ペットをテーマにした動画や写真コンテンツが人気を博す中、インターネット上では動物病院に連れてこられたペットが不安や恐怖から暴れる様子を面白おかしく紹介するような動画が問題視されている。手術後の傷口を守る保護具「エリザベスカラー」を自作する人も後を絶たないが、安全性に問題があるとして獣医師が注意喚起している。
「動物病院での治療は『エンタメ』ではありません」――こう訴えるのは、広島市の動物病院「まるペットクリニック」の院長・菖蒲谷友彬(しょうぶだに ともあき)さん。獣医師が飼い主に望むことは何か。J-CASTニュース編集部は2022年12月12日、菖蒲谷さんに取材した。
人気ペット系YouTuberが12月上旬に投稿した動画をきっかけに、SNSでは動物病院内での撮影に疑問の声が広がっている。
話題となった動画は、猫を去勢手術のために動物病院へ連れていく内容だ。診察を拒み暴れる猫をスタッフ4人がかりで押さえつける様子が写されていた。約5分にわたる動画で、撮影者が猫をなだめる様子は映像中にはなく、SNSでは「猫が可哀想」「撮影なんて普通しない」など物議を醸していた。
菖蒲谷さんもこの動画に疑問を覚えた獣医師の一人だ。取材に対し、飼い主を批判する意図はないとしながらも、怯える動物がスタッフ総出で押さえられている姿をSNSやYoutubeで公開する行為に対して疑問を感じたという。また獣医師として「自分がされたら嫌なことを動物にしない」ことを信条にしているとし、こう述べる。
菖蒲谷さんは、動物病院では多くの動物たちが「何をされるかわからない不安」と戦っているとして、飼い主にはペットを安心させる行動をとってほしいと訴える。もし定期的な通院が必要だったペットが「動物病院は嫌なところ」というイメージを持ってしまうと継続的な治療が難しくなる可能性もあると危惧する。
一方で、「動物病院がSNSに投稿することを容認していればよいのでは?」といった声もある。
菖蒲谷さんはこうした声に理解を示しながらも、「SNSの投稿を目的とした撮影、特に動物が不安や恐怖などを感じているデリケートな写真や動画の拡散は慎んでいただきたい」と訴える。
菖蒲谷さんが院長を勤めるまるペットクリニックでは、飼い主による撮影自体は禁じていない。菖蒲谷さんによれば、19年と20年に獣医師専用のコミュニティサイト「Vetpeer(ベットピア)」で実施された意識調査でも、多くの獣医師が院内撮影を容認していたという。しかし、次のようにも訴える。
そのため菖蒲谷さんは、撮影によって動物の扱いや獣医師からの説明への理解が疎かになりそうな状況であれば、撮影を控えるよう呼びかけることがあるとしている。
また撮影した動画をSNSへの投稿にすることについては、否定的なところが多いという。
「エリザベスカラー」を自作したという投稿も相次いでいる。エリザベスカラーとは、動物が傷口を舐めるのを防ぐために用いられる円錐型の保護具だ。院内での映像を公開した先述の人気ペット系YouTuberは、カップ麺の容器の底をくりぬいたものを自作しており、ファンからは「ピッタリサイズで可愛い」「オモシロいです~」といった声が寄せられていた。
しかし菖蒲谷さんは、次のような危険性を指摘する。
菖蒲谷さんも自作のエリザベスカラーを見たことがあるという。病院のエリザベスカラーが高価だというイメージが独り歩きし、費用を抑えるために自作する人がいるそうだ。
メスの避妊手術などの後に傷口を舐めることを防ぐために用いられる服「術後服」についても、自作したり、誤ったサイズを購入したりする人が多く、病院で再購入する必要が出てしまうことが多いそうだ。