快適な毎日を送るためには欠かせないゴミ捨て。しかし、ゴミの種類ごとの分別やルールは、住む場所によって細かな違いがあるため、引っ越すごとにその地域のゴミ捨て作法を守らなければならない。そんな複雑かつシビアなルールのもとで執り行われているのが、日本のゴミ回収だ。
【写真】この記事の写真を見る(2枚) また、ゴミ捨てに対するモチベーションにも住民間で差があり、その温度差がご近所同士のいざこざに発展するケースも少なくない。そこで本稿では、過去に“ゴミ捨てトラブル”に見舞われた人々に話を聞いた。

◆◆◆回収日を無視する家庭に注意をしたら… 永山舞子さん(仮名)の地域では、1カ月交代制のゴミ集積所担当システムを採用している。エリア内にある家の前がゴミの集積所となり、その家の住人が1カ月間ゴミ集積所の掃除やゴミネットの準備などを行うという。その月は、永山家が管理を担当していた。iStock.com「うちの可燃ゴミの回収日は、火曜と金曜。大半の家庭は、その曜日を守ってくれるのですが、ある家庭が回収日を無視してゴミを捨てていったんです。その日は木曜だったので、カラス避けのネットを用意しておらず、ゴミがカラスに荒らされてしまいました」 突如破られたゴミ出しルール。それとなく永山さんが近所に探りを入れたところ「永山家の斜向いの住民が、今朝ゴミを捨てるのを見た」という目撃情報が得られた。「犯人が判明し、注意するためにその家に伺いました。玄関に出てきた奥さんに、回収日を守ってほしい、とお願いすると、先方も恐縮しながら『すみません、以後気をつけます』と言ってくれたのですが……」 永山さんが直接注意を促した翌日。なんと、彼女の家の庭に見覚えのない生ゴミが投げ込まれていたという。「バナナの皮や野菜クズが庭中に散らばっていたんです。きっと昨日注意したことに対する嫌がらせだ、と思い、またすぐにその家に行きました。でも『もしかして、うちの庭にゴミを捨てましたか?』と訊いても、知らないの一点張り。これ以上問い詰めれば、ご近所関係が悪化してしまうと思い、仕方なく引き下がりました。 しかも、その後も3回ほどゴミ回収日を無視されたので、その都度注意しなければならなかったのは面倒でしたね」 ゴミが投げ込まれたのは正しい回収日の金曜だったが「そういうことではない」と永山さん。永山さんは根気強く、先方に冷静に注意を促した。ちなみに現在は、回収日が守られているという。「ゴミの投げ入れの真相はわかりませんが、やはり彼女以外考えられません。できるかぎり穏便にお願いしたつもりでしたが、何かが癪に障ったんでしょうね。気に食わないならその場で言い返せばいいのに、顔を合わせているときは恐縮しているんです。本心が見えなくて怖いです……」 持ち家の場合、たとえ近隣住民と折り合いが悪くとも、おいそれと引っ越しはできない。わだかまりが残ったまま、ご近所付き合いは続いていくのだ。自治会脱会後に起きたゴミトラブル 日本の市町村には「自治会」や「町内会」と呼ばれる組織がある。地域によって違いはあるが、複数の班で構成され、防災活動や防犯パトロール、公園の清掃など、さまざまな活動を通して、住民の交流や地域づくりを図る組織だ。そんな自治会で会長を務める園田守さん(仮名)のエリアで発生したのが、自治会員の集団脱会だった。「『自治会費を払いたくない』という理由で4班の会員が、丸ごと脱会を申し出てきました。自治会の加入は強制ではないし、そのまま脱会させましたが、抜けるにあたって『自治会のゴミ集積所は使えなくなる』という注意事項を伝えたんです。非会員がゴミを捨てると、会費を払っている住民のみなさんから苦情が来ますからね」 園田さんの地域では、自治会がゴミ集積所の管理を担っている。集積所は自治会所有の土地にあり、管理に必要な費用は自治会費から捻出しているため、非会員の利用は原則認められない、とのこと。「自治会員ではない元4班の住民たちは、ゴミ処理場に捨てに行かなければならないんです。にも関わらず、彼らはしれっと集積所にゴミを捨て続けています。