10月3日、CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)と三井住友フィナンシャルグループは、TポイントとVポイントが2024年をめどに統合すると発表した。
Vポイントは三井住友カードを利用すると貯まるポイントだが、このニュースが新聞・TVやネットで報じられた際、多くの消費者の反応は「Vポイントって何?」だったのではないか。
画像:プレスリリースより引用
一方、Tポイントはいわゆる共通ポイントの草分けで知名度は抜群だ。筆者はTポイントがサービスを開始した2003年の記者発表の会場で感じた高揚感を昨日のことのように憶えている。
当時、Tポイントの幹部は、イギリスの航空会社ブリティッシュ・エアウェイズのマイレージサービスを高く評価するとともに、「いま欧州では『共通ポイント』というものが盛んに利用されている。Tポイントはそれに倣った。今後ポイントサービスの主流になる」と意気込みを語っていた。
共通ポイントは業界・業種を問わず、提携している店舗であれば、どこで買い物をしてもポイントを貯めることのできるサービスのことで、Tポイントは日本で初めての共通ポイントだった。
CCCはレンタルビデオ店のTSUTAYAや蔦屋書店を展開しているが、TSUTAYAでビデオを借りる人の多くがTポイントの会員となり、大ブームになった。以来、いろいろな店のレジで「Tポイントはお持ちですか」と店員に聞かれるようになったはずだ。また、消費者もそれまで以上にポイントというものを意識するようになった。Tポイントが私たちの消費生活を確実に変えた、時代を先取りする新しいサービスだったのは間違いない。現在、Tポイントの会員数は7000万人を超え、加盟店の数は15万店以上に達する。それがなぜ実績と知名度ではるかに劣るVポイントと統合することになったのか。なぜTポイントはここまで普及できたのかスタートから間もなくしてTポイントは、加盟店を「一業種一社」とする方針を打ち出す。たとえば石油販売業界なら加盟店をシェアトップのENEOSのガソリンスタンドに限定して、二番手以下の元売りの店は排除するという仕組みだ。そのためPonta(ポンタ)などの後発の共通ポイントは、業界のナンバー2、もしくはナンバー3以下の企業を加盟店にせざるを得ない。この仕組みを徹底させることで、Tポイントは加盟店の数や質で他の共通ポイントよりも優位に立つことができた。Photo by GettyImagesいま考えると、よくそんな強気の政策を強行できたものだと驚くが、それだけ他に先駆けた新しいサービスとしての勢いがあったということだろう。長期的にはこの一業種一社が足枷になって逆に加盟店の広がりを抑え込んでしまったという見方もあるが、初期の躍進の原動力となったことは確かだ。もうひとつTポイントの普及を後押ししたのが、決済機能がついていなかったという点だ。決済機能がついていると店舗は決済サービス会社に手数料を払わなければならないが、それがないので、店側から見ると加盟店になるためのハードルが低かった。それが短期間に幅広い業種に浸透し、多くの加盟店を獲得できた理由のひとつだった。 いまTポイント失速の理由として、dポイントや楽天ポイントの台頭を指摘する声が多い。確かにこうしたスマホ決済と連動したポイントサービスの影響は大きい。しかし、少なくともスタート時は決済機能がついていないことが加盟店と消費者双方の負担を軽くし、Tポイントが広く受け入れられる下地になったと考えられる。ではTポイントの何が問題なのか、あらためて考えてみよう。Tポイントが陥った3つの「誤算」筆者の見立ては、Tポイント側に次の3つの「誤算」があったのではないかということだ。(1)レンタルビデオの不振(2)杜撰な個人情報の管理(3)ヤドカリ戦略の破綻まず(1)は、祖業のレンタルビデオ事業がNetflixやAmazonプライムなどのサブスクリプションに押されてすっかり低調になり、店舗が次々と閉鎖されていることを指す。Tポイント会員はレンタルビデオ店のユーザーが中心で、店舗の減少は会員数の減少に直結する。Photo by GettyImages(2)は個人情報の管理、保護に関する認識が甘くたびたび不祥事を起こしており、個人情報を扱う企業として致命的な欠陥があるのではないかということだ。一例を挙げれば、警察からの任意の捜査関係事項照会要求に応じて個人情報を提出していたことが2019年に発覚した。つまり犯罪捜査協力という名目で個人情報データを本人に無断で警察に流していたわけだ。しかも長期間にわたって継続的に行われていたというから大問題だ。 (3)の「ヤドカリ戦略」とは、ビデオレンタルの低迷を受けて、経営基盤をより堅固なものにするために大手金融企業やクレジットカードや決済サービスのなかに入り込み、そこでポイント事業を展開したことを指す。