安倍氏の国会追悼演説、野田氏に待望論 甘利氏に懸念

10月召集予定の臨時国会で実施が見込まれる安倍晋三元首相の追悼演説をめぐり、安倍氏の国葬(国葬儀)に参列を表明した立憲民主党の野田佳彦元首相の「待望論」が広がりつつある。
自民党は甘利明前幹事長が行う方針を崩していないが、岸田文雄内閣の支持率が続落するなか、党内に反発もある甘利氏をそのまま起用することに懸念も強まっている。
自民の高木毅国対委員長は22日、国会内で立憲民主党の安住淳国対委員長と会談し、臨時国会を10月3日に召集する日程を伝えた。会談では追悼演説も話題になり、安住氏は「慣例通りきちんと対応する」と語った。誰が行うかは、話題にならなかったという。
国会では、党首クラスの故人の追悼演説を行う際、対立政党の党首クラスが行う慣例がある。安住氏が「慣例」に言及したのは、自民が8月に短期間開かれた臨時国会で、一度は立民に追悼演説を任せない姿勢を示したからだ。
自民は当初、この国会で甘利氏が追悼演説を行う方向で調整した。白羽の矢を立てたのは、甘利氏が安倍氏と麻生太郎副総裁を交え「3A」と呼ばれる盟友関係を築いており、麻生氏が7月の告別式で弔辞を述べたことを考慮したからだ。
立民の西村智奈美幹事長(当時)は「他党の議員が行うのが通例」と批判。さらに甘利氏が自身のブログで、安倍派(清和政策研究会)について「誰一人、現状では全体を仕切るだけの力もカリスマ性もない」と明記し、同派からも反発を受けた。この結果、自民は8月の国会で追悼演説自体を見送った。
次の臨時国会は仕切り直しの場となるが、甘利氏に代わる候補として注目を集めるのが、慣例にもかなう野田氏だ。
立民の執行役員が国葬への欠席を決める中、野田氏は今月18日放送のBSテレ東番組で「元首相が元首相の葬儀に出ないのは私の人生観から外れる」と述べ、出席する意向を表明した。
野田氏は首相時代の平成24年の党首討論で、自民総裁だった安倍氏に衆院解散を宣言。直後の衆院選で自民が勝利し、安倍氏が首相に復帰した経緯がある。
安倍氏に近かった議員は「ストーリーがある。悪口もないだろうし、名演説が期待できる」と指摘。日本維新の会幹部も「野田氏を提案し、それでも甘利氏に任せるなら攻めやすい」と話す。立民内を分断する効果もありそうだ。
ただ、甘利氏の起用を見送れば、同じ麻生派(志公会)に所属する麻生氏の不興を買いかねない。安倍氏を送る「静謐な環境」が整わない中で、首相の判断が注目される。(大島悠亮)