最新のデータに基づく「乳がん」の都道府県別罹患者数を紹介します(写真:Luce/PIXTA)
日本で乳がんと診断される女性の数は増加しており、いまや9人に1人が乳がんになる時代だ。最新の女性のがんの部位別罹患者数では、乳がんが1位、死亡数も4位となっている。
さらに、乳がんのかかりやすさ、亡くなりやすさには特有の地域差があることもわかってきた。
本稿では、3月22日に発表されたばかりの『全国がん登録2020』(厚生労働省)から、乳がんの罹患者数が多い順にランキングを作成した。
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がんは年齢が高いほどかかりやすいため、高齢者が多い地域ほどがん患者は増える。今回紹介するランキングでは、そうした地域差を排除した年齢調整罹患率(人口10万人対)を用いているため、地方や都市部など年齢構成の異なる地域でも、正しく比較できる。
ランキングを見ると、熊本県、沖縄県で高く、東京都、青森県、北海道がほぼ同率で続き、長崎県や福岡県など九州地方も多い。
乳がんが増加する背景にはまず、高脂肪・高タンパク質の欧米型食生活への移行があるとされている。
長寿県で知られた沖縄県をはじめ、一部の九州地方でも伝統的な食習慣が変化し、欧米型の食生活が取り入れられたことで、女性の肥満が極端になり、閉経後の乳がんの罹患率の上昇につながった可能性がある。
東京都など、都市部で罹患率が高い理由についてはどうだろうか。
国立がん研究センターがん対策研究所の松田智大さんは、「女性の社会進出が進み、出生率の低い都市部では、出産や授乳の経験が少ない女性が多く、これが罹患率を高めているのでは」と分析する。
妊娠・出産の減少で、女性ホルモンの1つであるエストロゲン(卵胞ホルモン)に曝される期間が長くなっている。エストロゲンは乳がんの発生や増殖に深く関わるため、その影響を受けている可能性が高いという。
最新の研究で、乳がんのリスクを高める生活習慣もわかってきた。
確実なのは「閉経前の過度な飲酒」「閉経後の肥満」の2つで、ほかには「閉経前の肥満(BMI30※以上)」「喫煙・受動喫煙」「閉経前のホルモン剤使用」も可能性がある。予防として確実なのは、運動、授乳(出産)、大豆(イソフラボン)摂取という。※BMI=体重(kg)÷[身長(m)の2乗]で算出できる
九州地方には焼酎文化があり、毎日の晩酌が当たり前という土地柄もある。そして、九州地方には大豆を含む味噌汁をあまり飲まない風習もある。
「もちろん、飲酒や食習慣に関しては個人差が大きい部分もあるが、そうした食文化も九州地方の罹患率を押し上げている可能性があるかもしれない」と松田さん。
乳がんが早期発見された場合(ステージ機砲5年生存率は近年、90%以上に達している。特に薬物療法の進歩により、ステージ彊幣紊凌聞圓んでも治療の選択肢が増えており、生存率は高まっている。
早期発見はおもに画像診断(マンモグラフィー、超音波検査など)で可能だ。国は40歳以上の女性は1~2年に1回のマンモグラフィー検診を推奨しているが、遺伝的な要因や家族歴などのある高リスクの女性は、定められた頻度で確実に検査を受けることが望ましい。
乳がん罹患率・死亡数ともに高い青森県では、2024年度から、乳がん検診で精密検査が必要とされた人向けに、初回受診費用の補助事業を始めるという。
「経済的な理由で精検受診を見送るケースを減らし、早期発見・早期治療につなげたい」(青森県がん・生活習慣病対策課)。都道府県単位でがん精検の受診費用を助成するのは全国初の試みだ。
「乳がん予防としては、若いうちから過度な飲酒を控えること、そしてなるべく大豆食品をとること。それに加えて、適度な運動習慣をもち、40歳を過ぎたら定期的に乳がん検診を受けることも大切だと思います」(松田さん)
国立がん研究センターがん対策研究所国際政策研究部長松田智大さん
1996年、神戸大学法学部(医事法専攻)卒業後、東京大学大学院医学系研究科修士課程修了、同博士課程単位取得退学、トゥールーズ第3大学医学部博士課程修了。2006年より国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報・統計部研究員、2011年より同センターがん統計研究部室長、同センターがん登録センター全国がん登録室室長などを経て、2021年より現職。専門は疫学、公衆衛生学。著書に『がんで死ぬ県、死なない県 なぜ格差が生まれるのか』(NHK出版新書)。
(石川 美香子 : 医療ライター)