毎年、4月から6月までは「狂犬病予防注射月間」です。この時期、区市町村の集団接種会場や動物病院で、わんちゃんと飼い主さんのがんばる姿が話題になります。
【写真】日本国内における「狂犬病」の発生状況狂犬病予防法第5条、同施行規則第11条の規定により、生後91日以上の犬の飼い主は、毎年1回の狂犬病予防注射を受けさせることが義務づけられています。注射を怠った場合、20万円以下の罰金刑が科される場合があります。また、未接種犬が咬傷事故等を起こした場合、飼い主の責任が問われるため、室内犬・屋外犬を問わず、年1回の狂犬病予防注射は必ず受けなければいけません。

「狂犬病予防ワクチン」は安全なのか?なぜ年に一度「狂犬病ワクチン」を接種する必要があるのか? 「狂犬病ワクチン」は安全なのか? SNSなどでよく見かける「狂犬病の予防接種」に関する疑問について、新聞記事などを通して10年以上「狂犬病の脅威」を訴えるITK(@itokei110)さんにお話を聞きました。ITKさんは離島で動物病院を経営する獣医師です。『狂犬病清浄国』は全世界で、日本を含む7地域のみーー日本国内では1956年以降、「狂犬病」が発生していません。なのになぜ、毎年「狂犬病の予防接種」をするのですか?「狂犬病が発生していない国・地域を『狂犬病清浄国』と言います。現在、清浄国は世界190カ国以上の中、日本、オーストラリア、ニュージーランド、フィジー諸島、ハワイ、グアム、アイスランドの7地域のみ。みんながワクチンを打っているからこその清浄国です。国際化社会の今、いつ狂犬病ウイルスが入って来てしまうか分からない状況です。ここで予防をゆるめてしまえば、過去の多くの命と努力が無駄になってしまいます」ーーうちは「完全室内飼い」です。それでも接種が必要ですか?「体調が悪くて病院に来る、トリミングやドッグホテル、ドッグランに行く、災害時に避難する……あらゆる状況を想定してください。もし汚染国になった場合、診察もトリミングもホテルも断られる可能性が出てきます」「狂犬病ワクチン」は安全なの?ーー「狂犬病ワクチン」の量は、小型犬も大型犬も同じだと聞きます。大型犬と同じ量を小型犬に接種しても大丈夫なの?「量、体重依存のワクチンではないので、同じ量で問題ありません。私たちがインフルエンザのワクチンを接種する際も体重を量りませんよね。もし不安なことがあれば、かかりつけの動物病院に相談してみてください」ーー「狂犬病ワクチン」は安全ですか? 近所の犬は接種後にぐったりしていました。かわいそうなので愛犬に接種させたくないです。「日本のワクチンは非常に安全性が高く作られています。その分、年に一度という短いサイクルでの接種となります。集団注射という形でどんどん接種できるのも、それだけ安全性が高いからです。年齢や健康上不安があったり、過去にアレルギー履歴などがある場合は、必ずかかりつけ医に相談してください。自己判断で接種しないのは、ただの義務違反になってしまいます。獣医師が診断した場合には『猶予証』を発行し、一定期間の接種猶予が持たれます」致死率約100%の「狂犬病」疑い症例の場合、犬は安楽死処置ーー万が一、愛犬が「狂犬病」になったら?治療はできる?「疑い症例の場合、治療は行われません。安楽死処置の後、脳組織を検査に出す必要が出て来ます。日本では現状、”狂犬病がない”からこそ、咬傷事故が起こったとしても、疑いを持たれてしまう可能性は少ない、という捉え方もできます。ただ発症してしまった場合、動物だけでなく、ヒトの場合もほぼ治療法はなく、死に至ります」「狂犬病予防接種」への理解と接種率を上げるためにーー先生が10年以上前から「狂犬病の脅威」について訴えていらっしゃる理由を教えてください。「獣医師として、学生の時から狂犬病のリスク、脅威などをしっかり学びます。これまでの清浄国は、過去のたくさんの方々の努力と命の上に成り立っています。病院に勤めるようになり、いつしか漫然と飼い主さんに、『春は狂犬病のワクチンです』と話していましたが、いざ自分が開業してみて、改めてなぜ接種しなければいけないのかを考えるようになりました。私が今住んでいるのは小さな島です。だからこそ、行政とも飼い主さんとも密接に繋がりがある分、どうしたら理解を深め、どうしたら接種率を上げることが出来るのかを考えています。この時期は病院を閉めて、集合注射の会場に出向き、ワクチン接種を行っています。正直、病院で診療をしていた方が儲けの部分は大きいのですが、接種率を高めるためにも大切なことだと考えています」ーー先生自身は「狂犬病」の症状や症例を見た経験は?「もちろんありません。おそらく、日本にいる獣医師、医師のほとんどは見たことがないはずです。