殺された人気ラーメン店の店主は暴力団組長だった――。ドラマや漫画のような展開に耳目を集める事件の解決に向け、懸命の捜査が続いている。一方で、背景に浮上してきたのは組長や組員が直面する“厳しくて身につまされる”業界事情だった。
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【写真】穏やかな表情を見せる「在りし日」のオフショット 4月22日、兵庫県神戸市にあるラーメン店の厨房で頭から血を流した状態で発見された店主の余嶋学さん(57)。その後、余嶋さんが特定抗争指定暴力団・山口組弘道会傘下組織の組長であることが分かり、警察は暴力団関係者とのトラブルや抗争の可能性も視野に入れ、殺人事件として捜査中だ。

「司法解剖の結果、余嶋組長の頭部から銃弾が検出され、死因は脳損傷であることが判明。従業員が買い出しで店を離れ、ちょうど余嶋組長が1人になった時間に男が侵入し、数分後に店から立ち去った様子が近くの防犯カメラに記録されていました」(地元紙記者) 余嶋さんはみずから厨房に立ってラーメンをつくるなど、地元では「人気のラーメン店」として知られていたという。しかし店主の“もう一つの顔”は事件後、初めて明らかになったため、驚きと困惑の声はいまも広がる。他方、当の暴力団関係者らは「副業としてヤクザが飲食店に手を出すのは珍しくない」として、こう続ける。地元では人気店だった(余嶋さんのInstagramより)「知り合いの同業者(構成員)にはカレー屋をやっている人間がいる。最初は女房にやらせていたが、そのうち“好きが高じた”とかで、自分でも厨房に立つようになって“ルー”の研究にも励んでいた。また本業はテキヤだが、縁日などがない日はお好み焼き屋を営んでいる者もいる。若い頃から屋台で焼きそばやお好み焼きを焼いていたから腕前は確かで、店の評判も上々と聞く。言うまでもないが、店の名義はいずれも女房やその親族になっている」(暴力団関係者)「鉄板焼き屋」「白タク」「タクシー運転手」… 2019年、兵庫県尼崎市で神戸山口組の幹部が自動小銃で15発近くの銃弾を浴びて殺害される事件が発生。凄惨を極めた事件の現場は、死亡した幹部が切り盛りする飲食店の前だった。「もともとは幹部の親族がやっていた鉄板焼き屋だったが、当時は幹部が店に立って接客などもしていた。入店した銃撃犯から“車を駐車するところはないか?”と訊かれた幹部が案内のため店を出たところを狙われ“蜂の巣”にされた。店の名義は別人だが、ヤクザが副業でスナックや居酒屋などを経営しているケースはいまも少なくない」(捜査関係者) 他にもあくまで構成員のまま、白タクやダンプの運転手、なかにはタクシー運転手をコッソリやっている者もいるという。「我々の世界でいう“シノギ”とは本来、クスリや詐欺、風俗などが代表例だが、どれもイザ始めるとなれば、それなりの元手や人脈が必要になってくる。そういったシノギにうまく噛めればいいが、そうでない者は自分で何とかするしかない。若い連中で目端の利く奴らは流行りの暗号資産(仮想通貨)なんかで儲けているが、そういった知識もない中高年以上の組員のなかに苦肉の策として、飲食や運転手などの副業に手を出す者がいるのは事実。背景にあるのが会費の存在だ」(前出・暴力団関係者)「会費」という上納システム 毎月、上部団体などに納める会費は「役職」によって額も変わってくるが、長引く不景気やコロナ禍などもあり、支払いに苦労している組員や組長は多いという。「たとえば2次団体の組長クラスなら月50万~100万円程度というのが、上に納める会費の相場だ。一方で3次団体のヒラの組員なら月2~3万円の会費を組に納めるだけでいいと聞く。“役”の付いた幹部ほど毎月、相応の額を納めなければならないため、シノギで足りなければ“副業”も考えざるを得ないだろう。ヤクザ社会がどこまで行っても“カネがものを言う世界”であるのは変わらず、実際、上納金の多寡によって出世も決まる。だから、みんな必死だ」(同)「経済ヤクザ」として知られた元山口組系組長で、現在は投資家や評論家として活動する「猫組長」こと菅原潮氏がこう話す。「若い構成員のなかには株などのデイトレードを副業としている者もいます。最近は毎月の会費を納めさえすれば、拘束もそれほどキツくなく、構成員でも比較的自由に動けるとも聞く。一般人から見れば、副業で儲かるなら“いっそのこと、ヤクザを辞めてソッチに専念すればいいじゃないか”と思うかもしれませんが、組を抜けるのにも一般企業と違ってそれなりの“手順”を踏まなければならない。また地方に行けば“ヤクザを辞めた途端、バカにされる”といった事情などもある。ヤクザという裏社会に身を置きながら、世間でいう正業という名の“副業”に手を染める矛盾が解消される兆しはいまも見えず、“二足の草鞋”を履くヤクザは今後もなくならないでしょう」デイリー新潮編集部
