子を手放せない親、親を放っておけない子…50代以降の“シニア婚活”に立ちはだかる「共依存」の危険性

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近年、50代、60代でも婚活している人たちが多くなっています。人生100年時代といわれている中で、1人で年を重ねていくのは寂しいと思うからでしょう。
ただ、この年齢での婚活者の結婚を阻む存在がいます。それが、高齢になっている親の存在です。ことに、婚活者が高齢の親と2人暮らしをしていると、婚活を始めても、結婚する相手よりも親を優先させてしまう傾向にあると、結婚相談所を運営する仲人である筆者はみています。これでは結婚できません。
太田みちえさん(61歳、仮名)は、93歳になる父親と2人暮らし。母は73歳のときに病気で他界しました。みちえさんが婚活を始めたのは、1年前のこと。会社を定年退職したことがきっかけでした。
入会面談で、みちえさんはこんなことを言っていました。
「会社に行っていたときは、日々やらなくてはいけない仕事があったし、『寂しい』と感じたことはなかったんですが、退職してからというもの、用事がなければ外出もしない。老いた父と話をして、その日が終わる。気持ちの張り合いがなくなったのを感じたんです」
そんなときに、「私は、あと何年生きるのだろう?」と考えたそうです。
「人って、死ぬ日が決められませんよね。母のように73歳で亡くなるなら、あと十何年ちょっとですが、父の年まで生きるなら、まだ30年以上ある。30年って、長い。父もあと何年元気でいるのか分かりませんし、一人残されたときにきっと寂しい。一緒に年を重ねていけるパートナーが欲しいと思ったんです」
こうして、始めた婚活でした。
近年、50代、60代、70代の婚活者は、年々増えています。61歳でもサイトに登録すれば、多くのお見合いを組むことができます。みちえさんも登録するや、3つほどお見合いが決まりました。ところが、日程調整をする段階になったら、こんなことを言ってきたのです。
「お相手さま、皆さん60代でもうお仕事をなさっていないようですから、お見合いはウイークデーの昼間、12時から15時の間で組んでいただけるとありがたいです。ウィークデーのこの時間帯なら、私がいないときにヘルパーさんを頼めますし、父のお昼と夕食は私が用意できますから」
そして、お見合いの日は、出かける前にお父さまが食べる昼食を作り、お見合いを終えて帰宅すると、2人で食べる夕食の支度をしていたようでした。
お父さまは、自分の身の回りのことは最低限できるのですが、食事の支度や洗濯など手のかかることはできないので、そこはみちえさんが日々担っているのです。
そのため、お見合いを終えて、男性から「よろしかったら、夕食でもご一緒しませんか?」と誘われたとしても、お断りして帰宅をしなくてはいけない。婚活相手よりもお父さまを優先させてしまうのが現状でした。
こんなこともありました。
50代以上の婚活パーティーに参加したときのことです。パーティーを終えた後に、会場で仲良くなった女性4人と「帰りにお茶をしていきましょうか」ということになったそうです。その中に、私の会員の山田ゆきさん(52歳、仮名)がいたのですが、後にゆきさんは、私に言っていました。
「駅の近くのカフェに4人で入って、その日に参加していた男性の話になったんです。『何番の人はよかった』とか、『何番の人は、年よりも10歳は老けていた』とか、いい年をして女子会トークで盛り上がりました(笑)。小一時間おしゃべりして、16時近くになったら、みちえさんはチラチラと時間を気にしだしたんです」
そして、言ったそうです。
「ごめんなさい。私、先に失礼します。父の夕食の支度があるので。夕食の買い物をして帰らないといけないし」
バッグの中からお財布を出すと、自分のコーヒー代をテーブルに置いて、足早に店を出ていったそうです。ゆきさんは言いました。
「うちはまだ両親とも健在なので、私は1人暮らしができていますけど、どちらかが亡くなって、残された方が一人では生活できないような健康状態になったら、親の面倒は私が見ないといけなくなる。みちえさんみたいな生活になったら、婚活もままならない。親が元気なうちに、結婚を決めたいと思いました」
