「24時間テレビ」マラソンに感じるモヤモヤの正体

チャリティーマラソンは打ち切り危機を救い、高視聴率の柱でした(東洋経済オンライン編集部撮影)
今年で45回目となる「24時間テレビ 愛は地球を救う45」(日本テレビ系)が27・28日に放送されます。
今回はメインパーソナリティーをジャニーズ事務所のYouTubeユニット・「ジャにのちゃんねる」(二宮和也、中丸雄一、山田涼介、菊池風磨)の4人が務めるほか、劇団ひとりさんが監督・脚本を手がける浅野忠信さん主演スペシャルドラマ「無言館」、X JAPAN YOSHIKIさんとウクライナから来たバレリーナのステージ、羽生結弦さんのプロ転向後テレビ初演技、人気子役・村山輝星さんのトライアスロン挑戦、「THE夜もヒッパレ」のスペシャルライブなどのさまざまな企画が予定されています。
ただ、やはり目玉は、いわゆる“縦軸企画”として序盤からクライマックスまで放送されるチャリティーマラソンでしょう。今年は芸人のEXIT・兼近大樹さんが単独ランに挑むことが発表されています。
「24時間テレビ」におけるチャリティーマラソンと言えば、15回目が放送された1992年以来30年連続で実施され、毎年ゴールへ向かう日曜20時台のクライマックスは高視聴率を記録し続けてきました。
ただ、その一方で以前から「チャリティーとマラソンは関係あるのか」「ギャラをもらって走るのがチャリティー?」「猛暑の中、長距離走は罰ゲームでは」「コロナ禍なのになぜ外に出て走るのか」などの否定的な声があがっているのも事実。そんな人々の声を受けたからなのか、このところ制作サイドは毎年のように開催形式を変えていました。
今回は6年ぶりに「発表済みの1人が走る」という従来の形式に戻すようですが、これにはどんな意味があるのか。そもそも、なぜ「24時間テレビ」でチャリティーマラソンが続けられているのか。これまでの歴史を踏まえつつ、さまざまな点から読み解いていきます。
「24時間テレビ」がスタートしたのは1978年(第1回)ですが、好調なスタートを切ったものの、ほどなくマンネリに陥り、1980年代後半には世帯視聴率1桁に低迷し、1991年(第14回)には過去最低の6.6%を記録。打ち切りの危機がささやかれる中で迎えた翌1992年(第15回)は、パーソナリティーにダウンタウンを迎えてバラエティ色を濃くしたほか、新たにチャリティーマラソンを企画するなどの一大リニューアルが行われました。
しかし、その間寛平さんが走ったチャリティーマラソンは、新潟・苗場から東京・日本武道館を走るルートを公開していたため、見物者が殺到したことでまさかの途中棄権。それでも反響が大きかったほか、17.2%の高視聴率を獲得(前年から10.6%アップ)し、以降は一度も1桁に転落していません。つまり「24時間テレビ」は、チャリティーマラソンで打ち切りの危機を脱し、以降30年間にわたる高視聴率獲得の中核に据えてきたのです。
チャリティーマラソンは、当初からさまざまな形式をトライし、さまざまなトピックスを生み出してきました。
1994年(第17回)は、ダチョウ倶楽部が3人同時ランに挑戦。1995年(第18回)は、間寛平さんが阪神・淡路大震災の復興を願い、神戸から東京の600kmを1週間かけて走破。1996年(第19回)は、赤井英和さんが一般参加者と日本縦断リレーマラソン。2001年(第24回)は、研ナオコさんが女性初のラン。2007年(第30回)は、萩本欽一さんが66歳で最年長ラン。2011年(第34回)は、徳光和夫さんが70歳で最年長記録を更新。
ただ、SNSが普及しはじめた2000年代後半以降、「何でこの人が走るの?」「高齢者や運動が不得意な人を走らせるな」などの否定的な声が増えていきました。さらにこの5年間は、それらの声や視聴率の低下を踏まえてか、思い切った変更が相次いでいます。
2017年(第40回)は、ブルゾンちえみさんが走りましたが、「放送当日まで本人にも未発表」というサプライズ演出。2018年(第41回)は、みやぞんさんが初のトライアスロン形式に挑戦。2019年(第42回)は、近藤春菜さん、よしこさん、いとうあさこさん、水卜麻美アナの女性リレーを行い、水卜アナは放送当日発表でした。
コロナ禍に突入した2020年(第43回)は、高橋尚子さん、土屋太鳳さん、吉田沙保里さん、陣内貴美子さん、松本薫さん、野口みずきさんが走った分だけ募金する「24時間募金ラン」を実行。2021年(第44回)は、岸優太さんと城島茂さんのジャニーズ2人とアスリート8組がリレー形式で走りました。
