日本人は平均で、ジャムや果汁などの加工品を含めても、1日に100gもフルーツを食べていません。統計的には8割以上の日本人が「フルーツの食べなさすぎである」と言えます(写真:freeangle/PIXTA)
私は33歳のとき、フルーツの体への影響を調べるために、できれば一生涯をかけて、フルーツ食実験をしようと決意しました。
ただし、フルーツ以外にもあれやこれや食べると、それがフルーツの効果か否かがよくわからなくなります。そこで、フルーツ中心に99%果実だけの食生活(フルーツ以外の果実には、果菜類や木の実も含む)を15年間続けています。
日本ではしばしば、医師や栄養士がメディアやSNSなどで「フルーツの食べすぎに注意しましょう」と発言します。では「いったい、何グラムくらいから、フルーツの食べすぎになる」のでしょうか? まず「食べすぎ」について語るには、少なくとも、∥仂櫃健常者なのか、あるいは糖尿病などの特定の疾患のある人なのか、⊃事1回での摂取量のことなのか、あるいは1日の総摂取量のことなのかを言及する必要があります。
(画像:アメリカ糖尿病協会「Eat good to feel good.」より)
アメリカ糖尿病協会は、糖尿病患者の1回の食事の推奨摂取量をカロリーではなく、一皿での見た目の割合で示しています。野菜(マメ・イモ・トウモロコシを除く)は2分の1、肉や魚などのタンパク質系食品は4分の1、イモやフルーツなどの炭水化物を含む食品は4分の1という具合です。
(画像:筆者提供)
日本糖尿病学会は、ビタミンやミネラル補給に役立つため、糖尿病患者であっても毎日フルーツを食べることを勧めていますが、1日80キロカロリーの目安量が設定されています。
80キロカロリーと言うと、イチゴなら1パック、Sサイズの温州ミカンなら3個、普通サイズの、リンゴなら半分、モモなら1個、バナナなら1本弱に相当します。
ただし、ドライフルーツやフルーツ缶詰、フルーツ飲料(天然果汁含む)などの加工食品は、生フルーツに比べてビタミンCや食物繊維が少ない、糖質が多いなどの理由から嗜好食品として扱われます。そのため糖尿病患者には、できるだけ生フルーツを摂ることが推奨されています。
よって日本糖尿病学会のガイドラインに従うなら、1日に80キロカロリーを大きく超えると、糖尿病患者についてはフルーツの食べすぎと言えます。そもそも糖尿病患者が一度にこれだけの量を食べれば、食後高血糖、特に血糖値スパイク(食後の急激な血糖値上昇)を起こすおそれがあります。糖の代謝能力は個人差が大きいので、可能であれば、血糖値測定器を用いて、それぞれの食品の食後血糖値を計測しておくのがオススメです。
2005年に厚生労働省と農林水産省が共同で策定した食事バランスガイドでは、フルーツも毎日の必須食品であると定められ、毎日2サービング(種類にもよるが、およそ200g)食べることが推奨されています。
(画像:厚生労働省・農林水産省「食事バランスガイド」より)
さらに、2023年には、国が推進する健康プロジェクト「健康日本21(第3次)」の中で、2032年度までのフルーツ類の摂取目標量(ジャムを除く)が1日200gと明記されました。
これは、2010年代に相次いで発表された、大規模な追跡調査の統合研究(日本人以外も含む)の結果から、フルーツの摂取量が多い人は相対的に、主たる生活習慣病系疾患の発症リスクが軒並み低かったためです。
健康日本21(第3次)で引用された論文で言えば、例えばフルーツをほとんど食べない人と比べて、がんは1日550~600gまでの摂取で8%、心臓病(心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患)は1日750~800gまでの摂取で21%、脳卒中は1日200~350gの摂取で18%、リスクが低いことがわかりました(National Library of Medicineより)。
また、過体重と肥満は1日240gの摂取で14%、2型糖尿病は1日200~300gの摂取で10%、高血圧は1日300gの摂取で7%、死亡率も1日600gの摂取で19%、それぞれリスクが低いことがわかりました。
また、世界150カ国以上の研究者が協力して、各国の食習慣と死因に関する医学研究を統合的に分析したところ、日本人の死因への影響の大きい上位3つの食習慣は、 ̄分の摂りすぎ 玄米などの全粒穀物不足 フルーツ不足でした。
さらに国立がん研究センターも、がん予防のためにも野菜やフルーツ不足にならないよう積極的に摂ることを勧め、 WHO(世界保健機関)とFAO(国連食糧農業機関)も、がん・心臓病・糖尿病・肥満の予防のために、フルーツと野菜を毎日合計400g以上食べることを推奨しています。
