国土交通省の調査結果に静岡県の川勝平太知事(75)が噛みついた──。多くのメディアが一斉に報じたが、ここではFNNプライムオンラインが10月24日に配信した「【リニア】『呆れた』『お粗末』会見で川勝節全開 国交省発表の新幹線への“効果予測”に苦言止まらず」の記事から見てみよう。
***
【写真を見る】印象が違って見えるのは「白髪染め」が理由? 今から23年前、教授だった頃の「川勝平太」 1月4日、岸田文雄首相(66)は今年を「リニア中央新幹線の全線開業に向け大きな一歩を踏み出す年にしたい」と意欲を見せた。

リニア開業後、東海道新幹線が静岡県内の駅に停車する頻度が増加する、経済波及効果などが見込める、新幹線の利便性などが向上する……といった“ポテンシャル”について、夏までに取りまとめを行いたいという考えを明らかにした。静岡県の川勝平太知事 この中で、特に「リニアが開業すると、新幹線が静岡県内の駅に停車することが増える」というロジックは、分かりにくいかもしれない。これについては後で詳述する。 調査の担当は国交省。ところが、なかなか結果が発表されない。川勝知事は9月に「もう秋なんですね、暦の上では。夏までというのはどうなっているのか」、「なぜ遅れているのかを含め、我々にはお示しいただきたい」と国交省を批判する一幕もあった(註)。 そして10月20日、ようやく国交省は調査結果を発表した。ポイントを列挙する形で紹介しよう。◆リニア新幹線が開業すると、「のぞみ」の輸送需要の多くがリニアにシフトし、輸送量が約3割程度減少する可能性がある。そのため東海道新幹線の輸送力に余裕が生じる見込み。◆この輸送力の余裕を活用して、東海道新幹線の「ひかり」や「こだま」など、静岡県内駅における列車の停車回数が今より1・5倍程度増えると想定すると、新幹線と在来線の乗り継ぎがスムーズになるなど利便性の向上が期待される。◆静岡県内駅の停車回数が増加することで、県外からの来訪者の増加や県内を新幹線で移動する利用者の増加などが期待され、大きな経済波及効果などをもたらすことが見込まれる。罵倒が続く異常事態 国交省の発表を受け、その日のうちに川勝知事は「停車本数が増加する方向性を国として示してくれたことを歓迎する」と評価するコメントを発表した。 ところが、事態は誰もが予想しなかった方向に動き出す。「歓迎する」とコメントした知事が、3日後の定例記者会見で国交省の調査結果を痛烈に批判したのだ。担当記者が言う。「『今度の国交省の発表には呆れた。内容がお粗末』とこき下ろしたのです。知事の批判には正論の部分もあります。ダイヤを編成するのは民間企業のJR東海ですから、『国交省がダイヤを決めることはできない』という指摘は正しいと言えます。ただ、静岡県もかつて『東海道新幹線に「静岡空港新駅」が設置された場合のダイヤ』を独自に検証しました。静岡県もダイヤを決めることができないはずですが、自分がしたことは忘れているようです。とにもかくにも、それ以外は建設的な批判などは皆無で、調査結果を『単なる頭の体操』、『本当に高級官僚のする話なのか』などと、ひたすら感情的に非難し続けたのです」(同・記者) 問題の定例会見を詳しくて見てみよう。まず川勝知事は、国交省が調査結果を発表するまで時間がかかったことが不満らしい。 新幹線のダイヤは「スマホで簡単に調べることができる」と言い放ち、「どうして10月までかかったのか」と疑問視。挙げ句の果てには「国交省はその仕事を忘れていたということか」と言い出した。 とはいえ、国交省の調査は単にダイヤを調べただけではない。新幹線からリニアへの転移数を算出したうえで経済効果を試算しているわけだから、それらにある程度、時間がかかるのは仕方ないだろう。 知事は試算を《小学校5年生でできる計算》と批判した。当たり前だが、転移数や経済効果の試算を小学生ができるはずもない。必死のイチャモン あまりの剣幕に全国紙の記者が「国からどのような内容が発表されることを期待していたのか」と質問すると、ここで知事は「国交省の説明を待つ」とかわした。 何人かの記者が質問を行ったが、どうしてこれほど川勝知事が怒り心頭に発しているのかなかなか見えてこない。 新幹線の停車回数が増えること自体は、県にとって「メリット」と知事が認める場面もあった。だが、結局のところ最後は「真の国策は南アルプスの自然を保全すること」とぶち上げ、リニアの建設推進を牽制する姿勢を見せた。「新幹線の停車回数が増えて怒る首長はいません。停車回数が増えれば付近住民の利便性は増します。行政のトップとしては歓迎するのが当たり前でしょう。実際、川勝知事も一度は賛意を示しました。それを定例会見でちゃぶ台返しのように怒るのですから、びっくりしました。静岡県の市町村長の中には、今回の国交省の調査結果を評価している人も少なくありません。国交省としては川勝知事が喜ぶと思って試算を発表したものの、いきなり激昂したので意外な反応だと思っているでしょう」(同・担当記者) 理解に苦しむと言わざるを得ないが、それでも川勝知事には狙いがあるという。「川勝知事としては、リニアの建設が促進される事態は何が何でも避けたいわけです。そして今回の国交省の調査結果は、かなりのメリットを県民に提示しました。歓迎する県民も少なくないでしょう。川勝知事としては、国だろうがJR東海だろうが、前向きな議論にはとにかく反対し、県内の世論がリニア建設に理解を示さないよう必死になってイチャモンを付けているようなものです」(同・記者) 静岡県は昨年、リニア中央新幹線建設促進期成同盟会に加盟した。その際、川勝知事は現行ルートでの建設推進を約束した。 今回のイチャモンは約束と完全に矛盾している。何より、知事という公職者の言葉としては、あまりにいい加減だと言わざるを得ない。註:【リニア】全線開業で静岡県への10年間経済効果1679億円…国交省が試算 県への説得狙いか(静岡第一テレビ:10月20日)デイリー新潮編集部