Tポイントは2013年にYahoo!ポイントを統合し、つい最近までYahoo!ジャパン、ソフトバンクグループのポイント戦略の根幹を担っていた。これもヤドカリ戦略の一環だ。ところが同じグループに属するコード決済のPayPayが大きく伸びてPayPayポイントを開始すると、重複する事業ということになり、今年3月にお役御免になってしまう。ヤドカリ戦略が破綻に追い込まれたわけだ。三井住友カードは“救世主”なのかこのようないくつかの誤算のなかでも、とりわけ(3)の「ヤフーショック」は大きく、Tポイントとしては次の手が見えないのが現状だった。そこに目をつけたのが三井住友カードだ。Tポイントにすればまさに救いの神に見えたかもしれない。三井住友カードは日本で最大手のクレジットカード会社だ。かつてはCMで必ず三井住友Visaカードと「Visa」を連呼し、Visaという国際ブランドとの親密な関係を強調していたが、最近は「NL」とか「タッチ決済」という言葉を前面に出している。画像:プレスリリースより引用NLというのはナンバーレスの意味で、カード券面のクレジットカード番号や有効期限、名前などをカード裏面やスマホに移動させて、盗み見を防ぎセキュリティーを高めた「不正利用防止策」だ。タッチ決済はクレジットカードを端末にかざすだけで決済が終わるようにした先端技術。これらの技術はVisaブランドの総本山であるビザワールドワイド社が推進する技術で、今後、世界のクレジットカードに導入されることになる。 この技術を日本では三井住友カードが優先的に取り入れ普及させることが許されている。そのことが奏功してか、三井住友Visaカードはいまや日本のカードシーンを独走する強さを見せつけている。2022年に一番注目を集めたクレジットカードとして三井住友カードNLが指名される機会が、雑誌やアフィリエイトサイトで増えているのはそのひとつの表れだろう。相手に花を持たせて実を取るナンバーワンカードの三井住友カードにとって頭痛の種は、実はポイントだった。三井住友グループが発行する共通ポイント「Vポイント」の知名度が冒頭で述べたように一向に上がらないのだ。かつては三井住友カードはワールドプレゼントポイントというポイントが主流だった。銀行系カードを代表するポイントとしてそれなりに知られていたが、いつの間にかVポイントに代わり、いまではVポイントが中心になっている。しかし、Visaの威光をもってしてもその知名度はいまだに低いままだ。Photo by iStockTポイントはそんな三井住友カードにとって格好の獲物だった。Tポイントとの統合は、共通ポイントの仕組みもノウハウも加盟店も手に入れることを意味する。いってみれば居抜きで格安の物件を手に入れるようなものだ。うまくいけば完璧なカード事業が可能になる。そんな思惑もあるだろう。10月3日の発表ではTポイントの運営会社の資本比率はTポイント6割、三井住友カード4割、統合のめどは2024年春で、新たなポイント名になるという。少々言葉が過ぎるかもしれないが、死に体のTポイント相手に統合を進めるには、相手に花を持たせて実を取るというのが三井住友カードの戦略なのかもしれない。 ある大手クレジットカード会社の幹部は、こう批判している。「Tポイント会員7000万人に三井住友フィナンシャルグループの5200万人を加えて合計1億2000万人で日本一だとしきりに喧伝しています。しかし、Vポイント会員は正確には2000万人ほどですから合計しても9000万人にしかなりません。Pontaや楽天ポイント(この2つのポイントはいずれも1億人を上回る)に負けているので日本一とは言えないでしょう。プレスリリースで、強引に1億2000万人と打ち出して、その勢いで日本一にしようというのはちょっと無理がありますよ」正しくは「弱者連合」にすぎないマスコミは水増しされた会員数をもとに今回の統合劇を強者連合のように囃すが、それは間違っている。これまで見てきたようにTポイント、三井住友カード(Vポイント)はどちらも弱みを抱えた弱者であり、弱者連合というのが正しい。両者をこんなふうに擬人化してみると面白かもしれない。Tポイント=旅芸人一座の看板役者。ただし、いまはすっかり落ちぶれてしまった。Vポイント=大店の若旦那。才覚も実績もないが、店の金だけは親に頼んで引き出せる。若旦那は看板役者のひいきになって役者を再生させようとするが、果たしてその行方は……。下手なたとえはこれくらいにして、話を元に戻す。 双方ともに弱者とはいっても、以下のように見返りは三井住友カードのほうが圧倒的に大きい。元祖共通ポイントのTポイントの力は絶大で、会員増が確実に期待できるし、さまざまな業界に精通した共通ポイントのノウハウが丸ごと手に入る。注意しなければならないのは次のようなことだろう。Tポイントの個人情報の管理・取り扱いに関するコンプライアンスを徹底して信用の回復を図る。統合に時間がかかりすぎると他のグループの介入を招く恐れがあるので、できるだけ早く実行に移す。あえて最後につけ加えるなら、三井住友グループは、新しいポイントサービスの名前を決めるにあたって、Tポイントの意向を最大限尊重する度量を見せてほしい。長年この業界を見てきた者として、Tポイントという名前が完全に消えてなくなってしまうとしたら、実に寂しいことだ。
