招致を目指す2030年冬季オリンピック・パラリンピックを巡り、札幌市は「積極的な機運醸成活動の当面休止」に追い込まれ、秋元克広市長は招致の是非を問う意向調査の再実施を表明した。招致推進派からは「やむなし」との声が上がるが、調査結果によっては厳しい判断を迫られる可能性もある。意向調査再実施の決断の背景に何があったのかを探った。【高橋由衣、山田豊、谷口拓未】
「機運醸成難しい」 知事、札幌五輪招致巡り 秋元市長は20日、東京都内で開いた日本オリンピック委員会(JOC)との共同記者会見で、対象範囲を全国にまで拡大した意向調査の再実施と、積極的なPR活動を含めた機運醸成の当面休止を表明した。
「賛成」「どちらかといえば賛成」が52・2%を占めた22年3月の意向調査から9カ月以上が経過。市は当初、出前講座による市民への説明や市議会の後押しを踏まえて「民意を確認してきた」と繰り返し、そのまま活動を続ける意向だった。だが、7月以降に東京五輪を巡る汚職・談合事件が明らかになり、招致活動に対しても「逆風」が吹き始め、秋元市長は「大きく状況が変わった。改めて民意を確認する必要がある」と方針転換せざるを得なくなった。 ここに至る予兆はあった。東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長を務めた橋本聖子参院議員は12月1日、談合事件が市の招致活動に与える影響を問われ、「非常に厳しい」と発言。この頃から市関係者も「市民に説明し、民意を確認する必要は出てくる」「フェーズが変わった」などと意向調査の再実施は避けられないとの見通しを示していた。 橋本氏の発言から2週間後の15日、鈴木直道北海道知事も記者会見で「東京大会を巡る一連の問題を踏まえると、このまま機運醸成を進めることは難しい」と踏み込んだ。これまで積極的な発言を避けていた知事の発言に、市幹部は「記者会見の場で発言するとは……」と不信感をにじませた。これに対し道幹部は「知事は秋元市長の前に発言するかどうかを気にしていた。裏切ったわけでも、後ろから撃った認識もない」と釈明する。 道内のいわば「身内」からの厳しい発言の後、秋元市長は招致活動の仕切り直しを表明。招致に向けては国から財政保証を受けるため、閣議決定が必要となる。橋本氏らの発言について、ある市議は支持率が低迷する岸田政権を念頭に「国もこの状況では積極的に推進することはできないと、くぎを刺したのではないか」と真意を推測した。 6日には、国際オリンピック委員会(IOC)が30年冬季五輪の開催都市決定を23年9~10月からさらに延期すると表明。これにより時間的猶予が生じたことも秋元市長の決断を後押ししたとみられる。 五輪招致を巡っては、23年4月の市長選と市議選を念頭に置いた思惑も見え隠れする。 招致推進派が多数を占める市議会は6月、共産党や市民ネットワーク北海道が提案した五輪招致の是非を問う住民投票条例案を否決。12月13日には、議会基本条例の制定に携わった神原勝・北海道大名誉教授らが提出した住民投票の実施を求める請願を不採択とした。 請願の取り扱いを巡っては当初、招致を推進する自民党、立憲民主党系の民主市民連合、公明党の3会派間でも意見が分かれていた。最終的には、結論を次の定例会に持ち越す「継続審議」とはせず、今定例会で不採択の結論を出した。市議の一人は「継続審議にすれば、選挙直前に議会で取り上げることとなり、五輪が争点化することになった」と指摘。招致推進派の選挙戦に悪影響を及ぼしかねないとの判断も働いたようだ。 一方、秋元市長は共同会見の2日後の22日、市長選への3選出馬を表明した。再意向調査や住民投票の実施に否定的だったこれまでの態度を軟化させ、23日の定例記者会見では「できるだけ多くの方の意見を集約する方法を考える。住民投票も併せて検討していく必要がある」と発言。請願に対する市議会の対応については「もう少し議論してもよかったのではないか」とやんわり苦言も呈した。 市長選を巡っては、元市市民文化局長の高野馨氏が五輪招致反対を掲げて出馬表明している。ある招致関係者は「市長が招致活動の見直しをこのタイミングで打ち出したのは、市長選も関連しているはず。この状況で動かなければ、招致に関する論戦で不利になるからだ」と指摘した。 秋元市長は出馬会見で、再意向調査で反対が多ければ「(招致活動を)そのまま進めるのは難しい」と述べた。汚職・談合事件の捜査状況や調査の実施時期によっては招致反対が賛成を上回る可能性もある。招致推進派の市議は顔をしかめてこう語った。「結果次第では厳しい判断を迫られる。しばらくは受け身の姿勢を取るしかない」
