「人員不足で忙しく、安全運航を確保できない限界のところまで来ています」
こう語るのは現役の管制官だ。
正月の羽田空港で日本航空(JAL)機と海上保安庁の航空機が衝突炎上し、5人が死亡した事故から40日ほどが経過した。原因は調査中だが、海保機が羽田の航空管制官の指示を聞き間違えて滑走路に誤進入したことが事故につながったと指摘されている。前出の管制官が、事故を受けて悲痛な叫びをあげる。
「航空機の数が増えているのに、管制官は増員されない状況が何年も続いています。羽田では管制塔内に15人ほどいる必要がありますが、1チーム12~13人でシフトを組んでいる。人数が足りず、毎回3人ほど他チームから応援を仰いでいるんです。机を並べる隣の管制官のミスに気づいても、指摘する時間や余裕がないほど忙しい日々を送っています」
羽田空港は年間約19万便が着陸し、1分間に平均1.5本の離着陸が行われる世界でも有数の過密空港だ。訪日外国人を現在の2500万人から’30年には6000万人に増やす政府の『観光ビジョン』や、格安航空会社(LCC)の参入で発着便が増加。一方、’14年に政府が打ち出した方針により、管制官の数は10年以上も2000人前後から変わっていない。
「管制官とパイロットのやり取りは、基本的には英語で行われます。きちんと伝わっているのか不明な時には1機に何度も指示を出さなくてはいけないケースがある。ただでさえ忙しいのに、他の機体への指示が遅れてヒヤッとしたことは一度や二度ではありません。常に緊張し、気持ちが休まる時がないんです」(同前)
国土交通省は事故後、監視体制の強化などを盛り込んだ緊急対策を打ち出したが、内容はさらに管制官の業務を逼迫(ひっぱく)させるものだという。別の管制官が語る。
「緊急対策では、羽田など国内7空港に導入されている滑走路への誤進入を知らせるレーダー装置に人を配置し、常時監視することなどを決めました。しかし現在の人員でやりくりし、役割分担を調整することで常時監視するとしている。これでは、負担が増えるだけです」
管制官の増員なしでは、トラブルのリスクは増大し続けるのだ。
「致命的ミスを防ぐために管制官席の後ろに『監視席』を設ける計画もありますが、一部しか実現していません。危険なのは羽田だけではない。『大阪・関西万博』を控えた関西空港では、’25年をメドに発着回数の上限を3割引き上げる方針があるんです」(同前)
国土交通省航空局に管制官の悲痛な叫びについて聞くと、こう回答した。
「管制官の配置は航空機の増便等に応じて増員しており、今後も業務負担の状況を注視して強化を検討します。事故を受けて、操縦士と管制官に対する注意喚起システムの強化なども検討しています」
悲惨な航空機事故が、いつ再発してもおかしくない。
『FRIDAY』2024年3月1・8日号より
取材・文:形山昌由(ジャーナリスト)