CCCはレンタルビデオ店のTSUTAYAや蔦屋書店を展開しているが、TSUTAYAでビデオを借りる人の多くがTポイントの会員となり、大ブームになった。以来、いろいろな店のレジで「Tポイントはお持ちですか」と店員に聞かれるようになったはずだ。
また、消費者もそれまで以上にポイントというものを意識するようになった。Tポイントが私たちの消費生活を確実に変えた、時代を先取りする新しいサービスだったのは間違いない。
現在、Tポイントの会員数は7000万人を超え、加盟店の数は15万店以上に達する。それがなぜ実績と知名度ではるかに劣るVポイントと統合することになったのか。
スタートから間もなくしてTポイントは、加盟店を「一業種一社」とする方針を打ち出す。たとえば石油販売業界なら加盟店をシェアトップのENEOSのガソリンスタンドに限定して、二番手以下の元売りの店は排除するという仕組みだ。
そのためPonta(ポンタ)などの後発の共通ポイントは、業界のナンバー2、もしくはナンバー3以下の企業を加盟店にせざるを得ない。この仕組みを徹底させることで、Tポイントは加盟店の数や質で他の共通ポイントよりも優位に立つことができた。
Photo by GettyImages
いま考えると、よくそんな強気の政策を強行できたものだと驚くが、それだけ他に先駆けた新しいサービスとしての勢いがあったということだろう。長期的にはこの一業種一社が足枷になって逆に加盟店の広がりを抑え込んでしまったという見方もあるが、初期の躍進の原動力となったことは確かだ。
もうひとつTポイントの普及を後押ししたのが、決済機能がついていなかったという点だ。
決済機能がついていると店舗は決済サービス会社に手数料を払わなければならないが、それがないので、店側から見ると加盟店になるためのハードルが低かった。それが短期間に幅広い業種に浸透し、多くの加盟店を獲得できた理由のひとつだった。
いまTポイント失速の理由として、dポイントや楽天ポイントの台頭を指摘する声が多い。確かにこうしたスマホ決済と連動したポイントサービスの影響は大きい。しかし、少なくともスタート時は決済機能がついていないことが加盟店と消費者双方の負担を軽くし、Tポイントが広く受け入れられる下地になったと考えられる。ではTポイントの何が問題なのか、あらためて考えてみよう。Tポイントが陥った3つの「誤算」筆者の見立ては、Tポイント側に次の3つの「誤算」があったのではないかということだ。(1)レンタルビデオの不振(2)杜撰な個人情報の管理(3)ヤドカリ戦略の破綻まず(1)は、祖業のレンタルビデオ事業がNetflixやAmazonプライムなどのサブスクリプションに押されてすっかり低調になり、店舗が次々と閉鎖されていることを指す。Tポイント会員はレンタルビデオ店のユーザーが中心で、店舗の減少は会員数の減少に直結する。Photo by GettyImages(2)は個人情報の管理、保護に関する認識が甘くたびたび不祥事を起こしており、個人情報を扱う企業として致命的な欠陥があるのではないかということだ。一例を挙げれば、警察からの任意の捜査関係事項照会要求に応じて個人情報を提出していたことが2019年に発覚した。つまり犯罪捜査協力という名目で個人情報データを本人に無断で警察に流していたわけだ。しかも長期間にわたって継続的に行われていたというから大問題だ。 (3)の「ヤドカリ戦略」とは、ビデオレンタルの低迷を受けて、経営基盤をより堅固なものにするために大手金融企業やクレジットカードや決済サービスのなかに入り込み、そこでポイント事業を展開したことを指す。Tポイントは2013年にYahoo!ポイントを統合し、つい最近までYahoo!ジャパン、ソフトバンクグループのポイント戦略の根幹を担っていた。これもヤドカリ戦略の一環だ。ところが同じグループに属するコード決済のPayPayが大きく伸びてPayPayポイントを開始すると、重複する事業ということになり、今年3月にお役御免になってしまう。ヤドカリ戦略が破綻に追い込まれたわけだ。三井住友カードは“救世主”なのかこのようないくつかの誤算のなかでも、とりわけ(3)の「ヤフーショック」は大きく、Tポイントとしては次の手が見えないのが現状だった。