妻の不倫を知り、36歳夫は“浅はかな方法”で復讐 「卑怯ね」と言い放たれたその後の夫婦関係は

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最近スポーツ界では「妻の不倫」が原因と見られる離婚が目立つ。
令和2年度の司法統計に、婚姻関係事件(離婚調停)の申立て動機に関するデータがある。夫側・妻側ともに「性格が合わない」というのが最も多い理由だが、「異性関係」は男女ともに総数の約14%を占めている。調停を申し立てる数そのものは妻側が圧倒的に多いものの、「相手の不貞」が離婚の動機になることには、大きな性差はないといえそうだ。
パートナーに裏切られて辛いのは男だって同じ――男女問題を30年近く取材し『不倫の恋で苦しむ男たち』などの著作があるライターの亀山早苗氏が今回取材したのは、まさにそんな思いを抱える男性だ。しかし彼が衝動的にとったある行動は、結果的に自分自身をより辛い方向に追い詰めてしまった。
夫婦の信頼関係が揺らいだときにどう振舞えばいいのか。男女ともに参考になるケースかもしれない。
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結婚したものの、妻が自分を裏切っていたとわかったとき、どういう行動に出る男性が多いのだろう。すべて知っていると告げて離婚するケースもあれば、子どものために黙って生活を続ける男性もいるのかもしれない。何が正解かはわからない。
加納奏汰さん(36歳・仮名=以下同)は、31歳のとき、同じ会社に勤める4歳年下の紗依里さんと結婚した。紗依里さんは入社したときから目立つ存在だった。
「美人なんです。それも冷たい感じではなく、親しみのある美人。綾瀬はるかさんをもうちょっと肉感的にしたような……。モテてましたよ。女性社員から嫉妬されているようだったけど、それも含めて僕が彼女を守ってやりたいと思っていた」
結婚したときは先輩から同僚まで、男性たちには「まさか彼女がおまえと一緒になるとは」と驚かれた。奏汰さんはモテ系ではなかったからだという。見た目は中肉中背だが、清潔感があって笑顔がチャーミングな男性である。それでも当時は「美女と野獣」と言われたとか。
結婚を機に、紗依里さんは退職した。「落ち着いたら仕事を探す」と言っていたのだが、その前に妊娠がわかり、奏汰さんは「こうやって家庭ができていくんだ」と心からうれしく思ったそうだ。
「ただ、紗依里はつわりがひどくてかわいそうだった。家事なんかしなくていいから、と僕が彼女の食べられるものを毎日作っていました。朝早く起きて、自分の分と彼女の昼食になるお弁当を作り、夜の下ごしらえもしてから出かける。帰宅しても彼女はほとんど横になっているだけなので、夕飯を作って。彼女は涙ぐみながら『ありがとう』と言うんです。出産までは大変だけど、なんとか体を大事にしてほしい。そう思っていました」
安定期に入れば落ち着くかと思っていたが、体調のすぐれない日が続いた。それでもなんとか出産にこぎつけ、無事に女の子が生まれたとき彼は号泣した。
「紗依里に似た美人でした。うちの両親も駆けつけてきて大喜びでしたが、紗依里の両親は来なかった。彼女の両親は離婚していて、義母は紗依里が大学生のときに再婚。その相手と折り合いが悪く、紗依里は家を出たと聞いていました。そんな境遇だから、いい家庭を作ろうといつも話していたんです」
産後は奏汰さんの母が泊まり込みで手伝いに来てくれたが、2ヶ月ほどいて帰るとき、奏汰さんにささやいた。
「あの子はあんまり信用しないほうがいいかもしれない、と。母がそんなふうに言うなら何か証拠があるのかと聞くと、『とにかくずる賢い』って。子どもにかこつけて何もしないし、それでいて1ヶ月ほど前からはひとりでふらっと出かけることも多くなったと。まあ、彼女も息抜きのひとつもしたいだろうし、とそのときは母の言葉を無視することにしたんです」
