お金の管理や絶対的な決定権などを、どちらか一方が握っている。そんな夫婦も多いようだが、その場合は相手に対して最大限の配慮が不可欠といえるだろう。今回は、配慮の足りない夫に振り回された平城夕子さん(仮名・33歳)に話を聞いた。◆職場での面倒見がいい夫
夫のFさん(35歳)は頼りがいもあるが、何でも自分で勝手に決め、意見を曲げない人。そのせいで夕子さんは、いつも大変な目に遭っていた。たとえば、深夜までいっしょに飲んでいた仲のよい同僚や後輩を勝手に自宅に連れ帰ってくることも珍しくなかったとか。
「イラつきながらも毎回、布団や朝食の準備をしていました。ただ、Fは真面目だし働き者で浮気もしない。後輩たちの面倒見もいい彼には、尊敬できる面もたくさんありました。だからこそ、大目にみていた部分もあったのです」
機械のメンテナンスなどをおこなうFさんは給料もよかったが、出費も多かった。それでも文句を言わずにパートで支え、食費や生活費を切り詰めてやり繰りし、節約。毎月12万円ずつ貯金し、一戸建てを購入する頭金と引っ越し後の資金などを結婚5年目で準備した。
◆新居への引っ越しにも同僚が…
「これにはFもすごく感謝して、褒め称えてくれました。上機嫌で建売住宅を購入してからは飲みに行くのも控え、新居へ持って行くものと処分するものを分別する作業も率先してやってくれるなど、すべてが順調だったのです」
いま住んでいるマンションのものはほぼ処分し、こだわりのあるFのインテリアとわずかな荷物のみ。引っ越し額の比較なども最終段階に入って業者も決まりかけていたとき、「O(会社の同僚)が、引っ越しを手伝いたいらしくってさ」と、Fが言いはじめる。
「手伝いに来てくれるのは嬉しいけれど、心付け(お世話になった人に気持ちを示すために包む金銭など)や食事も準備しないといけないし、気を遣うし、引っ越しのときに何かが壊れたり、傷ついたりしたら、お互いに嫌な思いをするのではないかという心配がありました」
◆引っ越し業者に頼むのをやめてまで
そのため、心配な気持ちも話したうえで「引っ越し業者さんも決まりかけているし」と諭してみる夕子さん。けれど、「まだ決まっていないんだから、同僚に頼んでもいいだろう? せっかく手伝ってくれるって言っているのに、俺も断りにくい」と、譲らない。
「そして、しぶしぶ同僚Oさんに引っ越しの手伝いをお願いすることにしたのです。さらに『Oが手伝ってくれるなら、引っ越し業者は必要ないだろう。節約にもなるし、3人でボチボチやろう』とFが言うので、引っ越し業者に頼むのもやめました」
もちろんタダというわけにはいかないので、心付けを準備。引っ越し業者をお願いしないこともあり、気持ち多めの5000円を包んだ。運ぶ荷物も玄関付近にまとめ準備万端で迎えた当日だったが、予想外の展開が巻き起こる。
◆あっという間に手伝いが10人に
「当日の朝早くから、Fの同僚や後輩、さらには地元の友達などが次々と10人も駆けつけたのです。しかも向こうは『何でも運ぶんで、ガンガン指示してください!』『F先輩の引っ越し手伝えるの、嬉しいっす』と、ヤル気満々」
びっくりして、こっそりFに事情を聞くと、「会社や飲み屋で引っ越しやOが手伝いに来ることなどを話したら、じゃあ俺も行くよって言われて断れなくてさぁ~。あっという間に10人になっちゃったってワケよ。ごめんっ!」と、あっけらかん。

◆出費は8万円以上、新居に傷も
そのため、10人に支払った合計額は飲料や弁当代を含めると、合計8万円以上。しかもプロの引っ越し業者ではなく、その日に会ったような人たちもいて、息もバラバラ。予定よりも大幅に引っ越し時間がかかり、少しではあるが新築の壁に傷もついてしまったとか。
「引っ越し後はかなり切り詰めて生活することになり、やっぱり業者に頼むべきだったとFと大ゲンカ。いつもはFの意見や言い訳を尊重するのですが、このときばかりは家計のことをまったく考えない夫に嫌気が差し、離婚もチラつきました」
付き合っていたときも結婚後も、本気で怒ったことがなかった夕子さん。そんな夕子さんに本気で怒られたFは、かなり驚いて猛反省。それ以降、大事なことは先に相談し、話し合ってから決めるようになったため、夫婦の絆も深まって結果オーライのようだ。
◆夫婦仲が壊れてしまうことも
「私とFの場合は良い結果となりましたが、取り返しがつかずに夫婦仲が壊れてしまうようなこともあるかもしれません。良好な関係を続けていくならやっぱり、お互いの意見や想いを尊重して物事を進めることが大切ではないかと思います」
夕子さんの言うように、内容や夫婦仲によっては離婚に至るケースもあるだろう。大切なことはまず相談し、相手の意見や想いを尊重したうえで進めていく。これは、夫婦が仲良く過ごす手段のひとつといえるかもしれない。
<TEXT/夏川夏実>