積極的な情報発信により業界でも目立った存在であった「退職代行モームリ」が、先月11日、従業員に初めて退職代行を使われたことをX(旧Twitter)に投稿した。同投稿は現在までに1.1万のリポスト、4.5万のいいねを記録。「事実を隠さず発信しているのはスゴイ」「ミイラ取りがミイラになった」など、賛否両論のコメントが寄せられている。
今回、自身が初めて退職代行を使われる側になってみて、退職代行モームリを運営する株式会社アルバトロス代表取締役・谷本慎二氏(34歳)は何を思ったのか? 約1時間の取材の中で明らかになった「本音」とは……。
聞き手:佐藤大輝(ブラック企業と2回裁判した人)
ーー御社の従業員が退職代行を利用した経緯について教えてください。
前職辞める時にモームリを使ったアルバイトの子(20代)が、ウチの会社ではない退職代行業者を使って退職しました。その方は1ヶ月間ほど在籍して、出勤日は数回でした。
ーー御社の公式YouTubeを拝見しましたが、その方の退職理由は「業務的にもスピードをかなり意識して行う部分が自分の性格と適性に合わず、新しいところに転職をしたかった」だそうですね。
仰る通りです。実はその方が辞める1週間から2週間ほど前、総務担当者と面談する機会があったんです。体調不良で休みがちだったため、担当者から「体調大丈夫?」「もしかして退職を考えている?」などの声をかけました。その方は「ただ体調が良くないだけで、全然辞めたいとか思ってないです」と言っていたそうで……。結果的に、その面談日が最終出勤日となりました。
ーーこれまでにも短期間で辞められた方はいたのでしょうか?
過去にも働き始めてから1ヶ月くらいで辞めた方がいました。弊社の採用方針として、ヤル気のある方は「来るものは拒まず」の精神で積極的に採用していることもあり、どうしてもミスマッチが生じてしまう部分があるのだと思います。
ーーXのコメントを見る限り、「辞めた従業員を晒すのはかわいそう」といった声もあるようですが……。
投稿前から賛否両論あることは予想していたんです。けれど、あらゆることをきちんと開示する「透明性」をウチの会社は売りにして、ここまでやってきました。なので今回、退職代行を使われたという(一般的なイメージとして)ネガティブな事実についても、隠さずに開示すべきだと考えました。もし今回の事実を隠して、後から明るみに出た場合、絶対にそっちのほうが叩かれるとも思ったんです。
ーー退職代行を利用されたと知った時、率直にどのような気持ちが生まれましたか?
本当に驚いたし、ついに来たかという感じでした。ある程度、覚悟はしていたんです。ウチの会社が退職代行業者である以上、従業員は100%退職代行について理解があるわけで、いつかは使う人が出てくるだろうなって。なので、その時にウチの会社に非があると言われないよう、経営者として努力しなきゃなって。今回の退職理由はセクハラやパワハラなど、企業側に原因があるものではなかったので、そこはちょっとホッとしてます。
ーー過去にマネー現代で取材した際、谷本社長は「もし従業員が退職代行を使って会社を辞めても、引き留めはしない」と仰ってました。今回実際に使われてみて、考え方などに変化はありましたか?
去る者は追わずの精神は変わってません。今回の退職理由に関しても、職場でのスレ違いが原因の退職は、どうしても起きてしまうものであり、「仕方がないかな」と割り切ってる部分もあります。
もちろん今回の件をキッカケに、自分の気持ちを発信するのが苦手な社員に対しての接し方。ここは企業として考えていかなければいけません。今以上にアンテナを張って、従業員と面談する回数を増やしたり……。
それとこれはどこの会社でも同じかもしれませんが、社員とアルバイトの間で「会社への帰属意識」にちょっと差を感じてるので、ここも改善していきたいです。やっぱり辞められると悲しいですし、みんなには長く楽しく働いてもらいたいので。
ーー今後の採用において、「過去に退職代行を使った社員は雇わない」などの対策は考えていますか?
まったく考えていません。今ウチの会社には、過去に退職代行を使ったことのある社員が何人も在籍してて、みんな頑張って働いてくれてます。
よくメディアなどでは「退職代行を使う社員はダメな奴だ」みたいな風潮がありますけど、全然そんなことないですよ。採用に携わった方なら経験があると思いますが、この人は大丈夫かなと思いながら採用した社員が、めちゃくちゃ仕事できるパターンってあるじゃないですか。特にウチの会社の場合、依頼者の苦しい気持ちがわかっている社員のほうがありがたいですね。
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今回の一件について本音で答えてくれた谷本社長。Xでの投稿がサービスに与えた影響や今後の事業展開などについて、引き続き後編記事〈私たちは「企業の敵」ではない…まさかの退職代行“される側”になった「退職代行モームリ」社長が始める「驚きのサービス」〉で谷本氏に話を聞いていく。
私たちは「企業の敵」ではない…まさかの退職代行“される側”になった「退職代行モームリ」社長が始める「驚きのサービス」