コロナ「終わり視野」 WHO事務局長の発言、専門家ら戸惑いも

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が新型コロナウイルス感染症の世界的大流行(パンデミック)について「終わりが視野に入ってきた」と発言したことに、政府内や専門家の間に戸惑いが広がっている。「第7波」のピークは過ぎたとはいえ感染者数は高水準で、政府は当面は次なる「第8波」や秋冬のインフルエンザとの同時流行への備えを重視しているからだ。
オミクロンワクチン、鍵は早期接種 間隔も短縮 テドロス氏は14日の記者会見の冒頭で、直近1週間の新型コロナの死者数が流行初期の2020年3月以来の低水準になったとした上で、「パンデミックを終わらせるのに、これほど優位な状況になったことはない」と言及した。一方で、重症化リスクの高い人へのワクチン接種など、各国が緩めずに対策を続ける必要性を訴えた。

確かに、世界的には、感染の波は今年初めのオミクロン株の大流行がピークで、今夏の流行は比較的小さい。ワクチン接種が進んだことで死者数も減っている。長崎大の森田公一教授(ウイルス学)は、ワクチン接種が進んでいない途上国でも感染者が減っているとし、「感染の拡大により免疫を持つ人が増え、感染しにくくなる集団免疫の状況になっている可能性があり、そういうことも総合的に判断しての発言だろう」とみる。 だが、日本の感染者数は今年初めの「第6波」以上に、夏の第7波で拡大した。1日あたりの死亡報告数も第6波を超え、最多を更新した。テドロス氏の発言に対し、厚生労働省幹部は「(国民の感染率が高い)欧米と日本は状況が違う。ピンとこない」と首をかしげる。平時に向けた最終的な「出口戦略」以上に、第8波への備えを優先すべきだとして「力の割き方としては(第8波対策と出口戦略で)8対2」と表現する。尾身会長「我々自身のデータを分析する」 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は16日、「WHOの加盟国の一つとして、いろんな発言や見解はもちろん尊重するし参考にするが、我々自身のデータを分析する。第8波は何も対策をしなくていいというオプション(選択肢)はない」と述べた。 森田教授も、これまで変異株が次々に現れてきたことから「引き続き変異に注視しないと、免疫をすり抜けるものが出てこないとは限らない」と指摘。高齢者を中心に死者が出ている日本の現状から「高齢者だけでなく、家庭に高齢者がいる若い世代もワクチン接種を受けることが守ることにつながる」と対策の継続を訴える。 一方で、経済の専門家からは「これからも大きな波はくるが、大きな行動制限はせずに共存できるという意味だと思う。日本も社会の受け止め方を変える必要がある」(同分科会委員の小林慶一郎・慶応大教授)と、さらなる緩和を急ぐよう求める声も出ており、テドロス氏の発言が今後の国内議論に影響してくる可能性もありそうだ。【原田啓之、横田愛、下桐実雅子】
テドロス氏は14日の記者会見の冒頭で、直近1週間の新型コロナの死者数が流行初期の2020年3月以来の低水準になったとした上で、「パンデミックを終わらせるのに、これほど優位な状況になったことはない」と言及した。一方で、重症化リスクの高い人へのワクチン接種など、各国が緩めずに対策を続ける必要性を訴えた。
確かに、世界的には、感染の波は今年初めのオミクロン株の大流行がピークで、今夏の流行は比較的小さい。ワクチン接種が進んだことで死者数も減っている。長崎大の森田公一教授(ウイルス学)は、ワクチン接種が進んでいない途上国でも感染者が減っているとし、「感染の拡大により免疫を持つ人が増え、感染しにくくなる集団免疫の状況になっている可能性があり、そういうことも総合的に判断しての発言だろう」とみる。
だが、日本の感染者数は今年初めの「第6波」以上に、夏の第7波で拡大した。1日あたりの死亡報告数も第6波を超え、最多を更新した。テドロス氏の発言に対し、厚生労働省幹部は「(国民の感染率が高い)欧米と日本は状況が違う。ピンとこない」と首をかしげる。平時に向けた最終的な「出口戦略」以上に、第8波への備えを優先すべきだとして「力の割き方としては(第8波対策と出口戦略で)8対2」と表現する。
尾身会長「我々自身のデータを分析する」
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は16日、「WHOの加盟国の一つとして、いろんな発言や見解はもちろん尊重するし参考にするが、我々自身のデータを分析する。第8波は何も対策をしなくていいというオプション(選択肢)はない」と述べた。
森田教授も、これまで変異株が次々に現れてきたことから「引き続き変異に注視しないと、免疫をすり抜けるものが出てこないとは限らない」と指摘。高齢者を中心に死者が出ている日本の現状から「高齢者だけでなく、家庭に高齢者がいる若い世代もワクチン接種を受けることが守ることにつながる」と対策の継続を訴える。
一方で、経済の専門家からは「これからも大きな波はくるが、大きな行動制限はせずに共存できるという意味だと思う。日本も社会の受け止め方を変える必要がある」(同分科会委員の小林慶一郎・慶応大教授)と、さらなる緩和を急ぐよう求める声も出ており、テドロス氏の発言が今後の国内議論に影響してくる可能性もありそうだ。【原田啓之、横田愛、下桐実雅子】