そこに目をつけたのが三井住友カードだ。Tポイントにすればまさに救いの神に見えたかもしれない。三井住友カードは日本で最大手のクレジットカード会社だ。かつてはCMで必ず三井住友Visaカードと「Visa」を連呼し、Visaという国際ブランドとの親密な関係を強調していたが、最近は「NL」とか「タッチ決済」という言葉を前面に出している。画像:プレスリリースより引用NLというのはナンバーレスの意味で、カード券面のクレジットカード番号や有効期限、名前などをカード裏面やスマホに移動させて、盗み見を防ぎセキュリティーを高めた「不正利用防止策」だ。タッチ決済はクレジットカードを端末にかざすだけで決済が終わるようにした先端技術。これらの技術はVisaブランドの総本山であるビザワールドワイド社が推進する技術で、今後、世界のクレジットカードに導入されることになる。 この技術を日本では三井住友カードが優先的に取り入れ普及させることが許されている。そのことが奏功してか、三井住友Visaカードはいまや日本のカードシーンを独走する強さを見せつけている。2022年に一番注目を集めたクレジットカードとして三井住友カードNLが指名される機会が、雑誌やアフィリエイトサイトで増えているのはそのひとつの表れだろう。相手に花を持たせて実を取るナンバーワンカードの三井住友カードにとって頭痛の種は、実はポイントだった。三井住友グループが発行する共通ポイント「Vポイント」の知名度が冒頭で述べたように一向に上がらないのだ。かつては三井住友カードはワールドプレゼントポイントというポイントが主流だった。銀行系カードを代表するポイントとしてそれなりに知られていたが、いつの間にかVポイントに代わり、いまではVポイントが中心になっている。しかし、Visaの威光をもってしてもその知名度はいまだに低いままだ。Photo by iStockTポイントはそんな三井住友カードにとって格好の獲物だった。Tポイントとの統合は、共通ポイントの仕組みもノウハウも加盟店も手に入れることを意味する。いってみれば居抜きで格安の物件を手に入れるようなものだ。うまくいけば完璧なカード事業が可能になる。そんな思惑もあるだろう。10月3日の発表ではTポイントの運営会社の資本比率はTポイント6割、三井住友カード4割、統合のめどは2024年春で、新たなポイント名になるという。少々言葉が過ぎるかもしれないが、死に体のTポイント相手に統合を進めるには、相手に花を持たせて実を取るというのが三井住友カードの戦略なのかもしれない。 ある大手クレジットカード会社の幹部は、こう批判している。「Tポイント会員7000万人に三井住友フィナンシャルグループの5200万人を加えて合計1億2000万人で日本一だとしきりに喧伝しています。しかし、Vポイント会員は正確には2000万人ほどですから合計しても9000万人にしかなりません。Pontaや楽天ポイント(この2つのポイントはいずれも1億人を上回る)に負けているので日本一とは言えないでしょう。プレスリリースで、強引に1億2000万人と打ち出して、その勢いで日本一にしようというのはちょっと無理がありますよ」正しくは「弱者連合」にすぎないマスコミは水増しされた会員数をもとに今回の統合劇を強者連合のように囃すが、それは間違っている。これまで見てきたようにTポイント、三井住友カード(Vポイント)はどちらも弱みを抱えた弱者であり、弱者連合というのが正しい。両者をこんなふうに擬人化してみると面白かもしれない。Tポイント=旅芸人一座の看板役者。ただし、いまはすっかり落ちぶれてしまった。Vポイント=大店の若旦那。才覚も実績もないが、店の金だけは親に頼んで引き出せる。若旦那は看板役者のひいきになって役者を再生させようとするが、果たしてその行方は……。下手なたとえはこれくらいにして、話を元に戻す。 双方ともに弱者とはいっても、以下のように見返りは三井住友カードのほうが圧倒的に大きい。元祖共通ポイントのTポイントの力は絶大で、会員増が確実に期待できるし、さまざまな業界に精通した共通ポイントのノウハウが丸ごと手に入る。注意しなければならないのは次のようなことだろう。Tポイントの個人情報の管理・取り扱いに関するコンプライアンスを徹底して信用の回復を図る。統合に時間がかかりすぎると他のグループの介入を招く恐れがあるので、できるだけ早く実行に移す。あえて最後につけ加えるなら、三井住友グループは、新しいポイントサービスの名前を決めるにあたって、Tポイントの意向を最大限尊重する度量を見せてほしい。長年この業界を見てきた者として、Tポイントという名前が完全に消えてなくなってしまうとしたら、実に寂しいことだ。
