鉛製給水管、知らぬ間に血中の鉛濃度が平均の100倍に…中毒に苦しむ男性「まさかと思った」

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健康被害が懸念されながら全国にいまだ約200万件も残る鉛製給水管(鉛管)。
国が「早期ゼロ」を掲げて20年が経過したが、個人の費用負担や周知不足などの課題が撤去の進展を阻んでいる。自宅の水道水が原因で鉛中毒になった男性が読売新聞の取材に応じ、日常生活で知らぬ間に健康をむしばまれた悔しさを訴えた。(相良悠奨)
「『まさか』と思った。日本の水道水は安全だと信じていたから」。1月下旬、山口県の30歳代男性は車いすに乗ったまま語った。山口市に住んでいた2017年末、体調に異変を感じた。吐き気や下血、倦怠(けんたい)感が続き、年明けには立ち上がれなくなって入院した。
原因の分からない体調不良が続く中、病院は症状から鉛中毒を疑った。ただ、近年の症例は少なく、可能性は低いとみられた。念のため血中の鉛濃度を調べると、平均値の約100倍もの鉛が検出された。
原因は自宅アパートの水道水だった。同市上下水道局がキッチンや洗面所の水を検査すると、最大で基準値の40倍を超える鉛が出た。15年に入居後、水道水を毎日数杯飲んでいた。妻と幼い娘2人に症状は出なかったが、治療中も40度の高熱や全身の痛みが続いた。「『もう死ぬのかな』と思うほどつらかった」
退院後も両手のしびれや倦怠感などに悩まされた男性は、アパートの大家に損害賠償を求めて山口地裁に提訴した。地裁は22年10月の判決で「症状は水道管から溶出した鉛に起因する」と認め、大家側に約700万円の支払いを命じた。
宅地建物取引業法は不動産売買や賃借契約の際に重要な事実の告知を業者に義務付けているが、ある不動産業関係者は「水道管の材質まで説明する例は聞いたことがない」と話す。
山口市は使用世帯に交換を呼びかける戸別訪問を行っていたが、男性は市や大家側から説明を受けたことはなかった。市の担当者は「建築時に提出された図面に鉛管があるとの記載はなかった。事案の把握後に管理会社に居住者への周知を促した」とする。
水質や衛生管理に詳しい国立保健医療科学院の浅見真理・上席主任研究官(水道工学)は「(水道水が原因の鉛中毒は)国内でも珍しいが、表面化していない事例が他にもある可能性はある」と指摘する。
水道事業に詳しい北海道大の松井佳彦・名誉教授(環境リスク工学)の話「鉛管の交換は大きく進んでいるとは言えず、残存状況を把握できていない自治体も多い。費用の補助制度の導入も小規模な自治体ほど難しい。国が改めて交換の必要性を強く周知したり、手引を更新して事業者に配布したりして機運の醸成を図るべきだ」

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