値を見出せずに、将来についてもどうでもよくなってしまうことだ。どうして貧困の中で、人は自己否定感をかかえてしまうのだろう。それを理解するには、日本の貧困のあり方について考えてみる必要がある。石井光太作家
ここで一つ考えてもらいたいことがある。君たちは漠然と「貧困はいけない」と教えられてきた。収入が低ければ、生活を成り立たせるのは大変だ。でも、貧しくたって幸せな家庭を築いて、毎日を楽しくすごしている人たちだっている。
じゃあ、貧困の何がいけないんだろう。
認識を一歩深めるために、こんな質問を投げかけてみたい。今の日本で、貧困は何を生むのだろうか。ヒントを出せば、人の心の中に生まれるものだ。だんだんと大きくなっていって、その人を壊してしまうもの。
答えを言おう。「自己否定感」だ。自己否定感を言い換えれば、「劣等感」「あきらめ」「自暴自棄」でもある。生きている価値を見出せずに、将来についてもどうでもよくなってしまうことだ。どうして貧困の中で、人は自己否定感をかかえてしまうのだろう。それを理解するには、日本の貧困のあり方について考えてみる必要がある。
石井光太
作家