いまTポイント失速の理由として、dポイントや楽天ポイントの台頭を指摘する声が多い。確かにこうしたスマホ決済と連動したポイントサービスの影響は大きい。
しかし、少なくともスタート時は決済機能がついていないことが加盟店と消費者双方の負担を軽くし、Tポイントが広く受け入れられる下地になったと考えられる。
ではTポイントの何が問題なのか、あらためて考えてみよう。
筆者の見立ては、Tポイント側に次の3つの「誤算」があったのではないかということだ。
(1)レンタルビデオの不振(2)杜撰な個人情報の管理(3)ヤドカリ戦略の破綻
まず(1)は、祖業のレンタルビデオ事業がNetflixやAmazonプライムなどのサブスクリプションに押されてすっかり低調になり、店舗が次々と閉鎖されていることを指す。Tポイント会員はレンタルビデオ店のユーザーが中心で、店舗の減少は会員数の減少に直結する。
Photo by GettyImages
(2)は個人情報の管理、保護に関する認識が甘くたびたび不祥事を起こしており、個人情報を扱う企業として致命的な欠陥があるのではないかということだ。
一例を挙げれば、警察からの任意の捜査関係事項照会要求に応じて個人情報を提出していたことが2019年に発覚した。つまり犯罪捜査協力という名目で個人情報データを本人に無断で警察に流していたわけだ。しかも長期間にわたって継続的に行われていたというから大問題だ。
(3)の「ヤドカリ戦略」とは、ビデオレンタルの低迷を受けて、経営基盤をより堅固なものにするために大手金融企業やクレジットカードや決済サービスのなかに入り込み、そこでポイント事業を展開したことを指す。Tポイントは2013年にYahoo!ポイントを統合し、つい最近までYahoo!ジャパン、ソフトバンクグループのポイント戦略の根幹を担っていた。これもヤドカリ戦略の一環だ。ところが同じグループに属するコード決済のPayPayが大きく伸びてPayPayポイントを開始すると、重複する事業ということになり、今年3月にお役御免になってしまう。ヤドカリ戦略が破綻に追い込まれたわけだ。三井住友カードは“救世主”なのかこのようないくつかの誤算のなかでも、とりわけ(3)の「ヤフーショック」は大きく、Tポイントとしては次の手が見えないのが現状だった。そこに目をつけたのが三井住友カードだ。Tポイントにすればまさに救いの神に見えたかもしれない。三井住友カードは日本で最大手のクレジットカード会社だ。かつてはCMで必ず三井住友Visaカードと「Visa」を連呼し、Visaという国際ブランドとの親密な関係を強調していたが、最近は「NL」とか「タッチ決済」という言葉を前面に出している。画像:プレスリリースより引用NLというのはナンバーレスの意味で、カード券面のクレジットカード番号や有効期限、名前などをカード裏面やスマホに移動させて、盗み見を防ぎセキュリティーを高めた「不正利用防止策」だ。タッチ決済はクレジットカードを端末にかざすだけで決済が終わるようにした先端技術。これらの技術はVisaブランドの総本山であるビザワールドワイド社が推進する技術で、今後、世界のクレジットカードに導入されることになる。 この技術を日本では三井住友カードが優先的に取り入れ普及させることが許されている。そのことが奏功してか、三井住友Visaカードはいまや日本のカードシーンを独走する強さを見せつけている。2022年に一番注目を集めたクレジットカードとして三井住友カードNLが指名される機会が、雑誌やアフィリエイトサイトで増えているのはそのひとつの表れだろう。相手に花を持たせて実を取るナンバーワンカードの三井住友カードにとって頭痛の種は、実はポイントだった。三井住友グループが発行する共通ポイント「Vポイント」の知名度が冒頭で述べたように一向に上がらないのだ。かつては三井住友カードはワールドプレゼントポイントというポイントが主流だった。銀行系カードを代表するポイントとしてそれなりに知られていたが、いつの間にかVポイントに代わり、いまではVポイントが中心になっている。しかし、Visaの威光をもってしてもその知名度はいまだに低いままだ。Photo by iStockTポイントはそんな三井住友カードにとって格好の獲物だった。Tポイントとの統合は、共通ポイントの仕組みもノウハウも加盟店も手に入れることを意味する。いってみれば居抜きで格安の物件を手に入れるようなものだ。うまくいけば完璧なカード事業が可能になる。そんな思惑もあるだろう。10月3日の発表ではTポイントの運営会社の資本比率はTポイント6割、三井住友カード4割、統合のめどは2024年春で、新たなポイント名になるという。少々言葉が過ぎるかもしれないが、死に体のTポイント相手に統合を進めるには、相手に花を持たせて実を取るというのが三井住友カードの戦略なのかもしれない。 