2019年からの3年間がリレー形式だったのは、「猛暑の中、苦悶の表情を浮かべながら長距離を走らせる」ことへの批判が増えた影響があったのではないでしょうか。また、以前から業界内では、「人気や“旬”という点で、1人でチャリティーマラソンを担えるタレントが減っている」ことをあげる声もたびたびあがっていました。それ以外にも「高齢者や運動が不得意な人を走らせるな」という批判は根強く、ランナーの人選は年を追うごとに難しさを増していたようです。
しかし、今年は5年ぶりに兼近さんが単独ランに挑むことが発表されました。この人選は兼近さんが日本テレビの重視する「コア層(13~49歳)、特に若年層を引きつけられるのではないか」という期待感によるものでしょう。さらに兼近さんは31歳と若く、野球経験があるなど運動能力も上々。また、チャラいキャラクターを生かして、「チャリティーマラソンをつらいものではなく、明るく楽しいイメージに上書きしたい」という狙いがあるかもしれません。
ただ、それでも視聴者にしてみれば、「何で夏にマラソン?」「ギャラが高額なんでしょ?」などの疑念が消えたわけではないだけに、批判を消し去ることは難しいでしょう。
そして、5年ぶりに単独ランへ回帰した理由としてもう1つ気になるのは、昨年のリレー形式が盛り上がらなかったこと。昨年は東京オリンピックの開催直後だったことから、卓球の水谷隼さん、レスリングの川井梨紗子・有香子姉妹、バスケットボールの林咲希さんら8組のアスリートがランナーに選ばれ、岸優太さんと城島茂さんを合わせた10組が各10kmを走るリレー形式で行われました。
ところが、もともと走れるトップアスリートたちであるうえに、走行距離が過去断トツで短かったため、「これくらい楽勝すぎる」「この人たち何で走ってるの?」などの声があがるなど、盛り上がりに欠けたまま終了。「24時間テレビ」全体の世帯視聴率は2005年(第28回)以降15%以上を記録し続けていましたが、昨年は12.0%まで落ちてしまい、「チャリティーマラソンもその理由の1つではないか」という声があがっていたのです。
もし関係者たちが、過去の成功体験や昨年の不振を踏まえたうえで、単独ランという形式に回帰したのなら、視聴者の感覚と乖離しているのかもしれません。実際、この十数年、さまざまな出来事や生活環境の変化などがあり、人々の意識は大きく変わりました。
たとえば、コンテンツはネットの普及で、テレビから受け取るのではなく、自分で選んで見るようになった。東日本大震災以降、全力で頑張るより、肩の力を抜いて自分らしく生きることを優先する人が増えた。コロナ禍が長期化したことで、困難に挑むより安全なほうを選ぶようになった。もちろんすべての人がそうではありませんが、これらの意識変化はチャリティーマラソンの見方にも影響を及ぼすのではないでしょうか。
奇しくも兼近さんは、「今まで何かを成し遂げたことがなかったので、テレビでやりきる姿を色んな方に見てもらいたいです。チャラい見た目のやつが一生懸命に取り組んでいる姿を見ていただき、全力で走り切って皆さんに勇気を与えたいと思います! 運動はあまり好きではなく、走ること、疲れることはなるべくしないように生きてきたので、あえて苦手なことに挑戦したいと思います」などとコメントしていました。
「一生懸命に取り組んでいる姿で勇気を与えたい」「あえて苦手なことに挑戦したい」という姿勢は前向きで素晴らしい一方、昭和から続く“スポ根”そのものであり、令和の今、どれだけ人々の心に響くのでしょうか。
令和に入ってから初めての単独ランだけに、「クライマックスで『TOMORROW』『Runner』『負けないで』『愛は勝つ』『サライ』を立て続けに流す」「視聴者から寄せられた激励や感動のメッセージでゴールを埋め尽くす」などの感動に誘導するような定番演出も含め、視聴者から受け入れられるのか。今後の試金石になりそうです。
「24時間テレビ」がチャリティーマラソンを放送する最大の意義は前述したように、クライマックスを中心に「視聴率を取れる」からであり、「それが募金につながる」からとも言えます。
長時間番組は、間延びさせず、スケールメリットを感じさせるために、各コーナー(横軸企画)だけでなく、全体を通して行われる通しコーナー(縦軸企画)を加えて構成するのがセオリー。チャリティーマラソンは通しコーナーであり、スタートとゴールをフィーチャーするだけでなく、走っている映像や休憩中のインタビューなどが何度も放送されます。