その後、紗依里さんは落ち着いて家事育児に専念しているように見えた。近所にやはり小さな子をもつ家庭が多い環境だったので、奏汰さんは帰宅すると、妻から「今日は公園に行ったの。向かいのマンションの人が仲良くしてくれた」など、いろいろ報告を受け、母の忠告などすっかり忘れた。
「ご近所さんともうまくやっているみたいだし、すっかり安心していたんです。ところが数ヶ月後、近所の奥さんに呼び止められた。『おたくの奥さん、しょっちゅう具合が悪いと言ってうちにお子さんを預けに来るんだけど大丈夫? ちゃんと病院で診てもらったほうがいいんじゃないかしら』って。その日は妻に言えなかったんですが、翌日、たまたま僕が発熱して会社を早退、帰宅すると妻がいない。生後8ヶ月の子はギャンギャン泣いている。おむつを取り替え、ミルクを与えるとようやく泣き止みました。妻が戻ってきたのは1時間後。子どもを置いてどこに行っていたんだ、と怒鳴ったらびっくりしたような顔をしていました」
ちょっと近くまでとぼそぼそ言っていたが、少なくとも1時間以上はいなかったのを奏汰さんは知っている。きちんと説明してほしいと言うと、彼女は泣きだした。
それからも紗依里さんはまったくその件を話すことはなかった。奏汰さんは子どものことが気にかかったので、しばらく母親に来てもらうことにした。それでもいいかと聞くと、紗依里さんは「どうぞ」と言った。
「どうぞってどういう意味だよとまた険悪になった。仕事をしたいなら保育園を探すよ、子どもとふたりで息がつまるなら、ときどき預けられる場所を探すよとこちらは言っているのに、妻は心ここにあらずという感じでした」
そんなとき、会社にかつて勤めていた女性が、子どもを保育園に預けることができたので契約社員として戻ってきた。彼女は、奏汰さんが紗依里さんとつきあう前に退職していたが、女子社員にあまり味方のいなかった中、紗依里さんと仲よくしていたはずだと奏汰さんは気づいた。
「彼女をランチに誘って、紗依里のことを尋ねてみたんです。『うまくいってないの? 気になってたんだけど』と彼女は意味ありげに言う。どういうことか聞くと、私の口からは言えないとずっと迷っていて……。あなたから聞いたとは言わない。このままだと僕らは離婚するしかないかもしれない。紗依里に何があったのか知りたいと必死に頼みました」
その結果、彼が聞き出したのは、紗依里さんは他部署の既婚男性とつきあっていたこと、奏汰さんと結婚してからもひとり暮らしのアパートを解約せず、その男性との関係が続いていたこと、そしてその後、転職した男性が数ヶ月前に亡くなったことなどだった。
「あまりのショックで、僕は呆然としたまま何も言えなかった。そのことは紗依里が彼女を信用して話したことで、たぶん他に誰も知らないと思うと彼女は言っていました。紗依里が僕と結婚するとき、あの男性とは切れたのかと聞いたら、もちろんと答えたけど、その後、アパートを解約せず、そこでときどき会っていると聞かされたとか。『あなたに言うべきだと思ったけど言えなかった』と謝られました」
娘は自分の子なんだろうか。奏汰さんはふとそう思ったという。目に入れても痛くない、この子のためなら自分の命も差し出せると思っていたが、他人の子でもそう思えるのか。頭がおかしくなりそうだったと、奏汰さんは顔を歪めた。
相手が生きているなら怒鳴り込むこともできるが、亡くなっているのだからそれもできない。ショックを受けている妻を責めることもできない。自分だけがどうしてこんなに苦しまなければいけないのか。奏汰さんはつらくてたまらなかった。いっそ全部、妻にぶちまけて離婚すればいいのだとは思ったが、そうまでされても妻のことは憎めなかった。
その後、1歳になった子を保育園に預けて、紗依里さんは仕事をするようになった。少しずつ、家庭は落ち着いていったものの、妻は心の内を見せることはなかった。奏汰さんはどうしても妻を許せなかった。憎むことはできない、だが許すこともできない。常に心が切り裂かれるような状態だった。