ある大手クレジットカード会社の幹部は、こう批判している。「Tポイント会員7000万人に三井住友フィナンシャルグループの5200万人を加えて合計1億2000万人で日本一だとしきりに喧伝しています。しかし、Vポイント会員は正確には2000万人ほどですから合計しても9000万人にしかなりません。Pontaや楽天ポイント(この2つのポイントはいずれも1億人を上回る)に負けているので日本一とは言えないでしょう。プレスリリースで、強引に1億2000万人と打ち出して、その勢いで日本一にしようというのはちょっと無理がありますよ」正しくは「弱者連合」にすぎないマスコミは水増しされた会員数をもとに今回の統合劇を強者連合のように囃すが、それは間違っている。これまで見てきたようにTポイント、三井住友カード(Vポイント)はどちらも弱みを抱えた弱者であり、弱者連合というのが正しい。両者をこんなふうに擬人化してみると面白かもしれない。Tポイント=旅芸人一座の看板役者。ただし、いまはすっかり落ちぶれてしまった。Vポイント=大店の若旦那。才覚も実績もないが、店の金だけは親に頼んで引き出せる。若旦那は看板役者のひいきになって役者を再生させようとするが、果たしてその行方は……。下手なたとえはこれくらいにして、話を元に戻す。 双方ともに弱者とはいっても、以下のように見返りは三井住友カードのほうが圧倒的に大きい。元祖共通ポイントのTポイントの力は絶大で、会員増が確実に期待できるし、さまざまな業界に精通した共通ポイントのノウハウが丸ごと手に入る。注意しなければならないのは次のようなことだろう。Tポイントの個人情報の管理・取り扱いに関するコンプライアンスを徹底して信用の回復を図る。統合に時間がかかりすぎると他のグループの介入を招く恐れがあるので、できるだけ早く実行に移す。あえて最後につけ加えるなら、三井住友グループは、新しいポイントサービスの名前を決めるにあたって、Tポイントの意向を最大限尊重する度量を見せてほしい。長年この業界を見てきた者として、Tポイントという名前が完全に消えてなくなってしまうとしたら、実に寂しいことだ。
(3)の「ヤドカリ戦略」とは、ビデオレンタルの低迷を受けて、経営基盤をより堅固なものにするために大手金融企業やクレジットカードや決済サービスのなかに入り込み、そこでポイント事業を展開したことを指す。
Tポイントは2013年にYahoo!ポイントを統合し、つい最近までYahoo!ジャパン、ソフトバンクグループのポイント戦略の根幹を担っていた。これもヤドカリ戦略の一環だ。
ところが同じグループに属するコード決済のPayPayが大きく伸びてPayPayポイントを開始すると、重複する事業ということになり、今年3月にお役御免になってしまう。ヤドカリ戦略が破綻に追い込まれたわけだ。
このようないくつかの誤算のなかでも、とりわけ(3)の「ヤフーショック」は大きく、Tポイントとしては次の手が見えないのが現状だった。そこに目をつけたのが三井住友カードだ。Tポイントにすればまさに救いの神に見えたかもしれない。
三井住友カードは日本で最大手のクレジットカード会社だ。かつてはCMで必ず三井住友Visaカードと「Visa」を連呼し、Visaという国際ブランドとの親密な関係を強調していたが、最近は「NL」とか「タッチ決済」という言葉を前面に出している。
画像:プレスリリースより引用
NLというのはナンバーレスの意味で、カード券面のクレジットカード番号や有効期限、名前などをカード裏面やスマホに移動させて、盗み見を防ぎセキュリティーを高めた「不正利用防止策」だ。
タッチ決済はクレジットカードを端末にかざすだけで決済が終わるようにした先端技術。これらの技術はVisaブランドの総本山であるビザワールドワイド社が推進する技術で、今後、世界のクレジットカードに導入されることになる。
この技術を日本では三井住友カードが優先的に取り入れ普及させることが許されている。そのことが奏功してか、三井住友Visaカードはいまや日本のカードシーンを独走する強さを見せつけている。2022年に一番注目を集めたクレジットカードとして三井住友カードNLが指名される機会が、雑誌やアフィリエイトサイトで増えているのはそのひとつの表れだろう。相手に花を持たせて実を取るナンバーワンカードの三井住友カードにとって頭痛の種は、実はポイントだった。三井住友グループが発行する共通ポイント「Vポイント」の知名度が冒頭で述べたように一向に上がらないのだ。かつては三井住友カードはワールドプレゼントポイントというポイントが主流だった。銀行系カードを代表するポイントとしてそれなりに知られていたが、いつの間にかVポイントに代わり、いまではVポイントが中心になっている。しかし、Visaの威光をもってしてもその知名度はいまだに低いままだ。