「ネイルしていないと人権ない」インスタ映えの裏で“虚栄&陰湿行為“が渦巻くインフルエンサーの現実

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「ネイルしていないと人権ない」
そうつぶやいたのは、インスタグラムを中心に活動し、10万人超えのフォロワーを持つインフルエンサーの友人だった。彼女が言う「人権」とは、社会通念上での意味を指すわけではなく、普段生活する“インフルエンサー”の世界での話だ。
インフルエンサーと言っても、その世界は幅広い。YouTuberのジャンルでも、エンタメ・ゲーム実況や料理にビジネス……と、さまざまな種類があるように、SNSにおけるインフルエンサーの世界にもさまざまなジャンルがある。
中でも、いまから私が書くのはInstagramやX(旧 Twitter)を中心に、自撮りや普段の生活、コスメや美容、ファッションについて発信するインフルエンサーの世界である。
私は、日々のファッションやメイクなどを紹介するインフルエンサーとして活動している。冒頭でお伝えしたネイル以外にも、通常では考えられないようなインフルエンサー内の“さも常識”かのようなルールやマウント、一見してキラキラしたように見える世界の裏側。今回はそれらについて少し話したい。
まず「ネイルしてないと人権ない」という友人の発言だが、正直分からなくもない。インフルエンサーが集まる場は多々あり、コスメやファッションブランドのイベント、レセプションパーティーなどが多い。それらに行くと、必ずと言っていいほど出席者はつま先から指先までキレイにオシャレをしていて、ネイルをしていない人間を探すほうが難しいほどだ。
そう、ネイルはインフルエンサーの、いわば当然の初期装備。「今日はいい天気ですね」とあいさつをするように、彼女たちの初手の会話は「ネイルかわいいね」だったりする。そして「そうなの~。今回はライブに行くから推しと同じカラーにした」「〇〇ちゃんのネイルもかわいいね。どこでやっているの?」などと、互いのこだわりのポイントについて会話を交わすのだ。
ネイルをしていなければ最初の会話となる引き出しがないのだから、インフルエンサー界隈で生きる友人が、ネイルを1ヵ月未満で変える理由にも納得だ。そうなると、伸びたジェルネイルで出かけるなんて言語道断である。
ちなみに、私はネイルをしていないので「何でネイルしないの?」と聞かれる。ジェルネイルは月に一度のリペアが必要となり、ネイルサロンで1回に5千円から1万円もかかるのがためらわれるから、というのがネイルをしない理由なのだ。しかし、インフルエンサーの彼女らにとってそれは必要経費であり削るべき出費ではないので、そんなことはわざわざ言わない。「ネイルしたいと思っているんだよね~。おすすめのサロンある?」と濁して終わるのが賢明だ。
ネイルの必要性なんて、まだ序の口でかわいいものである。インフルエンサーは、SNSに載せる写真のストックを考えて、服やバッグ、お店まで選ぶ。写真として切り取る世界に、労力とお金を全振りするのだ。
例えばバッグはもちろんブランド品。インフルエンサーの世界では、ブランドバッグを持たないことは“興味がないから持っていない”ではなく、“お金がないから持っていない”なんて風に見られる。さらに、ブランドバッグひとつを使い倒していても「他のバッグは持っていないの?」と言われるのだから、たまったもんじゃない。
インフルエンサー御用達ブランドといえば、最高峰がエルメスとシャネルなら、次がディオール、セリーヌ、ヴィトンだろう。“コーチやマイケルコースは大学生まで”という認識があるため、持っている人間はほぼいない。マルジェラ、ロエベ、プラダ、グッチなどはたまに見るくらいである。
自身が純粋な気持ちで欲しいと憧れていたはずが、“みんなが持っているから”とか“持っているとかっこいいから”という他者評価に、基準がどんどんすり替わっていく。
服は、ルミネやマルイに入っているブランドが多い。インフルエンサー御用達ブランドでいえば、SNIDEL(スナイデル)(※)がいちばんメジャーではないだろうか。1着1万円を超えるワンピースをシーズン毎に3~4着は買い、それをアフタヌーンティーやレセプションパーティーのときに着る。
それ以外は格安通販サイトのSHEIN(シーイン)とGRL(グレイル)で大量に服を買い、「SHEIN購入品」「今回のGRLは当たりだった」とバズることを狙って着用し、SNSに投稿する。
ちなみに、これらの洋服は一度着るとSNSに登場することはあまりない。《またあの服着てる》なんて言われてしまうからだ。インフルエンサーたちの会話では「この前この服を着たから、もう着れない」なんて会話はざらである。そのため、クローゼットの中は“服はあるのに着る服がない”状態。そのせいか、インフルエンサーにはメルカリヘビーユーザーが多い。