自分たちの意志で自治会を抜けたのに、ゴミだけ捨てたいなんて虫のいい話はありませんよね。 彼らのゴミ出しを阻止すべく早朝から集積所に張り込んで、4班の人がゴミを捨てに来たら、そのまま持ち帰らせています」「脱会されただけでも困るのに、仕事が増えてしまいました」と、園田さんはため息をつく。自治会長と元4班の攻防戦は、今後も続きそうだ。午前5時にゴミを出したら「明け方に出すな!」 世界に比べてルールが複雑な日本のゴミ出し。加えて、ルールに厳しい住民がいる地域で、ゴミ出しルールを逸脱するとトラブルを招くきっかけにもなる。「実家の父は、ゴミの分別を間違えると『違う!』と怒りだすゴミ大臣。地元の分別が細かすぎるのもイラッとするが、それを徹底して守っている父も面倒に思う」(30代・女性)「ゴミ集積所の近くに住んでいる家の主人が、ゴミ出しルールに非常に厳しい。常に見張っているのか、気になることがあればすぐに飛んでくる。あるときは、私が資源ゴミの日に缶を捨てに行くと、ご主人が家から出てきて『今日は資源ゴミじゃないですよ!』と注意してきた。自宅に戻って日程を確認すると、やはり資源ゴミの日だったので、再度赴き、その旨を伝えると『本当だ』と言って不服そうな顔で帰っていった。我が家では彼のことをゴミ奉行と呼んでいる」(60代・男性)「ゴミ奉行」や「ゴミ大臣」など、なぜかあだ名をつけられがちな、ゴミ出しルールに厳しい住民たち。都内のマンションでひとり暮らしをしている三井俊樹さん(仮名)は、過去に「ゴミ出し警察」と激しい戦いを繰り広げたという。「僕が以前住んでいた地域では、マンションの隣で床屋を営むおじさんと、近所に住んでいるおばさんのふたりが『ゴミ出し警察』でした。たとえば、同じマンションに住むゴミ捨てルールを知らない外国人留学生が、粗大ゴミを普通のゴミと同じように捨てると、マンションの住民ではないのに大家に文句を言いに行くなど、相当アクティブな人たちでしたね。 僕の場合は、ゴミ出しの時間について床屋のおじさんに怒られたのが、ファーストコンタクト。夜中の12時頃にゴミを出したら『ちゃんと朝に出せ』と直接言われ、次は午前5時に出したら『明け方に出すな、朝に出せ!』と注意されたんです」 当時、フリーランスのデザイナーとして在宅で働いていた三井さんは、朝方まで仕事をして、午前10時に起床する生活を送っていた。そうした生活スタイルだったため、彼らが言う“朝のゴミ出し”が難しい状況だったという。しかし、連日文句を言われ、その後三井さんは週に2回の可燃ゴミの日は、朝7時に捨てるようにしたという。ゴミを開けて個人情報を特定「でも今度は、ゴミの中身に文句をつけられました。じつは『これくらいなら燃えるだろ』という軽い気持ちで、燃えるゴミの日に割れたコップやフライパンを出してしまったんですよね。 その結果、女性のゴミ出し警察が激怒。その日の夜、マンションに帰ると、部屋のドアの前に捨てたはずのゴミが置いてあったんです。ゴミ袋には、ガムテープで紙が張られていて『三井さん 不燃物は燃えないゴミの日に出してください』と、怒りのこもった文字で書かれていました」 ルールを破り、厳重注意を受けるのは仕方がない。しかし、奇妙なのはゴミ出し警察が三井さんの名前と部屋番号を把握していることだった。「おそらく、ゴミを暴いて僕の個人情報を特定したんでしょう。そのゴミの一番上に公共料金の支払明細書が入っていたので、開けて確認したのは確実。不燃物を出したのは自分の落ち度ですが、ゴミを開けるのはやりすぎじゃないでしょうか。今はもう、そのマンションには住んでいませんが、ゴミを捨てるのがストレスになって、部屋にゴミをためる習慣がついてしまいました……」 日常生活と切っても切れないゴミ出し。今年の年末は大掃除で出たゴミが、トラブルの火種にならないように注意が必要だ。(清談社)
また、ゴミ捨てに対するモチベーションにも住民間で差があり、その温度差がご近所同士のいざこざに発展するケースも少なくない。そこで本稿では、過去に“ゴミ捨てトラブル”に見舞われた人々に話を聞いた。
