インターネット上で個人の感想を装って特定の商品を宣伝する「ステルスマーケティング(ステマ)」が1日から禁止された。
ステマは消費者を欺く行為だが、日本ではこれまで直接規制する法律がなく、消費者庁は景品表示法で定める不当表示に指定した。「ステマ天国」からの脱却に向けた一歩となるが、実効性には課題も残る。(大重真弓)
■グレーなケース
〈客に口コミを依頼し、SNSに投稿してもらうのはステマに当たるのか〉
〈パートナー企業の商品を『おすすめ』と投稿した場合はどうか〉
9月6日、SNSマーケティング会社「スマートシェア」(東京)が開いたオンラインセミナーでは、参加した菓子や衣料品、電機メーカーなど約50社の担当者から質問が相次いだ。
スマートシェア取締役の金谷徹さん(38)は「消費者から見て、企業広告であることが明瞭になっていれば問題ない。迷ったら『広告』『PR』と表示すべきだ」とアドバイス。セミナーを終え、「これほど反響があるとは思わなかった。参加した企業は自分たちの解釈が正しいか確かめに来ていた印象だ」と語った。
規制の背景には、SNSで多くのフォロワーを持つインフルエンサーを使った広告が急拡大している事情がある。インフルエンサーには一般人も多く、口コミで商品の情報が伝わるため、広告効果が高いとされる。
マーケティング会社「サイバー・バズ」(東京)と調査会社「デジタルインファクト」(同)の調べによると、2023年のインフルエンサーによる広告の市場規模は741億円で、27年には1302億円に達すると予想されている。
今回の規制では、広告主に同法の違反行為が確認された場合、消費者庁が再発防止を命じる措置命令の対象となり、企業名も公表される。従わなければ、2年以下の懲役または300万円以下の罰金などの罰則が科される。
企業側も対策を急いだ。都内の高級ホテルの担当者は「過去にはグレーなケースもあった」と打ち明ける。規制前に掲載された投稿も行政処分の対象となるため、「関係するインフルエンサーに広告表示の徹底を依頼した」と話した。
数年前に従業員によるステマ疑惑が浮上した都内の化粧品会社は社員教育などを徹底。「違反がないか投稿をチェックする体制を作った」とする。
■判断迷う
今回の規制でインフルエンサー側は罰則の対象外だ。しかし、企業から過去の投稿も含めて、広告表示の徹底を依頼されるケースもあり困惑が広がる。
X(旧ツイッター)には〈ステマ規制がよくわからない。企業から何ももらってなければPR表記は不要?〉〈広告とはっきりしない投稿は削除した〉などの投稿が並ぶ。
ペット動画で人気のユーチューバー大賀智章さん(41)、文香さん(39)夫妻はこれまで全ての広告目的の「案件」で、宣伝であることを明示してきた。
ただ、自分たちが本当にいいと思った商品を紹介した後に、それを知った企業から「お礼」として商品が送られてきたことも。夫妻は「これもステマに当たるのだろうか」と首をかしげる。
消費者庁の運用基準では、インフルエンサーによる「自主的な投稿」であればステマには当たらず、大賀さん夫妻のケースに問題はない。一方で「自主的な投稿」にも様々な状況があり、同庁では企業側とのやり取りや、両者の関係性から判断するとしているものの、線引きが難しいのが実情だ。
ITジャーナリストの三上洋氏は「一定の抑止効果はあるが抜け道は多い。ステマとみられるすべての投稿を消費者庁がチェックするのは不可能だ」と見る。
消費者庁の有識者検討会で委員を務めた立命館大の菊盛真衣准教授(消費者行動)は「施行後の状況によって、罰則の範囲を広げるべきだとする議論が起きる可能性はある」と話す。