妻を殺害した息子を手助けした母、感謝を伝えられ「おかんも救われる」 法廷でみた「被告人」の親たち

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親であれば、我が子が事件や事故に巻き込まれることがないかと案じることがあるだろう。だが逆に、我が子が他人を傷つけたり、逮捕起訴されることもある。子の行動をどう捉えるか、どこまで支えるかは、親によって様々だ。
いくつかの裁判をもとに、法廷でみた親子関係を振り返る。今回は、妻の殺害を企てた息子を止めることなく応援した母親、そして情状証人として法廷で証言した父親も驚くべき発言を繰り返した事件を紹介したい。(ライター・高橋ユキ)
慣れない法廷という場での緊張、そして子どもが逮捕起訴されたという現実を受け止める覚悟、親にもいろいろ事情があるだろう。なかには、我が子の犯行を手伝う母や、また犯行について問われ、逆ギレする父もいる。
2019年5月から千葉地裁で開かれていた裁判員裁判。被告人はその前年に、自宅で妻に睡眠導入剤入りのカレーを食べさせた後、車に乗せて首を絞め殺害。さらに母親の実家の庭で、なんと母親とともに、妻の遺体を埋めた……という殺人と死体遺棄の罪に問われていた。
被告人は法廷で「子どもが殺されると思い、守るためだった」と述べた。「普段から妻が暴力を振るい、自分は殴られていた。事件当時、生後約1歳半の娘に危険が及ぶと考えた」などとも訴えていた。
だが判決では被告人自身も妻に暴力を振るっていたこと、普段娘を世話していた妻の母親が妻の娘への暴力を確認していないことなどから「妻を殺せば妻を排除して長女の親権も得られると、計画を練り上げた」と指摘されている。
この計画を実行しようとする息子のために、全身全霊をかけて手伝ったのが母親だ。殺害前に被告人に「喉仏は苦しむから頚動脈がいいよ」などアドバイス。一緒に穴を掘る時に備え、スコップをあらかじめ購入していた。
穴を掘り終わった後は被告人の汗を拭き、麦茶を出したという。その後、被告人からLINEで感謝を伝えられると「そう言って貰えるとおかんも救われる」と返答していた。
妻の殺害を止めることなく、応援し続けた母親も母親だが、情状証人として法廷で証言した、被告人の父親も、驚くべき発言を繰り返した。
まず遺族への謝罪をしたかどうか尋ねられ「謝罪しようとしたら断られました」と返答。謝罪する気があるか再度問われると「いくら努力しても、相手が拒絶したらどうやって謝ればいいんですか!?」と突然怒り出した。さらには、
「息子はアメリカ生まれなのでパスポートがある。アメリカの市民権を取らせたい。日本では社会的制裁があり、レッテルがつくが、アメリカなら彼のためになるのでは」
などと、遺族が法廷で証言を聞いているにもかかわらず、悲しみに寄り添う発言どころか、とにかくアメリカに希望を見出している趣旨の発言を繰り返した。大人になっても子離れできない両親に甘やかされたことで、被告人はわがままに振る舞うことが当然と思うようになっていったのか。
息子である被告人とともに判決が言い渡された母親に対して、裁判長は「裁判所と裁判員からのメッセージ」を読み上げた。
「親としてどう振る舞うことが期待されていたか、自分がやらなかったことは何か、その結果、息子さんがどうなり、周囲はどんな思いになっているか……あなたは息子さんに『今回の犯行に命をかけた』と言っていたが、今度は償うことに命をかけてください」
法廷で親子の姿を見るたび、家族の形はそれぞれ異なることを実感する。
【プロフィール】高橋ユキ(ライター):1974年生まれ。プログラマーを経て、ライターに。中でも裁判傍聴が専門。2005年から傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。主な著書に「つけびの村 噂が5人を殺したのか?」(晶文社)、「逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白」(小学館新書)など。好きな食べ物は氷

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