“お騒がせ知事”は、最後もお騒がせだった──。静岡県の川勝平太知事(75)が4月2日、6月の県議会をもって辞職する意向を示した。川勝知事は4月1日に新規採用職員に向けて訓示を述べた中で、「県庁はシンクタンクです。野菜を売ったり、牛の世話をしたり、物を作ったりすることとは違って、基本的に皆さまは頭脳、知性の高い方たちです」と発言し、職業差別として批判が殺到していた。
【写真】「論外です」と川勝知事の発言に落胆……静岡県内の酪農施設など
批判を受けて2日夕方、川勝知事は取材に応じたが、そこでは「ジャーナリズム、あるいはメディアの質の低下を感じ、誠に残念なこと。(発言を)切り取られた」と、メディアに責任転嫁するような発言をして、さらに批判が巻き起こっていた
川勝知事は、大阪生まれの京都育ち。早稲田大学の政治経済学部を卒業後、同大学の大学院で経済学研究科の修士課程を修了して、オックスフォード大学で博士号を取得した。早稲田大学教授や国際日本文化研究センター教授を経て、静岡文化芸術大学の学長に就任。民主党などから出馬要請を受けて、2009年7月、静岡県知事選で初当選した。
「民間出身の学者知事ということで、政治手腕を疑問視する声も多くありましたが、いまや4期目のベテランです。近年は、水源確保などの観点から『命の水を守る』とJR東海のリニア中央新幹線の工事に反対し、県民から支持を集めていました。
一方で、『御殿場にはコシヒカリしかない』や『顔のきれいな子は、賢いことを言わないときれいに見えない』、『(県構想に反対する県議をめぐって)県議会にはヤクザもゴロツキもいる』など不適切発言でたびたび問題になってきました」(全国紙の政治部記者)
川勝知事の舌禍を防ぐための新たなポストが創設されたばかりだったという。
「川勝知事は、コシヒカリ発言による騒動の責任を取るために給与とボーナス計約440万円を返上するとしていましたが、全額を受け取っていたことが判明し、昨年7月に不信任決議案が採決されました。
1票差で否決になったものの、新年度より知事公室長というポストが8年ぶりに設置されることになりました。知事の言動を把握し、助言を行うなどの危機管理機能が期待されていましたが、その矢先で起きた“牛の世話とは違う”発言でした」(前出・政治部記者)
県内の牧場の従業員は、「論外です」と川勝知事の発言に落胆を示す。
「腹立たしさすら湧いてこないというか、とにかくがっかり。論外です。今は悲しみしかないですね。静岡県は酪農への補助金が充実していますし、川勝さんはお茶でもなんでも静岡の“食”を応援してくれている印象でした。でも実際のところ、頭の中では酪農家のことをそういうふうに考えていたんですね。
酪農を含めて農業は、今いちばん頭を使わなきゃいけない職業だと思うんです。機械もIT化しているし、人工授精や遺伝子組み換えの技術も進んでいるから常に新しい情報を追う必要があるし、エサの値段を把握するために為替相場もチェックしないといけないし、どこの国からエサを買うべきか判断するためには、各国の気象情報や情勢も見ないといけないし……」(県内の酪農家)
落胆は大きいが、川勝知事の辞職を素直に喜べるわけでもないようだ。
「周辺環境への影響が不安なので、川勝さんが知事を辞めたことでリニア工事が一気に進むとなるのもイヤなんですよね。こういう発言があったとはいえ、ずっと川勝さんは“農業の味方”というイメージだったので、違う知事に変わったら農業にもっと税金がかかるようになるんじゃないかとも心配です」(前出・県内の酪農家)
川勝知事は、農家の信頼を裏切ってしまったようだ。