性交後72時間以内に服用すると約8割の確率で妊娠を回避できる「緊急避妊薬(アフターピル)」について、薬局での販売実現の見通しが読めなくなっている。「夏ごろ」と厚労省が発表していた試験的な販売は、いまだ始まっていない。
さらに、かねてから処方箋なしの市販化を要求してきた団体のなかには、武見敬三氏が新厚労大臣に就いたことを懸念する声もある。自民党「地域で安心して分娩できる医療施設の存続を目指す議員連盟」会長として、スイッチOTC(一般用医薬品等)化に慎重な対応を求める提言書を2022年12月に加藤勝信厚労相(当時)に提出していたからだ。
武見氏は就任会見で「非常に重要な課題だと思っている。大臣として、どのように取り組むか、その姿勢をこれから確実に検討して確立していきたい」と述べるにとどまり、具体的な見通しには言及しなかった。
関係者によると、現在薬局の選定が行われており、試験販売自体が年内にずれ込む可能性があるという。
世界避妊デー(9月26日)と、合法的で安全な中絶への権利のために行動を起こす国際セーフ・アボーション・デー(9月28日)に合わせ、SRHR(Sexual and Reproductive Health and Rights=性と生殖に関する健康と権利)の実現を求めるスタンディング活動が9月27日夜、東京駅前の行幸通りで行われた。約130人(主催者発表)が集まり、思い思いのメッセージを書いた光る風船を持って意思を表明した。
アフターピルをはじめ、避妊・出産・中絶の選択権が限定的であることに疑問の声が上がった。
NPO法人ピルコンの染矢明日香さんは、大学生の時に意図せず妊娠したことをきっかけに、性教育を広げる活動や「#緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」に取り組んでいる。「5年前から活動してきて、2021年にやっと検討が始まりました。パブコメの98%が賛成でも、なかなか進まず、明確な見通しも立っていない」と悔しさを吐露した。
また、薬剤師でSRHR Pharmacy PROject代表の鈴木怜那さんは「試験運用では、限定的な薬局でしか販売されません。中絶は、若い女性だけでなく生殖可能年齢の誰もが考えるもの。国の動きは牛歩ですが、医療者や国の議論の経過を見ていてください」と訴えた。
アフターピルのスイッチOTCは、2017年に厚労省で議論されながら見送りになった経緯がある。2021年から再検討が始まり、2022年末から2023年1月までのパブリックコメントには約4万5000件の賛成意見が寄せられていた。
試験販売は利用の実態調査・研究のためとして、6月26日に決定した。プライバシー確保が可能な販売施設(個室等)がある、夜間対応が可能など4条件に見合う薬局とされ、最大335カ所を見込む。
スタンディングを主催した「#なんでないのプロジェクト」代表の福田和子さんは最後にこう訴えていた。
「SRHRの言葉はスウェーデン留学中に知りました。日本では性について積極的に知ろうとしたり、ケアにアクセスすることはいけないことのように思っていたけど、スウェーデン留学を通して自分の体は自分で決めていい(My body My choice)と心から思えた。権利が国際的に認められたのも、一人一人のアクションの積み重ねです。声を上げていきましょう」