Photo by iStockTポイントはそんな三井住友カードにとって格好の獲物だった。Tポイントとの統合は、共通ポイントの仕組みもノウハウも加盟店も手に入れることを意味する。いってみれば居抜きで格安の物件を手に入れるようなものだ。うまくいけば完璧なカード事業が可能になる。そんな思惑もあるだろう。10月3日の発表ではTポイントの運営会社の資本比率はTポイント6割、三井住友カード4割、統合のめどは2024年春で、新たなポイント名になるという。少々言葉が過ぎるかもしれないが、死に体のTポイント相手に統合を進めるには、相手に花を持たせて実を取るというのが三井住友カードの戦略なのかもしれない。 ある大手クレジットカード会社の幹部は、こう批判している。「Tポイント会員7000万人に三井住友フィナンシャルグループの5200万人を加えて合計1億2000万人で日本一だとしきりに喧伝しています。しかし、Vポイント会員は正確には2000万人ほどですから合計しても9000万人にしかなりません。Pontaや楽天ポイント(この2つのポイントはいずれも1億人を上回る)に負けているので日本一とは言えないでしょう。プレスリリースで、強引に1億2000万人と打ち出して、その勢いで日本一にしようというのはちょっと無理がありますよ」正しくは「弱者連合」にすぎないマスコミは水増しされた会員数をもとに今回の統合劇を強者連合のように囃すが、それは間違っている。これまで見てきたようにTポイント、三井住友カード(Vポイント)はどちらも弱みを抱えた弱者であり、弱者連合というのが正しい。両者をこんなふうに擬人化してみると面白かもしれない。Tポイント=旅芸人一座の看板役者。ただし、いまはすっかり落ちぶれてしまった。Vポイント=大店の若旦那。才覚も実績もないが、店の金だけは親に頼んで引き出せる。若旦那は看板役者のひいきになって役者を再生させようとするが、果たしてその行方は……。下手なたとえはこれくらいにして、話を元に戻す。 双方ともに弱者とはいっても、以下のように見返りは三井住友カードのほうが圧倒的に大きい。元祖共通ポイントのTポイントの力は絶大で、会員増が確実に期待できるし、さまざまな業界に精通した共通ポイントのノウハウが丸ごと手に入る。注意しなければならないのは次のようなことだろう。Tポイントの個人情報の管理・取り扱いに関するコンプライアンスを徹底して信用の回復を図る。統合に時間がかかりすぎると他のグループの介入を招く恐れがあるので、できるだけ早く実行に移す。あえて最後につけ加えるなら、三井住友グループは、新しいポイントサービスの名前を決めるにあたって、Tポイントの意向を最大限尊重する度量を見せてほしい。長年この業界を見てきた者として、Tポイントという名前が完全に消えてなくなってしまうとしたら、実に寂しいことだ。
この技術を日本では三井住友カードが優先的に取り入れ普及させることが許されている。そのことが奏功してか、三井住友Visaカードはいまや日本のカードシーンを独走する強さを見せつけている。
2022年に一番注目を集めたクレジットカードとして三井住友カードNLが指名される機会が、雑誌やアフィリエイトサイトで増えているのはそのひとつの表れだろう。
ナンバーワンカードの三井住友カードにとって頭痛の種は、実はポイントだった。三井住友グループが発行する共通ポイント「Vポイント」の知名度が冒頭で述べたように一向に上がらないのだ。
かつては三井住友カードはワールドプレゼントポイントというポイントが主流だった。銀行系カードを代表するポイントとしてそれなりに知られていたが、いつの間にかVポイントに代わり、いまではVポイントが中心になっている。しかし、Visaの威光をもってしてもその知名度はいまだに低いままだ。
Photo by iStock
Tポイントはそんな三井住友カードにとって格好の獲物だった。
Tポイントとの統合は、共通ポイントの仕組みもノウハウも加盟店も手に入れることを意味する。いってみれば居抜きで格安の物件を手に入れるようなものだ。うまくいけば完璧なカード事業が可能になる。そんな思惑もあるだろう。
10月3日の発表ではTポイントの運営会社の資本比率はTポイント6割、三井住友カード4割、統合のめどは2024年春で、新たなポイント名になるという。少々言葉が過ぎるかもしれないが、死に体のTポイント相手に統合を進めるには、相手に花を持たせて実を取るというのが三井住友カードの戦略なのかもしれない。
