2024年のテレビを取り巻く世界には、大小さまざまな動きがあった。
長寿番組「行列のできる相談所」(日本テレビ系)の終了が報じられたほか、藤原紀香さんらが所属する芸能事務所の破産手続きが開始されたことも話題になった。
テレビ業界の新陳代謝が急速に進んでいる。このような動きを敏感に察知した動きが求められる。逆に言えば、察知できなければ淘汰される。そして、すでに取り残された者も少なくない。
長寿番組の終焉の背景には「テレビにしがみつく者」と「テレビを見限る者」の動きが関係している。今年のテレビ業界を占いたい。(テレビプロデューサー・鎮目博道)
とある老舗の大手番組制作会社の内部事情を聞いて驚いた。2024年になって受注業務量が大幅に減少したという。
社内には「このままでは潰れてしまう」という衝撃が走り、急きょ社員を集めて経費削減などの対策を話し合い、家賃負担を減らすためのオフィス縮小、社員の通勤定期の費用支給撤廃などを決めたそうだ。
これほど困窮したのは、長年にわたり制作を担当した長寿番組が次々と終了してしまったからだ。
テレビ番組の制作会社の多くがピンチに陥っている。その多くは、放送局と資本関係を持たない「独立系」の制作会社だ。老舗で大手の会社ほど追い込まれているとみられる。その原因は、私の目には「テレビへの依存度が高いから」のように映る。
これまでテレビ局からの発注は定期的にそれなりの数が見込まれてきた。それが極端に減少すれば、経営が立ち行かなくなる。
あえぐ制作会社は大胆なリストラに踏み切ることも、新規事業に舵を切ることもできない。「家賃と交通費を削減」などの場当たり的な方策がせいぜいだ。
社員の高齢化が進み、「口は出すが体は動かないベテラン」たちを、少ない若者の稼ぎでなんとか食わせていくしかない状況だ。
一方で、非常に好調な番組制作会社もある。M&Aによって、多くの制作会社を傘下に収めて事業を拡大し、いまや東京キー局より多くの新卒採用数を誇る。
先に紹介したようなピンチにあえぐ会社との違いはどこにあるのか。
テレビへの依存度の低さである。会社の一部門としてテレビ番組制作も維持しているが、ゲーム・ウェブコンテンツ・映画など映像産業全般に業務範囲は及ぶ。会社としては新しく、社員も若くて機動力がある。
テレビの制作をやめないのは、ある意味、企業としての信用度を高める「会社の看板」としての意味合いが強いのではないか、と聞いたことがある。決して「テレビ制作にしがみついている」わけではないのだ。
2025年、テレビ業界はまず間違いなく大きな変革期を迎える。そして、私はそのキーワードは「テレビにしがみつく者と、テレビを見限る者が明暗を分ける」ということになると考えている。
「テレビ制作にしがみつく制作会社」が窮地に追い込まれている現状を紹介したが、これと同じことが関係各所で起きている。
まずは芸能事務所だ。2024年は本当に数多くの芸能事務所と番組制作会社が倒産した。番組制作会社の倒産数は過去最多。そして芸能事務所の倒産は過去5年で最多だという。藤原紀香や篠田麻里子が所属する「サムデイ」が11月に破産したのは記憶に新しい。
タレントと経営者、そのどちらもが「古き良き20世紀」に活躍した世代を中心としていて、かつての芸能界を背負ってきたような会社が淘汰されつつある。
テレビ出演を中心にビジネスを回してきたような「テレビにしがみつく芸能事務所」が消え始めている。一方で、配信・ウェブやSNSなどがビジネスの主体になっているような新しい芸能事務所は、順調に業績を伸ばしているのだ。
実はこれまで紹介してきた現象が多発する背景には「テレビの長寿番組の終了」が大きく影響している。
2024年に終了、あるいは終了が発表された「お馴染みの番組」の名前を、みなさんもいくつも言えるのではないだろうか。番組を支える出演者・制作者・企画内容などの経年劣化が激しくなり、耐用年数をとっくに過ぎてしまったような番組が終了を決めた。
この傾向は2025年になると、さらに激しくなると私は見ている。これまでテレビ各局は、本来なら終わらせるべき番組を騙し騙し延命してきたからだ。
テレビ業界そのものが老朽化し、新しいヒットの兆しが見えない中、ここのところの新番組はほとんど失敗に終わってきた。鳴り物入りで始まっても、数字が取れない。
視聴者の高齢化もあって「見慣れたお馴染みの番組」のほかは見ないという保守的な視聴習慣がトレンドとなっているからだ。「もうボロボロの番組でも、新番組をやってズッコケるよりはマシだ」として老舗番組を継続させてきたのだ。
しかし、それもほぼ限界にきている。今後一層「お馴染みの長寿番組」は次々と終了していくしかない。
ただ、そうはいっても「テレビの次なるヒットの法則」は多くの人に見えてこない。面白いコンテンツは次々と、NetflixやAmazonプライムなどの有料配信にしか生まれなくなってきている。
能力のある著名な制作者や制作会社はテレビを見限って配信へと主軸を移し、そればかりかテレビ局自体も配信コンテンツの制作に主軸を移している。
「テレビを見限ったテレビ局が勝ち組になる」という皮肉な事態は目の前に迫っている。
さらに事態が深刻さを増しているのは地方局だ。
11月には、日本テレビ系列の「札幌テレビ」「中京テレビ」「読売テレビ」「福岡放送」の4局が、2025年4月に持ち株会社の元で経営統合することを発表した。
これも「このままでは地方局は遅かれ早かれ破綻する可能性が高い」ことを見越した日本テレビ系列の英断であると考えてよいと思う。
地方局として放送を続けるには、一定の規模感を保ちながら「テレビを見限って新規事業に打って出る」しか道がないという判断なのだろう。
あらゆる「テレビ業界に関わるプレイヤー」たちにとって、2025年は大きな変革期となる可能性が高い。大胆に変革しないものは退場を求められ、番組や業界のあり方も大きく変わるはずだ。
これはある意味、視聴者にとっては良い変化となるのではないかと思う。いや、むしろそろそろ変革を起こさないと、業界全体が沈没していくしかないところまで追い込まれている。
それはまるで、あたかも今の日本社会の置かれている状況をそのまま縮小コピーしたような状況とも言えそうだ。