学生の頃、授業で発症患者のビデオを見ますが、全員がシーン……となるほど記憶に残ります」◇ ◇日本は現在、「狂犬病清浄国」です。しかし、ITKさんが奄美新聞に寄稿した「狂犬病ワクチン」に関する記事によると、カワウソなどの密輸動物、ウクライナ避難民の犬の検疫問題、海外船からのネズミやコウモリの侵入など、常に我々は『狂犬病』の脅威に晒されているとのことです。「もし日本に侵入を許し、野生動物に広まったら、もう判別のしようがありません」と、先生は警鐘を鳴らします。犬だけ接種するのはなぜ?「狂犬病」は全ての哺乳類に感染し、発症すればほぼ100パーセント死に至る「人獣共通感染症」です。なのに、なぜ犬だけにワクチン接種をするのか?「人の狂犬病死亡例の9割が犬からの感染と言われています。感染を予防するためには、犬へのワクチン接種が最も現実的で重要と考えられています。もちろん、狂犬病ウイルスが日本に侵入した場合は、猫への接種もあり得ます」(ITKさん)「犬の狂犬病ワクチンの接種は、私たち人間のためであり、万が一、日本に狂犬病が侵入した場合、それ以上広めないためにあります。ワクチンは7割ほどの接種率で防御としての機能が果たされます。1匹が感染しても、他のみんながワクチンを接種していればそれ以上は広まりません。みんなが打ってなければ、感染は止められなくなります。私たち獣医師はこの7割を切らないように啓発する社会的責務があります」(ITKさん)「狂犬病」が侵入するのは……明日かもしれない2022年、アメリカのニューヨーク州で、凶暴化したキツネに女性が襲われる事件が起きました。同年にはワシントンDCでも、複数人がキツネに咬まれる事件が発生。その後の調べで、いずれのキツネも「狂犬病」に感染していることが発覚しました。先日も札幌で、野生のキツネが散歩中の犬と飼い主を襲う事件が起きています。現在の時点では、北海道のキツネが狂犬病に感染している可能性は極めて低いそうですが、いつ状況が変わってもおかしくない、と考えておくべきかもしれません。「清浄国を守り続けるためには、犬を飼っているみなさんの理解と協力が必須です。ほとんど外に出ないから、というのは接種しない理由にはなりません。もしウイルスが侵入してしまったら、接種していない子を守る術がなくなるかもしれません。犬同士がケンカをしてしまった、犬に咬まれてしまった、狂犬病は大丈夫か?という心配の声を聞くことがあります。”現時点では”、狂犬病の可能性は非常に低いです。でもそうでなくなるのは、もしかすると明日かもしれないのです」(ITKさん)※「狂犬病」はワクチンで予防可能な「人獣共通感染症のウイルス性疾患」です。発症するとほぼ100%死に至ります。アジアとアフリカを中心に、毎年数万人の死者が出ています。(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・はやかわ かな)
狂犬病予防法第5条、同施行規則第11条の規定により、生後91日以上の犬の飼い主は、毎年1回の狂犬病予防注射を受けさせることが義務づけられています。注射を怠った場合、20万円以下の罰金刑が科される場合があります。また、未接種犬が咬傷事故等を起こした場合、飼い主の責任が問われるため、室内犬・屋外犬を問わず、年1回の狂犬病予防注射は必ず受けなければいけません。
なぜ年に一度「狂犬病ワクチン」を接種する必要があるのか? 「狂犬病ワクチン」は安全なのか? SNSなどでよく見かける「狂犬病の予防接種」に関する疑問について、新聞記事などを通して10年以上「狂犬病の脅威」を訴えるITK(@itokei110)さんにお話を聞きました。ITKさんは離島で動物病院を経営する獣医師です。
ーー日本国内では1956年以降、「狂犬病」が発生していません。なのになぜ、毎年「狂犬病の予防接種」をするのですか?
「狂犬病が発生していない国・地域を『狂犬病清浄国』と言います。現在、清浄国は世界190カ国以上の中、日本、オーストラリア、ニュージーランド、フィジー諸島、ハワイ、グアム、アイスランドの7地域のみ。みんながワクチンを打っているからこその清浄国です。国際化社会の今、いつ狂犬病ウイルスが入って来てしまうか分からない状況です。ここで予防をゆるめてしまえば、過去の多くの命と努力が無駄になってしまいます」
ーーうちは「完全室内飼い」です。それでも接種が必要ですか?
「体調が悪くて病院に来る、トリミングやドッグホテル、ドッグランに行く、災害時に避難する……あらゆる状況を想定してください。もし汚染国になった場合、診察もトリミングもホテルも断られる可能性が出てきます」
ーー「狂犬病ワクチン」の量は、小型犬も大型犬も同じだと聞きます。大型犬と同じ量を小型犬に接種しても大丈夫なの?