ある大手クレジットカード会社の幹部は、こう批判している。「Tポイント会員7000万人に三井住友フィナンシャルグループの5200万人を加えて合計1億2000万人で日本一だとしきりに喧伝しています。しかし、Vポイント会員は正確には2000万人ほどですから合計しても9000万人にしかなりません。Pontaや楽天ポイント(この2つのポイントはいずれも1億人を上回る)に負けているので日本一とは言えないでしょう。プレスリリースで、強引に1億2000万人と打ち出して、その勢いで日本一にしようというのはちょっと無理がありますよ」正しくは「弱者連合」にすぎないマスコミは水増しされた会員数をもとに今回の統合劇を強者連合のように囃すが、それは間違っている。これまで見てきたようにTポイント、三井住友カード(Vポイント)はどちらも弱みを抱えた弱者であり、弱者連合というのが正しい。両者をこんなふうに擬人化してみると面白かもしれない。Tポイント=旅芸人一座の看板役者。ただし、いまはすっかり落ちぶれてしまった。Vポイント=大店の若旦那。才覚も実績もないが、店の金だけは親に頼んで引き出せる。若旦那は看板役者のひいきになって役者を再生させようとするが、果たしてその行方は……。下手なたとえはこれくらいにして、話を元に戻す。 双方ともに弱者とはいっても、以下のように見返りは三井住友カードのほうが圧倒的に大きい。元祖共通ポイントのTポイントの力は絶大で、会員増が確実に期待できるし、さまざまな業界に精通した共通ポイントのノウハウが丸ごと手に入る。注意しなければならないのは次のようなことだろう。Tポイントの個人情報の管理・取り扱いに関するコンプライアンスを徹底して信用の回復を図る。統合に時間がかかりすぎると他のグループの介入を招く恐れがあるので、できるだけ早く実行に移す。あえて最後につけ加えるなら、三井住友グループは、新しいポイントサービスの名前を決めるにあたって、Tポイントの意向を最大限尊重する度量を見せてほしい。長年この業界を見てきた者として、Tポイントという名前が完全に消えてなくなってしまうとしたら、実に寂しいことだ。
ある大手クレジットカード会社の幹部は、こう批判している。
「Tポイント会員7000万人に三井住友フィナンシャルグループの5200万人を加えて合計1億2000万人で日本一だとしきりに喧伝しています。しかし、Vポイント会員は正確には2000万人ほどですから合計しても9000万人にしかなりません。
Pontaや楽天ポイント(この2つのポイントはいずれも1億人を上回る)に負けているので日本一とは言えないでしょう。プレスリリースで、強引に1億2000万人と打ち出して、その勢いで日本一にしようというのはちょっと無理がありますよ」
マスコミは水増しされた会員数をもとに今回の統合劇を強者連合のように囃すが、それは間違っている。これまで見てきたようにTポイント、三井住友カード(Vポイント)はどちらも弱みを抱えた弱者であり、弱者連合というのが正しい。
両者をこんなふうに擬人化してみると面白かもしれない。
Tポイント=旅芸人一座の看板役者。ただし、いまはすっかり落ちぶれてしまった。Vポイント=大店の若旦那。才覚も実績もないが、店の金だけは親に頼んで引き出せる。
若旦那は看板役者のひいきになって役者を再生させようとするが、果たしてその行方は……。
下手なたとえはこれくらいにして、話を元に戻す。
双方ともに弱者とはいっても、以下のように見返りは三井住友カードのほうが圧倒的に大きい。元祖共通ポイントのTポイントの力は絶大で、会員増が確実に期待できるし、さまざまな業界に精通した共通ポイントのノウハウが丸ごと手に入る。注意しなければならないのは次のようなことだろう。Tポイントの個人情報の管理・取り扱いに関するコンプライアンスを徹底して信用の回復を図る。統合に時間がかかりすぎると他のグループの介入を招く恐れがあるので、できるだけ早く実行に移す。あえて最後につけ加えるなら、三井住友グループは、新しいポイントサービスの名前を決めるにあたって、Tポイントの意向を最大限尊重する度量を見せてほしい。長年この業界を見てきた者として、Tポイントという名前が完全に消えてなくなってしまうとしたら、実に寂しいことだ。
双方ともに弱者とはいっても、以下のように見返りは三井住友カードのほうが圧倒的に大きい。元祖共通ポイントのTポイントの力は絶大で、会員増が確実に期待できるし、さまざまな業界に精通した共通ポイントのノウハウが丸ごと手に入る。
注意しなければならないのは次のようなことだろう。Tポイントの個人情報の管理・取り扱いに関するコンプライアンスを徹底して信用の回復を図る。統合に時間がかかりすぎると他のグループの介入を招く恐れがあるので、できるだけ早く実行に移す。
あえて最後につけ加えるなら、三井住友グループは、新しいポイントサービスの名前を決めるにあたって、Tポイントの意向を最大限尊重する度量を見せてほしい。長年この業界を見てきた者として、Tポイントという名前が完全に消えてなくなってしまうとしたら、実に寂しいことだ。