〈〈間取り図で見る〉日本人は注文住宅でも3割が不満を抱えている…!? NG例から考える“子育て世帯”が考えなければいけない“意外な落とし穴”とは〉から続く
不動産サイトFLIEが行ったアンケートによると、戸建て・マンション購入者のうち、家に何かしらの不満を抱える人は全体の84%に及ぶという。そのうち、間取りで後悔した人は41%。それだけ、人々の暮らしにとって、間取りは重要な要素というわけだ。
【画像】「理想的な平屋ですが、夜のアレに気を使います」4LDKの間取りとは
そんな間取りが一因でセックスレスに陥ることもあり得ると指摘するのが、一級建築士で間取りコンサルタントとしても活躍する船渡亮氏だ。ここでは同氏の著書『この間取り、ここが問題です!』(講談社+α新書)の一部を抜粋。住宅設計と夫婦の営みの間にある密接な関係について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
AFLO
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大学2年生時の住宅設計の授業での会話です。非常勤講師の(当時の)若手建築家が学生の戸建て住宅のプレゼンを見て質問しました。
「この家の夫婦はどこでセックスするの?」
学生が考えたのは、どの部屋に行くにも、夫婦の寝室を通らなければならない、という間取りでした。つまり、子供や同居の母親など他の家族がトイレやリビングに行く時、夫妻の寝室を通らなければならないので、気になってセックスなんかできないではないか、という指摘です。この言葉、21歳の私には衝撃的でした。
当時、建築学科で学んでいたのは、光の入り方や空間の見え方、コンセプトの作り方や新しい家族像を考え直すといった概念的なことばかりでした。
家族で食卓を囲んだり、洗濯物を畳んだり、夫婦で愛し合ったりといった「家族がどのように暮らすのか?」という住宅設計の本質を、それまでの授業では誰も教えてくれなかったのです。
そのため、その言葉を聞いて、「プロの建築家はすごい!」と思ったものです。
卒業後、一級建築士として設計経験を積んだ私は、家づくりコンサルタントという立場でハウスメーカーや工務店、建築家の間取りを診断するようになりました。すると今度は私自身がこのセリフを言うことになりました。
「この家の夫婦はどこでセックスするの?」
さすがに夫婦の寝室を通らないと他の部屋に行けない、という家はありませんが、主寝室のプライバシーが守られていない間取りは多くみられます。学生の時は、「プロの建築家はすごい!」と思ったものですが、そこまで暮らしを考えてくれる建築家や設計者は少ないのが現状のようです。
ただ「(子作りも含めた)子育て」のために家を建てる夫婦が多いことを考えると、家事動線や子育てと同様に「夫婦の営み」についても住宅設計では考えるべきです。
ここでは、間取りが原因で「セックスレス」になりやすいポイントと改善案を解説していきます。
夫婦で公務員の志村さんは、自由に犬を飼いたいという理由で4LDKの平屋を計画しています。LDKを中心にして、主寝室は玄関と水廻り近くに配置、子供室はリビングを通るように計画されているので、LDKから家族の出入りがすぐにわかります。

リビングの南西側には大きなウッドデッキがあり、子供や犬と遊べるようになっています。共に20代でまだ子供はいませんが、将来は2人子供が欲しいと考えています。
主寝室のプライバシーも完全に守られていますし浴室も近いので、営みの前後での入浴も気兼ねなくできそうです。
少なくとも「セックスレスになる間取り」には見えないですが、1点、夫婦の就寝に関して大きな問題がありました。
それは、主寝室の引き戸の位置です。
主寝室の入り口は玄関近くに計画されています。夫婦共に部屋着に着替える習慣があるため、帰宅後、手を洗ってからすぐに主寝室に入れることを考えての配置のようです。

ただこのドア位置の場合、左側のベッドを使う人が部屋を出入りする度に右側で就寝中の人を起こしてしまう可能性があります。志村さん夫妻はまだ20代なので就寝中にトイレに行くということは少ないかもしれませんが、夫婦で起床・就寝時間が違うので、お互い気を使いそうです。睡眠の質は、性欲も含め心身に影響しますし、場合によっては喧嘩の種になる可能性もあります。またキッチンと水廻りを結ぶ動線が若干、遠回りなのも気になります。