遊ぶなら「写真も撮れるところ」で、映えない場所には行かない。シーズンごとに1人あたり7000~8000円くらいするアフタヌーンティーに行き、表参道のルーフトップのイタリアンでランチを食べ、銀座のカウンター寿司で一貫ずつ寿司の写真を撮ってはストーリーに載せる。
さらに言うと、フォロワーが多いインフルエンサー同士で遊ベば《〇〇ちゃんって××ちゃんと仲がいいんですね!》とファンが喜ぶので、初対面でも仲睦まじげにツーショットを撮る。
インフルエンサーは日常がどれだけSNSに利用できるか、どれだけ日常を無駄にしないかを考える。オシャレして出かけているのだから、オシャレな場所で写真を撮ってSNSに載せることができなければ意味がないのだ。
そのため、インフルエンサーと食事に行くと、口に入れるまでにかなりの時間を有する。ホテルでアフタヌーンティーをしようものなら、ロビーに入るまでの後ろ姿の動画撮影から始まる。Instagramのリール投稿用だ。
席に着いて、オシャレなティースタンドと紅茶が運ばれてきても、食べることは許されない。まずは食事だけの写真と動画、続いて自らが紅茶のカップやティースタンドに置いてあるマカロンを持ったり、いろいろなカットで写真と動画を撮影。
さらに店員さんに頼んでツーショットを収めてもらい、最後に自撮りでフィニッシュ。上手くいけばざっと30分くらいだろうか。「顔が盛れない」「この角度は微妙かも」「ケーキはこの位置じゃないほうがよくない?」となれば、どんどんその時間は延びる。もちろん紅茶は冷めるが、写真のほうが大事だ。
店員さんはどんな気持ちでこれを見守っているのだろうかと、よく不安になるが、インフルエンサーがSNSで宣伝しバズることでお店には人が押し寄せるため、意外にも対応は寛容だったりする。持ちつ持たれつの関係というわけだ。
キラキラインフルエンサーの過半数は存在しない。彼女たちが載せる現実は、努力の上に作り上げた、理想の一瞬を切り取っただけにすぎないからだ。港区女子が港区に住んでいないように、インフルエンサーも都心になんて住んでいないし、実家が太いのもハイスペ彼氏がいるのもウソだったりする。
現に、都内在住の会社員としてタワマンの写真を上げていている友人は、職場も家も埼玉だし、実家が太いお嬢様設定の友人は、キャバクラのお客さんに買ってもらったものを投稿している。さらに、『ハイスペ男子から選ばれる女性になるには』と婚活女性向けにnoteでコンテンツを売っている女性の恋人は、既婚者だったりする。現実はまったく違うのだ。
ハイブランドのバッグを持ち、オシャレな場所で撮った奇跡の一枚を載せ、本当の日常をひた隠しにし、セルフプロデュースで作り上げた自分を発信する。インフルエンサーはその世界をさも現実かのように作り上げるプロである。
何ともくだらないと思われるかもしれないが、彼女たちがそうまでしてインフルエンサーという肩書きにこだわるには訳がある。それはインフルエンサーとして有名になればなるほど、自分たちが思い描き作り上げた理想が手に入れられるからだ。
私は数年前まで、紛れもなく一般人だった。だが、一夜にしてフォロワー数が1万人を超えたことをきっかけに、右肩上がりでフォロワーが増え続け、数万人になったころには“インフルエンサー”と呼ばれるようになった。
するとどうだろう。普段お金を出して買っていたスキンケアやコスメブランドから《ぜひうちの商品を使ってください》と、コスメやスキンケア商品が大量に届くようになった。ハイブランドのイベントに呼ばれ、芸能人と同じ場所のフォトスポットで撮影してもらえるようにもなった。
シャンプーやトリートメント、カラーコンタクト、服、スキンケア、コスメなど、さまざまな商品提供をしてもらえるだけでなく、SNSにPRを一度投稿するだけで、フォロワー数×1円計算で数万円の報酬まで支払われる。
そのおかげで、SNSでの収入はあっという間に本職の収入を超えてくる。さらに、SNSのフォロワー数が増えるほどに報酬の単価も上がり収入は青天井なのだから、やらない理由も続けない理由もない。
インフルエンサーは芸能人とは違う。容姿も現実の生活も、何もかも。でも、だからこそ大衆は一般人代表としての意を持つインフルエンサーに憧れる。芸能人と比べて“雲の上の存在”ではなく、 “自分もこうなれるかも”と希望を持たせてくれるからだ。
そして、インフルエンサー自身もそれを分かっている。だからこそ、その理想を崩さないように自らを取り繕う。それが、自分たちの作り上げた理想に近付くいちばんの近道だと知っているからだ。
文・写真:佐々木梨華

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