「量、体重依存のワクチンではないので、同じ量で問題ありません。私たちがインフルエンザのワクチンを接種する際も体重を量りませんよね。もし不安なことがあれば、かかりつけの動物病院に相談してみてください」
ーー「狂犬病ワクチン」は安全ですか? 近所の犬は接種後にぐったりしていました。かわいそうなので愛犬に接種させたくないです。
「日本のワクチンは非常に安全性が高く作られています。その分、年に一度という短いサイクルでの接種となります。集団注射という形でどんどん接種できるのも、それだけ安全性が高いからです。年齢や健康上不安があったり、過去にアレルギー履歴などがある場合は、必ずかかりつけ医に相談してください。自己判断で接種しないのは、ただの義務違反になってしまいます。獣医師が診断した場合には『猶予証』を発行し、一定期間の接種猶予が持たれます」
ーー万が一、愛犬が「狂犬病」になったら?治療はできる?
「疑い症例の場合、治療は行われません。安楽死処置の後、脳組織を検査に出す必要が出て来ます。日本では現状、”狂犬病がない”からこそ、咬傷事故が起こったとしても、疑いを持たれてしまう可能性は少ない、という捉え方もできます。ただ発症してしまった場合、動物だけでなく、ヒトの場合もほぼ治療法はなく、死に至ります」
ーー先生が10年以上前から「狂犬病の脅威」について訴えていらっしゃる理由を教えてください。
「獣医師として、学生の時から狂犬病のリスク、脅威などをしっかり学びます。これまでの清浄国は、過去のたくさんの方々の努力と命の上に成り立っています。病院に勤めるようになり、いつしか漫然と飼い主さんに、『春は狂犬病のワクチンです』と話していましたが、いざ自分が開業してみて、改めてなぜ接種しなければいけないのかを考えるようになりました。
私が今住んでいるのは小さな島です。だからこそ、行政とも飼い主さんとも密接に繋がりがある分、どうしたら理解を深め、どうしたら接種率を上げることが出来るのかを考えています。この時期は病院を閉めて、集合注射の会場に出向き、ワクチン接種を行っています。正直、病院で診療をしていた方が儲けの部分は大きいのですが、接種率を高めるためにも大切なことだと考えています」
ーー先生自身は「狂犬病」の症状や症例を見た経験は?
「もちろんありません。おそらく、日本にいる獣医師、医師のほとんどは見たことがないはずです。学生の頃、授業で発症患者のビデオを見ますが、全員がシーン……となるほど記憶に残ります」
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日本は現在、「狂犬病清浄国」です。しかし、ITKさんが奄美新聞に寄稿した「狂犬病ワクチン」に関する記事によると、カワウソなどの密輸動物、ウクライナ避難民の犬の検疫問題、海外船からのネズミやコウモリの侵入など、常に我々は『狂犬病』の脅威に晒されているとのことです。「もし日本に侵入を許し、野生動物に広まったら、もう判別のしようがありません」と、先生は警鐘を鳴らします。
「狂犬病」は全ての哺乳類に感染し、発症すればほぼ100パーセント死に至る「人獣共通感染症」です。なのに、なぜ犬だけにワクチン接種をするのか?
「人の狂犬病死亡例の9割が犬からの感染と言われています。感染を予防するためには、犬へのワクチン接種が最も現実的で重要と考えられています。もちろん、狂犬病ウイルスが日本に侵入した場合は、猫への接種もあり得ます」(ITKさん)
「犬の狂犬病ワクチンの接種は、私たち人間のためであり、万が一、日本に狂犬病が侵入した場合、それ以上広めないためにあります。ワクチンは7割ほどの接種率で防御としての機能が果たされます。1匹が感染しても、他のみんながワクチンを接種していればそれ以上は広まりません。みんなが打ってなければ、感染は止められなくなります。私たち獣医師はこの7割を切らないように啓発する社会的責務があります」(ITKさん)
2022年、アメリカのニューヨーク州で、凶暴化したキツネに女性が襲われる事件が起きました。同年にはワシントンDCでも、複数人がキツネに咬まれる事件が発生。その後の調べで、いずれのキツネも「狂犬病」に感染していることが発覚しました。
先日も札幌で、野生のキツネが散歩中の犬と飼い主を襲う事件が起きています。現在の時点では、北海道のキツネが狂犬病に感染している可能性は極めて低いそうですが、いつ状況が変わってもおかしくない、と考えておくべきかもしれません。
「清浄国を守り続けるためには、犬を飼っているみなさんの理解と協力が必須です。ほとんど外に出ないから、というのは接種しない理由にはなりません。もしウイルスが侵入してしまったら、接種していない子を守る術がなくなるかもしれません。犬同士がケンカをしてしまった、犬に咬まれてしまった、狂犬病は大丈夫か?という心配の声を聞くことがあります。”現時点では”、狂犬病の可能性は非常に低いです。でもそうでなくなるのは、もしかすると明日かもしれないのです」(ITKさん)
※「狂犬病」はワクチンで予防可能な「人獣共通感染症のウイルス性疾患」です。発症するとほぼ100%死に至ります。アジアとアフリカを中心に、毎年数万人の死者が出ています。
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・はやかわ かな)