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永山舞子さん(仮名)の地域では、1カ月交代制のゴミ集積所担当システムを採用している。エリア内にある家の前がゴミの集積所となり、その家の住人が1カ月間ゴミ集積所の掃除やゴミネットの準備などを行うという。その月は、永山家が管理を担当していた。
iStock.com
「うちの可燃ゴミの回収日は、火曜と金曜。大半の家庭は、その曜日を守ってくれるのですが、ある家庭が回収日を無視してゴミを捨てていったんです。その日は木曜だったので、カラス避けのネットを用意しておらず、ゴミがカラスに荒らされてしまいました」
突如破られたゴミ出しルール。それとなく永山さんが近所に探りを入れたところ「永山家の斜向いの住民が、今朝ゴミを捨てるのを見た」という目撃情報が得られた。
「犯人が判明し、注意するためにその家に伺いました。玄関に出てきた奥さんに、回収日を守ってほしい、とお願いすると、先方も恐縮しながら『すみません、以後気をつけます』と言ってくれたのですが……」
永山さんが直接注意を促した翌日。なんと、彼女の家の庭に見覚えのない生ゴミが投げ込まれていたという。
「バナナの皮や野菜クズが庭中に散らばっていたんです。きっと昨日注意したことに対する嫌がらせだ、と思い、またすぐにその家に行きました。でも『もしかして、うちの庭にゴミを捨てましたか?』と訊いても、知らないの一点張り。これ以上問い詰めれば、ご近所関係が悪化してしまうと思い、仕方なく引き下がりました。
しかも、その後も3回ほどゴミ回収日を無視されたので、その都度注意しなければならなかったのは面倒でしたね」
ゴミが投げ込まれたのは正しい回収日の金曜だったが「そういうことではない」と永山さん。永山さんは根気強く、先方に冷静に注意を促した。ちなみに現在は、回収日が守られているという。
「ゴミの投げ入れの真相はわかりませんが、やはり彼女以外考えられません。できるかぎり穏便にお願いしたつもりでしたが、何かが癪に障ったんでしょうね。気に食わないならその場で言い返せばいいのに、顔を合わせているときは恐縮しているんです。本心が見えなくて怖いです……」
持ち家の場合、たとえ近隣住民と折り合いが悪くとも、おいそれと引っ越しはできない。わだかまりが残ったまま、ご近所付き合いは続いていくのだ。
日本の市町村には「自治会」や「町内会」と呼ばれる組織がある。地域によって違いはあるが、複数の班で構成され、防災活動や防犯パトロール、公園の清掃など、さまざまな活動を通して、住民の交流や地域づくりを図る組織だ。そんな自治会で会長を務める園田守さん(仮名)のエリアで発生したのが、自治会員の集団脱会だった。
「『自治会費を払いたくない』という理由で4班の会員が、丸ごと脱会を申し出てきました。自治会の加入は強制ではないし、そのまま脱会させましたが、抜けるにあたって『自治会のゴミ集積所は使えなくなる』という注意事項を伝えたんです。非会員がゴミを捨てると、会費を払っている住民のみなさんから苦情が来ますからね」
園田さんの地域では、自治会がゴミ集積所の管理を担っている。集積所は自治会所有の土地にあり、管理に必要な費用は自治会費から捻出しているため、非会員の利用は原則認められない、とのこと。
「自治会員ではない元4班の住民たちは、ゴミ処理場に捨てに行かなければならないんです。にも関わらず、彼らはしれっと集積所にゴミを捨て続けています。自分たちの意志で自治会を抜けたのに、ゴミだけ捨てたいなんて虫のいい話はありませんよね。
彼らのゴミ出しを阻止すべく早朝から集積所に張り込んで、4班の人がゴミを捨てに来たら、そのまま持ち帰らせています」
「脱会されただけでも困るのに、仕事が増えてしまいました」と、園田さんはため息をつく。自治会長と元4班の攻防戦は、今後も続きそうだ。