50代、60代になったら、お相手選びがただでさえ難しくなるのに、そこに加えて「老いた親」問題も出てくる現状を、ゆきさんは目の当たりにしたのでした。
田島みなみさん(52歳、仮名)が大木しょうじさん(62歳、同)とのお見合いを終えて、「お断りでお願いします」という連絡を入れてきました。
「もうお見合いに行っただけ、時間の無駄でした」
かなり憤慨した口調だったので、何があったのかを尋ねると、みなみさんが言いました。
「ティーラウンジで、ウエイターさんに通された席に着いて、まずはお互いに簡単が自己紹介をし合ったんです。そうしたら、次に彼から出てきた言葉が『僕は、母が生きているうちは面倒を見たいので、別居婚を希望しています』って」
しょうじさんは、89歳になる母親と2人暮らしのようでした。
「話を聞いたら、お母さまはとてもお元気で、大木さんの食事の支度も洗濯もしてくれている。『生きているうちは母の面倒を見たい』っておっしゃっていたけれど、面倒を見てもらっているのは大木さんの方なんですよ。62歳になる男が、89歳の母親に身の回りのことをやってもらっているって、情けないじゃないですか?」
さらに続けました。
「これまで一度もご実家を出たことがないんですって。部屋も子どものときに使っていた部屋で、子どもの頃の学習机や本棚があると言っていましたから、典型的な“子ども部屋おじさん”。いや、“子ども部屋おじいさん”ですよね!」
しょうじさんに、「そんなにご実家の居心地がいいのに、なぜ婚活をしているんですか?」とみなみさんが尋ねると、驚きの言葉が返ってきました。
「もし母が死んだら、一人ぼっちになってしまう。身の回りのことをしてくれる人がいなくなるのも困る。だったら、今のうちに結婚相手を探しておいた方がいいんじゃないかと思ったんです」
みなみさんは、あきれたといいます。
「結婚相手を探しているのではなくて、自分の世話を焼いてくれる母親代わりの女性を探しているんですよ。さらに、実家を出る気はなくて、お母さまがいなくなったら実家を建て直すか、リフォームするとおっしゃっていました」
ご実家から一度も出たことのない人は、結婚後も実家に住みたがる傾向にあります。心身ともに自立できないままに年を重ねているのです。
「パラサイトシングル」という言葉が話題になったことがあります。社会に出て働くべき年齢になっているのに、仕事もせず、親の世話になって暮らしている人たちのことです。
今回登場した、1例目のみちえさんや、2例目のしょうじさんは、その類いとは違います。みちえさんは有名私大を卒業後、上場企業に入り、定年まで勤め上げていたので、それなりの貯金も退職金もあります。65歳からは年金もありますから、金銭的には困らないのです。
しょうじさんも同様で、現役時代は上場企業に勤めていました。高年収だったのに実家暮らしで、貯金もかなりの金額があるようでした。実際、お父さまが亡くなった後にお母さまを経済的に支えているのは、しょうじさんなのです。
2人とも、経済的には自立している。ただ、金銭的な自立と精神的な自立は、別問題です。
親御さんも元気な頃は、「早く嫁に行け」「結婚はまだなの?」と子どもの結婚を心配しているのですが、自分が老いてくると、そばにいる子どもを手放したくなくなります。また、長年一緒に暮らしていた親が弱っていく様子を見ていると、子どもも放ってはおけなくなります。知らず知らずのうちに「共依存」の関係が出来上がっていくのです。
みちえさんが言っていました。
「私が長時間家を空けたり、帰りが遅かったりすると、父が不機嫌になってかんしゃくを起こすんです。きつい言葉を浴びせてくるので、いつもけんかになります。本当に疲れる」
老いた親を抱えてのシニアの婚活は、一筋縄ではいかないのですが、それぞれに解決策を見つけながら、まずは親よりも婚活を優先させることを考えてくださいね。

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