いよいよGWの帰省シーズンがやってきた。実家への帰省は、親や友人に会えるため楽しみにしている人も多いはずだ。コロナ騒動もほぼ収束し、田舎との自由な行き来ができる空気感になった。鉄道や高速道路は混雑が予想されている。この記事がUPされる時点で、既に大渋滞が巻き起こっているだろう。
【写真】実家がこんなに素敵だったら帰りたい? 筆者の故郷、秋田県羽後町にある重要文化財「鈴木家住宅」の様子
その一方で、筆者の周りには「できることなら帰省はしたくない」と嘆いている人がいるし、ネットを見ても、帰省を前に憂鬱な気持ちになっている人も少なくないようである。友人・知人やネットの書き込みをもとに、帰省をしたくない理由をピックアップしてみたところ、おおむね以下のような点が挙げられる。
(1)とにかく帰省にかかる費用が高い。(2)渋滞に巻き込まれるのでしんどい。(3)親から「恋人はできたの」「いつ結婚するの」と聞かれる。(4)家の雑用をさせられる。(5)親や親戚のしょうもない小言を聞く羽目になる。
今年は円高の影響で、一部に海外旅行を控える動きもあるようだが、実は実家への帰省は「海外旅行ができるんじゃないのか?」と思うほど、費用がかかるのだ。ちなみに、東京駅から秋田駅まで、秋田新幹線「こまち」で往復すると、大人は片道1万8420円であり、1人4万円近くかかる(繁忙期にあたる4月27日の指定席特急料金込みの値段)。もし、家族4人で移動するとしたら、ざっと見積もっても10万円近くかかってしまうのだ。
「以前に車で帰省したら渋滞に巻き込まれて1日潰れたので、新幹線を使うようにしているのですが、正直言って物価高ですし、わざわざこれだけの費用をかける意味があるのか不明です。実は年末年始にも帰省しているので、GWに帰る必要はない気がするんですけれどね。ただ、僕は仕事の都合でお盆に帰れませんし、GWに帰省することになる。実家から“孫の顔が見たい”と言われたら、無碍にできませんし……」と嘆くのは、埼玉県在住で筆者の友人A氏である。 A氏は秋田県出身で、2人の子どもがいる。GWと年末年始の2回、家族4人で秋田に帰省しているわけだが、ざっと見積もって、10万円×2回で年間20万円ほど支出していることになるのだから、なかなかの出費である。A氏は大手上場企業勤務で、給与水準も高い。それでもこれだけの金額を出すのは躊躇するというが、「子どもはじいちゃんやばあちゃんに会えるのを楽しみにしていますから……」と、複雑な心境だ。
とはいえ、A氏の場合、子どもが喜ぶ顔を見たり、親が子どもをかわいがる光景を目にしたりするのは「なんだかんだで楽しい」と言い、費用さえ掛からなければ帰省は好ましいことだと考えているようだ。ところが、本気で帰省を嫌がっている人もいる。それは、帰省のたびに親からかけられる言葉のせいだという。
自営業のB氏は35歳で独身、女性経験も一度もなく、彼女は今まで一人もいたことがない。そんな彼は、親との関係は決して悪いわけではない(だから帰省できるのだ)らしいのだが、「親から毎回のように“彼女はできたの?”“子どもの顔が見たい”と言われる。これだけがとにかく嫌で仕方ない」のだという。
地方出身の特に長男などは、帰省のたびに家族からの“結婚圧”が強すぎてしんどいという声はよく聞く。また、未婚女性も、親からハラスメントまがいの言葉をかけられることがあるようだ。もちろん、親は別に悪気があって言っているわけではない。子どものことが心配で声をかけるケースがほとんどだろう。だからこそ、余計にしんどいのである。B氏はこう話す。
「親があちこちで“息子の結婚相手はいないかしら”と話をするから、今や親戚はもちろん、実家がある集落の人たち全員が、僕に彼女がいないことを知っている。プライバシーの侵害ですよ。本当に勘弁してほしいです。お盆や年末年始は、親戚からも“早く結婚しろ”と言われるし、お見合いの話を聞かされることもありますが、本当に余計なお世話だと思います」
そこまで面倒なら、別に帰省なんてしなくてもいいのではと思ってしまう。しかし、B氏は「長男だし、親から無言の圧力があるせいで、やっぱり帰省しなければという思いがあるんですよ。でも、中学の頃からの友達にも会えるし、なんだかんだで地元でゆっくりしたいという思いもあります。だから、いつもどうしようか迷うんです」と話すように、帰省事情はなかなか複雑なのである。
ただ、久しぶりに実家に帰ると、様々なトラブルが待ち構えていることはままある。最悪なのが、家族や親戚の争いごとに巻き込まれたり、聞きたくもない愚痴ばかりを聞かされたりすることだ。お盆や年末年始に親戚同士で集まる場が、修羅場になってしまったという話もよく聞く。特に、遺産相続など、財産を巡る争いごとがあったりすると、最悪である。
農作業の手伝いや、部屋の片づけなどの雑用を頼まれることも多い。親としては大助かりなのかもしれないが、片付けだけで1日終わってしまった、という体験をした人もいるのではないだろうか。前出のA氏は「年末年始に帰省すると、雪下ろしや雪かきをさせられるので、かなりの重労働」と話すが、休もうと思って帰省したらさっぱり休めなかったという失敗談も“帰省あるある”だろう。
ところで、筆者の体験談をもとに話すと、帰省の際、できれば実家に置いてある思い出の品やコレクションなど、重要な品物はできる限り運び出すことをおすすめしたい。家族が勝手に思い出の品や貴重なコレクションを処分していることは、ままあるためだ。筆者は実家に置いていた貴重なおもちゃやサイン色紙などのコレクションが売却されてしまい、唖然としたことがある。卒業アルバムなどを誤って雑誌などと一緒にごみに出された知り合いもいるし、なるべく持ち出しておくべきであろう。
ここに挙げたエピソードを聞くと、わざわざ高い金と時間をかけて帰省する意味はあるのだろうか……と疑問になってしまう。だが、「帰れる人は帰ったほうがいいと思いますよ」と話すのは、漫画家のC氏である。C氏は20年以上、実家に帰っていないと話す。
「嫌なことがあったとしても、帰れる実家があるだけ羨ましいよ。俺なんか、親と喧嘩してから一回も家に帰ってないし、向こうからも連絡が来ないから、今は何をしているのかも知らないんですよ。帰省ができるのは、親とうまくいっている証拠。確かに面倒なこともあると思うけれど、親に対する家族サービスはしてあげてもいいんじゃないかな。まあ、俺はそんなことを言える立場ではないけれど(笑)」 帰省を巡る思いは様々だ。ただ、帰省の費用などは、物価高が続く今では重大な問題であるし、交通渋滞などもなんとかできないものかとも思う。そういえば一時期話題になった、大型連休分散化はどうなったのだろう。大型連休を地域ごとにずらして設定するという案だが、最近ほとんど聞かれることがなくなった。公共交通はインバウンドの増加の影響もあって、混雑が続いている。せめて、ゆったりした気分で帰省ができるようになればいいなと思うのだが。
山内貴範(やまうち・たかのり)1985年、秋田県出身。「サライ」「ムー」など幅広い媒体で、建築、歴史、地方創生、科学技術などの取材・編集を行う。大学在学中に手掛けた秋田県羽後町のJAうご「美少女イラストあきたこまち」などの町おこし企画が大ヒットし、NHK「クローズアップ現代」ほか様々な番組で紹介された。商品開発やイベントの企画も多数手がけている。
デイリー新潮編集部