また、ゴール前の日曜20時台に加えて、続く「行列のできる相談所」もランナーが生出演するため毎年高視聴率を得られるうえに、翌日にも朝から夕方まで「ZIP!」「スッキリ」「バゲット」「ヒルナンデス!」「news every.」と報道・情報番組で扱われ、夜のゴールデンタイムでも舞台裏を描く2時間特番を放送。チャリティーマラソンは3日間にわたって高視聴率を獲得できる可能性の高い優良コンテンツであり、だからこそ日本テレビにとって意義深い企画なのです。
しかし、チャリティー番組である以上、「高視聴率を獲得できればいい」というわけにはいかず、募金額を増やすためにも人々の支持を得ることが必要でしょう。ただここ十数年間ネット上の動きを見ていると、「不満を抱きながらもつい見てしまう」「感動はしないけどゴールのシーンは一応見る」という人の声も多く、高視聴率を額面通りに受け取れないところがあります。
これらの人々が「不満」「感動しない」と感じる最大の理由は、チャリティーというコンセプトへの不透明さによるものではないでしょうか。かつてある雑誌がチャリティーランナーの推定報酬額を掲載して物議を醸したことがありました。その真偽はさておき、「はっきりさせないのは本当に高額の報酬を払っているからだ」と疑っている人が多いのは間違いないでしょう。
その意味で1つの答えになりそうなのが、2020年に高橋尚子さん率いる「チームQ」が行った「24時間募金ラン」。これは「ランナーが1周5kmのコースを走るごとに10万円を募金していく」という試みであり、発起人の高橋さんは放送前から「お金をいただく気持ちはない」「走ることで恩返ししたい」と明言していました。
高橋さん、土屋太鳳さん、吉田沙保里さん、陣内貴美子さん、松本薫さん、野口みずきさんの6人は、目標の距離を達成したあとも放送終了ギリギリまで走り続け、最終的に計236辧470万円を募金。特に「走ることでお金をもらえる」プロフェッショナルの高橋さんと野口さんが、逆に「走ることで募金をする」という本当のチャリティーを見せたことを称える声が続出していました。
だからこそ、「走ることの素人である芸能人たちが高額の報酬を得て、募金の有無すらわからない」ことに不満を抱いてしまう人がいるのでしょう。今年のケースに当てはめると、もし兼近さんがマラソンではなく、プロの漫才師としてチャリティー漫才を披露するのなら、高額の報酬を得ることの違和感はやわらぐのかもしれません。
しかし、翌2021年は「復興への想いを繋ぐ 募金リレー」という企画に変わり、「24時間募金ラン」は1回限りで終わってしまいました。再びチャリティーランナーの報酬と募金の問題がグレーなものになってしまったのです。
日本テレビにしてみれば、「こちらから依頼しているうえに、事前の準備やケガなどのリスクがあるため報酬を払う」「他企画の出演者もいるため、ランナーだけ報酬や募金の額を明かせない」などの理由もあるでしょうが、それでは視聴者を納得させられないでしょう。
ならば、日本テレビがチャリティーランナーを指名するのではなく、「無報酬で走らせてください。むしろ参加費として○万円を募金します」という芸能人を募集し、その中から日本テレビがふさわしい人を選ぶのであれば、もう少し視聴者の理解を得られるのかもしれません。
ランナーの人選、報酬と募金、猛暑の中での長時間ラン、感動を誘導するような演出などの問題点は、なかなか改善されないものの、それでも「『24時間テレビ』のチャリティーマラソンを毎年楽しみにしている」という人がいるのも事実。30年続く夏の風物詩であり、もし消滅したら批判の声がやむ一方で、「チャリティーマラソンロス」の声をあげる人もいるでしょう。
それは「24時間テレビ」を手がける日本テレビの関係者たちも同様であり、彼らにとってチャリティーマラソンは、年始の箱根駅伝に次ぐランニングイベント。思い入れは強く、「続けてほしいし、高視聴率が得られるとホッとする」という人が多いようです。
だからこそ、熱中症やケガなどによるリタイヤを避けるため、伴走者、体調管理、休憩所など、制作サイドのサポート体制は万全。チャリティーマラソンに携わる人々の配慮と努力は素晴らしいものがあり、その意味でも打ち切りは考えづらいところがあります。
一方、ランナーの芸能人たちは選ばれたことに名誉とやりがいを感じるようですし、彼らにとって意義深い仕事なのでしょう。その意味で兼近さんはプロの芸人らしく笑いを交えながら仕事として走り切ってくれそうな期待感を漂わせています。
はたして今年のチャリティーマラソンは、どのくらいの視聴率と募金額を記録し、どんな反響を得られるのでしょうか。兼近さんのファンではなくても、「けっきょく見てしまった」という人が多くなりそうな気がします。
(木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)