( イラスト 岡田航也)
相談相手は「お母さん」という若者が増えている。背景には、友達とは本音で話せない、相談はできないという若者の増加がある。なぜ友達に相談ができないのか? 特集「1億『総孤独』社会」では、あらゆる世代の孤独と孤立に迫った(一覧はこちら)。
みずほフィナンシャルグループの関連企業でシステムエンジニアとして働く浩さん(25歳、仮名)は、入社1年目で不眠やうつ状態に悩まされるようになり、抗うつ薬を服用し続けている。
浩さんが入社したのは新型コロナウイルスが流行し始めた2020年4月。その直後、みずほ銀行がメディアでも大きく報じられた「システム障害」を起こしたことで、浩さんは連日、朝7時から夜7時まで働き続けることとなった。
会社からは外食や人混みを避けるよう命じられ、社内の飲み会もいっさいない。昼食は段ボールで囲われた自席で独り食べた。一人暮らしのアパートと会社を往復する日々。そのうち夜も眠れなくなり、毎晩アルコール度数が高い「ストロングゼロ」を飲む習慣がついた。日中は強い眠気に襲われ、食事や趣味にも興味がなくなった。
「仕事はつらいけど、1年目の若手だから仕方がないと思った。ストレスを発散したくても、罪悪感があって外食や旅行には行けない。無気力で何をしても楽しくないという感じでした」と浩さん。現在は業務内容が変わり、体調は回復しつつあるが、もっと早く上司に相談できなかったのか。
「働き方について相談できる人はいませんでした。課長と話したのは、この2年で合計2時間くらいしかない。自分を評価する人がどういう人間なのかもわかりません」(浩さん)
社員同士の接触が減ったコロナ禍で入社した新人にとって難しいのが、社内コミュニケーションだ。
入社直後から在宅勤務を推奨された20代の女性は、「会社に行っても誰もいないから自宅で仕事をするようになった。それなのに上司からはもっと積極的にコミュニケーションを取るように言われ、孤独感がより増した」と嘆く。
出版社勤務の恵さん(24歳、仮名)は、「わからないことがあっても、距離感を覚える相手に気軽にチャットを送れない」と言う。上司や先輩への連絡はチャットやメールが中心だが、中には顔も見たことがない相手もいる。
「世代が違うから文章のニュアンスが伝わらなかったら嫌だなと。『!』を入れたほうがいいのか、『…』を使うべきか。そう悩んでいると返事に時間がかかるんです」
恵さんは近頃、友達への連絡も腰が重い。大学4年生のときにはオンライン授業になり、同級生と気軽に会えなくなった。友達とのLINEのやり取りも距離感がつかめず、遊ぶ約束をするにも、「仕事のアポ取りのような感覚になって気が重い」と言う。
そんな恵さんが何も考えずにLINEを返せる相手は、2歳上の姉くらいだ。
若手社員や大学生たちは、同僚や友達への過度な気遣いによって疲弊している。Z世代の20代の人間関係に共通する傾向はあるのだろうか。
早稲田大学の石田光規教授は、「安心できる人間関係を築きづらくなった結果、相談できる相手は家族という若者が増えている」と指摘する。
内閣府のデータを基に石田教授が作成した下図は、悩みや心配事の相談相手として母親または友達を選んだ若者の比率を表す。00年代半ばから、友達に相談する人が減り、母親に相談する人が増えていることがわかる。
「昔ならお母さんに相談するのはちょっと恥ずかしいという空気があったが、今はむしろ友達に相談するほうが難しい。それだけ若い人は安定した人間関係が築けず、友達と深い話ができなくなっている。大学生はけんかをしなくなったといわれるが、学生たちにその理由を聞くと、『修復する機会がなさそうだから怖くてできない』と言う」(石田教授)若者を対象とした意識調査によると、友達と「意見が合わないときは納得いくまで話し合う」と答えた人の比率が、02年は50%だったのに対し、14年には26%まで低下。一方で「お互い深入りしない」と回答した人の比率は上昇している。意見をぶつけず、深入りしない傾向は、コロナ禍で“友達離れ”も引き起こしている。関西の大学に通う女性(22歳)は、「相手に嫌な部分があっても本人には絶対に伝えません。遅刻ばかりする友達がいましたが、コロナでサークル活動がなくなったことを契機に、会わなくなりました」と話す。友達にも本音で話せないとなれば、会社の同僚はなおさらハードルが高いだろう。Z世代の人間関係は希薄化しているように見えるが、そう単純ではない。求める関係の理想が高い「希薄な関係を求めているわけではなく、『本音を言える関係が欲しい』『いつでも自分を受け入れてくれる場所が欲しい』と、求める関係の理想が高いんです」そう話すのは、教育機関に勤務する弦間沙羅さん(24歳)だ。