11月下旬、人気アイドルグループ・嵐(活動休止中)のメンバー、大野智さんが薬物事件に関与したとの偽情報がXで拡散しました。これを受け「STARTO ENTERTAINMENT」は11月30日、公式サイトで「虚偽の内容の記事・投稿の事実を強く否定するとともに、これらの悪質な記事やSNSの投稿に対し、名誉毀損行為として法的措置をとる」と明らかにしました。
Xでは、あるインフルエンサーが「未確認情報」としつつも、薬物事件に関与し「逮捕の話が上がってる」と投稿したほか、他のユーザーからも同様の投稿が相次ぎました。このインフルエンサーはその後投稿を削除し、「ご本人、関係者の皆様、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」と書き込んでいます。
しかし、この問題の投稿は瞬く間に拡散され、それがさらなる憶測や書き込みにつながっていきました。
このように、未確認にもかかわらず本人の名前を出して犯罪に関わったことを匂わせる書き込みをネット上にすることはどのような法的問題があるのでしょうか。また、そうした未確認情報を第三者がリポストするなど、拡散する行為自体も罪に問われないのでしょうか。
1)SNSの投稿が刑法上・民法上の「名誉毀損」となるおそれ 2)リポストも、刑法上・民法上の名誉毀損となるおそれがある
今回問題になっている投稿は、刑法上(刑法230条)・民法上(民法709条、710条)の名誉毀損にあたる可能性があります。まず刑法上の名誉毀損罪から検討していきます。
刑法230条は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。」と規定しています。「公然」「事実を摘示」「名誉を毀損」という要件にあたれば、名誉毀損罪が成立します。
「公然」とは、不特定または多数人が認識しうる状態のことをいいます。本件のようなSNSでの投稿は、不特定・多数いずれの要件も満たしており、問題ないでしょう。
「事実を摘示」の「事実」とは、人の社会的信用を低下させるに足りる事実のことをいいます。「大麻取締法違反」とか「逮捕の話が上がってる」という事実は、犯罪を行ったという事実ですから、この要件を満たすことも問題ありません。
なお、「噂がある」と付け足せば、名誉毀損罪にならないのでは?と言われることがあります。事情によって名誉毀損罪にあたらない場合(「事実の摘示」とはいえなくなる場合)はあるでしょうが、本件のようなケースでは、噂の形をとってはいても、結局伝えたい内容は、「噂がある」ということではなく、大野さんが大麻取締法違反という事実そのものでしょうから、名誉毀損罪は成立すると考えられます。(東京高判昭和41年11月30日参照)
これらにより、大野さん(=「人」)の「名誉」が毀損されたことについても問題はないでしょう。
以上より、本件SNSの投稿は、名誉毀損罪の客観的構成要件を満たしています。
もっとも、本件SNSの投稿は、未確認情報、すなわち大野さんが大麻取締法違反という情報を真実だと信じて投稿したものかもしれません。このような場合、名誉毀損罪は成立しないのではないかが問題となります。
この点については、刑法230条の2(真実であることを証明した場合には、名誉毀損罪で処罰されないという規定)との関係もあって細かい議論はあるのですが、1)公共の利害に関する事実について,2)主として公益を図る目的で表現行為を行った場合に、3)「確実な資料、根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り、名誉毀損罪は成立しない」と考えられています。(最判平成22年3月15日)
本件では、2)公益を図る目的も怪しく、3)「確実な資料、根拠」があったとは到底いえないでしょうから、名誉毀損罪は成立すると思われます。
次に、民法上の名誉毀損(民法709条、不法行為)が成立するとして、損害賠償請求が認められるのか、も問題となります。
本件SNSの投稿は、不確実な情報に基づいて大野さんを犯罪者呼ばわりするものですから、不法行為の要件を満たすことには特に問題はないでしょう。
なお、民法上の不法行為は、過失によるものでも成立しますから、刑法上の名誉毀損罪よりも成立の範囲は広いと考えられます。
また、刑法と同じように、名誉毀損にあたる行為であっても、例外的に不法行為とならない場合もありえます。
具体的には、1)公共の利害に関する事実について,2)もっぱら公益を図る目的で表現行為を行った場合に、3)事実が真実であるか、もしくは事実が真実でなくても、行為者においてその重要部分について真実と信ずるについて相当の理由がある場合には、故意・過失がなく、不法行為が成立しないとされています。(最判昭和41年6月23日等参照)
しかし、本件SNSの投稿について2)のもっぱら公益を図る目的だったとか、3)の「重要部分について真実と信ずる」=大野さんが大麻取締法違反と信じることについて相当の理由がある、というのは、少なくとも現時点で判明している情報を元にした場合には考えにくいように思います。
次に、この未確認情報を第三者がリポストして拡散する行為も、そのリポスト自体が上で説明した名誉毀損罪(刑法230条)や、民法上の名誉毀損(民法709条)の要件を満たす場合には、罪に問われたり、損害賠償請求をされる可能性があります。
単にリポストしただけでは、リポストした人が事実を摘示したわけではなく、元の投稿者が名誉毀損にあたるだけなのでは?とも思えます。
しかし、裁判例では、このような場合にも民法上の名誉毀損が成立するとして、不法行為に基づく損害賠償を認めています。
その理由についてはいくつか考えられます。リポストにより権利侵害が増大していくという実質的な考慮もあるでしょう。また、リポストした人が仮に、元の投稿と反対の意見を持っていたりすれば、その意見をつけてリポストするはずであって、何らのコメントも付加しないでリポストした場合には、当該元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為であると考える裁判例もあります。(大阪地裁令和元年9月12日や、東京地裁令和3年11月30日参照)
いずれの考え方にせよ、リポストした人自身が、単にリポストしただけでも名誉毀損となる場合もあるので、十分注意が必要です。
今回のケースでは、STARTO社も大野さんの件では名誉毀損行為としての法的措置をとることを、また、他のタレントに関しても誹謗中傷投稿に対しては法的措置を含めた厳格な対応を行うことを発表しています。
簡単に投稿できてしまうSNSですが、投稿された側の被害は甚大なものになります。 安易な書き込みをしたり、リポストをすることで、刑法上・民法上の責任を問われるおそれがあることにくれぐれも注意すべきだと思います。
(弁護士ドットコムニュース編集部・弁護士/小倉匡洋)