国内の旅行先として人気の沖縄。1月でも平均気温は17度前後で、正月も過ごしやすいだろう。だが、沖縄から上京してきて5年の山城直人さん(仮名・30歳)に「年末年始は帰省するのか」とたずねると「まさか……地元には“一生”帰るつもりはないですよ……」と苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。 一体、どういうことなのか。山城さんは沖縄の田舎特有の面倒な人間関係について語り始めた。
◆父親から「家を出てゆけ」と言われ… 沖縄県中部出身の山城さんは4人兄弟の長男だ。妹や弟とは年が離れているため、家を出ているのは山城さんだけだという。 「沖縄では昔から『トートーメー』という先祖を祀る位牌の継承者は、父系血縁の長男とされているんです。僕はそれに当たるのですが、正直、墓とかどうでもいいと昔から思っていて。おまけに結婚願望もなかったので、20歳のときに結婚する気がないと両親に伝えたら大喧嘩になり『墓を継ぐ気がないのなら家を出てゆけ』と言われました」 近年、結婚への意欲が低いとされる若者が増加している。子供から「結婚願望がない」と告げられた場合、親は内心で落胆することもあるかもしれないが、同時に子供の意見を尊重するだろう。だが、山城さんに言わせると「沖縄ではそんな甘い考えは通用しない」という。 「沖縄では昔から、子供は親の面倒を見るためにあるという考えがあるんです。そのため、『結婚はしなくても子供だけは作れ』と言う親もいます。僕の友人の女性は不妊症で子供ができなかったため、旦那の親に離婚させられました。それほど沖縄では子は宝とされているんです」
◆「地元を捨てた裏切り者」扱い 沖縄県の離婚率が全国1位なのに対し、出生率も全国1位となっている。とはいえ、2022年の沖縄県の出生率は県としては過去最低だったこともわかっている。それについて、山城さんは「僕と同じように、結婚や子供に興味を持てない沖縄の若い人が増えているのでは」と指摘する。 父親に「出ていけ」と言われた山城さんはそのまま家を飛び出し、まずは那覇市で一人暮らしを始めた。すると今度は地元の友人から「地元を捨てた裏切り者」と言われるようになったのだ。 「地元意識が強い地域だったので県内の他の街で暮らすことは裏切り行為も同然なんです。沖縄では毎月、お金を集めて積み立て飲み会を行う『模合(もあい)』という文化があるのですが、これは途中で引っ越すなどして逃げたりしないように地元に縛り付けておくためだと僕は思いますね。
ただ、僕はこうした地元の馴れ合いみたいなのが嫌いだったので、模合にも参加していなかったんです。そんな状態で地元を離れたものですから、ますます帰ることができなくなりました」
◆沖縄に帰っても実家には寄らずホテルに宿泊 その後も、親や地元の友人からも裏切り者扱いは続き、嫌気が差した山城さんは東京の会社に就職し、今に至っている。 「進学や就職で上京しても、長男は将来的に沖縄に帰って墓を継ぐのが当たり前とされているのですが、僕はそんな気はさらさらありません。たまには沖縄に帰りたくないのか?と聞かれることもありますが、まったく帰りたいと思わないです。でも、那覇の友達がいるので、たまに帰りますよ。そのときは実家ではなくホテルに泊まっていますけれど(笑)」 那覇に住んでいるときにやっていたSNSは地元の友人に監視されており、親に報告もされていたという。現在、山城さんはそのアカウントを閉鎖し、本名を明かさずに地元とは一切無縁の新しいアカウントを使用しているという。 沖縄は観光や移住先として人気だが、人間関係がややこしい部分もある。山城さんが抱える事情は、一生続くものなのだろう。