滋賀医科大学の研究グループは、下肢の不快感と睡眠障害を引き起こす「むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)」の患者の約30%が、うつ病または抑うつ状態を合併していることが分かったと発表しました。この内容について田頭医師に伺いました。
監修医師:田頭 秀悟(たがしゅうオンラインクリニック)
鳥取大学医学部卒業。「たがしゅうオンラインクリニック」院長 。脳神経内科(認知症、パーキンソン病、ALSなどの神経難病)領域を専門としている。また、問診によって東洋医学的な病態を推察し、患者の状態に合わせた漢方薬をオンライン診療で選択する治療法も得意としている。日本神経学会神経内科専門医、日本東洋医学会専門医。
今回、滋賀医科大学の研究グループが発表した内容を教えてください。
田頭先生
今回発表された内容は滋賀医科大学の研究グループによるもので、研究結果は学術誌「Sleep Medicine Reviews」に掲載されています。
研究グループは、医学データベースに収蔵された研究のシステマティックレビューを実施し、むずむず脚症候群患者のうつ病・抑うつ状態の合併率について解析をおこないました。解析対象となったのは24件の研究、そして2039例です。解析の結果、むずむず脚症候群患者のうつ病・抑うつ状態の合併率は30.39%と推定されました。ただ、むずむず脚症候群患者のうつ病の合併率や重症度に関連する因子は特定されていません。
今回の結果を受けて、研究グループは「むずむず脚症候群患者の約3人に1人がうつ病・抑うつ状態を経験していることが判明しました。むずむず脚症候群患者において、抑うつ状態の合併率が高い背景には、むずむず脚症候群に伴う不眠の影響やうつ病との共通する神経系の異常(ドパミン神経系の異常)が背景にあるのではないか。今後、むずむず脚症候群患者が抑うつ状態を合併するプロセスや、適切な治療法の検討が必要と考えます」と結論づけています。
今回の研究テーマになったむずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)について教えてください。
田頭先生
むずむず脚症候群は小児から高齢者まで幅広くみられる疾患で、レストレスレッグス症候群とも呼ばれています。
むずむず脚症候群の有病率は、アジアで1~3%、欧米で5~13%と推定され、女性は男性の約2倍の有病率となっています。安静時に症状が出るので、下肢を動かすことで緩和されます。発症する時間帯で見ると、夕方から夜間にかけて悪化する傾向があるので、睡眠障害を伴う患者が多くなっています。
むずむず脚症候群を巡っては、ドパミン神経系の共通の異常があるという点で、うつ病との関係が注目されていました。一般的には、うつ病の有病率は約5%ですが、むずむず脚症候群患者では約20~70%と報告されています。しかし、これまで合併率は明らかにされていなかったことから、今回の研究テーマとなりました。
滋賀医科大学の研究グループが発表した内容についての受け止めを教えてください。
田頭先生
むずむず脚症候群は、パーキンソン病の合併症としてもよく知られているほか、保険診療で認められている治療薬にパーキンソン病の薬(非麦角系ドパミン作動薬など)が使われることもあります。そして、パーキンソン病もドパミン神経系の異常が認められる病気です。よって著者らのドパミン神経系の異常に注目する視点は妥当だと受け止めています。
その一方、パーキンソン病の合併症として、うつ病があることも知られています。また、むずむず脚症候群もうつ病もパーキンソン病の運動症状(震え、身体のぎこちなさ、歩行障害など)が出現するずっと前から認められる傾向が示されています。もしかすると、むずむず脚症候群とうつ病が合併していた症例は、パーキンソン病の前段階の状態にあるのかもしれません。今後、時間経過とともにドパミン神経系の異常が悪化することで、パーキンソン病へと進展する可能性もあるため、これらの病気の関連性についても注目する必要があると思います。
滋賀医科大学の研究グループは、「むずむず脚症候群患者の約30%が、うつ病または抑うつ状態を合併していることが分かった」と発表しました。研究グループは「むずむず脚症候群患者が抑うつ状態を合併するプロセスや、適切な治療法の検討が必要」と述べており、今後の研究にも期待が集まりそうです。