世界に比べてルールが複雑な日本のゴミ出し。加えて、ルールに厳しい住民がいる地域で、ゴミ出しルールを逸脱するとトラブルを招くきっかけにもなる。
「実家の父は、ゴミの分別を間違えると『違う!』と怒りだすゴミ大臣。地元の分別が細かすぎるのもイラッとするが、それを徹底して守っている父も面倒に思う」(30代・女性)
「ゴミ集積所の近くに住んでいる家の主人が、ゴミ出しルールに非常に厳しい。常に見張っているのか、気になることがあればすぐに飛んでくる。あるときは、私が資源ゴミの日に缶を捨てに行くと、ご主人が家から出てきて『今日は資源ゴミじゃないですよ!』と注意してきた。自宅に戻って日程を確認すると、やはり資源ゴミの日だったので、再度赴き、その旨を伝えると『本当だ』と言って不服そうな顔で帰っていった。我が家では彼のことをゴミ奉行と呼んでいる」(60代・男性)
「ゴミ奉行」や「ゴミ大臣」など、なぜかあだ名をつけられがちな、ゴミ出しルールに厳しい住民たち。都内のマンションでひとり暮らしをしている三井俊樹さん(仮名)は、過去に「ゴミ出し警察」と激しい戦いを繰り広げたという。
「僕が以前住んでいた地域では、マンションの隣で床屋を営むおじさんと、近所に住んでいるおばさんのふたりが『ゴミ出し警察』でした。たとえば、同じマンションに住むゴミ捨てルールを知らない外国人留学生が、粗大ゴミを普通のゴミと同じように捨てると、マンションの住民ではないのに大家に文句を言いに行くなど、相当アクティブな人たちでしたね。
僕の場合は、ゴミ出しの時間について床屋のおじさんに怒られたのが、ファーストコンタクト。夜中の12時頃にゴミを出したら『ちゃんと朝に出せ』と直接言われ、次は午前5時に出したら『明け方に出すな、朝に出せ!』と注意されたんです」
当時、フリーランスのデザイナーとして在宅で働いていた三井さんは、朝方まで仕事をして、午前10時に起床する生活を送っていた。そうした生活スタイルだったため、彼らが言う“朝のゴミ出し”が難しい状況だったという。しかし、連日文句を言われ、その後三井さんは週に2回の可燃ゴミの日は、朝7時に捨てるようにしたという。
「でも今度は、ゴミの中身に文句をつけられました。じつは『これくらいなら燃えるだろ』という軽い気持ちで、燃えるゴミの日に割れたコップやフライパンを出してしまったんですよね。
その結果、女性のゴミ出し警察が激怒。その日の夜、マンションに帰ると、部屋のドアの前に捨てたはずのゴミが置いてあったんです。ゴミ袋には、ガムテープで紙が張られていて『三井さん 不燃物は燃えないゴミの日に出してください』と、怒りのこもった文字で書かれていました」
ルールを破り、厳重注意を受けるのは仕方がない。しかし、奇妙なのはゴミ出し警察が三井さんの名前と部屋番号を把握していることだった。「おそらく、ゴミを暴いて僕の個人情報を特定したんでしょう。そのゴミの一番上に公共料金の支払明細書が入っていたので、開けて確認したのは確実。不燃物を出したのは自分の落ち度ですが、ゴミを開けるのはやりすぎじゃないでしょうか。今はもう、そのマンションには住んでいませんが、ゴミを捨てるのがストレスになって、部屋にゴミをためる習慣がついてしまいました……」 日常生活と切っても切れないゴミ出し。今年の年末は大掃除で出たゴミが、トラブルの火種にならないように注意が必要だ。(清談社)
ルールを破り、厳重注意を受けるのは仕方がない。しかし、奇妙なのはゴミ出し警察が三井さんの名前と部屋番号を把握していることだった。
「おそらく、ゴミを暴いて僕の個人情報を特定したんでしょう。そのゴミの一番上に公共料金の支払明細書が入っていたので、開けて確認したのは確実。不燃物を出したのは自分の落ち度ですが、ゴミを開けるのはやりすぎじゃないでしょうか。今はもう、そのマンションには住んでいませんが、ゴミを捨てるのがストレスになって、部屋にゴミをためる習慣がついてしまいました……」
日常生活と切っても切れないゴミ出し。今年の年末は大掃除で出たゴミが、トラブルの火種にならないように注意が必要だ。
(清談社)