4月22日、兵庫県神戸市にあるラーメン店の厨房で頭から血を流した状態で発見された店主の余嶋学さん(57)。その後、余嶋さんが特定抗争指定暴力団・山口組弘道会傘下組織の組長であることが分かり、警察は暴力団関係者とのトラブルや抗争の可能性も視野に入れ、殺人事件として捜査中だ。
「司法解剖の結果、余嶋組長の頭部から銃弾が検出され、死因は脳損傷であることが判明。従業員が買い出しで店を離れ、ちょうど余嶋組長が1人になった時間に男が侵入し、数分後に店から立ち去った様子が近くの防犯カメラに記録されていました」(地元紙記者)
余嶋さんはみずから厨房に立ってラーメンをつくるなど、地元では「人気のラーメン店」として知られていたという。しかし店主の“もう一つの顔”は事件後、初めて明らかになったため、驚きと困惑の声はいまも広がる。他方、当の暴力団関係者らは「副業としてヤクザが飲食店に手を出すのは珍しくない」として、こう続ける。
「知り合いの同業者(構成員)にはカレー屋をやっている人間がいる。最初は女房にやらせていたが、そのうち“好きが高じた”とかで、自分でも厨房に立つようになって“ルー”の研究にも励んでいた。また本業はテキヤだが、縁日などがない日はお好み焼き屋を営んでいる者もいる。若い頃から屋台で焼きそばやお好み焼きを焼いていたから腕前は確かで、店の評判も上々と聞く。言うまでもないが、店の名義はいずれも女房やその親族になっている」(暴力団関係者)
2019年、兵庫県尼崎市で神戸山口組の幹部が自動小銃で15発近くの銃弾を浴びて殺害される事件が発生。凄惨を極めた事件の現場は、死亡した幹部が切り盛りする飲食店の前だった。
「もともとは幹部の親族がやっていた鉄板焼き屋だったが、当時は幹部が店に立って接客などもしていた。入店した銃撃犯から“車を駐車するところはないか?”と訊かれた幹部が案内のため店を出たところを狙われ“蜂の巣”にされた。店の名義は別人だが、ヤクザが副業でスナックや居酒屋などを経営しているケースはいまも少なくない」(捜査関係者)
他にもあくまで構成員のまま、白タクやダンプの運転手、なかにはタクシー運転手をコッソリやっている者もいるという。
「我々の世界でいう“シノギ”とは本来、クスリや詐欺、風俗などが代表例だが、どれもイザ始めるとなれば、それなりの元手や人脈が必要になってくる。そういったシノギにうまく噛めればいいが、そうでない者は自分で何とかするしかない。若い連中で目端の利く奴らは流行りの暗号資産(仮想通貨)なんかで儲けているが、そういった知識もない中高年以上の組員のなかに苦肉の策として、飲食や運転手などの副業に手を出す者がいるのは事実。背景にあるのが会費の存在だ」(前出・暴力団関係者)
毎月、上部団体などに納める会費は「役職」によって額も変わってくるが、長引く不景気やコロナ禍などもあり、支払いに苦労している組員や組長は多いという。
「たとえば2次団体の組長クラスなら月50万~100万円程度というのが、上に納める会費の相場だ。一方で3次団体のヒラの組員なら月2~3万円の会費を組に納めるだけでいいと聞く。“役”の付いた幹部ほど毎月、相応の額を納めなければならないため、シノギで足りなければ“副業”も考えざるを得ないだろう。ヤクザ社会がどこまで行っても“カネがものを言う世界”であるのは変わらず、実際、上納金の多寡によって出世も決まる。だから、みんな必死だ」(同)
「経済ヤクザ」として知られた元山口組系組長で、現在は投資家や評論家として活動する「猫組長」こと菅原潮氏がこう話す。
「若い構成員のなかには株などのデイトレードを副業としている者もいます。最近は毎月の会費を納めさえすれば、拘束もそれほどキツくなく、構成員でも比較的自由に動けるとも聞く。一般人から見れば、副業で儲かるなら“いっそのこと、ヤクザを辞めてソッチに専念すればいいじゃないか”と思うかもしれませんが、組を抜けるのにも一般企業と違ってそれなりの“手順”を踏まなければならない。また地方に行けば“ヤクザを辞めた途端、バカにされる”といった事情などもある。ヤクザという裏社会に身を置きながら、世間でいう正業という名の“副業”に手を染める矛盾が解消される兆しはいまも見えず、“二足の草鞋”を履くヤクザは今後もなくならないでしょう」
デイリー新潮編集部