同世代の友達から人間関係の悩み相談を受けることが多いため、卒業論文で複数の大学生に人間関係についてのヒアリング調査を行った。調査からは、「相手との関係を失う怖さから空気を読むことを最優先する一方で、何でも話せる関係性を求める傾向があることがわかった」(弦間さん)という。Z世代は対話の努力をしていないわけではない。冒頭の浩さんは「共通の話題を見つけて先輩に毎日話しかけるようにしていましたが、40歳以上や実務をしていない管理職は、話しかけようにも、とっかかりがない」と言う。過度な気遣いの裏で理想のつながりを求めるZ世代。深刻な悩みを抱える若者が放置されていないか。気軽に相談できる関係性を築くには、互いに一歩踏み込むしかない。(井艸 恵美 : 東洋経済 記者)
「昔ならお母さんに相談するのはちょっと恥ずかしいという空気があったが、今はむしろ友達に相談するほうが難しい。それだけ若い人は安定した人間関係が築けず、友達と深い話ができなくなっている。大学生はけんかをしなくなったといわれるが、学生たちにその理由を聞くと、『修復する機会がなさそうだから怖くてできない』と言う」(石田教授)
若者を対象とした意識調査によると、友達と「意見が合わないときは納得いくまで話し合う」と答えた人の比率が、02年は50%だったのに対し、14年には26%まで低下。一方で「お互い深入りしない」と回答した人の比率は上昇している。
意見をぶつけず、深入りしない傾向は、コロナ禍で“友達離れ”も引き起こしている。関西の大学に通う女性(22歳)は、「相手に嫌な部分があっても本人には絶対に伝えません。遅刻ばかりする友達がいましたが、コロナでサークル活動がなくなったことを契機に、会わなくなりました」と話す。友達にも本音で話せないとなれば、会社の同僚はなおさらハードルが高いだろう。Z世代の人間関係は希薄化しているように見えるが、そう単純ではない。求める関係の理想が高い「希薄な関係を求めているわけではなく、『本音を言える関係が欲しい』『いつでも自分を受け入れてくれる場所が欲しい』と、求める関係の理想が高いんです」そう話すのは、教育機関に勤務する弦間沙羅さん(24歳)だ。同世代の友達から人間関係の悩み相談を受けることが多いため、卒業論文で複数の大学生に人間関係についてのヒアリング調査を行った。調査からは、「相手との関係を失う怖さから空気を読むことを最優先する一方で、何でも話せる関係性を求める傾向があることがわかった」(弦間さん)という。Z世代は対話の努力をしていないわけではない。冒頭の浩さんは「共通の話題を見つけて先輩に毎日話しかけるようにしていましたが、40歳以上や実務をしていない管理職は、話しかけようにも、とっかかりがない」と言う。過度な気遣いの裏で理想のつながりを求めるZ世代。深刻な悩みを抱える若者が放置されていないか。気軽に相談できる関係性を築くには、互いに一歩踏み込むしかない。(井艸 恵美 : 東洋経済 記者)
意見をぶつけず、深入りしない傾向は、コロナ禍で“友達離れ”も引き起こしている。関西の大学に通う女性(22歳)は、「相手に嫌な部分があっても本人には絶対に伝えません。遅刻ばかりする友達がいましたが、コロナでサークル活動がなくなったことを契機に、会わなくなりました」と話す。
友達にも本音で話せないとなれば、会社の同僚はなおさらハードルが高いだろう。Z世代の人間関係は希薄化しているように見えるが、そう単純ではない。
「希薄な関係を求めているわけではなく、『本音を言える関係が欲しい』『いつでも自分を受け入れてくれる場所が欲しい』と、求める関係の理想が高いんです」
そう話すのは、教育機関に勤務する弦間沙羅さん(24歳)だ。同世代の友達から人間関係の悩み相談を受けることが多いため、卒業論文で複数の大学生に人間関係についてのヒアリング調査を行った。調査からは、「相手との関係を失う怖さから空気を読むことを最優先する一方で、何でも話せる関係性を求める傾向があることがわかった」(弦間さん)という。
Z世代は対話の努力をしていないわけではない。冒頭の浩さんは「共通の話題を見つけて先輩に毎日話しかけるようにしていましたが、40歳以上や実務をしていない管理職は、話しかけようにも、とっかかりがない」と言う。
過度な気遣いの裏で理想のつながりを求めるZ世代。深刻な悩みを抱える若者が放置されていないか。気軽に相談できる関係性を築くには、互いに一歩踏み込むしかない。
(井艸 恵美 : 東洋経済 記者)