駅から南西に3分ほど歩くと、川沿いに建設中の巨大なビルが現れる。
約2000屬療效呂砲修咾立つ、’24年3月完成予定の高さ105mほど、30階建ての高級タワーマンションだ。JR五反田駅(東京都品川区)近くにあるこの場所は、かつて国内史上最大規模の詐欺事件が起きた現場だった――。
「現場には『海喜館(うみきかん)』という、大正時代から続く老舗旅館がありました。経営者が高齢で体調を崩して営業を止めたところ、土地の所有者を装う詐欺グループ『地面師』のターゲットに。
’17年4月、地面師たちは旅館の所有者になりすまして、大手住宅メーカー・積水ハウスに売却を持ち掛け約55億円を騙(だま)し取ります。逮捕された容疑者は15人を超えました。彼らは現在も服役中ですが、55億円はどこへ消えたのかはいまだにわかっていないんです」(全国紙社会部記者)
カネを取られた積水ハウスは、大和ハウスに次ぐ業界2位。巨大企業が巨額のカネを騙し取られたとあって、大きな衝撃を与えた。社内では内紛も起きる。
「’18年1月に当時の和田勇会長が事件の責任を巡って阿部俊則社長(当時)の解任動議を諮(はか)ったところ、逆に阿部氏から会長解任動議が出されて会社を追われる『クーデター』が発生したんです。阿部氏には、詐欺の損害額と同額を会社に支払うよう求めた株主代表訴訟も起こされています(’22年12月に大阪高裁で原告敗訴が決定)」(同前)
事件の発端となった海喜館は、騒動が収束した’20年1月に旭化成不動産レジデンスが正式な所有者から購入する。すぐに建物は解体され、’21年4月からタワーマンションの建設が始まった。物件の公式HPによると総戸数は213戸。部屋の広さは1ルーム(30.12屐砲ら3LDK(126.94屐砲泙任△蝓∈嚢皺然並咾鰐3億6000万円にのぼる。
地元の不動産業者によると、立地の良さから高価格になって当然だという。
「周辺に高級住宅街が広がり、交通アクセスも良い。駅近くにこれだけ広い土地が売り出されることは稀(まれ)で、不動産業者なら喉(のど)から手が出るほど欲しい案件でしょう。価格帯が1億円を超える部屋も多いようですが、条件を考えれば強気で売れると思います」
旭化成不動産レジデンスのグループ会社である旭化成ホームズに、土地を取得した経緯やタワーマンションの販売状況について尋ねると……。
「物件建設地の取得の経緯につきましては、本物件に限らず公開していません。また、個別住戸の物件販売価格や具体的な販売状況についても、公表をしていません」(広報室)
『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』(講談社)の著者で作家の森功氏が、事件の背景と本質を解説する。
「積水ハウスが騙されたのは、東京五輪前で不動産市況が盛り上がっていたことが影響しています。加えて、海喜館の買収が社長案件として現場が後戻りできない状況になっていたのが大きい。情報をいち早くキャッチして優位に取引をしたい不動産売買には、業者が騙されやすい素地があるんです。
騙し取った55億円は犯人たちで山分けにし、どこかに隠しているのでしょう。地面師事件は終戦直後からありますが、立件が難しいこともあり、被害届も受理されず闇に埋もれてしまうケースも少なくない。今後も同様の事件は起きる可能性があるんです」
地面師は、次のターゲットを狙っている。第二、第三の海喜館から再び巨額のカネが騙し取られる恐れはあるのだ。
『FRIDAY』2023年3月24日号より
取材・文:形山昌由ジャーナリスト