「妻には何度かカマをかけましたよ。何か言いたいことがあるのではないか、と。でもそのたび妻は何もないしか言わない。結局、僕は仕事に逃げました。娘はかわいかった。自分の子でないとしても、かわいいと思えるのがありがたいような気持ちでした」
仕事に逃げながら、彼には「妻に復讐してやりたい」気持ちが芽生えていった。妻から事実を聞き出せないこと、自分がそこを追求できないことがストレスになって、「どうかしていたんだと思う」と彼は言う。
「ある日、保育園に子どもを預け、妻が出勤していった時間に自宅に戻ったんです。その日は代休をとっていたけど、妻には言わなかった。妻がその日は早めに帰宅するのがわかっていたので、その時間を見計らって風俗の女性を呼びました」
ごく普通の地味な女性を頼んだ。何もしなくていい、一緒にベッドにいるだけでいいとチップをはずんだ。彼女はにこっと笑った。その笑顔をかわいいと彼は感じたという。
「裸でベッドに潜り込んでいるとき、妻が帰ってきました。着替えるために寝室に来るのはわかっていた。妻はドアを開けてクローゼットに直行、その途中で僕らを見つけてキャーッと叫んで座り込みました。僕は女性に『帰っていいよ』とささやき、彼女はあわてて服を着ていた。妻は彼女をぼんやり眺めていました」
彼女が出ていくと、妻は黙って立ち上がり、玄関に鍵をかけにいった。戻ってきて、ようやく「どういうこと?」とつぶやいた。
「きみの秘密を知ってしまったから、僕は仕返しをしたかったのかもしれない。そう言いました。本心でしたね」
紗依里さんの顔色が変わった。怒るかと思ったが、彼女はしばらく黙っていた。そしてようやく口を開いた。
「卑怯ね、と。妻はそう一言だけつぶやくように言って僕を冷たい目で見ました。彼女の美貌は衰えていないから、虫でも見るかのような目で見られると体がすくむ。怖いけどきれいだったというか……」
妻を失いたくないと思った、と奏汰さんは言う。ひどいことをされて、ひどいことを仕返しして、それでもまだ別れたくないとは。
「別れたくはないけど、きみを許せないんだ。僕はどうしたらいいんだろう。そう言いました。先に白旗を揚げたようなものです。すると妻は、『私にもわからない』と。こういうやりとりの間、僕は今にも泣きそうな状態なんですが、妻は絶対に泣かないんです。強い女だなとつくづく思います。強いというより、愛情を信じていないというか、どこか心がこわばっているというか。彼女の不倫相手、つまり亡くなった恋人は、彼女を包み込んで愛したのかもしれませんね。二回り以上年上だったから、彼女は父親的なものも感じていたのかなあ。僕に対しては、彼女はまったく素直じゃないし、いつもどこか客観的に見ていて本音を出さないんです」
結局、そのときも彼女は本音を言わないままだった。どうしたら心を見せてくれるんだ、と奏汰さんは妻にすがった。妻は彼の手をやんわりとはねのけた。復讐などという浅はかな行為に出た自己嫌悪だけが募っていった。
結婚して5年、娘はもうじき4歳になる。はたから見たら、ごく普通の家族だろう。だが、夫と妻が心を割って話すことはない。
「まったく言葉を交わさないわけではないんです。娘と3人で食卓を囲んでいるときは、妻も『パパ、おしょうゆとって』とか言っていますよ。おそらく子どもが不自然だと感じないようにしているんでしょう。ふたりきりのときも、言葉のやりとりはなくはない。でも決して『会話』ではないと僕は感じています。妻は娘と一緒に寝ていることが多いのですが、娘が早く寝ついたときは、夫婦の寝室にやってくることもあります。ただ、シングルベッドを離して置いているので、妻は壁側に顔を向けて僕のほうを見ようとはしませんが」
コロナ禍で奏汰さんは出社していない時期があった。紗依里さんはずっと出社していたので、娘とふたりで過ごした時間は長い。娘が自分の子かどうかはわからないが、成長を見守ってきた娘とは離れられないと確信している。
