今年9月にホストクラブで働いていた静岡大学に通う太田琢巳さん（23）が同ホストクラブの寮で亡くなった事件。静岡県中央署は傷害致死などの疑いでホストクラブの実質的な責任者だった海野智哉（30）、弟の海野和哉（28）、高野稔基（26）、神谷勇輝（23）、渡辺寛之（30）、加藤雅人（29）の6人を逮捕した。NEWSポストセブンの取材に「従業員ほぼ全員が首や腕に火傷を負っていた」と証言するのは、同ホストクラブのかつての常連客の女性だった。【前後編の後編。前編から読む】
【写真】ホストクラブで絶対的な存在だった海野和哉容疑者、寮内の様子。2段ベッドで熟睡中の男性に「テキーラ」を流し込む瞬間
事件が発覚したのは9月6日午後2時半頃。ホストクラブの関係者から「男子学生が息をしていない」と通報が入り、現場に警察官が駆け付けると男子学生は裸で浴室の湯舟に浸かった状態だった。午後3時12分に搬送先の病院で死亡が確認された。男子学生の遺体には広範囲に火傷の痕があり、死因は水などの液体が気道に詰まったことによる窒息死だったとされる。
亡くなった太田さんは、約1年ほど前から海野容疑者のホストクラブで働き始めていた。冒頭の客は、太田さんのことを鮮明に覚えていた。
「当時、琢巳は静岡大学の現役学生で、ホストとは少し離れた雰囲気の子でした。テーブルについてくれた時に、もともとは『撮影モデルのようなことをしていた』と彼から聞いたことがありました。最初のころは『明日の授業が……』『学校の友達が……』などの学生トークが多かったのですが、『お酒で潰れて学校に行けなかった』という話も聞き、ホストの世界に染まっていく雰囲気を感じました」
徐々に夜の仕事に慣れ始めてきた太田さんだったが、繊細な部分もあったという。
「自分を指名してくれるお客さんができた時の琢巳は、とても喜んでいた記憶があります。しかし、お客さんがとの関係が切れてしまった時はとても悲しんでいました。髪色を変えた時も、自分のお客さんからのウケが悪いことを気にしたりと、ホストとしての仕事を自分なりに一生懸命やっていたように思います。ずっと根がとても優しい子でした」
だが、女性客は同ホストクラブに漂う異様な空気を感じていた。
「ホストには指名とヘルプがあるのですが、琢巳はヘルプでテーブルにつくことが多く、その時も彼は私の悩み事を聞いてくれました。『自分もこういう過去があったから気持ちはわかる』と、共感してくれたりと、指名した担当よりも親身になって話を聞いてくれる存在でした」
女性客はホストたちの体にあった“不自然なアザ”を目の当たりにしていた。
「琢巳が日常的に暴行を受けていたという報道がありますが、事実だと思います。ある日、ホストのほぼ全員が突然、首の後ろや腕などに火傷を負って出勤してきた時があり、私が事情を聞いても答えてくれませんでした。あるホストが意識不明になって出勤できないという話を聞き、その後に復帰したホストは、目の下に跡が残るほどの大きな傷痕ができていたのです」
いつしか同ホストクラブから足が遠のいていった女性客だったが、何度か街の路上で新規の客を探していた太田さんの姿が忘れられないという。
「見た目はかなりやつれていて、真っ直ぐ立っていられないような状態でした。目の下にはクマ、泣き腫らしたように目の周りは腫れていた。あからさまに体調が悪そうだったので、声をかけると『俺やばいんだよ、もーやばいな』のような返事。もう少し話を聞けていたらと今では思います。今思えば顔色の悪さからして、お酒だけで体調が悪かったわけではなかったのかもしれません。
出会ったころに『結構大きな企業に内定をもらったけど蹴ってホストクラブにいることを決めた』と、聞いた時は驚きましたが、それが本当に彼が選んだ道だったのかは今となってはわからないです」
（了。前編から読む）