大阪府議会は9月、議員の意識改革のため、長年慣例になっていた議員に対する「先生」という呼称を使わないことを決めた。
古くから政界で使われている呼称で、地方議員だけでなく国会議員にも根付いているが、「思い上がりを助長する」といった否定的意見もある。専門家はルール化されたことで府職員が気兼ねなく「先生」の呼称をやめられると評価し、全国に広がるか注目している。
勘違い防止が狙い
「府の職員はまだ慣れていないようだ。『先生』と呼ばれた直後に『あ、もう呼んじゃいけないんでしたね』といわれてお互いに苦笑した」。公明党のベテラン府議は、施策の説明に訪れた職員とのやり取りを、こう振り返った。
呼称の見直しは、若手議員や職員から「先生」と呼ばれると上下関係ができやすく、議員が「自分は特別な存在」と勘違いするのを防ぐ狙いがある。今年9月の議会運営委員会で議長と副議長が提案。1週間後の議運で、大阪維新の会、公明党、自民党の主要3会派が賛同した。
府議同士や、職員が議員を呼ぶ際、「先生」と呼ぶのが慣例になっていたが、現在は「議員」や「さん」、「議長」「幹事長」といった議会や会派の役職名を使う。府庁内のルールのため、地元の支援者が「先生」と呼ぶのは自由だ。
森和臣(かずとみ)議長(維新)は記者団に「対等な立場に近づくことにつながっていくのでは」と述べ、職員が「議員」や「さん」と呼びやすいように「議員サイドが努めていくことが大事」と強調した。
起源は明治時代の書生?
変更が決まった直後の維新の会合では、府議団幹部が「先生」「先生方」と連呼。なじみのある呼称だったといい、維新の中堅府議は「癖は抜けない。大ベテランを『議員』と呼ぶのは難しい」と本音を漏らす。ただ、だからこそ自発的に呼称を変えるのは困難だったといい、この府議は「ルール化はよかった。徐々に慣れるだろう」と語った。
また、自民府議も「議員は偉そうにするとの不信感を取り除くためには、必要な措置」と理解を示した。
議員を「先生」と呼ぶ慣習について、特定行政書士で選挙・政策アドバイザーの高井章博氏は「適切ではない。議員が有権者より立場が上であるかのような勘違いを助長する」と指摘する。「辞書では、『先生』は議員の敬称に使うことがあるとされるが、本来の用法ではない」という。
ではなぜ慣習となったのか。高井氏は「国会が始まった明治時代ごろは、現在の秘書にあたる書生が議員宅に住み込み、議員の指導を受けることもあった」と説明。政治を教えてくれる議員を「先生」と呼ぶようになり、次第に役人や市民に広まったとみる。
「大変」の声も若手は歓迎
府職員はどう受け止めているのだろうか。
50代の男性幹部職員は「先生は(名前が分からなくても)敬称として使えるので便利だった」と職員側の利点を挙げ、「来春の統一地方選以降は新人議員を含めてしっかりと顔と名前を覚え、『〇〇議員』と呼ぶ必要があるかもしれない。大変だ」と漏らした。
府庁内では「『先生』の方が呼びやすい」との声が目立つが、若手職員からは違った意見も。普段から上司を役職やさん付けで呼んでいるという20代の男性職員は、「議員だけ先生と呼ぶのは抵抗感があった」といい、ルール化を歓迎。「議員を『さん』と呼ぶことに抵抗はない」と語った。
今回の呼称の見直しについて、高井氏は「本来であれば議会で決めなくても、自然に先生と呼ばない空気になるのが望ましい」としつつも、先生と呼ばれないことで不快感を示す議員もいると指摘。ルール化によって「職員も気兼ねなく先生と呼ぶのをやめられる」と評価し、「規模が大きい大阪府議会で実施すれば影響力がある。全国に広がってほしい」と話した。(尾崎豪一、五十嵐一、北野裕子)