福島市南矢野目の市道で軽乗用車が暴走して歩道に乗り上げ、歩行者ら6人が死傷した事故が発生して26日で1週間。
自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死)の疑いで逮捕された波汐國芳(なみしおくによし)容疑者(97)は、高齢でも歌人として旺盛に活動し、安全運転にも心がけていたともいう。なぜ事故は起きてしまったのか。
福島北署などによると、事故は19日午後4時45分頃、大型ショッピングセンターの駐車場出入り口付近の市道で起きた。波汐容疑者の軽乗用車が歩道に乗り上げて女性をはねて死亡させ、信号待ちの車3台にぶつかりながら約20メートル走行してとまったという。事故直後、現場を目撃した女性は「街路樹が倒れ、周りの人がパニックになっていた」と語る。
「昔から安全運転だったので、事故には驚いた」。そう語るのは、波汐容疑者の短歌の弟子であるいわき市の男性(75)だ。波汐容疑者は7年ほど前まで月1回、いわき市まで往復7時間かけて車を自ら運転し、短歌の指導に来ていたという。別の70歳代の弟子の男性も、「短歌作りや批評もしっかりしていて、まだまだ現役で活躍していた」という。
ただ、この男性は「反射神経や身体能力はやはり年相応だった。本人も『車の運転は大変だ』とこぼしていた」と指摘する。
近所の住人も運転に不安を抱いていたという。近くに住む複数の住人は、自宅に駐車するのに何度も切り返しに苦労する姿を見ていた。70歳代の女性は「近所の人でご家族に免許の返納をすすめたこともあった」と打ち明ける。
数年前に亡くなった波汐容疑者の妻は2017年、こんな短歌を詠んでいた。
「運転免許の 更新果たしし 老い夫に 夜の運転 禁止誓はす」
交通問題にくわしい九州大学の志堂寺和則教授(交通心理学)は「安全運転を心がけていても、加齢とともに能力は衰えてくる。特に夜間などは控える方が良い。地方では車がないと生活が不便なことも多いが、周囲のサポートで高齢者の事故防止につなげることが大事だ」と警鐘を鳴らす。