まるで『スター・ウォーズ』だ。
宇宙船を思わせる車体で飛翔する「空飛ぶバイク」は夢の乗り物としてメディアで大きく取り上げられ、昨年のプロ野球開幕戦で北海道日本ハムファイターズの新庄剛志監督(51)の入場パフォーマンスに採用されたことでも話題を集めた。
新庄監督を乗せた空飛ぶバイク「XTURISMO」を開発した「A.L.I.Technologies」社はスタートアップ企業としては異例の総額30億円以上の資金調達に成功。今年2月には、日本企業初となるSPAC(特別買収目的会社)と合併する形でのNASDAQ″上場″を果たした。
だがしかし――、そこからわずか半年あまりでバイクならぬ創業者が飛び、従業員140人が全員クビと、同社は空中分解の危機に陥っているという。
いったい何が起こっているのか。
「5月から3ヵ月分の給料が未払いのまま、解雇を言い渡されました。従業員の多くが未だ仕事を見つけることが出来ず、苦しんでいます。一方で原因を作った張本人は早々といなくなってしまった」
同社元社員のA氏は怒りを滲ませる。「張本人」とは、同社の創業者であり代表取締役を務め、’22年10月からは親会社のCEOを務めた、小松周平氏(40)。
「2月の上場直前には、弁護士費用など上場に必要な費用が足りず、急いで500万ドルの資金を調達しました。上場後は株価の下落を危惧する投資家が次々と離れました。SPACで調達した資金も99%が引き上げられて、資金難に陥ったのです」(元従業員のA氏)
投資家に見放された原因は「空飛ぶバイク」の完成度の低さにあったとA氏は打ち明ける。
「上場ありきで急いで販売計画を進めたのが悲劇の始まりでした。当のバイクは屋外では風の影響を受けてわずか数m浮く程度。UAEなど世界各国でデモを行なった際も飛べず、VIPは『騙された』とブチ切れていました。それでも、人件費や部品の調達費など諸経費として毎月2億5000万円が飛んでいました……」(A氏)
会社が存続の危機に直面した創業者の小松氏はリーダーシップを発揮――することなく「上場1ヵ月後にはもう社を去っていた」とA氏は言うのだった。
「小松さんはこの未完成なバイクを『前澤(友作)さんに売りつけろ』など、無理難題を社員に押しつけ、深夜3時4時でも平気で連絡をしていた。社員を平然と『バカ』呼ばわりするなど怒声を浴びせていたようで、心を病んでしまった社員もいました。″飛ばないバイク″を売ることで良心を痛め、小松氏の言動に嫌気がさして、上場前に去っていった社員も少なくありません」(別の元従業員B氏)
同社の株主C氏は、「小松氏は経営責任を果たしていない」と憤る。
「スタートアップ企業ですから多少のハッタリも必要ですが、小松氏は度が過ぎていた。『時速80辧戮筺40分飛行可能』というスペックは理論値でしかなかったわけですから。何より、経営トップなのにここに至るまで経営責任について一切説明がありません」
なぜ小松氏は上場後たった1ヵ月で会社を投げ出したのか。本人を直撃した。
「投げ出したのではなく、現在のCEOや役員らから辞任を求められたのです。株主には一斉メールでそう説明しました。
役員に対しては強い口調で怒ることはありました。ただ、末端の従業員に対してパワハラ行為をした事実はなく、心外です。むしろ新経営陣に解雇された社員の相談に乗っているくらいです。そもそも親会社の現CEOが適切に資金調達を続けてさえいれば、こんな事態にはならなかった。第三者委員会で調査をした結果、現CEOが予定していた交渉を進めなかったことが明らかになりつつありますから」
親会社の経営陣の一人は「現時点で詳しいことは言えませんが、会社の再建のために動いています」と語る。
経営危機を乗り越えて「空飛ぶバイク」はテイクオフできるのか、それとも――。
『FRIDAY』2023年10月6日号より