「フルーツは甘いから糖質が多いだろう」。だから「きっと糖尿病リスクが大きい食品だろう」。なので、「フルーツの食べすぎには注意すべきだ」というのは、科学的根拠のない個人的な意見であり、単なる先入観なのです。
生活習慣病予防効果の高いフルーツですが、2021年の国連食糧機関の統計によれば、各国の国民1人当たりへの1日の供給量(摂取量+廃棄量)について、日本は世界平均の半分しかなく、先進国で断トツ最下位、世界186の国と地域の中で156位でした。日本より少ない国は、アフリカやアジアの発展途上国だけです。
(画像:筆者提供)
実際、2019年の厚生労働省の統計によると、日本人は平均で、ジャムや果汁などの加工品を含めても、1日に100gもフルーツを食べていません。高齢世代を含め、全世代が国の目標量の200gを大きく下回っています。
下の棒グラフを見れば、30代男性では32gなど、特に20~50代の現役世代の摂取量が顕著に低いことがわかります。また4割近い人がフルーツを食べる習慣自体がなく、200g以上食べる人は18%しかありません。つまり、統計的には8割以上の日本人が「フルーツの食べなさすぎである」と言えます。
(画像:筆者作成)
(画像:筆者提供)
平均的な日本人にとっては、フルーツの食べなさ過ぎが問題であることは上述しました。では、健常者についての、1日当たりの食べすぎの研究はあるのでしょうか?
直接ヒトを対象とした医学研究の目的は、主に治療と予防の2つあります。治療は何かの疾患のある方が対象です。また、治療目的では、数日から数週間といった比較的短期間の実験が多いです。
一方で、予防は主に健常者が対象です。ある生活習慣を持つ健常者が、がんや脳卒中などになるリスクを調べたいと思えば、比較のために大人数でかつ、10年、20年といった長期間の研究が必要になります。
科学的な信頼性という意味では、複数のグループに分けたヒトでの「実験」が最も望ましいです。しかし、ある生活習慣を10年も20年も被験者に強要するのは、倫理的にも現実的にも難しいので、1年に1度の健康診断結果を収集するなどのやり方で、定期的な「追跡調査」が行われます。
健常者の予防目的に関する「追跡調査研究」であれば、1日当たりのフルーツの最適量に関する研究は存在しますが、食べすぎについて明らかにした研究は私の知る限りありません。
なぜなら大規模調査では、大量にフルーツを食べる習慣をもつ人自体がとても少ないため、統計的に表れにくいためです。ましてや、ヒトを対象にした、1日当たりのフルーツの食べすぎについて長期間調べた「実験研究」は存在しません。したがって、冒頭の「何グラムくらいから、フルーツの食べすぎになるのか?」という問いに対する回答は、ヒトでの信頼度の高い研究がないため、「わからない」が正解です。
私は15年間、毎日2kgくらいのフルーツを食べ続けてきたので、この間、10トン以上のフルーツを食べたことになります。ただし今のところは、糖尿病や脂肪肝や痛風や骨折もなく、いたって健康です。
もちろん、比較グループもないたった1人での実験なので、エビデンスとしてのレベルは低いです。なので「ただ1人の実験データなど意味がない」といった批判もしばしば受けます。しかし、普通ではできない特異な人体実験だからこそ、医学的にも面白いデータが得られることがあります。
ただし、「私も真似できそう」と安易に思うのは非常に危険です。私の場合、実験開始時にはすでに成人しており、自己責任で続けています。独学ですが、栄養学やフルーツ健康学も学んできました。また、毎日、すべての飲食物の重さを計り、摂取栄養素の計算を行っています。
1回のフルーツの適切な食べ方を知るために、採血するなどして、食後血糖値の変化も詳しく調べています。さらに、年に1度の健康診断や不定期の血液検査を続け、健康状態を把握しています。なにより、家族や友人と外食しようと思っても、たいてい一緒に食べられるものがまったくありません。だから、このような極端な食生活はまったく勧められません。
ただし、国が推奨するように、健康のために毎日200gはフルーツを食べることをこころがけていただきたいです。200gの目安としては、Sサイズの温州ミカンなら4個、普通サイズの、リンゴなら半分強、モモなら1個、メロンなら2切れ、キウイなら2個、バナナなら2本くらいです。1度に200gを食べなくても、1日のうちで何回かに分けて食べてもらえれば大丈夫です。
(中野 瑞樹 : 毎日フルーツ200g推進協会代表)