本人の手書きと押印が義務づけられている「自筆証書遺言」について、デジタル機器での作成が解禁される方向になった。
法務省が近く有識者会議を設け、民法を改正するための議論を本格化させる。高齢者を含めてパソコンなどを使いこなす人が増える中、作成時の手間を省いて遺言書の活用を促進し、家族間の紛争を防ぐ狙いがある。
遺言書には主に、自身で作成する自筆証書遺言と、公証役場で公証人らとともに作成する「公正証書遺言」がある。
自筆証書遺言は手数料をかけずに作れるものの、民法はその全文と日付、名前を本人が手書きし、押印しなければならないと規定。本人の真意に基づくものであることを担保するためだが、相続人や相続財産が多くて長文になる場合は作成時の負担が重い上、日付や押印を欠くなど、書式に不備があれば無効になるリスクもある。
2022年の総務省の調査では、パソコンでインターネットを利用した国民は60~69歳で約51%、70~79歳が約33%。スマートフォンはそれぞれ約74%、約47%に上る。今後、遺言書を作成するのはさらに若い世代になるとみられ、全文手書きは時代に合わないとの指摘が出ていた。
このため、法務省は現在の手書きに加え、パソコンやスマホなどを使った遺言書の作成を認める方針で、月内にも有識者会議を設置し、民法改正の具体的な内容を詰める。改正時には法制審議会(法相の諮問機関)の見解も踏まえる。
デジタル機器を使えば作成が容易になるだけに、今後の議論では遺言者本人の真意の確認や改ざんを防ぐ仕組みの導入も焦点になる。
本人が書いたものと確認するため、手書きの署名のほか、電子署名を活用したり、入力する様子を録画したりする案が検討される見通し。高齢者に代わって家族の入力を認めるかどうかも議論されるとみられる。
自筆証書遺言を巡っては、18年の民法改正で財産目録はパソコンでの作成・添付が認められたが、本文は対象外だった。政府が昨年6月に閣議決定した規制改革実施計画で、本文を含めたデジタル技術の活用が盛り込まれていた。
自筆証書遺言の作成件数を示す統計はないが、遺言書を法務局で保管する「遺言書保管制度」の利用件数は年間約1万8000件。既にデジタル機器での作成が可能な公正証書遺言の作成件数は年間約11万件に上っている。