1月4日、岸田文雄首相(66)は今年を「リニア中央新幹線の全線開業に向け大きな一歩を踏み出す年にしたい」と意欲を見せた。
リニア開業後、東海道新幹線が静岡県内の駅に停車する頻度が増加する、経済波及効果などが見込める、新幹線の利便性などが向上する……といった“ポテンシャル”について、夏までに取りまとめを行いたいという考えを明らかにした。
この中で、特に「リニアが開業すると、新幹線が静岡県内の駅に停車することが増える」というロジックは、分かりにくいかもしれない。これについては後で詳述する。
調査の担当は国交省。ところが、なかなか結果が発表されない。川勝知事は9月に「もう秋なんですね、暦の上では。夏までというのはどうなっているのか」、「なぜ遅れているのかを含め、我々にはお示しいただきたい」と国交省を批判する一幕もあった(註)。
そして10月20日、ようやく国交省は調査結果を発表した。ポイントを列挙する形で紹介しよう。
◆リニア新幹線が開業すると、「のぞみ」の輸送需要の多くがリニアにシフトし、輸送量が約3割程度減少する可能性がある。そのため東海道新幹線の輸送力に余裕が生じる見込み。
◆この輸送力の余裕を活用して、東海道新幹線の「ひかり」や「こだま」など、静岡県内駅における列車の停車回数が今より1・5倍程度増えると想定すると、新幹線と在来線の乗り継ぎがスムーズになるなど利便性の向上が期待される。
◆静岡県内駅の停車回数が増加することで、県外からの来訪者の増加や県内を新幹線で移動する利用者の増加などが期待され、大きな経済波及効果などをもたらすことが見込まれる。
国交省の発表を受け、その日のうちに川勝知事は「停車本数が増加する方向性を国として示してくれたことを歓迎する」と評価するコメントを発表した。
ところが、事態は誰もが予想しなかった方向に動き出す。「歓迎する」とコメントした知事が、3日後の定例記者会見で国交省の調査結果を痛烈に批判したのだ。担当記者が言う。
「『今度の国交省の発表には呆れた。内容がお粗末』とこき下ろしたのです。知事の批判には正論の部分もあります。ダイヤを編成するのは民間企業のJR東海ですから、『国交省がダイヤを決めることはできない』という指摘は正しいと言えます。ただ、静岡県もかつて『東海道新幹線に「静岡空港新駅」が設置された場合のダイヤ』を独自に検証しました。静岡県もダイヤを決めることができないはずですが、自分がしたことは忘れているようです。とにもかくにも、それ以外は建設的な批判などは皆無で、調査結果を『単なる頭の体操』、『本当に高級官僚のする話なのか』などと、ひたすら感情的に非難し続けたのです」(同・記者)
問題の定例会見を詳しくて見てみよう。まず川勝知事は、国交省が調査結果を発表するまで時間がかかったことが不満らしい。
新幹線のダイヤは「スマホで簡単に調べることができる」と言い放ち、「どうして10月までかかったのか」と疑問視。挙げ句の果てには「国交省はその仕事を忘れていたということか」と言い出した。
とはいえ、国交省の調査は単にダイヤを調べただけではない。新幹線からリニアへの転移数を算出したうえで経済効果を試算しているわけだから、それらにある程度、時間がかかるのは仕方ないだろう。
知事は試算を《小学校5年生でできる計算》と批判した。当たり前だが、転移数や経済効果の試算を小学生ができるはずもない。
あまりの剣幕に全国紙の記者が「国からどのような内容が発表されることを期待していたのか」と質問すると、ここで知事は「国交省の説明を待つ」とかわした。
何人かの記者が質問を行ったが、どうしてこれほど川勝知事が怒り心頭に発しているのかなかなか見えてこない。
新幹線の停車回数が増えること自体は、県にとって「メリット」と知事が認める場面もあった。だが、結局のところ最後は「真の国策は南アルプスの自然を保全すること」とぶち上げ、リニアの建設推進を牽制する姿勢を見せた。
「新幹線の停車回数が増えて怒る首長はいません。停車回数が増えれば付近住民の利便性は増します。行政のトップとしては歓迎するのが当たり前でしょう。実際、川勝知事も一度は賛意を示しました。それを定例会見でちゃぶ台返しのように怒るのですから、びっくりしました。静岡県の市町村長の中には、今回の国交省の調査結果を評価している人も少なくありません。国交省としては川勝知事が喜ぶと思って試算を発表したものの、いきなり激昂したので意外な反応だと思っているでしょう」(同・担当記者)
理解に苦しむと言わざるを得ないが、それでも川勝知事には狙いがあるという。
「川勝知事としては、リニアの建設が促進される事態は何が何でも避けたいわけです。そして今回の国交省の調査結果は、かなりのメリットを県民に提示しました。歓迎する県民も少なくないでしょう。川勝知事としては、国だろうがJR東海だろうが、前向きな議論にはとにかく反対し、県内の世論がリニア建設に理解を示さないよう必死になってイチャモンを付けているようなものです」(同・記者)
静岡県は昨年、リニア中央新幹線建設促進期成同盟会に加盟した。その際、川勝知事は現行ルートでの建設推進を約束した。
今回のイチャモンは約束と完全に矛盾している。何より、知事という公職者の言葉としては、あまりにいい加減だと言わざるを得ない。
註:【リニア】全線開業で静岡県への10年間経済効果1679億円…国交省が試算 県への説得狙いか(静岡第一テレビ:10月20日)
デイリー新潮編集部