改善案では、主寝室の引き戸を北側に移動することで、部屋の出入りが就寝に与える影響を最小限にしました。トイレや水廻りへの動線も最短になっています。
また洗面化粧台の位置を寝室側に移動することで、キッチンから直接、廊下に出られるようにしました。
この動線があることによって、玄関からキッチンへの買い物搬入動線が最短になり、洗濯しながら料理するというふうに同時並行で家事をすることも楽になっています。
「セックスレス」は、小説やドラマなどでも扱われる現代的なテーマです。個人的には双方に不満やストレスがないなら、セックスレス・セックスフル、どちらでもよいとは思います、あくまで夫婦間の問題ですから。
間取りで解決できる問題も限られます。ドラマにもなったハルノ晴著『あなたがしてくれなくても』は、結婚5年目で子供がいないレス夫婦が主人公でしたが、住居自体がセックスのハードルになっているわけではありません。

ただ「間取りが原因」で、夫婦の営みがしにくくなることを避けることはできます。「セックスレスにならない間取り」とは、「夫婦がセックスするハードルを下げる」ことに配慮した間取り、ということになります。
最後に、「セックスレスにならない間取り」にするために気を付ける5つのポイントを解説します。
ポイント1 主寝室の音が漏れないようにする
主寝室(夫婦の寝室)のプライバシー確保は重要です。セックスに限らず、夫婦だけの会話をするためにもある程度の遮音性が必要になります。
また子供が成長すると、自室で友達と電話したり、話しながらオンラインゲームをする、といったこともあります。昼間ならいいのですが、夜だと気になるので、子供室からの音対策としても主寝室の遮音は有効です。
他の居室と距離を確保したり、隣になる場合は部屋の間に収納を挟むなど、直接、隣接しない間取りのほうが良いです。どうしても壁一枚で接してしまう場合は、遮音性の高い壁にする、壁一面に本棚を設置する、他の居室と主寝室のベッドを隣接する壁から離す、といった対策が考えられます。
ポイント2 水廻りへの動線を最短にする
事例13では主寝室から浴室への動線に注目しました。前後の入浴時、子供室の前を通らず、浴室まで最短で行けるのが理想です。また営み前の口臭対策として、洗面化粧台が近いと便利です。主寝室と水廻りが近いと、在宅介護も対応しやすくなります。
ポイント3 収納量を確保する
男女381人に行ったアンケート調査によると、「部屋が片付かないのでその気になれない」という回答が一定数ありました。また収納量が多い家に住んでいる夫婦のほうが、夫婦仲が良いということも、この調査で判明しています(筆者による独自調査)。
たかせシホ著『ごぶさた日記』でも、性欲が高まった著者が部屋干ししてある子供の下着を見てやる気を失うシーンがありますが、生活感がありすぎる片付かない部屋だと気持ちも盛り上がらないようです。
特に主寝室は、睡眠と性に必要なもの以外はなるべく置かないことがベスト。壁面収納やウォークインクローゼットを計画しすべて収容するようにします。
タンスや本棚等は、主寝室にあると雑然とするという以外にも、地震時、横転やモノの落下などで命を危険に晒します。主寝室の家具は、最低限必要なモノだけに絞りましょう。
ポイント4 睡眠の質を高める
睡眠不足は、男女問わず性欲の減退や性機能の低下を招くことが最新の研究結果でわかっています。また生活の質を高めるためにも睡眠は重要です。まずは事例15のようにパートナーの睡眠を邪魔する動線になっていないか検討してみましょう。ドアと枕の位置はなるべく離したほうがいいですね。
また外光の遮蔽も重要です。日の出時間は季節によって違いますが、最も日照時間が長い6月は、4時30分には明るくなります。一般的な起床時間よりも早く明るくなるので、ぐっすり寝たい場合は、ベッド近くに窓を設置しない、または遮光カーテンを利用します。
ポイント5 家事や育児を協力しやすくする
ここまで「セックスレスにならない間取り」について話してきましたが、そこだけ完璧でも、夫婦の信頼関係が破綻していては夜の営みどころではありません。
夫婦円満の秘訣は一般に「夫婦の会話を充実させる」ことだと言われていますが、共働きが増えた現在では、家事・育児を協力して行うことも大事です。
協力というのは、単に男性の家事負担率を高くするという話ではなく、相手に感謝や労いの言葉をかけることも含まれると思います。
そのため本書では、家事・子育てについて、単に効率化だけでなく、「ありがとうを言いやすい」「家事しながら会話できる」ような間取りを推奨しています。誰であれ、家族のために家事・育児をしているのですから、感謝や労いで承認欲求を満たされたいです。
新居に引っ越すのは、家事・育児について話す良いタイミングです。良好な夫婦関係を維持するためにも、この機会を利用してみてはいかがでしょうか。
(船渡 亮/Webオリジナル(外部転載))