大分に住む占い師のTERUさん(男性、49)。週3日、透析治療のために仕事を空け、朝7時すぎから病院に向かう。慢性腎不全により腎臓の機能が低下し、排尿が思うようにできないため、血液を体外に取り出し、血中の老廃物や水分を人工的に除去。そして再び体内に戻すのが透析治療だ。
【映像】65.6kg→62.8kgに 透析を受ける様子
TERUさんの場合、体に余分な水分のない適正体重が62.6キロ。今回オーバーした約3キロが、2日前の透析から排尿できず、体内にたまった水分となる。血液を浄化しながら、3キロの水分を抜くのにかかる時間は約4時間。「これをやらないと確実に死んでしまう。命をつなぐ行為」。食事の際には、カロリーや塩分にも気をつけるようになった。
透析を始めたのは4年前、なんとなく体調が良くない日が続いていた時だった。「いよいよ仕事ができないなと。病院の診察を受けたら、医師が慌てて僕を横にさせて、『末期の尿毒症。このまま放置していたら2週間ももたない』と言われた」。直ちに入院するも、すでに腎臓は機能していなかった。透析を始めてからの生活は「正直なところ怖さはある。死をよりリアルに、背中合わせに感じるようになった」という。
透析を必要とする人は日本国内に35万人ほど、患者数の人口比で世界3位の“透析大国”だ。しかし、理解不足から患者への偏見も多く、“透析=生活習慣病や糖尿病”というイメージも見られる。『ABEMA Prime』では当事者とともに、どうすれば患者への理解が広がるのかを考えた。
透析患者に向けては「自業自得」といった声も向けられる。しかし、透析をしている弁護士のMiiさん(女性、30代)は「『透析に至るような人は自堕落な生活をしていた』というスティグマ(偏見・差別)が大きいのが、一番問題だ」と語る。
Miiさんの病名は、尿細管間質性腎炎。20代前半で、原因不明の高熱が不定期に続き、健康診断で腎機能の低下が判明した。その後は10年以上、定期検診を行いながら経過観察していたが、3年前に透析治療を開始。毎週月、水、金曜日の午前中に約3時間行っている。
生活においては「そんなに困っていないが、現役世代で仕事をしているため、時間調整に気をつかう」という。「透析も週5回仕事に行くのと同じで、週3回病院に行くスタンスで、今のところは通えている」。
SNSには、まったくのデタラメも流れているそうだ。「『透析患者に使われるから献血に行きたくない』と言う声がけっこう見られるが、前提知識の誤り。私たちは輸血してもらっているわけではない」。
その上で、「私は糖尿病などではないため、『Miiさんは自分のせいじゃない』と言われることが多い。ただ、自分だけが安全地帯にいたいわけではなく、同じ透析患者が偏見にさらされている現状をなんとかしたい」と訴える。
日本腎臓学会の前理事長であり、川崎医科大学 高齢者医療センター 病院長の柏原直樹氏は、偏見の要因として「知識不足と寛容のなさ」を挙げる。「腎臓病になれば、食事療法と生活管理が必要になる。うまくいかなければ腎機能の低下が加速することは事実だが、それが主な原因にはならない。糖尿病の場合も、同じような食生活や運動不足をしている人が、同じように発症するわけではない。遺伝的な要因などもあり、自分でコントロールできないもの。偏見の対象になってはいけない」。
中には「健康リテラシーがない患者」がいるものの、「できない理由がある人もいる」という。「自堕落と思われるような生活にも、何かしらの要因がある。そこを見ずに、勝者の論理で『自己責任だ』と決めつけるのは良くない」と語る。
Miiさんも「外部から『100%自己責任だ』と断定できる糖尿患者はいないのでは」との考えだ。「遺伝などの要因があるなかで、『自己責任だ』『悪くない』と区別することは誤りに近い発想」。偏見の解決策として、「『生活習慣病』のネーミングを改めるのはどうか。現状は“生活習慣がダメだった人”への烙印になってしまっている。『生活習慣に気をつけよう』とする指針は正しいが、それが結果を100%コントロールするものではない」と提案した。
全国腎臓病協議会によると、透析にかかる費用として、外来血液透析の場合には約40万円/月がかかり、自己負担は1カ月1万円が上限となる(一定以上の所得のある人は2万円が上限、自治体により異なる)。また厚生労働省によると、腎不全患者の医療費総額は、年間約1兆6000億円で、全医療費の約5%にのぼる。
パックンは、「『健康でいる努力を怠った人に税金を月40万円かけている』という批判は、すべてが偏見ではないかもしれない」と持論をぶつける。「家を建てる時には、周りに燃え広がらないように防火性の高い建材を使うよう、建築基準で定められている。同じように『社会保障の対象にならないような生活をおくって』という基準を定める議論があってもいいのではないか」。
これに柏原氏は「アジアのとある国では、腎不全になっても7人に1人ぐらいしか透析を受けられず、その他の人は亡くなっている。日本は、腎不全になっても公的な医療費で長生きできる、ある意味非常に幸せな国になった。ここには患者会の努力があり、勝ち取った権利を大事にしたい」と返した。
透析患者の緩和ケアとして、CKM(保存的腎臓療法)に注目が集まっている。日本腎臓学会などの情報によると、末期腎不全の患者が透析や移植を選択しない、透析を中止したい場合に、身体的・心理的苦痛の軽減のために実施される保存的な治療を指す。
透析は延命治療なのか。パックンは、「“延命治療”と聞くと酸素吸入器などをイメージするが、それとは違うのではないか。僕の知り合いの糖尿病患者も、インスリン注射をしないと命に関わるが、延命治療とは言わない。『僕の生活スタイルだ』と主張している」と投げかける。
一方で、Miiさんは「“延命治療”だと思っている」立場だ。「透析しなければ2週間程度で終わる命を、数珠つなぎのように延ばしてもらっている。若い世代で透析を始めれば、20~30年と仕事を続けられる人もいる。社会保障として、とてもありがたく感じている」と感謝する。
柏原氏は今の取り組みとして、「高齢化や合併症により、血液のシャント(動脈と静脈をつなぎ合わせた血管)が閉塞するなど、透析をやめなければいけない、もしくはやめたい人がいる。そうした人々への緩和医療として、CKMのマニュアルやガイドライン作りを行っている」とした。(『ABEMA Prime』より)