秋元市長は20日、東京都内で開いた日本オリンピック委員会(JOC)との共同記者会見で、対象範囲を全国にまで拡大した意向調査の再実施と、積極的なPR活動を含めた機運醸成の当面休止を表明した。
「賛成」「どちらかといえば賛成」が52・2%を占めた22年3月の意向調査から9カ月以上が経過。市は当初、出前講座による市民への説明や市議会の後押しを踏まえて「民意を確認してきた」と繰り返し、そのまま活動を続ける意向だった。だが、7月以降に東京五輪を巡る汚職・談合事件が明らかになり、招致活動に対しても「逆風」が吹き始め、秋元市長は「大きく状況が変わった。改めて民意を確認する必要がある」と方針転換せざるを得なくなった。
ここに至る予兆はあった。東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長を務めた橋本聖子参院議員は12月1日、談合事件が市の招致活動に与える影響を問われ、「非常に厳しい」と発言。この頃から市関係者も「市民に説明し、民意を確認する必要は出てくる」「フェーズが変わった」などと意向調査の再実施は避けられないとの見通しを示していた。
橋本氏の発言から2週間後の15日、鈴木直道北海道知事も記者会見で「東京大会を巡る一連の問題を踏まえると、このまま機運醸成を進めることは難しい」と踏み込んだ。これまで積極的な発言を避けていた知事の発言に、市幹部は「記者会見の場で発言するとは……」と不信感をにじませた。これに対し道幹部は「知事は秋元市長の前に発言するかどうかを気にしていた。裏切ったわけでも、後ろから撃った認識もない」と釈明する。
道内のいわば「身内」からの厳しい発言の後、秋元市長は招致活動の仕切り直しを表明。招致に向けては国から財政保証を受けるため、閣議決定が必要となる。橋本氏らの発言について、ある市議は支持率が低迷する岸田政権を念頭に「国もこの状況では積極的に推進することはできないと、くぎを刺したのではないか」と真意を推測した。
6日には、国際オリンピック委員会(IOC)が30年冬季五輪の開催都市決定を23年9~10月からさらに延期すると表明。これにより時間的猶予が生じたことも秋元市長の決断を後押ししたとみられる。
五輪招致を巡っては、23年4月の市長選と市議選を念頭に置いた思惑も見え隠れする。
招致推進派が多数を占める市議会は6月、共産党や市民ネットワーク北海道が提案した五輪招致の是非を問う住民投票条例案を否決。12月13日には、議会基本条例の制定に携わった神原勝・北海道大名誉教授らが提出した住民投票の実施を求める請願を不採択とした。
請願の取り扱いを巡っては当初、招致を推進する自民党、立憲民主党系の民主市民連合、公明党の3会派間でも意見が分かれていた。最終的には、結論を次の定例会に持ち越す「継続審議」とはせず、今定例会で不採択の結論を出した。市議の一人は「継続審議にすれば、選挙直前に議会で取り上げることとなり、五輪が争点化することになった」と指摘。招致推進派の選挙戦に悪影響を及ぼしかねないとの判断も働いたようだ。
一方、秋元市長は共同会見の2日後の22日、市長選への3選出馬を表明した。再意向調査や住民投票の実施に否定的だったこれまでの態度を軟化させ、23日の定例記者会見では「できるだけ多くの方の意見を集約する方法を考える。住民投票も併せて検討していく必要がある」と発言。請願に対する市議会の対応については「もう少し議論してもよかったのではないか」とやんわり苦言も呈した。
市長選を巡っては、元市市民文化局長の高野馨氏が五輪招致反対を掲げて出馬表明している。ある招致関係者は「市長が招致活動の見直しをこのタイミングで打ち出したのは、市長選も関連しているはず。この状況で動かなければ、招致に関する論戦で不利になるからだ」と指摘した。
秋元市長は出馬会見で、再意向調査で反対が多ければ「(招致活動を)そのまま進めるのは難しい」と述べた。汚職・談合事件の捜査状況や調査の実施時期によっては招致反対が賛成を上回る可能性もある。招致推進派の市議は顔をしかめてこう語った。「結果次第では厳しい判断を迫られる。しばらくは受け身の姿勢を取るしかない」