「たとえ離婚しても、妻は行くところがない。ひとりで娘を育てていくのはむずかしいでしょう。僕も妻を追い出そうとは思ってない。できれば本音をぶつけあいたいけど、紗依里が応じないのもわかっている。冷たいとまではいかないけど、夫婦関係はかなり低い温度のまま固まってしまったような気がします」
奏汰さんが女性を家に入れてベッドで横たわっているのを見たあとも、妻は責めるような言葉は吐かなかった。説明も求めなかった。奏汰さんとしたら、怒りにまかせて妻が本音を叫んでくれればよかっただけなのに、妻は同じ土俵に立ってはくれなかったのだ。
「日常生活は滞りなく進んでいます。娘の保育園の行事があれば、なるべくふたりで行くようにしているし。夫婦ってこんなものだと思ったほうがいいんでしょうか。それとも他の家庭は、もっと心をさらけ出して語り合っているものなんでしょうか」
私はこの日、奏汰さんと居酒屋で話をした。帰宅するのはたぶん22時頃になるだろう。こういうときは、妻はすでに娘と一緒に寝ていることが多いらしい。
「僕は帰宅して洗濯機を回して、少しテレビでも観て風呂入って寝る。そんな感じですね。娘が大きくなるころには、どういう関係になっているのかなと思うこともあります」
妻からも夫からも、離婚という言葉は一度も出ていない。心がすれ違っているのを自覚しながらも、実はお互いを求めているのではないだろうか。
「僕はそうですが、妻はそうは思ってないんじゃないかなあ。他に居場所がないからここにいるだけ、娘を育てることが自分の仕事と割り切っているようにも見える。ただ、いつも思うんですよ。僕はとても寂しい。彼女は寂しくないのかな、と」
聞いているだけでせつなくなってくるような話だ。紗依里さんが悪いと今さら責めても意味がない。どんなに親しくても、他人の心のうちを勝手に見ることも理解することもできないのだ。わかってほしい、わかりたいと相互の思いが一致して初めて、人は人をほんの少しだけ理解できるものかもしれない。その根本的なところがこれほどずれていたら、この先が不安に感じられるのも当然だろう。
いつも心が重たい。いつになったらすっきりするのだろうと思うものの、すっきりできる日など来ないのかもしれない。奏汰さんはそう言って、足を引きずるように去って行った。
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“高嶺の花”との幸せな家庭生活から一転、奏汰さんの人生には暗雲が立ち込めてしまっている。パートナー選びを間違えたと言ってしまえば簡単だが、娘がいる以上、自分のことだけを考えてリセットすることもできない。
奏汰さんはどう振舞えばよかったのだろうか。広い心で紗依里さんのすべてを受け入れればよかったのか、それとも “妻として不適格”と判断し、早々に関係を清算すればよかったのだろうか。生後数か月の幼子を放置していた事から察するに、紗依里さんは案外簡単に子供を手放し、父娘ふたりでやっていけたのではないか。
だが、そのどちらも選べず、奏汰さんは事実上崩壊している家庭生活を5年続けている。いまも妻を「美人」と評する彼は、おそらく、心のどこかで紗依里さんを諦めることができないのだろう。
奏汰さんのこの先は紗依里さんの手に握られてしまっている。が、彼女が何を考えているのか原稿から読み取ることは難しい。亀山氏は「実はお互いを求めているのでは」と推察しているが、もし、仮にふたたび裏切られるような真似をされたら、そのとき奏汰さんはどうするのだろうか。
亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。
デイリー新潮編集部

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